桜良について。
今回は、桜良という人格について綴ろうと思う。俺は直接桜良に会う事は出来ないので、これから綴るのは向こうの人格たちが動画で残してくれた話や母から聞いた話だ。
桜良は、自称8歳の女の子で年を重ねる事はないらしい。和が小学3年生の春に生まれたようなので、俺の次に古くからいる人格という事になる。俺と同じく最初から名前を持って生まれたらしいが、漢字は決まっていなかったそうだ。恐らく桜良は幼い人格なので漢字はわからなかったのだろう。その後、のあという人格が生まれた時に彼に「漢字を決めたい」と言ったらしい。彼女は漢字2文字の名前を希望したらしく、のあは2パターン候補を出したそうだ。1つは、咲くに良いと書いて『咲良』。もう1つは、桜に良いと書いて『桜良』。桜良は桜の花が好きで尚且つ漢字も可愛くて気に入ったという理由で、漢字は後者に決まったそうだ。
桜良はのあが生まれるまでの間、向こうの内界で1人で過ごしていたそうだ。やはり1人は寂しかったようで、時折椅子に乗り表に出てきていたらしい。ただ、長時間表に出る事はなかったそうだ。和の幼少期は和自身が幼い子供だったので、桜良が出ても周囲は違和感を抱かなかったようだが、和が成長するにつれて桜良が出ると和との差が生まれ、母も違和感があったそうだ。だが俺の存在もまだ知らない頃は、まさか我が子がDIDとは思っていなかったので深くは考えていなかったと言っていた。
桜良が生まれて約9年が経った頃、彼女の元にのあがやってきた。そしてその翌年には奏が生まれたそうだ。そうしてしばらくは3人で過ごしていたらしい。のあや奏が来てからも2人の目を盗んでは表に遊びにきていたようだ。
ところが、2024年の秋に和に自然統合した。時期としては俺が表に出るようになった日の10日程前の事らしい。和は桜良の存在も知らなかった事もあってか、統合しても特に心境の変化はなかったようだ。
しかし、奏とのあの存在が発覚した数日後に桜良が再分裂した。再分裂の理由はわからないが、桜良が統合していたと知った和が幼い自分を受容出来なくなったのではないかと俺は思っている。桜良が統合する前の和は、「幼い」と言われる事を嫌っていた。しかし俺が出始めた頃、即ち桜良が統合した辺りから和は自身が幼い事を受け入れるようになった。そこから徐々に幼さが増していった。当時、これは俺が表に出た事で幼さが目立つようになったのではないかと考えていたが違ったらしい。
奏たちの存在が発覚してから数日後、和が「幼いのを卒業したい」と言い出した。そんなことを言うのは久しぶりで、確かにその日の和はいつもよりしっかりしていた。その翌朝になって、桜良が向こうの内界で発見されたらしい。
桜良は俺たち人格の中でも少し不思議な存在で、人格たちの名前を知っていたり和の感情を受け取る事が出来たりする。のあの名前も桜良が知っていて付けられたものらしい。俺の名前も俺が表に出て居るのを内界から見た時に「紘希」という名前が頭に浮かんだそうだ。俺は表に出るまで名前の漢字は考えた事はなく、表に出た時に自分で決めたつもりでいたが実は昔から決まっていたらしい。奏は最初に表に出てしまったので、内界に入ると既に「和」という名前を持っていた。その為、桜良も奏の名前はわからなかったそうだ。
また、桜良は人格たちの中で唯一自分が生まれる前の記憶を持っている人格だ。生まれたのは俺より後だが、和が幼稚園時代の記憶もあるらしい。
桜良は8歳と主張してはいるが、内界での身長は90cmらしく言動も3歳程度に見受けられる。恐らく8歳という年齢は、桜良が生まれた時の和の年齢に由来するものだろう。桜良は特にのあに懐いていて、内界ではよくかくれんぼなどをして遊んでいるらしい。
桜良は基本的には3歳程度に見えるのだが、記憶力が抜群にいいようだ。1度見た動画の内容を覚えていたり、人格や家族の名前の漢字を教えると一発で書く事が出来るようだ。まだ幼く愛らしい子ではあるが、きっととても賢い子なのだろう。
次回は、そんな桜良のお世話係兼内界管理者であるのあについて綴ろうと思う。