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女神の巫女は思い知る

しばらく週一更新の予定です。が、早ければ木曜日、遅いと日曜日、な感じです。

これ不定期更新とかいうのではなかろうか。

何はともあれ楽しんでいただけたらうれしいです!




「なあ。あたしたち旅立った、んだよな?」

「そうだね。でもここは王都の隣にあるネイブロ村だけどねー」


 王都から歩いて四時間。神殿の一日の流れで言えばそろそろ夕のお勤めの支度をしなければ、というところ。

 あたしとティナは、隣村の宿屋ににいた。


「ここで泊まるのか?」

「うん。ここ、知り合いの店なんだ」


 村に一軒だけの宿屋だからか、二階建てで十部屋ある。そんなに需要があるのか?

 部屋は広くないけどきれいにしてある。寝台は二つあるけど、なんと上下二段になっているのには驚いた。上の寝台にはハシゴでのぼるのか。

 これが神殿の大部屋にあったら良かったのに。


「ここに三日滞在するから」

「三日も!?」


 明日には出発すると思っていたのに。

 あたしには一年しかない。ティナだって。


「わたしも本当なら急いで動きたいけど、そうもいかない事情があるんだ」

「なんだよそれ」

「リアの体力だよ」


 それを言われたらあたしは黙るしかない。


「わたしたちはここまで四時間かかったけど、この村まで通常は歩いて三時間くらいあればリアより小さい子どもと一緒でも着けるんだ」

「マジかよ」

「しかも最後の一時間くらい、リアはフリートに乗ってたからね」


 そう、三時間歩いただけであたしはもうへとへとになってしまった。それでも村にはつけなかった。仕方なくティナの愛馬、フリートに荷物とともに乗せてもらったのだ。


「まぁ仕方ないことだし、ダメっていうんじやないけどね、これから走って逃げたりしなきゃいけないことがあるかもしれない。フリートにリアをずっと乗せてる訳にいかないこともある」


 なるほど、ここまでの道のりでティナはあたしがどれだけ旅に耐えられるか試してたのかもしれない。


 あたしの発育は確かに悪いんだろう。

 ティナはあたしが十歳くらいだと思ったって言ってたけど、いまだに七歳のイオニアと同じくらいに見られることもあった。

 けど、こんなに、体力までないとは思わなかった!


「神殿では掃除も庭仕事の手伝いもしてたのに」

「でも荷物を持ってずっと歩くようなことはしてないでしょ?」


 たとえば短い距離を速く走るのに使う足の力と、長い距離を走り続ける足の力が違うように、歩いて止まって作業してっていう力とずっと同じ速さで歩き続けるのに使う力は違うらしい。


「それと、これから三神殿回るってことだけど、どうやって回るのがいいか打ち合わせもしないといけないし、リアには覚えてもらわないといけないこともたくさんあるからね」

「うげぇっ!」

「言ったでしょ? 知識を提供するって」


 ここに来るまで色々話したけど、あの雑談はあたしの知識を試してたのか。


「まぁ、知識はおいおいね。あとね、旅の間も朝夕に祈禱歌をお願いできるかな?」

「そりゃあかまわねーけど、どこで?」


 そういやぁ、神殿以外で祈禱歌を唱えたことがねぇな。


「街や村で泊まれたらそこの小神殿で、野営の場合はその時次第かな」


 わかった、とあたしが返答するとティナは少し嬉しそうに案内する、といってあたしを小神殿へつれていった。

 初めて入る小神殿は、あたしがいた本神殿に比べればすっげぇ小さいけど、なんだかとてもほっとする場所だった。

 石造りの壁はしっかりしてるし、中はタピスリーがたくさん壁に掛けてあってなんつーか、あったかい感じだ。


「掃除もしっかりしてあんだな」

「掃除? ああ、ここの管理は昔巫女だったっておばあちゃんがやってるんだって」


 なるほど、ばあちゃんなら掃除きちんとやってそうだな。それでキレイなんだ。


「でも昨日のお勤めを終えてから転んで足を痛めたらしくて。朝からお勤めができてなくてどうしようって」


 なるほどそれで。夕のお勤めだけでもあたしがやればなんとかなるもんな。


「この村にいる間、宿の手伝いとお勤めをしてくれたらおかみさんが宿代半額にしてくれるって」

「そこ!?」

「宿代だってバカにならないんだよ〜」


 それも言われたらあたしは黙るしかない。

 なにしろ無一文の着の身着のままのあたしだ。金は全部ティナが持ってくれてる。

 だからあたしがやれること、やるべきことはなんでもやるつもりだ。


「わかってる。もちろんやるよ」


 白い女神像が佇む祭壇の前に立つ。埃もヨゴレもない、きちんと清められててなんだか嬉しくなる。

 ちょうど、夕のお勤めの時間だ。

 腹の前で手を組んで頭を下げ、あたしは息を吸い込んだ。


《朝に海から昇った太陽は 夕にまた海の彼方へ沈む

 女神の御手により下りる やさしい闇のヴェール

 我ら女神の子 明るい宵の月へ祈りを捧げ

 安らかなる眠りの淵へ》


 七年、毎日歌い続けた夕の祈禱歌。小さな神殿だけど一人で歌うのは初めてだ。

 ここからでも、女神レヴィアータにあたしの歌は届くだろうか。


 歌うあたしをティナともう一人、宿屋の女将さんが見ていたことをその時のあたしは全く気づいていなかった。


「いい歌声だ。あの髪色、《黄金の娘(アウフィリア)》にふさわしいね」


 アウフィリア。

 この言葉をあたしが聞いていたとしてもなんのことやらさっぱりわからなかっただろう。


「必ず、守ってやっておくれよ」

「もちろんですよ。たとえアウフィリアじゃなくても、リアは可愛いですし」

「出たね、ティーナの可愛いもの好き」

「カワイイは正義、何より優先されるべきと思ってますけど何か?」

「うん、知ってる。アンタのその拗れた性癖は。くれぐれもリアちゃんに構いすぎて嫌われないようにね」

「はーい、気をつけまーす」



*****



 それから三日、あたしは朝夕の祈禱歌と小神殿の掃除を引き受け、ティナが宿屋の手伝いをしながら、空いてる時間で旅の打ち合わせをした。


 部屋に備え付けの丸いテーブルをこの国に見立てて真ん中で交差するように二本紐をおく。上が王都のある直轄領、下が南領、右が東領で左が西領として、どうやって回るのか。


「まずはどこの神殿から行くといいんだ?」

「そうだね、西領の地神殿から行こうと思ってる」


 ティナの指が直轄領の真ん中、王都の位置から西領の真ん中あたりへ動く。


「なんでだ? ここ、王都の南にある村だろ?」


 このまま南に行くと思ってた。


「王都から南領はかなり遠いし、直接行くのは難しいんだ。ここからこう、大きな山が連なってる山脈が走ってるから」


 テーブルの真ん中あたりから右下へ。紐に沿ってティナの指がすっと動く。そこにでかい山がいくつもあるらしい。

 ここを山越えしたい? と聞かれてあたしはかぶりをふった。

 ぜってー無理だ!


「うん、山越はわたしもしたくない。で、ここからだと実は東領に入る方が近いんだけど」

「じゃあ風神殿?」

「東領に行くのは最後にしたいんだよね。東領に入ったら最後出られないかもしれないから」

「もしかして、ティナの家は東領にあるのか?」


 そっか。顔が知れてるだろうから捕まっちまうかもしれねーもんな。兄貴に。


「そうなんだよ。だから西領をまず目指したい」


 いいかな? と聞かれたけどあたしが反対する理由は何もない。


「それから南領へ行って、船で東領の風神殿を目指して」


 ティナの指が西領の真ん中あたりから南領に移る。南領の神殿も西領と同じく真ん中あたりにあるらしい。そこからテーブルの手前から右へ縁を沿うように動いていく。


「船に乗るのか?」

「南領から東領も高くないけど結局山越えだからね。それなら海路で行くほうが簡単なんだよ。風神殿がある東都エジェドマハナと南領の港町メートピアナの間は定期的に船が行き来してるんだ」


 テーブルの手前と右の端をティナの指が行き来する。

 船に、乗れる!


「船に興味があるの?」

「あるっ!」


 昔、アリシアがなんでかいろいろ自慢げに話してきたことがあったけど、船に乗ったって話だけは羨ましかった。アイツは川舟だって言ってたけど、こっちは海路、海だ!


「それじゃあ水神殿までちゃっちゃと進めるように頑張らないとだね」


 よっし! やる気が湧いてきたぞ!!


 そして出発の日。

 朝早く起きてティナに連れて行かれたのは村のすぐ外。大きな幌付き馬車が二台止まっていた。よく見かける荷馬車よりも頑丈で車輪も大きい。御者台の高さがあたしの頭くらいある。


「ナニコレ」

「これ? 乗合長距離馬車〜」


 聞けば、商人組合が運営していて、荷馬車を持ってない個人の長距離移動のためにあるのだとか。

 西領から南領、山越えして東領、そしてまた王領と四領の各地で人を乗せて降ろして、途中で何泊もしながら場合によっては車体や馬を替えて一年近くかかって国を一回りするらしい。


「ずいぶん前、ある大商会の放蕩息子が国中をフラフラしてて思いついたんだってさ」


 放蕩息子が旅先で出会った騎士志望の少年や駆け出しの商人、出稼ぎの若者や帰郷する女性たち。

 荷馬車を持ってない、手に入れられないが徒歩では厳しい旅程と目的地で困っている、そんな人々の手助けをできないかと思って格安で乗せたのが始まり。放蕩息子は故郷へ帰るとこの事業を立ち上げた。南領の各地を巡るところから始まり、国中を繋ぐ長距離へ。野宿を含む宿泊や護衛の問題、替え馬なんかの課題も、何年もかけて協力関係を築くことで少しずつ解決していったらしい。


「これで西都の近くまでいくから。リアの体力も考えるとこれが一番なんだよね」

「あたしのせいなのか?」


 あたしがちゃんと歩けたらこの金はかからず済むのか?


「せい、じゃないよ。これ以上に安く早く回れる手段がないだけだよ。それにわたしは護衛を兼ねてるから一人分ちょっとの値段だし」


 はは、さすがティナだ。


「リアはこっちの馬車ね。中に入ったら座ってそのまま待ってて。わたしはフリートに乗って後ろからついてくから」


 荷台の後ろから乗り込んですぐ右に腰を下ろす。席? そんなものねぇ、床に直で座らないといけない。

 ティナから分けて持たされた荷物から着替えの袋を取り出して床においてその上に座ることにした。固い床だからぜってーあとで尻が痛くなる。

 ここにはあたしの他にまだ誰もいない。静かで、することなくてあたしは外の音に耳を澄ましつつ、荷物の袋を抱えて顔を伏せた。

 ここはまだ王都がある直轄地。ここから街道に沿って西領の中心地、西都ウェルムロシェへ。地神殿はそこにある。

 ティナはそこまで大体二十日くらいだって言ってた。順調にいけぱ、だけど。


「あなた、一人なの?」


 ふいに、あたしの頭上から声がおりてきた。顔を上げると、おばちゃん? ばあちゃんにはまだ早い年の女があたしを不安げに見ている。


「い、え、姉と一緒、です」


 あんまし使わねー丁寧な言葉を使おうとしてところどころがあやしくなる。

 『姉と一緒』は昨晩、ティナと話し合って決めた。

 

『リア、旅の間あなたはわたしの妹・十歳で通すよ』


 ここでそれまた持って来やがったのか!?

 王都を出る前、『おねーちゃんて呼んでー』とほざいたティナに『ゼッテー呼ばねー』って拒否ったの、諦めてなかったのかよ。


『理由はなんだよ』

『ようは目眩まし。わたしを探す身内と他の人たちにも不審がられないように、かな。悪いんだけど、リアはやっぱり十四に見えないから。縁もゆかりも無い二人連れはあやしく思われちゃうんだ』


 下手するとティナは人攫いや人買いにされかねない、らしい。


『けど、あたしとティナじゃ見た目全然ちげーぞ?』

『義理の、腹違いの姉妹ならそんなにおかしくないよ。念のため親の連れ子同士がいいかな』


 聞かれたらね、と言われたから必要じゃなければそれ以上いわないようにするけど、念のため釘だけ差しといた。


『呼ぶならティナかティナ姉としか呼ばねーからな』


 満面の笑みのティナにかなり引いちまった。


「お姉さんが一緒なら良かったわ〜。こんな小さな子が一人でどこに行くのかしらと心配してしまって」

「う、はい。大丈夫、です」


 こんな小さな子って、この人の目にはあたしは何歳に見えてんだよ。

 もっと丁寧な話し方の練習しねー、んにゃ、しないとそのうちボロが出そうだ。それか、もっとチビの話し方でいくか? チビな話し方っても、あたし、前からこんなだったな。


 おばちゃんはあたしの横に座った。

 そのまま待ってるとまた何人か乗ってきて、あたしをちらっと見ては空いてる場所に腰掛けていく。あたしみたいなのがこんなとこにいるのはやっぱ珍しいんだな。


 しばらくすると馬車はガタゴトと動き出した。ちらりと外を見るとティナともう一人、馬に乗った男が並んで馬車の後ろをついてくる。コイツも護衛みたいだ。男はしきりにティナへ話しかけているが、あんま相手にされてないっぽい。

 あたしと目が合うとティナは笑って手を振ってくれたけど、なんか恥ずかしくてあたしはすっと顔をそらした。





前話と今回、歌うシーンを入れられて一つ目標が達成しました!

歌詞を考えるのは楽しかったのですが、どうにも歌ジャナイ感満載…古語設定にしてヨカッタナ〜(棒読)

読んでいただきありがとうございました♪

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