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女神の巫女はたくましい

新連載です。

はい、三たびのあの世界です。そっちとあっちとはまた別の国です。Wヒロインで、それぞれ性格やらいろいろこれまでの拙作とはテイストが違うかと思いますが楽しんでいただけたらうれしいです!



 やっちまった、じゃなくてやられた、やりやがったと思った。

 割れた神具を目の当たりにしながら、あたしに勝ち誇ったような眼を向ける女。

 てめぇ、この状況わかってんのかぁ!?




*****




 この国では守護神として女神レヴィアータを祀っている。

 かの女神は、伝承によれば神々の中でも最古の神とされている。国を作り、あらゆることを整えると初代国王に『あとは全部任せた』というようなことを告げて天へ帰ったという。


 女神レヴィアータは『歌』を好む。

 『歌』に力がある女性が巫女となり、女神に仕えることで悪しきものは去り、国が豊かになるといわれている。

 この国の女の子たちは七歳になると家から一番近い小神殿で女神レヴィアータへ歌を捧げることになっており、どんな基準か一年に一人か二人くらい巫女に選ばれて王都の本神殿や他の三神殿へ赴き、他の巫女たちと寝食をともにしながら女神へ仕えることになる。




*****




 あたし、リアは孤児だった。

 言葉もまだ話せない赤ん坊のころ、本神殿の巫女に拾われて王都の孤児院で育った。

 孤児でもこの国で暮らす子どもに違いなく、例外なく七歳の儀式をさせられ、その年唯一の巫女としてそのまま本神殿に住処を移された。


 孤児院に未練なんかさらさらなかった。

 あそこでは生きていけるギリギリの食事しか出なかったし、服だってボロボロの継ぎ接ぎだらけ。孤児院の院長は呑んだくれだし、二人しかいない職員は気に入らないことがあるとすぐに物差しで打ってくる。


 それでもあたしが生きていられたのはあたしを拾ってくれた巫女様のおかげだ。

 こっそり様子を見に孤児院へ来て小さな丸パン一個とか、チーズひとかけらを内緒だ、と言って口に入れてくれた。


 だから巫女に選ばれてあたしは実は嬉しかった。

 やっとあの巫女様に堂々と会えるんだって思ったから。


 けど、結局会えなかった。

 他の巫女みんなに聞いたけど、『そんな人知らない』という答えしか返ってこなかった。

 じゃあ、あの人は巫女じゃないのか一体何者なんだ?

 考えても本人に会えない以上わかるわけがない。



 神殿での暮らしは悪くなかった。

 朝は早いし、あたしの場合は文字の読み書きから覚えないといけなかったけど孤児院より食事が豪華だった! パンとスープはお代わりしてもいいってんだぜ!?

 雑魚寝じゃなくて寝台は一人一台くれたし、布団はあったかかったんだ。

 それに、あたしが孤児院育ちだってバカにしたり嫌がらせをするような人もあまりいなかった。


 最初の三年間は。


 あたしが本神殿に来て四年目の夏、神殿長が代替わりした。

 巫女を束ねる巫女長と神殿の警備を担当する騎士たちを束ねる神殿騎士長。その二人の上に立って神殿のすべてを取り仕切る神殿長の代替わりは大きな出来事だった。

 しかも新しく神殿長に就いたやつはあからさまに貴族出身の巫女を贔屓している。

 それはつまり孤児院出のあたしなんざクソみたいに扱われるってことだ。


 四年目からのあたしの暮らしは端からみれば悲惨だったろう。

 様々なことで貴族出身者の優遇が始まった。

 巫女長も交替した。

 巫女は出身が貴族なら上級、それ以外は下級と位置づけられて、礼拝時の並び順から食事にいたるまで上級巫女が先、下級巫女は後と決められた。部屋も上級巫女は一人一部屋を持つことができるが下級巫女は八人で一部屋、寝台を人数分入れたらあと何も置けないくらい。

 あたしが割り当てられた部屋は身分的に一番低かった九人が押し込まれた。寝台九つは入らない。


 どうしよう? という空気が漂った。

 考えても埒があかない。あたしは私物を収めた小さな袋を持って部屋を出ることにした。


「リア、どこに行くの?」


 扉に手をかけたあたしに声をかけてきたのはこの中で一番年長のフィオだった。


「あたしがここから出りゃ問題ないだろ?」

「じゃあ貴女はどこで寝るの?」

「どっかでテキトーに寝るさ」


 孤児院時代は床に薄い敷物一枚、掛物一枚で子ども二人がくっついて寝ていたくらいだ。


「だっ、ダメよ! そしたら私と一緒にっ」

「無理だって。慣れねーことすんなよフィオ」


 フィオは平民の中でも裕福な家の出だったはず。同性とはいえ他人と一緒の寝台で寝るなんてしたことないだろう。

 年長者という責任感で一緒にとか言い出したんだろうが、あたしの寝相はかなり悪いと評判だ。


 また明日な、と宿舎を出るとあたしはまっすぐに庭園へ向かった。目指すはその先にある今は使われていない庭師の作業小屋だ。

 住み込み庭師のじいさんがいたけど、去年死んでからは街の庭師が通いで庭園の面倒をみてくれてる。

 じいさんは作業小屋で寝泊まりしてたから住むのに必要なものは揃ってる。


 よっし! これからのんびり一人暮らしだ!


 心の中で叫んで握り拳を作ったところで笑い声が聞こえた。少し先の開いた窓辺から声が漏れていた。


「あの部屋、見まして? 寝台だけで埋まってましたわね!」

「鏡台すら置けない部屋なんてありえませんわ〜」


 こいつら貴族出身の巫女たちか。わざわざ平民部屋を見に行ったわけだ。ヒマ人か?


「アリシア様も良いことをしてくださいましたわ〜。あのリアと同室だなんて、あなたも恐ろしかったでしょう〜?」

「ええもう! 何か盗まれてしまうのではないかと気が気じゃなくて、なかなか寝られませんでしたもの!」


 たしか同室だった貴族出身のヤツか。よく言うよ、毎晩よく寝てたじゃねぇか。ガーガーいびきがうるさかったっての。


「それにしてもどうしてあのようなものが巫女になれるのでしょうね!」

「本当ですわ〜。まぁ、でもそのうちですわよ〜」

「そうですわね!」


 息を詰めていたあたしに気づかずに二つの声は遠ざかったけど、これはいろいろヤバいかもな。



*****



 思ったとおり、神殿内は真っ二つに割れた。

 そういうと対立しているようだけどそうじゃなくて、自称・束ねる者とそいつらに押さえつけられるもの、この二つだ。

 貴族出身の上級巫女が平民以下の下級巫女に対して身分を笠に威張り散らしている状況だ。


 たとえば、神殿の掃除。

 これまでは当番制だったけど、すべて下級巫女がやることになった。起床後すぐにだ。その間、上級巫女はなにやってんのかって? 起きて身支度して朝食だとよ。下級巫女はその後だとさ。


 掃除はイヤじゃない。嫌じゃないけど、ただ押し付けられるのは腹が立つ。

 掃除も修行だって聞いたけど違うのかよ?


『掃除、キライなのかい?』

『キライじゃねーけど、あたしが便所掃除する時すっげー汚れてんだもんよ! なんか酒くせーからぜってぇインチョーだっ!』


 孤児院にいた頃、巫女様はそんなあたしの汚い話にも付き合ってカラカラ笑ってくれた。


『そっかぁ! そりゃあイヤだなぁ〜』

『あんたも掃除キライなのか?』

『キライじゃあないかな? リアみたいな状況じゃあうんざりするだろうけど、キレイになるのは気持ちいいから好きだし、神殿じゃあ掃除も修行だってんでね、巫女はみんな神殿のあちこちを順番決めて掃除するんだよ』

『けどよ、そしたらサボるやつ出てくんじゃねーの?』


 職員の女は二人ともやらないし、一歳年下だったギルはわりと掃除をサボる奴だ。


『サボったらすぐわかるから。お互いに見てるし、そういうズルする子はすぐに巫女の資格がなくなるよ』


 掃除をサボると巫女じゃなくなる?


『そっか、掃除は修行。修行をサボるのとおんなじだからか?』

『そう! リアは賢いねぇ』


 掃除が修行の一環なのは、女神レヴィアータがきれい好きだからなんだって。


『汚れるのがダメっていうんじゃないよ。頑張って農作業したら汚れるし、小さな子どもが楽しんで泥んこ遊びしたら汚れるのは当たり前だろ? それを水浴びしたりしてキレイになったら気持ちいいじゃないか』


 よごれることときたないことは少し違う。


『神殿に人が来ればちょっとずつ汚れてしまうのはしょうがない。それを毎日きちんときれいにすれば次の日もその次の日も気持ちよくみんなきてくれる。でも、汚れが溜まってどんどんきたなくなっていったらそのうち誰も来てくれなくなる。それは、悲しいことだよ』


 巫女様も、女神レヴィアータも綺麗好きなんだろうな。

 だから神殿に来てから掃除も修行と思ってやってたし、他の巫女たちも掃除をサボるような人はいなかったからそういうもんだと思ってたのに。


「リア、それもう言わないほうがいいよ?」


 ぼやいたあたしに気の毒そうなというか、少し迷惑そうな顔してこっそり言ってきたのは1歳年上のマイラ。神殿の回廊を掃除中のことだ。


「それって、あたしが言った掃除は修行ってヤツか?」

「そう。ミアが、それでジェリーに食って掛かったんだって。だけど、次の日ミアは追い出されたのよ」


 知らなかった。

 ミアは同じ下級巫女。王都近くにある小さな街の出身で、家は小麦や野菜を作ってるって言ってたっけ?

 ジェリーは上級巫女で、伯爵家の出身だったか? 二人はあたしより二つくらい年上でたしか同い年だったか。

 そういえばミアいないなぁとは思ってたけど、そろそろ結婚の話も出てるって聞いてたからさくっと決まって巫女を退任したかと。


 巫女が神殿を去るには五年以上巫女を勤めなければならない決まりがある。それを過ぎたら辞めてもいいし残ってもいい。

 婚約とか結婚で辞める人が多いけど、他にも家の都合とかで辞めていく人もいる。一度辞めても神殿で認められれば戻ってくることもできるらしい。


 但し、巫女の資格を喪失したとして神殿を追放されたら二度と戻れない。それにこの場合は五年過ぎなくても神殿を出される。


 資格喪失、すなわち巫女の証の『歌』に力がなくなったことを意味してる。

 あたしが神殿に来てからそんな人はいなかったけど、昔はいたらしい。


「なぁマイラ。ミアは本当に追放されたのか?」

「……ミアは、『追い出された』の」


 追い出されたって、追放とは違うのか?

 まさか。


「それって……」

「リア! もうこれ以上この話はナシよ!」


 慌てたようにマイラはあたしから離れて別の場所を拭きに行った。


 ミアは、追放されたんじゃなくて追い出された?

 それは巫女の資格がなくなったんじゃないってことだ。

 そして自分から辞めたんでもない。


 ヤツらに、文字通り追い出されたってことか?


 こんなことがもし続いたら、本神殿はどうなっちまうんだ?



*****






読んでいただきありがとうございました♪

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