第5走 出会い 〜新たな協力者〜
近年、その人気熱は
止まることを知らず、
1世紀以上にも渡って
脈々と継承されてきた
駅伝大会が存在する!
正式名称
『東京箱根間往復大学駅伝競走』!
そう!
通称…箱根駅伝である!
正月の2日、3日の
2日間をかけてその本戦が
開催されることは、
もはや周知の事実であると思うが、
その長き歴史の中で、
今なお、箱根駅伝ファンの間で
「以後、再び起こりうることは
決してないであろう」と
賞賛される伝説なレースが
あったことをご存知であろうか。
その当事者であるランナー達は、
颯爽と朱色のユニフォームに
黄色のタスキを携えて、箱根路に
衝撃的な大旋風を巻き起こた!
この古今東西、比類なき伝説は、
彼らのユニフォームカラーから、
後に『シグナルレッドの快進撃』
と呼ばれ、その栄光は、
未来永劫、輝き続けることであろう。
前置きが長くなったが、
ここで、彼らのチーム名を
紹介してこの物語を始めようと思う。
そのチームの名は…
城西拓翼大学駅伝部!
この物語は、幾度も相見えることとなる
耐え難き困難や挫折に直面しようとも
その駅伝にかけるアツき情熱と
堅忍不抜の精神をもって
力強く立ち上がり、真っ直ぐに顔を上げ、
ただひたすらに、前を向いて走り続けた
ジョーダイ駅伝部の指導者と
歴代の駅伝部員たちが織りなす
儚くも美しい栄光の伝説なのである!
今思えば、その始まりは、
箱根駅伝に挑むことを諦めきれない
たった1人の長距離専門の陸上部員…
城西拓翼大学1年生・斧田謙信が、
日本陸上界の重鎮・岡林裕正に
勇気を振り絞って送信した
1通のメールにより始まったと言ってよいだろう。
しかしながら、
日本長距離界のカリスマ的指導者であった
岡林裕正からの返信は、
「監督就任の条件として、
学校側からの協力が必要不可欠」であり、
岡林自身、斧田に興味を持ちつつも、
当初は、指導に関して、
決して前向きではなかった。
そんな遠回しな断り文句に、
途方に暮れていた斧田であったが、
その一部始終を目撃した
大学寮の寮母・宮島郁代の協力で、
宮島の幼馴染だと言う
城西拓翼大学の理事長・平山拓次郎との
面会が、急遽決定!
はたして、斧田謙信の情熱は、
理事長である平山の魂を奮わし、
指導者・岡林の招聘という願いと
箱根駅伝への想いを
叶えることができるのであろうか!?
WE MUST GO!
『どんなにバカにされたって
いつも時代を変えるのは、
いつだって
めちゃくちゃ本気で生きている奴の
めちゃめちゃアツい情熱のなんだぜ!』
箱根路はただ静かに…
まだ見ぬランナーたちの
その熱き鼓動を待ち侘びている!
トクンッ… トクンッ…
日時は
ゴールデンウィーク真っ只中の
5月2日土曜日、正午すぎ。
この日、城西拓翼大学の陸上部で
唯一の男子・長距離ランナーである斧田謙信は、
同大学の総長・平山との面会に向かうため、
時間に余裕を持って、大学寮を出た。
(予定時刻の30分前には
確実に着くだろうな…
早すぎる気もしないでもないけど、
それにしても、今までにないぐらい
緊張がハンパないな…)
食事は、
朝からほとんど喉を通らず、
ただただ喉ばかりが渇くのを
感じずにはいられない。
向かう先は城西拓翼大学の
敷地内、中央右側にある
1号館の最上階にあたる第10階…
その最奥に構える大学総長室が
今回指定された面会場所である。
4階までの講義室くらいまでしか
用事がない一般学生が、
足を踏み入れることは
異例中の異例と言ってよいだろう。
故に、斧田自身、心臓の音が、
まるでライブハウスの音響器具ように、
体内で反響し合っているのを
感じずにはいられなかった。
(次に着る時は成人式かな…)
大学の入学式が終わった時には、
そんなことを思いながら、
クローゼットの奥にしまいこんであった
スーツに、念入りに磨かれた革靴…
これらを身に纏った1人の若者は、
その時の何気ない思いとは裏腹に、
今、まさに、人生を賭けた大一番を
迎えんとしている。
事前に連絡があったとおりに、
まずは2階にある学生課に顔を出すが、
連休中の土曜日ということもあり、
職員の姿はほとんどない。
「ここでいいはずだよな…?」
そう小さくつぶやく。
と同時に、後ろから明るく、
そして爽やかな声が飛んできた。
「やあ、君が斧田くんだね!」
(えっ!?だれ?)
一瞬、ビクッと
身体を震わせた斧田が、
徐ろに振り向くと、
いかにも
好青年といった感じの男が
立っていた。
斧田の着る安価な
リクルート用のものとは
比較しようがないほど、
良質なオーダーメイドのスーツを
スラリと着こなしており、
そこにドラマでみるような
成金特有の嫌味は、
まったく感じさせない。
首には職員証がぶら下げられており、
そこには、
塩田 耕平
城西拓翼大学
総務部経理課長
と書かれている。
(大学の課長さん!?
だけど…ずいぶんと
若い感じの人だなあ。)
これが、
その後長きにわたり
城西拓翼大学駅伝部を
経営面で支え続けることになる
経理課長・塩田に対する
斧田の第一印象であった。
次回!閑話休題。
登場人物と城西拓翼大学の紹介を
行うことにする。