第15走 仲間を求めて
登場人物
◯ 櫛部川 敦史(30歳)
早稲田学院大学 出身
箱根駅伝に4年連続出場し、
名実ともにエースとして活躍!
総合3連覇の立役者となる。
大学卒業後は、非公式ながらも
マラソンの日本新記録をマークするなど
その将来を大いに期待されつつも、
謎の体調不良のため、
第一線から身を引いていた。
今回、後述の妻・晴美の説得もあり、
城西拓翼大学のヘッドコーチ就任を受ける。
◯ 櫛部川 晴美(28歳)
櫛部川敦史の妻。元・女子長距離選手。
旧姓・二子山。
性格は思いやりも大変強いが、
ここぞという時は、
夫の敦史も驚くほど、
自己主張もしっかりするタイプ。
22歳で競技を引退した後は、
師・岡林の紹介で櫛部川敦史と出会い、
その2年後に結婚。
1男2女を授かり、今に至る。
岡林との関係は
実の親子と間違われるほど
良好そのもの。
競技引退後は
岡林のことを「パパさん」
晴美のことを「ニコちゃん」と
互いに呼び合っており、
強面で有名な岡林もまた、
満更、悪い気はしていないらしい。
◯ 岡林 正裕
日本長距離界において、
実業団や大学駅伝に至るまで
数知れぬほどの実績を
残した名指導者。
箱根駅伝に挑戦したいという大学生、
斧田謙信からのメールをきっかけに
城西拓翼大学・駅伝部監督に就任した。
◯ 斧田 謙信
城西拓翼大学附属高校出身
18歳。
城西拓翼大学の一年生にして
本大学陸上部で唯一の
男子長距離ランナーである。
どうしても
諦めることができない
箱根駅伝への想いを胸に
同好会メンバーを説得中
「でも、本当によろしいのですか?」
「はい!!よろしくお願いします!」
6月の夏至も過ぎた頃。
城西拓翼大学一号館、
来客室にて。
城西拓翼大学駅伝部・コーチの就任を決めた
櫛部川敦史とその妻である晴美は、
同大学の駅伝強化部長・塩田耕平との
引越しのスケジュール調整を兼ねた
面談を重ねていた。
夫・敦史はほとんど言葉を
発する間などなく、
1才になったばかりの息子・勇を
抱きかかえたまま、
3才で人見知りが始まった娘・小夏を
落ち着かせている。
それとは対照的に、
ソファから身を乗り出し、
普段より一段と大きな声の
妻・晴美の意見が、
室内に飛び交っていた。
「こうゆうこともあろうかと…
来年2月に完成する選手寮を
大きめにしておいてよかった。
このスペースでしたら、
お子さん達も安心して
過ごせるでしょう。」
三階建ての選手寮の一階の東側には
調理場や食堂に、大浴場が設置、
西側には、
監督室があり、
その隣の中部屋は
監督夫妻の住居スペース、
そして、
それよりもかなり大きめに
区切られた向かい側のスペースが
櫛部川夫妻の住居となった。
(これから岡林監督と暮らすのか。
監督よりいい部屋なんてなんだか恐縮だな。
それにしても凄いのは晴美の発想だ。
元々監督の居住エリアだったところを
俺たちの居住地にしてしまうなんて。)
敦史が漠然とそう思っていると、
扉をノックする音が3回鳴る。
「そろそろ、終わったみたいだね。」
別室にて待機していた監督の岡林が
その強面を茶目っけたっぷりに
半分だけ出して覗きこむ。
「ちょっとー!岡林さんー。
笑かさないでくださいよー。」
緊張感から解放された晴美が
声高らかに笑い始めた。
それにつられて
その場にいる全員にも
笑みがこぼれる。
しばらくして、
その空気も少し落ち着くと
岡林が敦史に話しかけた。
「そうだ。櫛部川。
もう1人コーチを入れようと
思っているんだが、
だれか候補はいないか?」
そろそろお昼寝タイムに入り
あくびを繰り返す息子・勇の
背中をさすりながら、
敦史は答える。
「それでしたら…
関東の大学出身者ではありませんが
私の実業団時代の後輩で1人、
現在は高校教師をしておりますが、
非常に良い人材がいまして。
箱根駅伝や関東学連のしきたりに
縛られることがない分、
より柔軟で合理的な考え方ができる…
そんな男です。
そう、名前は、浜上…。」
一方その頃、
城西拓翼大学・1年生の斧田謙信は、
同大の陸上同好会のメンバー5人に対し
何度も何度も勧誘を重ねていた。
「いや、
だから何度も言ってるだろ、斧田。
そんな夢物語に
俺たちは全くもって
乗る気はないって。」
「そうだよ。大学の課題に
アルバイト、将来の奨学金の返済、
それだけでも頭も身体も
いっぱいいっぱい。
この楽で楽しいランニングが
俺たちのささやかな
リフレッシュタイムなんだよ。」
「そもそも、箱根駅伝なんて
全国から集結した陸上エリート達が
バチバチにやり合う世界だろ?
俺たちだって高校までは
熱心に陸上やってたんだ。
箱根駅伝を目指せるような奴らは
身体能力だけをとっても
俺たちと生きてる世界が
まったく違いすぎる。
仮にさ。俺たちのためだけに、
どんなに強い風が吹いていたとしても
敵うわけないじゃないか!そいつらに!
それでも箱根を目指そうなんて
最近流行ってるなろう系の小説かよ?」
「どんな並行世界に飛ぼうが、
何万回、転生しようがありえねよ。
斧田や俺たちが
箱根駅伝に出場するなんて。」
「だからホンットに、マジで夢見んな!
迷惑だから、いい加減現実みろよ!?」
同好会メンバー全員が
俺たちを巻き込まないでくれよ、と
思っていた矢先、
斧田の後方から、
岡林監督と塩田強化部長が現れた。
次回、駅伝部合流に難色を示す同好会メンバーに岡林は…?




