+最後の巫女長は静かに見送る+
番外的なお話ですが、楽しんでいただけたらうれしいです!
長く離れていた家へ帰る馬車の中。サティーは手を組み女神へ祈りを捧げていた。
「女神レヴィアータ、リアの旅にどうかあなたの加護を」
サティーは思いを馳せる。かつて巫女長になった時のことを。
*****
『やあ、サティー。アタシはレヴィアータ。本神殿最後の巫女長に挨拶するよ』
押し付けられた役目だが、サティーは巫女長の役割をしっかり果たそうと思っていた。誰もいない神殿の礼拝堂で新たな巫女長となった挨拶として祈禱歌を唱えていたサティーの頭の中にそんな声が響いた。
女神レヴィアータ自ら話しかけてくるとは。けれどサティーは聞こえた一つの言葉に疑問を覚えた。
最後? と、声に出さずに考えたその言葉へさらに返す声。
『巫女長になればこうしてアタシとやりとりができるんだ』
なんと身に余りある光栄! とサティーは感激した。彼女は貴族出身ではあるが敬虔な女神の信徒。巫女となって神殿に属することは名誉であるが、この国のため懸命に勤めることは当然のことだと考えていた。
『けれど、アナタのあとにこの本神殿の巫女長になるコたちにアタシの声はきっと届かない。だからアナタが最後の巫女長』
ああ、とその言葉には納得できる。
今の上級巫女たちはアリシアに同調している。貴族としての体面を気にして、巫女とは選ばれしもの、それだけで名誉であるとその立場にあぐらをかいている今の状態では。
『そう、巫女長に就いても本来の役目、アタシと話をしてそれを伝えることはできないだろうね』
それでは下級巫女の娘たちなら、特にあの娘は。
考えて自ら打ち消した。
『そう、あの娘ならできる。けれど彼女が巫女長になることはないよ』
たしかに、あのアリシアがそれを許すはずがないだろう。
『ああ、違うよ。あの娘には別の役割があるからだよ』
別の役割?
『あの娘にはね、遠くないうちに国中を回る旅へいってもらうから』
それは神具作製の旅。この国にある本神殿以外の三つの大神殿を巡り、新たな神具を作る旅。
それをまだ成人になっていないリアにそれをさせるのかと、サティーは女神に食ってかかった。
『他の巫女たちにはできないことだから仕方ないんだよ。アナタだって巫女長になってようやくアタシと話すことができたものを、あの娘は赤ん坊のころからアタシを見て、アタシと話すことができたんだからね。それだけの資質を持つ巫女は他にいないね』
それは衝撃だった。
サティーはそれなり長く神殿にいるがそんな話はこれまで聞いたことがなかった。
『十年祭の神具がそろそろ寿命だ。次の十年祭を迎えるまでにあの娘は旅立つ。行かなきゃならない。それを妨げたらダメだからね』
『それでは何か手助けを?』
『いらない、何もいらない。ただ、邪魔をさせないで』
それが最初で最後の女神との邂逅だとサティーは思っていた。以後、女神と話せたことはなかったから。
それが覆ったのは、リアが神殿を飛び出し、サティーは諸々の責任を取るとして巫女を辞した。意趣返しにアリシアを巫女長に無理やり推して神殿長の部屋を急いで出てきたそのあと。
『ありがとう、サティー』
数年ぶりに聞こえた女神の声だった。
神具が壊れたことを女神へ謝罪すると、『大丈夫だって』と返ってくる。
『言ったでしょ? 神具がそろそろ寿命を迎えるって。箱の中だから誰も気づかなかったけど、あれ、少し前にもう崩れていたんだ』
あと少し誰も気づかなかったらアナタにと告げるつもりだった、女神は言う。
保管室の清掃のみ上級巫女の役目、棚を拭いて終わりだというのに誰も気づいていないなんて怠慢にも程がある。それとも、気付いていて自分が壊したと思われたくなくて皆が皆隠し続けた…?
『さて、なにが真実かはもう時の彼方だ。今日のアタシはそれを叱りに来たんじゃない、むしろお礼と労いにきたんだよ』
さっきもいったけどね、と女神の声が優しく響く。
『まずはご苦労さまだったね。巫女長の役目』
それ自体は大変光栄でしたわ、とサティーは戯けて返す。
そう、おそらく本来の巫女長の役割という部分では難しいことも多かったがやりがいはあった。そうじゃない部分がもう、もう!
『それもアナタだからなんとかなったと思うんだよ、アタシは』
カラカラとした女神の笑いまじりの言葉が胸に温かくじわりと染み入っていく。
『それから、ありがとう。あの時の言葉を果たしてくれて。リアはおかげで旅立てる』
そう、十年祭の神具を作り直すためにリアは旅立つ。それを妨げるな、とかって女神から言われた。
もちろんそのつもりはサティーになかったのだが、リアが神殿から逃げることと神具作製への旅に出ることが同義であると気付けたのはリアを引き留めようとした時。
『手助けをしようとしたね? その気持ちは嬉しい。でもそれじゃあダメなんだ』
そう、だからそれ以上追いかけなかった。そして、リアが逃げたことで責任を取らせようとしていたアリシアと神殿長へ自分が責任を取って辞めると宣言したのだ。
もともと近いうちに辞める予定ではあった。それを早めただけだ。
『これで本当のさようなら、だね。アタシの最後の巫女長サティー、アナタの心が変わらず歌と共にある限り、アナタはいつまでもアタシの巫女。アナタが心迷う時にはアタシがそれを払いましょう。アナタが悲しみで心を痛めるときがあればアタシはそっと寄り添いましょう。アナタの喜びにアタシはともに喜びましょう』
アナタに女神の祝福を。
声が途切れたあともサティーの頬を流れる涙は止まらなかった。
*****
のちにサティーはリアと再会する。
一年も経っていないのにさらに美しくなった少女へ、サティーは今度こそと惜しみない助力を授けることになるがこれはまだ女神のみが知る話である。
読んでいただきありがとうございました♪
次回更新は少し先になります。12/1に再開できたらいいな、と思っています。
楽しみにしてくださっている方がおみえでしたらすみませんがしばらくお待ちください。




