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精神障害者保健福祉手帳を持ち続ける価値。

 今回は、俺たちが精神障害者保健福祉手帳を取得している理由について綴ろうと思う。


 俺たちは、2種類の障害者手帳を持っている。身体障害者手帳と精神障害者保健福祉手帳だ。身体障害者手帳は脳性麻痺と呼吸機能障害の為に発行されているが、こちらは更新が特にない。一方、精神障害者保健福祉手帳は2年に1度更新をしなければならない。

 実は(なごみ)の場合は身体障害が重度な為、身体障害者手帳で各種助成や公共交通機関等の割引は受けられる。身体の手帳だけで事足りてしまうので、精神の方は必須ではない。というより、用途はほぼない。それでも和は発達障害の診断を受けた高校生の頃から精神の手帳も持ち続けている。こちらは先述した通り2年に1度更新が必要なので、その度に主治医から診断書を貰わなければならない。実はこの診断書料、自治体から一部助成が受けられるが決して安くはないのだ。

 では和は何故、高い診断書料を払ってまで手帳を更新し続けるのか。それは、和の精神的な安定の為だ。手帳を取得する事で、『自分の困り感は障害によるものであり支援を受けていいのだ』と自信を持つ為なのだ。

 最初に手帳を取得した理由は、学校に発達障害がある事を証明する為だった。発達障害は見た目ではわからない。それ故に医師から診断を受けたと報告しても学校側は受け入れなかった。特別支援学校にも拘らずだ。そこで和は『障害者手帳という公的証明書があれば理解が得られるかもしれない』と考えたのだ。そして、和自身が『自分の障害は医師によって診断されたものである』という事実を裏付けるお守りとして障害者手帳を取得したのだ。だが結局、学校側の対応に変化はなかった。

 それでも手帳を取得したメリットはあった。和が障害特性による困り感を『自分の所為』と思う事が少なくなったようだ。これは決して障害に甘えるようになったという意味ではない。『頑張っていないのではなく、頑張っても出来ないから障害なのだ。だからこそ診断を受け、手帳が発行されている。』という思考を少しずつだが持てるようになり始めたのだ。

 ただ、長年染みついた思考の癖はそう簡単には抜けない。何か障害特性による困り事が原因で問題(例:障害特性により出来ない事を叱られる、フラッシュバックを起こして人格交代が起こるなど)が起きると和は『自分の努力が足りない』と自責をしてしまう。そこで、「それが難しいから障害なんだよ。だから手帳があるんでしょ?」と声を掛けてやる事で、和の自責を減らす事が出来るのだ。

 また今回からは自閉スペクトラム症、解離性同一症という診断名も診断書に記載された。今まではASD傾向としか言えなかったが、主たる疾患が自閉スペクトラム症となった事で今後はASDの診断を受けていると胸を張って支援を求められる。DIDについても、どうしても精神的に不安定になると『交代人格は自分の妄想かもしれない』という思考に陥ってしまう事がある。だが診断書に記載された事で、和は安心して『自分はDIDなのだ』と思う事が出来るようになった。


 今回から大学病院に転院したので、個人経営のクリニックよりは診断書料が安い事を期待していたのだが、いざ会計に臨むと値段はあまり変わらなかった。今後も少ない工賃からこの金額を払い続けるべきか悩み、更新をしないという選択肢も考えた。

 障害者手帳に疾患名の記載があれば症状の証明もしやすいのだが、残念ながら手帳自体には疾患名の記載はない。法律上、どんな疾患であれ精神障害と一括りにされる為、疾患名は記載されないのだ。疾患名の記載の有無によっても手帳を持つ価値が変わる。しかし皆で話し合った末、やはり障害者手帳を持っている事で和が安心できるのなら持っていればいいのではないかという話に落ち着いたのだ。

 障害者手帳を持つ価値とその理由は人によって異なる。和にとっては障害の証明がメリットでもそれがデメリットになる人も居るだろうし、診断書料を払い続けるまでの価値を見いだせない人も居るだろう。それでも俺は、和にとって安心や自信に繋がるのであれば、それだけで障害者手帳を持ち続ける価値はあると思っている。


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