奏について。
今回は、交代人格の1人である奏について綴ろうと思う。今回も、本人たちの記録などをもとに綴っていく。
奏は、和が高校3年生の頃に生まれた人格らしい。奏は俺たちの中で唯一、人格が確立される前の「人格未満」と呼ばれる状態の頃に初めて表に出たようだ。彼女はトラウマをもって生まれたわけではなく、生活を上手く回す為に生まれた人格のようだ。
以前も触れたが、彼女は長い間『和』と名乗ってきた。本人も自分が和だと信じて疑わなかったようだ。その為、自分が表に出る事に何の疑念も抱かず、表で生活するようになったらしい。それでも学生時代は奏は文系で和は理系な事や和がスポーツをやっていた事もあり、和も半分程は出ていた。奏が表に居る間の生活に必要な記憶はのあに頼んで和に流してもらっていたらしいので、生活に影響が出る事はなかった。
しかし高校を卒業し在宅生活になってからは、奏が表に出る機会が増えていった。そしてそのまま奏が主人格となり、殆ど和は表に出る事はなくなった。記念日などには桜良が椅子から降りるよう促す事があり、そういう時は奏は椅子から離れて和を表に出していたそうだ。
ただ奏自身は和も自分の意思で表に出られる状況下にあると思っていたようで、まさか自分が表に出る事で和が表に出る機会を奪ってしまっているとは思いもしなかったそうだ。その事実に奏が気づかぬまま、約3年の月日が流れた。その間の和(=人格は奏)の様子について家族は、違和感を感じてはいたらしい。和らしくない言動も多々あったが、自発的な行動が増え決断が早くなった事から『和が成長したが故の変化』と受け止めていたようだ。
奏はおしゃれやメイクが大好きな天真爛漫な人格だ。決断力があり、行動スピードも速い。そして、(和と比べれば)周囲とも円滑にコミュニケーションを取る事が出来る。和とは対照的な人格なのだ。それは恐らく、和の人生を上手く回せるように生まれた人格だからだろう。実際、奏の存在により和の行動範囲が広がったりしたことは確かだ。奏から流れてきた記憶によって、和自身が自分の行動に自信を持てた部分も少なからずあると思っている。
しかし母から『奏』という名を貰い、母と話していく中で彼女は自分を変える決意をした。奏は、これまで『もう1人の和』として生きてきた。だがこれからは和の代わりではなく、『奏』という1人の人格として生きていくことを決めたようだ。
人が変わるのは簡単ではない。それは人格であっても同じだ。それでも、『自分を変えよう』と前向きな決断をした彼女を俺は心から応援している。