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女神の巫女は、逃げたかった

月末月初は予定が立て込んでしまいました。なんだかんだで書けない日が続いてます(涙)

そんなこんなですが楽しんでいただけたらうれしいです!




 あたしとティナは昨夜の約束通り、朝また温泉へやってきた。起こされたときにはまだ暗くて動きたくなかったけど、今はなんか体のあちこちがあったまって動きたくてうずうずしてるみたいだ。目が覚める感じがする。


「ところでリア? 一度聞こうと思ってたんだけどね」


 離れたところにいたばあちゃんが温泉から上がってあたしたちだけになったこのタイミングでこの質問。なんか、ヤな予感する。


「何をどれだけ集めてどうすれば出来上がるの? 神具って」

「………………………………知らねぇ」


 たっぷり黙ってからこたえると、隣でティナが思考停止を起こして固まった。

 だよな、そりゃそうなるよな。

 あたしだって、ソレに気付いたときには冷や汗がだらだら流れた。けどもう確かめることなんてできねーし。


「リアちゃん?」

「行けばわかる、って言われたから」


 あの時はそれ以上聞かなかった。あたしも混乱してたし。


「神具は、必要になったその時に一番力が強い巫女が作るんだって」


 木を削ったり石を彫ったり職人みたいなことはできねぇって言ったらそういうこともいらないって言われたっけ?


「ん〜、けどなにが必要なのかわかんないのはなぁ」


 一応聞いてるぞ、あたしは。疑うなら女神レヴィアータに聞いてくれ。いや聞けねぇけどさ。


「正直、あんま時間もねーからとりあえずどっかの神殿に行かないとって考えてたんだ、あの時」


 どうやったら行けるのかとかさっぱりわかんなかった。金もなかったし。いまもねーけど。


「ティナが声かけてくれて、実はすっげー助かったしありがたかったし、その、嬉しかったんだ」


 だぁーっ!! クソ恥ずかしいっっ!!

 ここにあたし達以外いなくてホント助かった! いろんな意味でっっ!


 正直、まだティナがあたしを裏切るんじゃないかっておそれてる。女神へ誓ってくれたけど、それでもまだ少し怖いんだ。

 けどティナがいてくれて嬉しいのもホントのこと。


「んもぅ!! リアってばほんっっっと可愛いんだからー!!」


 そんな叫び声とともにあたしの顔を覆ったのは、薄い湯着からはみ出そうなティナの。


「むぐっ!?」

「いいんだよ、リアはそのままで。わたしのこと全部信頼してなくたっていい。疑っててもいい」

「えっ!?」


 ティナ、気付いてたのか。


「リアと出会ってまだ数日だよ? 全部信じるってムリでしょ。お互い利用し合えばいいんだよ、手を組むってそういうことじゃない?」


 押しつぶされそうだった圧迫感がなくなって、代わりにティナの顔があたしを真正面から覗き込んできた。

 少し寂しそうなティナの表情に信じきれていないことが申し訳なくすら思えてくる、けど。


「ティナ、は?」

「うん?」

「ティナだって、あたしを疑ってんじゃないのか?」

「リアの、何を疑うの?」


 そんなキョトンとされても。

 え、だっていろいろあるだろ?


「ホントのこといってんのか、とかそもそもホントに女神の巫女なのか、とか」

「ん〜、その質問をされるだけでもリアを疑う余地はまったくないんだけどね。仮定の話でリアが嘘ついててわたしからお金を巻き上げようとかしてたならいまここでこうしてるのは本意じゃないはず、でしょ?」


 まぁ、たしかに。


「で、そうするとリアの目的はホントということになる。それから女神の巫女かどうかって話だけどそれは正直どうでもいい」

「どうでもいいのかよ!?」

「だって、わたしにとって重要なのはリアがそばにいてくれることだから。わたしの目的、覚えてる?」

「ええと、ティナに欲情して手籠めにしようとした最低兄貴から逃げるため、だっけ?」

「そう! 騎士としても領主としても尊敬してるけど、妹に手出そうとしたことだけは心の底から軽蔑してる兄様から逃げるため」


 ティナは家族のことを少しだけ教えてくれた。両親はすでに死んでて、家族はもうその兄貴だけ。


「両親とも、わたしには冷たくてね。兄様だけが優しかったのに」


 けれどその優しさは正しくなかった。やがて歪んで、捻れた。


「だから逃げることにした。きっと兄様はわたしに追っ手を向けてる。わたしがわたしのままではすぐに捕まりそうだから、リアに協力してもらってるの」

「あたしに、なにができるってんだか」


 いまだってずっとティナに頼りっぱなしだ。


「ううん、いてくれるだけでいいんだ。わたしの妹だって言い張って、そばにいてくれれば」


 この時のあたしはまだティナがどうして『妹』にこだわっているのかあまり理解していなかった。妹が欲しかったんだ、というティナの言葉を信じていた。




◇◇◇◇◇◇◇




 今日は一日バルレイ村を見て回って、明日は日が昇る前には出発する予定になってる。


「と言っても、リアが見て面白いものが何かあるかなぁ?」


 なんてティナは首を傾げていたけど、あたしにとってここで目にするものすべて初めて見るものばかりだ。

 王都のような華やかさはない。高い建物はないし、着飾った人たちもいない。

 けど、王都とは違った賑やかさがある。こういうの、活気があるっていうんだっけか。

 野菜や果物を売る露店、布や織物、服を売る店、遠くから響いてくるいろんな音。

 特にずっとトンカントンカン、トンカントンカンいってる。あれなんだろ? と思っていたらすごい音がして地面が揺れた。


 え、なになに!?

 ドッッゴォォンってみたいな、すんごいでかい音!!


「ティナ!?」

「今の音と揺れたやつ? 大丈夫だよ」


 隣で驚いてビクついて飛び上がったあたしに対してティナは平然と山の方をみていた。え、白い煙があがってんじゃねーか!


「いまのはたぶん坑道で発破したんだと思う」

「こうどう? はっぱ……?」


 聞いたことのない言葉が出てきた。木の葉の葉っぱじゃないよな?

 ティナによると、鉱山では金属を採る場所として坑道という通路を山の中に作っていくらしい。山の中に簡単な廊下を作るようなものだって。その廊下の横に部屋を作ったり廊下を延ばすためにするのが発破という作業らしい。


「わたしも前に来たときに聞いただけだから実際何するか分かんないんだけど、その時もあんな音と煙が上がってたんだ」


 ティナはいろんなことを知ってる。

 そのほとんどは貴族の娘として叩き込まれた知識らしいし、いまのようなティナ自身が興味を持って見て聞いたこともティナの中には知識としてしっかりある。


 あたしは?

 神殿にはいる前はともかく、入ってからもぜったいに必要なことしか覚えなかった。

 はじめはともかく、巫女という立場を押し付けられたものとしか思えなかった。たぶん、食べる物と寝床と着るものが揃ってるからあそこに居続けただけなんだろうな。神殿出ても行くあてねーし。


「なぁ、その発破って見ることできるのか?」

「え!? 見たいの?」


 見たいか見たくないか、正直どうしてもみたいわけじゃない。

 でも機会があるなら、いってみるのもありなんじゃねぇかって思ったんだけど。


「ティナは気にならない? どうしたらあんな音がして地面が揺れるようなことになんのか」

「そりゃ気になるけど。でも鉱山の中は鉱夫か専門の技師とかしか入れなかったはずだよ。すごく危険な場所だから」


 危険なのか。機会は、なかったか。


「まぁ、街の中も危険じゃないかといわれたら」


 悲鳴が聞こえたのはその時だった。


「このクソガキがぁ!!」


 道の少し先で、デカい男が転がっている子どもに吠えて胸ぐらを掴み上げた。それからもう一人、銀髪の子どもがその手前でへたりこんでいた。

 掴み上げられたのは黒髪の男の子。手足をばたつかせて暴れている。


「クソガキ上等だ、このクソ野郎!」

「なんだと!?」

「オレは見てたんだっ! テメェ、因縁つけてあの子連れてこうとしてただろうが、この人攫い!!」

「だ、誰が人攫いだってんだ! 大人にそんな口利くクソガキは躾し直してやらねーとなぁ!」


 周囲の話からすると、銀髪の子と男がぶつかったらしい。それに黒髪の少年が割り込んだ。銀髪の子を助けようとしたようだ。


「ティナ」


 こんなの、孤児院時代はよくあった。見て見ぬふりととにかく逃げる。選択肢はそれだけだ。そう思ってティナの袖口を引っ張ったのに。


「わたしが言いたかったのはこういう危険じゃないんだけどね」

「は?」

「助けに行ってくるよ」


 ちっがーう!!


 ティナはあたしが捕まえる前に颯爽とできつつある人垣の中へ駆けていってしまった。


 助けろなんて言ってねぇよ!! ここは見て見ぬふり一択だろうがっつ!


 と思ってもここで叫ぶだけの勇気も度胸もない。

 ティナの後を追って人垣から出過ぎないように前へ進んで垣間見ると、まさに男がティナに向き直ったところだった。少年は、また地面に転がされてた。


「何があったのかわたしに教えてよ」

「あぁ? カンケーねぇやつはすっこんでろ」

「だって、アンタみたいな立派なオトナがそんなガキンチョたちに無体はたらくわけがないからさ、そいつらが何か悪さしたんだろ?」

「お、おう……なかなか話の分かりそうなネェちゃんじゃねえか。こいつはな」


 男が意気揚々と語りだしたのは明らかに「テメェが大人げないだけだよな?」って話だった。


「なるほどね、でも子どもの躾なんてアンタみたいなのがやることじゃないよ。アンタみたいなのにはアッチにある酒場がぴったりさ」


 誰か連れてってやってくれない? というティナの言葉に男が二人出てきた。親しげと馴れ馴れしいの間くらいの態度でデカい男を挟んで肩組んだりしてスタスタと連れ去ってった。てか、まだ昼前だろうに酒場って。

 ん? あいつらどっかで見たことあるような?

 まわりは荒事にならずにおわったことにつまらなそうな人たちと、逆にホッとしてる人どっちもいた。

 あたしは、ホッとした方だ。

 ティナが強いのはこの旅で見てる。けど、ティナが戦うところはあんまり見たくない。だから力づくかと思ったら口先だけでクソ野郎を追っ払っちまったことにほっとした。


「リアー、悪いんだけどそこの子を連れてきてくれるー?」


 人垣が崩れていく中、ティナは気を失った少年を背負ってこっちへやってきた。その子、とティナが示したのは俯いてる銀髪の子。


「あー、悪いけど一緒に来てくれないか?」


 あたしと同じくらいの長さの銀色の髪、見上げられて見えたのは整った顔立ちに白い肌。向けられたのはあたしとよく似た色の光の乏しい眼。

 あたしを見て少し光が戻ったと思ったら、その子は跳ぶように行ってしまった。足はや。

 でも、最後睨まれた? 気のせいか?


「あらら逃げちゃった?」


 睨まれたようなのが気になるけど、行っちまったもんはしょうがない。とりあえずあたしたちは少年が休める場所を探して、とりあえず酒場とは反対方向へ歩き出した。




ティナの軽い乱闘シーンにしようと思っていたんですけどね、いきなり二人の男がここは俺たちに任せろと言うのでやらせてみたんですよ。そしたらあんなシーンになっておいコラ待て!! と頭を抱えました。

これはこれで平和でいいわ、とそのままです。戦闘はそのうち出てくるし。

読んでいただきありがとうございました♪

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