表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/14

女騎士は暗躍する

楽しんでいただけたらうれしいです!




 ネイブロ村を発って七日が特別に何事もなく過ぎた。

 日中は馬車にゆられて、乗客のおばちゃん・ばあちゃんと話をしたり、裁縫を教えてもらったり。夜は宿で寝れたから、ティナに勉強を教えてもらっていたけど、今夜は初の野宿だ。

 まだかろうじて道がある森の中を進み、近くに水場のある少し拓けた場所が今夜の野営地と決まった。


「野宿と言っても、リアは天幕の中で寝てればいいんだよ?」


 晩飯食って(と言っても堅焼きパンとスープだけど)あとは寝るだけ、という状況であたしは焚き火の番をしているティナの隣にいた。

 客には一応天幕があるが、中は雑魚寝に変わりねぇ。

 雑魚寝が嫌だとかそんなじゃねーけど、なんか居心地がな。


「んー? さては、リアちゃん寂しいのかな〜? おねーちゃんがいないと寝れない〜?」

「なっ!? んなわきゃねーだろっっ!!」


 ぐりぐりと頭を撫でられて無性に腹が立つ。


「しばらく野宿が続くから、寝られる時に寝ないとダメだよ?」

「しばらくって、どれくらい続くんだ?」

「んーとね、まずは今日入れて三晩。そのあとバルレイ村で二泊して、そのあとまた三〜四日かなぁ?」


 バルレイ村というところは直轄領の果ての村。この国を斜めに横切る山脈の端っこにある、温泉と鉱物が有名な村らしい。ここを越えると西領に入るまで荒れ地と森が続く。

 二泊するのはそこへ商売で来て骨休めしていく人が多いから二泊するんだそうだ。


「そうだ、リア。夕のお勤めは終えてる?」

「実はまだ」


 旅の間も朝夕の祈禱歌をすることになっている。

 これまでは街や村の宿屋に泊まっていたから、そこの小神殿でこっそりと歌っていた。

 けど、初野宿だ。どこで歌おうか迷っていた。


「歌う場所に決まりは特になかったよね?」

「ねえけど、あんまり人に見られたくねぇ」


 見られちゃいけないわけじゃない。あたしが見られたくないだけだ。

 見られるならティナくらいにしておきたい。


「ふーん。ならここから少し離れる??」

「離れる」

「わかったー、って、わたしも一緒に行くから待つの!!」


 一人で野営場所から離れようとしたあたしをティナが引き留める。抱き寄せるが正しいのかこれ。

 あた、当たってるんだって!! 頭の後ろに柔らかいものがぁ~っ!!


「ティ、ティナ!!」

「はいはーい、ちょーっと静かにねー」


  そのまま、今度は口を手で塞がれてもう一人、護衛をしている男の方へ有無を言わせず連れてかれた。


「アークス! 少し離れてもいいかな?」

「おう、いいけど何かあったか?」

「妹が、ちょーっとねー」

「はぁん。俺は構わねぇからついてってやれ」

「ありがと~」


 あたしが何も言わないうちに二人の間で会話が完了して、そのままあたしはティナにまたずるずると連れていかれた。


「ここならいいかな?」


 解放されたのは野営場所から少し離れた茂みの中。


「なんであたしの口を塞いだんだよ!?」

「その方が話が早いから」


 ほら早くとせっつかれて、覚えてろと心の中で思いながらいつものように腹に手を当てて、迷った。


 これは女神像を通して女神レヴィアータへ向ける礼だ。

 けど、ここに女神像はない。それならこの動作、いらねぇんじゃねえか?

 逆に女神像がないということは、どこへ向けてうたえばいいんだ?

 そう思ったとき、水晶の存在を思い出した。


 そうだ、これに向ければいい。女神からもらったものだし!


 胸に手を当てて、連なる水晶の存在を確かめてあたしは歌いだした。


 込める祈りは己を含めたこの旅をともにする人、かかわってくれる人たちの安寧と平安。

 邪な悪意と行為を退け、無事に各々の目的を達することができるように。


≪我ら女神の子

 明るい宵の月へ祈りを捧げ

 安らかな眠りの淵へ》


 また、あの人とあそこで話す日は来るんだろうか。


 あのキレイな庭園で、ずっと会いたくて会えなかった巫女様と再会して、神具を作り直すように言われて旅に出て。

 あの人はあたしが孤児院で生き続ける理由だったし、本神殿にいる間も会いたいと思って思い続けていたから神殿長が代わった後も生きていられたんだろう。

 まさか女神レヴィアータその人(ひと?)だとは思わなかったけど。

 けど、それがわかったから、会いたいと必死で思うことはなくなった。


 女神は常に我らとともに。


 そう、あのひとはあたしを含めたこの国の皆のことをいつも見ている。


「ありがとう、リア」

「別にいんだけどさ、神殿がないところで歌って意味あんのか?」

「あるよ。リアは忘れちゃったみたいだけど」


 女神からの厚い加護、すなわち強い神力を持つ巫女の歌は防御や結界、浄化や治癒の力をより強力に発揮することができるといわれている。


「夕の祈禱歌は人々へ安らかな眠りをもたらすように、朝の祈禱歌はその日一日を生きる活力を与えるような意味が込められているそうだよ。神殿で歌うとその神力はまず女神レヴィアータの元へ送られて国中に還元されるけど、ここでリアが歌うとなれば」

「このあたりで広がる?」

「そんな感じかな? リアが守りたいとか大切にしたいと思ってる人や場所、ものには直接強く作用するはずだよ」


 全部知り合いの受け売りだけどね、とティナは言うがかなり分かりやすかった。

 それなら、ティナと立てた誓いの時みたいに歌を少し変えれば。


「どんな病気も歌で治ったりするのか?」

「それはムリかな。巫女の神力はそこまでじゃなかったと思うけど」


 たとえば。

 腕や足に大怪我を負って、切断しなければならないほどのものがそこまでじゃなく済んだり。のた打ち回るほどの痛みを抑えて治療をしやすくしたり。


「誰かを呪い殺したいって気持ちを癒したり、ね」


 ティナは、そんな気持ちになったことがあるんだろうか。ぞくりとするような光がその瞳に浮かんでいた。

 たしか、毎年の建国祭の歌が。


《闇深い大地に一筋の光が

 女神の慈悲深い御手からもたらされた

 やがて光があふれた大地に命が芽吹く》


 最初の一節は女神がこの地に国造りをしたその時のことらしい。

 何もない、ただ暗いばかりのこの地に女神レヴィアータは光をもたらし、木を花を水を山を川を海を、そして生き物を作ったという建国の物語だ。

 もし、ティナの心が暗く沈んでしまったのなら、ほんの一筋でいいから光を。

 そう願って歌うと、ティナは驚いたようにあたしを見た。


「そろそろ戻らねーと怪しまれんじゃねーの?」

「そう、だね」


 ティナの事情はこれ以上聞かない。ティナが話すというまで。


「リアが、用足しに行きたいっていうから離れるよ〜って言ってあるから、あまり遅いと腹下したか? なんて聞かれちゃうかもしれないからね〜」


 はぁ!?


「あ、あれは、そういう意味だったのか!?」

「それくらいしか野営場所を離れられる理由ってなくってさぁ〜」

「ぬあぁ!!」


 よ、よりにもよってぇぇ!! こうしちゃいられない!


「早く戻るぞ!!」


 そんな誤解されたくねえぇ!!

 って、急いで戻ったが、アークスと呼ばれてた男から「おう、遅かったが腹でも下したか? 薬やろうか?」と心配そうに耳打ちされた。


 くっそー!! ティナ覚えてろよー!! 声上げずに笑ってやがったのわかってるからなぁぁぁあ!!




*****




 未明の野営地。


「そろそろ、かな?」

「可能性はある」


 パチ、パチリとはぜる焚き火を見つめるフリでティナとアークスは眠気覚ましのお茶を飲みながら、その意識は天幕と荷馬車に集中していた。

 

 この長距離馬車に就いた護衛役は五人。ティナが旅費と護衛役の報酬相殺の条件で加わったことで六人となり、おかげで夜の見張りが三交代にできたと感謝された。

 だがティナが護衛役を引き受けたのにはもう一つ依頼があったから。


『強盗まがいのことをするヤツらを捕らえてほしい』


 ネイブロ村の村長とティナのことをよく知る宿屋の女将さんからの頼まれごとだ。


 ここ最近、ネイブロ村からバルレイ村までの間で商品がなくなるらしい。


『盗まれた?』


 村長は重々しく頷いた。


『バルレイ村で確認すると数が足りないということが頻繁だそうだ』


 大量ではなく、五つを超えることはないがいくつかの商品で起こっていた。

 可能性があるなら野宿になる数日間だろう。

 外から何者かが忍び込んでいるのか、もしくは。


『必ず捕らえる約束はできない。現れないかもしれないでしょう?』

『ああ、アンタが乗ってる間で現れたら捕まえてほしい。なるべく生かしたままだとなおありがたい』


 犯人が生きていれば、受けた損害分以上を労働で贖わせることができる。

 その約束でティナはこの依頼を引き受けた。

 報酬は捕まえられたらリアの分の旅費をネイブロ村とバルレイ村、長距離馬車を運営している商人組合で三分割で負担するそうだ。だが実害があれば。


『アンタならそんなことないと信じてるよ、ティナ』


 そうして相方としてアークスを紹介された。


「客は全員天幕の中、荷馬車に人はいない。忍び込んでくれと言ってるようなもんだよな〜」

「けど、実は手口もわかってないんでしょう? 盗賊なら外から来るだろうけど、もしかしたらお客さんの中にいて手引きとかも考えられる」

「正面から手っ取り早く襲ってくれる方が世話ねぇやな」


 アークスは腕っぷしで押し切るタイプだ。


「しかし、ティナの武器はすげぇよな」


 実はティナが腰にさしている短剣は短剣ではない。ティナ以外が抜いても使えない、刃がないのだ。

 だがそれをアークスは「すごい武器」だという。


「そりゃどうも」

「あんなん初めて見たな」


 最後の村を発ってからこちら、襲ってくる野犬や狼には数回遭遇していた。そのたびに護衛たちが斬ったり射たりする訳だが、ティナの武器は少し変わっているのだ。


「なぁ、あれどうやってやるんだ? オレでもできるか?」

「あれはねぇ、っ!?」


 幽かに物音が聞こえ、ティナは荷馬車を凝視する。荷馬車の奥の、闇さえも見通すかのように。


「どうしたティナ?」

「物音が聞こえたっぽかったんだけど、気の所為みたい」


 わざと、大きめの声で言ってみる。闇の中をさらに気配を殺している相手へ向けて。やがて気配は荷馬車からはなれて天幕へと戻っていった。


 最悪かも、とティナは内心ごちる。


「アークス教えて。もしかして、これまでに」


 女神レヴィアータへ、ティナは祈る。

 この予感が杞憂に過ぎず、可愛い妹が何者にも害されることのないように、と。




読んでいただきありがとうございました♪


2025年末が近づいてますねえ…今年が後少しで終わると思うと、恐ろしいです。

年末年始は更新を停止させてください。始めたばかりですが、ストックの問題と怪獣が、怪獣が…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ