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第7走 名案と奇策

登場人物


◯ 斧田 謙信


城西拓翼大学附属高校出身

18歳。


後の城西拓翼大学駅伝部、

初代・主将キャプテン


現在は、

城西拓翼大学の一年生にして

本大学陸上部で唯一の

男子長距離ランナーである。


どうしても

諦めることができない

箱根駅伝への想いを胸に

理事長との面談に挑む


◯ 塩田 耕平


城西拓翼大学の経理課長。

42歳。妻子あり。


同大学のOBであり、

彼もまた経済的に

恵まれない学生生活を

送ってきた経験から、


より多くの苦学生の

手助けをしたいと考え、

同校へ就職した。


斧田のアツい想いを知り、

その支えとなるべく尽力する。


◯ 平山 拓次郎


本大学の母体である拓翼会の

創始者・平山只三郎拓翼の

直系の子孫であり、


城西拓翼大学の

理事長兼総長を務める。


かつて前理事長らが

箱根駅伝有害論を

主張したことにより、


男子長距離からは

一線を引く立場を貫いていたが、

斧田の存在を知り、

その気持ちに変化が…?

(うむ…。

これは想像していた以上だ。


熱い口調で語りながらも

落ち着きもあり、声もよく通る。


その上、

アドリブも適度に入れて

聞き手を飽きさせない…。


だが、最も注目すべきは、

覚悟を決めてから、

あいての目を一切たりとも

離さないところだ。


果たして、

19、20の並の大学生に

ここまで出来るだろうか…?)


理事長の平山がそう心の中で感嘆する中、

斧田の人生を懸け、ありったけの

情熱のこもったプレゼンが終わる。


「以上です!是非とも…

城西拓翼大学にも箱根駅伝を

目指す男子駅伝チームを

発足させてください!」


締めの一言と共に、

頭を深々と下げる斧田を見て

平山の中にアツいものが

込み上げてきた。


そして、

今にも流れ出しそうな涙を

悟られないよう、静かに背を向けて、


ただ一言…


「分かった。」そう力強く応えた。


それを聞き、明るい表情を見せる

斧田と課長の塩田。


(これでおれも

箱根を目指せるんだ!)


希望の光が斧田自身を

照らしているかのように感じたり


「箱根駅伝有害論を主張する

我が校の理事会に関しては

私が責任を持って説得しよう。」


平山理事長の言葉にも

断固たる覚悟が滲み出る。


しかし、口には出せない

懸念点もあった。


練習場の確保である。


大学校内にはすでに陸上競技場を

整備してあるが、

元々、全国区で優秀な成績を

収めている女子の長距離チームが

独占している以上、

男子が使用できる時間帯は

ほとんどないのだ。


一方、それを察した塩田課長、

ここが出番とばかりに口を開いた。


「練習場なら心配ありませんよ。

理事長。


本校の隣にある蓬莱公園の敷地の周りに

実はウォーキングコースがございます。


しかしながら、その管理につきましては

極めて不十分であり、

城西市民にもその存在は、

まったく認知されていない状況です。


ただ、これを長距離用の…

クロスカントリーコースに

改修ができれば、

嫌でも練習は可能になります。」


「それは確かに名案かも

しれないな塩田くん。

だが、蓬莱公園とその周囲は

城西市の直轄地で本校の土地ではない。


それでも、打開策があるのかい?」


先ほどまで背中を向けていた平山理事長が

首を左に回して塩田課長に目を向ける。


「はい。理事長。

すでに城西市の担当者とは連絡をとり、

本校と市が共同で改修し、

その後の管理につきましては

本校に委託される手筈になっております。」


(そこまで動いていたのかよ!?)


塩田課長の隣で聞いていた斧田は、

驚きのあまり言葉を失った。


それとは対照的に

畳み掛けるように塩田の案は

止まらない。


「これ以外にも、まだまだありますよ。

理事長。さあ、入ってくれ!」


扉が開かれるとそこには、

すこし歪なかたちをした全身が

空色のゆるキャラが入ってきた。


まったくと言ってよいほど、

絶妙なかわいらしさすら皆無である。


「イケイケ!ジョーダイ!!

イケイケ!ジョーダイ」と叫びまくり、

ただただうるさくて、鬱陶しい。


それをみた斧田は

ただただ呆気にとられている。


(何なんだ!?コイツは…?)


「ふふふふ…」不敵な笑みを浮かべ、

塩田課長が声を発した。


「これぞ、我が城西市のシンボル、

蓬莱池をモチーフにした

我が校の公式応援マスコット、

イケイケくんです!


彼を無料動画配信やSNS、

クラウドファンディング等でアピールし、

そのグッズ販売などで収益を図り、

男子駅伝チームの活動費に充てる、

という戦略であります!」


(ぜってー、売れるわけがねぇ…。)

心の中で斧田は頭を抱えるしかなかったが、

それに反して、理事長はノリノリである。


「素晴らしい!

まさに奇策とはこのことよ!

このイケイケくん、

人気者になること間違いなしだね!


私の直感がそう叫んで仕方ない!


さあ、斧田くん!心配はいらないよ。

来年の駅伝部発足に向けて

君は1人でも多くメンバーを

集めてくるんだ。


いやー、この先、

楽しみでしょうがないよ。」


そう言ってただただ笑う理事長。


「イケイケ、ジョーダイ!

イケイケ、ジョーダイ!」


相変わらずうるさく叫ぶイケイケ君を

みながら斧田謙信は最先の不安を

感じずにはいられなかった。




平山理事長や塩田課長による

大学側の全面的サポートを受け、

ついに始動した城西拓翼大学駅伝部!


来年度に即戦力として

入学する駅伝推薦組を

迎えるべく、


競技インフラ整備に

名監督・岡林の招聘、


そして、斧田による

新たな仲間メンバー集め…

やるべきことは山積みだ!!


YOU MUST GO!!!


箱根路はただ静かに…


その始まりの鼓動が

いつかこの地を

駆け抜けていく日を

強く待ち侘びている!

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