そしてようやく旅立つ…のか?
ようやくタイトルに追いつ…けたのか? お待たせしておりましたが連載再開です。
楽しんでいただけたらうれしいです!
女神レヴィアータといろんな話をして、腹一杯食ったらいつの間にか寝ちまって、気づいたら庭園のベンチで座っていた。
王都は割に治安が良い方だけど、スリやひったくりや人攫いの話がないわけじゃないから運が良かった。
「これから三領の神殿を回んなきゃなんねぇワケだけど」
三つの神殿を全部巡って、神具の作製に必要な素材をそれぞれ集めろって言われた。
(そんだけ旅するなら商人を名乗るのがいいのか?)
いや、あたしのこのナリで商人だって信じるやつがいるとは思えねぇ。絶対いねえ。
じゃあ巫女だって正直に言うか? いや、神殿に連絡が行くだろうな。
うーんうーんと悩んでいて、はたと気づいた。
(やべぇ、どこに何神殿があるのか忘れた!)
女神はちゃんとみせて教えてくれた、それを覚えていないのは残念なあたしの頭だ。
べんきょー、ちゃんとしとけばよかった。
庭師の爺ちゃんがいってたじゃねーか、学べる機会があるなら全部やっとけ、やらずに大人になってから後悔するのは自分だって。
うん、爺ちゃんごめん。忠告してくれたのにな。まだ大人になってねーけどもう後悔したよ。
しかも、どうやって行くのかとか何日かかるのかとか聞くの忘れてるし。
それに、旅をするには何がいる?
着るもの、食べ物、持ち物、身を守るモノもいるよな? それを揃えるには、まず金がいる。
あたし何も持ってねーじゃん!
「はぁ〜、どうすりゃいいんだよ…」
「なにか困りごとかしら?」
思ったより近くで声がして、顔をあげると女が一人あたしを心配そうにみていた。
「ため息をついて『どうすりゃいい』なんて言っているから、心配で声をかけたのたけど」
不思議な女だ。
神殿騎士の訓練中みたいな格好をして腰に短剣を身につけているのに、あそこの女騎士のように髪は短くないし、目を吊り上げて男には負けん! みたいな感じがない。
ひとまとめに結い上げた茶色の柔らかそうな髪は長く伸びてて、顔は少し日に焼けて健康的。あたしの周りにいなかった種類の女だ。
「困っちゃいるが、アンタにどうにかできる種類じゃねぇから」
「あら、話してみないとわからないじゃない? わたしでムリなら他の人を紹介できるかもしれないし」
「じゃあ聞くけど、あたしはこれから国中を周るくらいの旅に出なけりゃならねえ。けど、どうやって行ったらいいかわからねぇし、金もない。戦う力もない。けどいかなきゃなんねぇんだ」
そんなあたしにあんたはどんな手助けができる?
「それは、何のために?」
何のため?
「それは、人に、大切な人に頼まれたから」
「うん」
「あたしを助けてくれた大事な人で、あたしがやるべきことだから」
壊したのが誰かなんてどうでもいい。
あんな卑劣な手に引っかかったあたしに隙があったんだ。あの女があたしを目の敵にしてるって解ってたのに、油断していたあたしがバカだっただけだ。
「三領の神殿を回って神具を作り直っ……!」
「え、ちょ、待っっ!!」
女に突然口を押さえられた。驚いて暴れるあたしを全身使って押さえつけてくるんだけど、あの、後頭部がすっげー柔らかいものに埋まりそうで……はっ、あたしは痴女か!?
「なにすんだよ!」
解放されて、すばやく女から距離をとる。
「ご、ごめんなさい! でもそれ以上言わなくていいから!!」
女はあたりを気にしながら声を低めて問いかけてきた。
「あなた、本神殿の巫女様なのね?」
「様はいらねえよ。それに追ん出されたから元、だしな」
「追い出された? でも、三神殿に行くって」
「ああ、いくけど?」
「…神力がなくなったわけじゃないということ?」
「ああ」
っていっても信じてもらえねぇかもだけど。
巫女は神殿にいてこそ意味がある。外にいる巫女は何の役に立つんだ?
「名前、聞いてもいいかな?」
「リア。あんたは?」
「わたしはティナ。ねえリア、わたしを護衛に雇わない?」
は? ニコニコして何言ってんだ?
「雇うって、金ねぇって言ってんじゃん」
「わかってるよ。えーとね、わたしも事情があって、あちこち行かなきゃいけないんだよね」
「あちこちって?」
「具体的にはどこって決まってなくて。長い間一箇所にはとどまれないっていうか」
それって?
「逃亡中ってやつか?」
「うん、まぁ、そうといえばそうなんだけど」
「何から逃げてんだよ?」
「えっと、身内、から」
なにしたんだよ、この女。
「わたしは、自分は悪くないと思うんだ。そりゃあさ、実の兄に襲われかけたら誰だって反撃して逃げるよね?」
「なんて兄貴だよ!?」
たしかに、それは悪くない。
ティナの話はこうだった。
三週間ほど前のこと。
貴族だというティナの父親が亡くなり、喪が明けてティナの兄貴が当主に就いた。
王都で騎士をしていたティナはその祝いのために休暇を取って実家に帰ったのだ。
「あんた、貴族の娘なのに騎士なのか」
「そう、これでも王宮の騎士団に所属してたんだ」
最初の印象は間違ってなかったんだなぁ。
見た目通り柔らか、んにゃ、女らしいのに力めっちゃ強かったしな。
「夜は知り合いとか集めて宴会になったんだけど」
酒も入ってワイワイやってた時に兄貴に呼ばれて行った別室で兄貴に押し倒されたらしい。
「それで殴って逃げたのか」
「まぁ、そうだね。手足が使えなかったから頭突きして気絶させたんだけどね」
あー、あたしもやったことあるな。
孤児院時代に変態なオッサンに捕まって腕を押さえつけられたから頭突きして急所蹴飛ばして逃げてきた。
「騎士の寮に身の回りのものをすべて置いてあったから何も持たずに王都へ戻ってね。全部引き上げて、騎士団やめたんだ」
「辞めた!? 騎士団を!?」
「騎士のまま貴族の当主を暴行したなんて罪で捕まったら同僚たちに迷惑かけると思ったからね」
うわ、義理堅ぇ。つか、コイツじゃなくて悪いの兄貴じゃんか。それで騎士やめるなんて。
あたしなんかさっさと逃げたのに。
「いまは知り合いから部屋借りて日雇い仕事してる」
「日雇い? どんな仕事なんだ?」
日雇いって言うと、大工とか建物とか橋の工事とかか? けど、こんな若い女がそんな仕事を?
「王都に来る途中で強盗にあいかけた商人を助けて二、三日護衛しながら来たし」
まぁ、騎士サマなら腕っぷしに自信あるだろうからやれるんだろう。
「雑用だけど、木材とか土とか石を運んだり、言われたとおりに並べたり」
マジな力仕事?
「飲食店の臨時店員とか」
「騎士サマがそんなことやれるのか?」
「騎士をなめちゃいかんよ? 見習いや下っ端の時分は厨房で野菜の下処理や給仕の手伝いもするからね」
騎士舐めてたのかあたし。
神殿騎士の連中もそんなことしてたんか? いや、してなさそう。
「ってことで、護衛にもなって力仕事もできて侍女代わりにもなるお得物件どう?」
どうってなにがだよ!
「マジで金ねぇっての!」
「じゃあ逆にわたしがあなたを雇い入れるよ!」
それならいいでしょ、ってなんでそうなるんだよ!
「あたしなんもできねーっていってんじゃん!」
「でも巫女、なんでしょう? それなら女神の加護があるはずだけど」
女神の加護?
「えっと、ソレナニ? って顔してるけど」
「聞いたことねぇし、そんなもん」
「教えてもらってないの?」
「誰に?」
「ご両親から」
「いねえよ。孤児院育ちだからな」
ティナはそう聞くなり顔を伏せちまった。
最悪な場所だったけど、孤児院で育ったことをあたしは恥じてない。けど、中にはそれを恥ずかしいとか気の毒だとかそう思うやつもいるんだろうな。
「謝ったりすんなよ」
「わかった、しない。あのね、女神の巫女になれそうな女の子には生まれた時に女神の加護が与えられるの」
「7つの儀式で歌が女神に気に入られて巫女になるんじゃないのか?」
「んー、少しややこしいのだけど」
ティナの話は、長かった。
生まれた時に女神レヴィアータから加護は与えられるが、本当に巫女になれるかは7つの儀式までその加護があればの話。育つ中で加護がなくなることがある。巫女になってからも加護を失うことはあるしな。
それから、与えられる加護には差があって、加護が厚いほど神力が強い。厚い加護、強い神力を持つ巫女の歌は防御や結界、浄化や治癒の力をより強力に発揮することができるといわれているらしい。
「つまり巫女は歌によって女神の力を借りて、望む力を行使できるってことか?」
「そう。ただし、人を傷つける力を望むことはできない」
はー、まったく知らんかったなー。
ん? 巫女だったあたしが知らんってのもおかしいけど、なんでティナはこんな詳しいんだ?
「あんた、なんでそんなに詳しいんだ?」
「貴族令嬢の嗜み、かな? あとは知り合いに元巫女って人もいたから」
貴族令嬢。ヤなやつの顔が浮かんでピキッってなる。あ、コイツも一応貴族令嬢か。でも大違いなんだよな。
「ウチはそういうの詳しく教えられたけど、全貴族家がそうとは限らないかな」
貴族でもやっぱりいろいろだよなぁ。
アイツらはいけ好かなかったけど、巫女長はそこまでやな奴でもなかったし。
「こういうことは本来、貴族でも平民でも両親や周囲の大人が教えるものだからね」
「んじゃあ、あたしが知るわけないな。あいつらがそんなことあたしらに教えるわけねぇもん」
孤児院の連中を思い浮かべて、うん、ありえない。あいつら、あたしが巫女になるなんて思ってもなかったろうしな。
文字も数字もあたしは神殿に入ってから学んだし。
「神殿の巫女様たちからは? そういうことは教えられなかった?」
「……」
聞いたっけ? たしか神殿に行ってすぐに基本的なことを聞かされたような、どうだったか?
「覚えてねぇな」
あたしが。読み書きと他に前の巫女長のなっがい話を聞く時間があったからそん時だったかもしれない。
「なるほど。わかった」
「なにがだよ?」
「言い方を変えよう。わたしと手を組んで、協力してほしい。わたしはあなたに知識と戦う力を提供する。あなたには巫女の神力で守る力と癒し・浄化の力を提供してもらう。それであなたは三神殿を回る、わたしは兄様から逃げる」
どうかな? と聞かれてあたしは考える。
こいつ、ティナがホントのことをしゃべってるかわからない。けど、あたしはどうしてかティナと旅立つべきだと思っている。
「なぁ、女神レヴィアータに誓えるか?」
誓う? と聞き返されたのであたしは『誓い』を述べた。
「女神レヴィアータの巫女リアは、女神の名に誓って騎士ティナの身を守りましょう。嘘偽りなく物事を告げ、ティナが騎士として誠実にその役目を果たす限りその望みを叶えましょう」
あたしの『誓い』聞いたティナはにっと笑うと握り拳の右手を左胸に当てて姿勢を正した。
「わたし、ティナは女神と騎士の魂にかけて巫女リアの身を守りましょう。嘘偽りなく物事を告げ、リアの望みを叶えましょう」
騎士の魂、ね。その右の拳が握るものがそうなのか?
ティナの瞳は不思議な色合いに揺らめいているけど、そこに戸惑いはなく、鋭くも静かな光が漂っているだけ。
あたしは歌う。
《太陽は朝に昇り 夕に沈む
その理がくつがえらないように
この身がある限り 我らの誓いも覆らない
我らが誓いを破る時は 女神の怒りを甘んじて受けよう
女神レヴィアータへ請い願う
我らの誓い 聞き届け給わんことを》
これは本来婚姻式の祈禱歌。女神の前で夫婦になる男女がお互いをいろんな意味で裏切らないと誓う儀式で巫女が歌う。それの変形だ。
あたしとティナが互いを守ると女神レヴィアータに誓った。それを女神へ送り届けるものだ。
「ティナ、これであんたが嘘ついてあたしを売り飛ばしたりしようものなら」
女神の怒りが、と言いかけたところでティナの様子がおかしいことに気が付いた。
まさか、やっぱり嘘ついてたのか?
「すっっっごいキレイな歌声だね!」
「………」
キラキラした目であたしの手を握るティナに拍子抜けした。
女神の怒りに触れたかと心配したじゃねーかっ!!
「言葉は古代語だから意味はわからないんだけど、リアの歌声はすごくきれいだった!」
そんな褒められるもんじゃねーよ!
巫女の歌が古代語で、ティナが巫女じゃなくて助かった。
婚姻の祈禱歌が元なんて知れたら恥ずかしすぎて死ねる!
「リアの神力はきっととても強いんだね。でもこんなに強い神力を持ってるリアがいない本神殿はこれからちょっと大変そうだね」
「あんなところのこれからなんざ、知るか」
ニーナとかルミのことを思うと体の中でチクリとするところがあるけど、神具を作ることが先だ。なにより、女神レヴィアータ本人からの頼まれごとなんだから。
「じゃあ、行こうか?」
差し出された手を軽く叩いて打ち合わせる。すこし不満げなティナ。
「あたし、これでも十四だけど?」
手なんか繋ぐ必要ねーぞ?
「え、十歳くらいかと思ってた!」
「そんなにチビかあたし!?」
「ううん、可愛いから!! ねぇリア! おねーちゃんって呼んでくれない!? わたし、子どもの頃妹が欲しかったんだよねー!」
「ぜってーよばねー!!」
こうしてあたしたちは王都を旅立った。
もう一人の主人公をようやく出せました。そしてラストでなんとか旅立ってくれた、よね?
読んでいただきありがとうございました♪




