女神の巫女と女騎士は温泉で憩う
楽しんでいただけたらうれしいです!
その日、日暮れまでに十分な余裕を持ってあたしたちはバルレイ村に到着した。
にしても、あたしが起きたのが実は昼過ぎだったことには驚いた。あたし、そんな疲れてたんか??
けどそんな疑問に首を傾げてたのも馬車を降りるまで。
「すげ……」
思わず呻いた。
「相変わらずきれいで力強いな〜」
これは前にも来たことがあるというティナの言葉だけど、バルレイ村の前に立ったあたしの感想は。
「これ、ホントに村か?」
白い石を隙間なく綺麗に積み上げて、上には人が歩ける広そうな通路があって、王都の城よりかなり立派にみえる。
これが不落の壁か、と誰かが呟くのが聞こえた。この防壁の呼び名らしいけど、村の防壁にしては立派すぎんじゃね?
「昔ここには砦があったんだって」
それはこの国ができてしばらく経ってから。西領の一番端にある村とここバルレイ村で争いがあったらしい。
「百年近く争ったらしいんだけど、ここは鉱石がよく出てたし、石材も豊富でね。この防壁もできて、敵もここを落とせなくて、お互い争い疲れてやがて和解したんだってさ」
落ちなかった防壁で「不落の壁」か。そのまんまだけどそんなことがあったのか。
「なにが原因で百年も争うことになったんだ?」
「ん〜、それがわかってないんだって」
ティナは騎士見習いの頃に座学で教わったらしい。
今から何百年も前のことで伝わっていることといないことがあるらしい。
「よっぽどくだらないことだったのか、逆に後世に残せないほど悲惨なことがあったのか」
くだらないことの方だったら、巻き込まれた人たちが哀れすぎる。けど、歴史に残せないほど悲惨なことっていうのが何か知りたくないような。
「だからここから先はこんな荒れ地のままなのか?」
山の麓に広がるバルレイ村。その周りから西領の方向は広く何もない、ただ赤茶けた土と岩場が広がっているだけだ。
「たぶんね。それからなんだろうね」
争いが続いて、このあたりの荒れ地が広がって、水が少なくても育つ植物くらいしかなくなったのだろう。
この場所が悪いんだって否定したいわけじゃない。
でも押し寄せてくる、さみしいとか哀しいとかそんな気持ち。
それがあたしの心をかき立てる。
「バルレイ村にも、小神殿はあるよな?」
「あるよ」
これから行く? の言葉にあたしは強く頷いた。
*****
王都の城門よりもデカい門をくぐり抜けて入ったバルレイ村は、これまで通ってきたどの村よりどの街より活気があった。建物は立派だし、道は土のままじゃなくて、石畳でもないけど、なんか堅いもので舗装されてて歩きやすい。なんだこれ。
「ティナ」
「道のこと? わたしも知らないんだよね」
まだなんにも言ってないんだけど、なんで聞きたいことがわかったんだろ?
「リアってば、何歩か歩くたびに振り返ったり足上げたりして気になってるみたいだったからね〜」
うわぁ〜、恥ずかしいっっ!
「知らないこと、わからないこと、不思議だなって思ったことを知ろうとするのは恥ずかしいことでもダメなことでもないよ。知らないことを知らないままにする、知らないことを知ってるふりするのが一番ダメ」
ティナにポンポンと頭を撫でられて、子ども扱いされてることにムッとするものの、ティナにとったらあたしはホントにまだ……
そういえば。
あたしに歩調を合わせてゆっくり歩いてくれてるティナを見上げて、ふと浮かんだ疑問を投げてみる。
「ティナって、年いくつなんだ?」
「ん?」
やべ、聞いたらいかんヤツだった、これ。
ナンデモナイデス、と視線をそらす。ティナの顔にはりついた仮面が恐ろしかった。
「年齢はね、」
え、教えてくれんの? あの表情で?
「もうすぐ結婚適齢期ど真ん中、とだけ言っとこうかな」
それ一番触れづらい範囲だ!! わかんねぇよ!!
歩きやすい道の謎はそのまま解けず、ティナの年齢にはそれ以上触れないまま小神殿へ赴いたあたしは他の建物よりもキレイな外観にまたもびっくりさせられた。
隣でティナも驚いてる。
「わぁ、三年前に来たときはずいぶんくたびれた建物だったのに」
「外側だけ塗り替えたのさ」
振り返るとおっちゃんが一人こっちを見て立っていた。
着ているもののあちこちが白く汚れている。白いけどなんか泥っぽい??
「外だけ、ですか?」
「ああ。アンタ、三年前にここに来たっていま言ったよな?」
「ええ。春前に三日くらい滞在しました」
「その後だ。鉱山から出る泥が使えるものだってわかってよ」
おっちゃんの話はこうだ。
三年前のもうすぐ夏が来るってころ、この村で一つの大発見があった。
これまで使い道のなかった採掘の時に出てくる泥がある雑草と土や砂を混ぜて乾かすと硬さと強さが増すことがわかった。
「けど、そのままでは臭くてな」
その匂いも時間とともに薄らいでいくが、建物には使えない。それもなんとか匂い消しの効果がある草も一緒に混ぜることで解消できたらしい。まだ全部じゃないが道も同じもので固めたそうだ。
「で、ここで強度と耐久性の試験させてもらったってわけだ」
住居じゃない小神殿ならまぁ、誰も文句言わないだろうしな。けど、神殿だぞ? 女神レヴィアータへの無礼……とか、あのひとなら言わないな。
『いいよ〜。人の役に立つことならどんどん使ってよ〜』
とかなら言うかも。
「いずれはこの村全部の家をこれで塗り替えたいと思ってんだ」
「白く色塗ったりはしねぇの?」
ここの防壁みたいにしたらすっげーきれいでいいんじゃないかと思ったけど。
「それなんだよ、嬢ちゃん!」
じょ、嬢ちゃんなんて初めて呼ばれた気がする。クソガキは忘れるくらい何回も呼ばれてるけど。
「俺もよぉ、あんなキレイにできたらと思うんだけどなかなか難しいんだこれが」
防壁と同じ石は今はもう出ない。だからおっちゃんも白く塗りたいらしいが問題がたくさんあるようだった。いまその試行錯誤中なんだとさ。んで白っぽい泥汚れか。
帰宅するというおっちゃんに手を振って、あたしとティナは小神殿へ入った。中はそれなり整えられていた。それどころか。
「げ、そろそろ建国祭か」
祭壇の神具はまだだけど、壁にかかっているタペストリーが建国祭のものだった。
あと十日くらいで今年の建国祭の日がやってくる。
年に一度行われる大祭なのだが、建国の日に行うようになってからいつしかみんか建国祭というようになった。この国各地の小神殿から本神殿まで装飾をしてこの日を迎える。
大祭の神具を据え、花を飾り、タペストリーや祭壇の布飾りを変えて、供物を捧げる。
あの日がやってくる。
「イヤなの? 建国祭」
「イヤというか、いい思い出がない」
思い出すのもイヤだ。
神殿長の代替わりからこっち、建国祭が派手になった。
それが神殿の装飾だったり、捧げられる供物ならいいけど、巫女が必要以上に自分たちを飾ってどうすんだよ?
上級巫女は実家の金でなんとでもなるけど、下級巫女はそうもいかない。やりすぎるとシメられるし、なにもしなけりゃしないでイヤミが長蛇の列で押し寄せる。どうしろってんだ?
しかも布や花を用意したり供物を運んだりっていう下準備は下級巫女が、選んだり飾ったりは上級巫女がやると決められてこちとら重い物持って走り回って文句言われまくるだけっていう。
あー、思い出したくねぇ。
「でもリア。今年は本神殿にいないんだよ?」
そうだ。今年はあそこにいないじゃんあたし!
「たぶん、西都の地神殿かその近くの小神殿で建国祭を迎えるから巫女として建国祭の準備はしなくていいと思うけど」
「けど?」
「何ごともなければ」
コワっっ! 不安になること言うんじゃねぇ!
「まぁ、建国祭はまだ先でしょ? 夕のお勤めが先じゃないの?」
そう、そのために来た。
けど歌うのは。
《闇深い大地に一筋の光
女神の慈悲深い御手からもたらされた
光はあふれ大地に命が芽吹く
祝おう この素晴らしい日を
風が流れ
水は踊る
花は笑い
星が咲き乱れる
静かな太陽と
煌めく月と
皆ともに歌おう この素晴らしい日に》
夕の祈禱歌じゃなくて、建国の歌。
村に入る前に見た荒野がさみしくて。
これは再生の祈り。
この地に再び女神の慈悲を願うもの。
けっして「お花畑になれ〜!」なんてアホくさいことは思ってない。まったくこれっぽっちも思ってない!!
ティナも「いつもと違う?」と首を傾げていたけど、あたしは何も言わないでおいた。
「終わったんなら、さっそく温泉へいこうね!!」
は?
ぽかーんとなったあたしはうっきうきなティナに連れられ、あれよあれよという間に例の温泉へ向かうことになった。
*****
バルレイ村名物の温泉は村のはずれにあった。
普通の風呂と違って、男女別の屋内にある洗い場で体を洗ってから、湯着という専用の服を着て、外に作られた大きな石造りの風呂に入る仕組みになっている。そこからは男女一緒だ。
「うわぁ……」
「ねぇ、気持ちいいよねぇ」
そこじゃない、でもそれは否定しないむしろ全肯定。
広くてたっぷりの湯につかるのがこんな気持ちいいなんて思わなかった。
重たい外套を脱ぎ捨てたら身体が軽くなったのとおんなじような。いや、違うんだけど、言い表せねぇ。
比べると神殿の風呂はただただ熱いだけ。いや、比べるべきじゃない。温泉に失礼だ。
「星、キレイだねぇ」
全身をぐぐっと伸ばしてから仰向いたティナはそう言って笑った。
うん確かに星空はキレイだろう。屋根がないから見渡す限り星がまるで降り注いでくるように見えるはず。
けど、わりぃ。あたしの目はさっきから別のところに釘付けだった。
「ティナ、姉」
他の人もいるから念のため姉、はつけておく。
「ん〜、なぁに?」
「あのさ、肩凝らねぇ?」
これでも咄嗟に遠回しにしたのだ。
それだけティナの乳のデカさは、衝撃的だった。
だめだ、これ以上言葉にしちゃいけない気がする。いろんな理由で。
「ねぇリア? それどういう意味かなぁ〜?」
どうもこうもそのままだよ、と内心で呟くので精一杯。ティナの表情は、年齢を聞いた時と全く同じだ。仮面がはりついた。
ゆっくり視線をそらすと聞こえたのはわざとらしい大きなため息。
「リアだって、あと何年かすればこれくらいにはなると思うけど」
え、なれるのか? 過去最大級のソレと同じくらいに? 湯着きてても、いや着てるからこそはっきりくっきりしてるせいで、近くにいる男の目をすべて集めてるソレと?
ムリじゃね? と思ったあたしの言葉を代弁してくれた人がいた。
「ティナ、無責任なこと言わないの」
するりとこっちに近寄ってきたねーちゃんがいた。
あ。馬車の護衛にいた人だ。この人もなかなかの大きさだけどティナには今少し。
「そう?」
「そう。アンタのデカすぎ。私がこれまで見た中で最大レベルよ?」
うんうん、そう思ったのあたしだけじゃないよなーやっぱ。
「うらやましい通り過ぎていろいろ心配だわ」
「何の心配?」
「ソレに血迷った男の心配」
ティナが襲われる心配か。けどさ。
「ぶん殴って潰すだけだよ?」
うんうん。そうだよな。ん? 潰す? 何を? あ、野太くて短い悲鳴が聞こえた。
「手加減はしなさいよ」
「えー、必要ないでしょ。わたしに手出してくるようなヤツ放置して他の女の子たちの迷惑になったら困るじゃない」
確かに。
男が全部そういうケダモノだとは思っちゃいねえけど、そういうのがそれなりいるのも確かだし。
「特にリアに手出そうとしたヤツは死んだほうがマシって思わせてやることに決めてるから」
「何言ってんだよ」
そういう意味であたしに絡むのなんかいるわけねーし。
「それは同意。やってよし!」
このねーちゃんも何言ってんのかちょっとよくわかんねぇ。
「あたし、もう出るからな」
さすがに長く入りすぎたかもしれねぇ。頭がぼぉっとしてきた。まだ何か白熱している二人にそう告げてあたしはゆっくり湯から出ることにした。
「待って、わたしも出るから」
そうして護衛のねーちゃんと別れて、あたしとティナは温泉をあとにすることにした。
*****
道にはすっかり明かりが灯っていた。温泉から宿まで少し離れているから歩いて帰らねーと。
温泉で逆上せかけた顔に風が当たって、熱を軽く奪ってってくれる。
「きもちいー」
「温泉、もしかして熱かった?」
「んー、ちょっとな。でも気持ちよかったな」
風呂はあんまり好きじゃないけど、温泉は熱めでも気持ちよかったと思う。たぶん、湯気がこもらないからだろうな。
「また入れるのか?」
「うん。ここに滞在中は何度でも入れるって聞いたよ」
晩飯食って、寝る前にまた入るのもいいかもしれない。
「朝早く起きて日の出を見ながら入るのもいいんだってさ」
「いいなそれ!」
星が咲いて、月が煌めく夜空の下。
あたしは久しぶりに明日が楽しみだと感じていた。
温泉回(と勝手に名付け)でした。
温泉わりと好きなんですが、なかなか行けてないのでそろそろ行きたいな〜、なんて思いながら書いておりました。
1月末は更新をお休みします。
次回は2/7あたりに投稿できるといいなぁ〜…と思ってます。また来ていただけたら嬉しいです!
読んでいただきありがとうございました♪




