1.悪役令嬢は世界一じゃない
婚約者に嫌われた状態のまま過ごすアクヤ。
では、そんな悪役令嬢系の知識があるにもかかわらず死亡フラグを折らない状態で何もしていないように思われる彼女がこれまでにしてきたことに触れよう。
悪役令嬢に転生したら多くの作品で何をするだろうか。
例えば、平民を見下さない。優秀な部下を作る。権力者といい関係を構築する。原作主要キャラを救う。領地のための改革や経営を行なう。
他にもいろいろとあるだろう。
だが、そういった知識を持つ転生者であり今作主人公であるアクヤは平民に厳しく接しない以外のことはほとんどできなかった。婚約者に嫌われる程度には王族との関係も構築していないにもかかわらず。
この世界の基となった作品をそもそも知らないとかいう理由もあるのだが、今はそのどうでもいい言い訳じみた理由は問題ではない。
そういったことをしていた間彼女が何をしていたのかという話である。
決して彼女とて公爵家なんていう身分に生まれて遊び三昧できるぜヒャッハー!となんてことは全く、いや、ちょっとしかしておらず、
「お嬢様。そのお年でここまでのことができるのです。天才だと誇ってもいいでしょう」
「ありがとうございますわ。あなたの教え方が上手かったのももちろんありますのよ?あなたも、私を常人ではできないほどに上手く鍛えたのですから誇ってくださいまし」
彼女は屋敷の庭で褒められていた。それはもう屈強そうなこわもての男性に。
両手には長さの違う剣を持ちその目の前に出ようものなら容赦なく首をはねられそうな非常に怖い雰囲気、だが、特に修羅場などくぐっていないチキンハート保持者のアクヤが気にした様子もなく、逆に保身からのものも混じってはいるが笑みを浮かべているのだから相応に信用されている相手だ分かる。
それもそのはず。
その男性は公爵家の持つ騎士団の副団長であり、これまで数年間ずっとアクヤに剣術を教えてきた存在なのだから。
教えてもらいながら地道に努力も重ね、アクヤは今本職である騎士にも認められるくらいには高い剣術の技術を手に入れたのだ。
しかもそれだけではない。
今は剣術の師に認められたがそれ以外にも弓や魔法など様々な部分で彼女に技術を教える存在から認められており、戦闘面が相当ハイスペックになっていることは間違いない。
しかもそれに加えて勉強やマナー面も詰め込んでおり、その全身からあふれる気品は同格の家の令嬢たちと並んだとしても抜きんでるほどには高い。なお鼻が曲がりそうなほど強く濃い香水の香りも全身からあふれているのだが、それははっきり言ってしまうと他の令嬢たちの方がよりひどいので負けている部分かもしれない。
(あの香水の化身たちめ!絶対香水つけ過ぎて鼻おかしくなってるし。もうあいつらじゃなくて香水の方が本体なんじゃないの?)
異世界での前世持ちの身としては今でこそ気持ち悪い程度で済んでいるが、最初の頃なんて本当にきつかった。次女もそうなのだが、特にひどかったのが母親。母親に抱きかかえられて何度泣き叫んだことか分からない。
(幸い他の赤子らしい理由で泣かれたと思われてたけど、あれで母親に嫌われたりしてたらマズかったかも)
もしかすると母親を嫌っていると勘違い(?)されてもおかしくはないくらいだったのだが、それでも今アクヤが香水をつけることになりだんだんと鼻が慣れてきた。ある程度耐性がついてきて良いのか悪いのかと最初の頃は微妙だった彼女だったのだが、ある時そうなっていてよかったという出来事が訪れる。
それはとある日、いつもとは違い平民の多くいる下町にお忍びで出かけた時だったのだが、彼女は強烈な臭いを感じることとなったのだ。それはもう香水と比べ物にならないほどひどい臭いであり。
(平民がお風呂とかの文化を持ってないのがきつい。水浴びくらいしかしないから結構臭いきついんだよねぇ。平民を見下さないようにって思ってたけどあれで結構いろんな計画が崩れちゃった。平民の事を着たないって貴族が思うのも共感しかけちゃったよ)
元々平民ともある程度交流を持って領地を盛り上げたり、それができなくとも頻繁に交流をして好感度を稼いだりなんてことを考えていたのだが、まず近づくことがかなり厳しかった。
さらに話をすると歯磨きなどの文化も浸透しておらず口臭も少し厳しい物があり、アクヤは平民との親密な交流を諦めたのであった。
そんな裏事情は兎も角として、話を戻すのであれば彼女もそこそこどころかかなり頑張っていたのだという話。
それなりの才能があったようで、与えられた課題に全力で取り組むだけでなく努力も欠かさなかったため様々なz分野で一流程度胃の実力を身に着けることができた。前世からの加算もあるため同年代で肩を並べられるほど優秀な存在などそうはいないだろう。
ただだからと言って、
「結局最後まであなたには勝てませんでしたわね」
「ハハハッ。こちらもそれなりにプライドという物がありますからな。たとえお嬢様相手でも負けることは許されませんよ」
上澄みに勝てるほどにはなっていない。
あらゆる分野で優秀と入ったが、それは結局広く浅く程度。一流になるだけでも十分といえば十分なのだが、突き詰めた天才たちには手が届きそうにもなかった。転生者としての特権の数々を犠牲にしたにもかかわらず。
しかしそれでも十分といえば十分だろう。世界では通用しなくとも、国内であれば同年代のトップ3には入るはずである。
公爵家の権力を振りかざしてしばらく井の中の蛙をしている分にはちやほやされながら、それこそ婚約者になった王子すら抑えて天才といわれるくらいにはなれるはずで、
「……………アクヤよ」
「はい?どうされまして、お父様?」
「これからお前は学園へ通うことになる。殿下の婚約者として、殿下と同じく世界の中心と名高いセントラル学園へと通うことになる。覚悟は良いな?」
「はい。もちろんですわ、お父様。どこに行ってもこの完璧で天才な私が公爵家の人間として威厳を示してきますわ。オ~ホホホッ!」
「分かっているならばいい。だが、セントラル学園には各国から才能あふれる者達が集う。決して油断はするな。慢心せず確実に頂点へと立つのだ」
「かしこまりましたわ」
(いや、無理無理無理無理!!は?世界中の才能あふれる者達が集う?馬鹿言っちゃいけないよ!そんなのに!そんな化け物たちに私が勝てるわけないでしょうがぁぁ!!私は天才に勝てるほど強くはないんだよぉぉぉ!!!!!学園にタイピングを競う制度とかあれば話は別だけどさぁ……………現実見えてないでしょ、このおっさん。ハゲろ!ハゲてしまえ!ハゲた後被ったカツラが公衆の面前んで落ちて慌てて被ったら反対でしかもそれを瞬間接着剤でつけるとかいう取り返しのつかないことをして大恥かいて二度と表舞台から出てくんなぁぁぁぁ!!!!!!)