プロローグ
新連載!
そこそこの頻度で更新していくつもりですのでお付き合いいただけると幸いです!
突然だが、悪役令嬢という存在にどんなイメージを持っているだろうか。
髪をドリルのようにロールにしている?
ごてごてしたドレスを身にまとい、匂いのキツい香水を付けて周囲の人間の鼻を爆発させようとしている?
オ~ホッホッホッ!と高笑いをしたり「~ですわ!」のような不思議な語尾を付けている?
自分より立場が下である人間を見下し、人ですらないように認識している?
最後は良い具合に絶望した表情で悲鳴をあげながら息絶えたりしそうな分からせ曇らせ調教がはかどる調子に乗った顔をしている?
なんだか最後はかなり特殊な見方が入っていたような気もするが、大方これが悪役令嬢という物のイメージから大きく外れているということはないだろう。
では、だ。
もしそんな条件にほとんど当てはまっているような、夜の自販機に群がる虫の如く光るものを好み、竜巻の化身かと思うほど巻いた髪をいくつもぶら下げ、人を小バカにしたような表情で高笑いしながら香水の力で鼻を破壊する。後ついでにボロボロになりながら牢屋に入れられるのが似合いそうな少女は、悪役令嬢だろうか。
「いや、疑うより解かないですわよ!絶対悪役令嬢ですわ!間違いなく悪役令嬢ですわ!これで悪役令嬢じゃなかったら世界が間違ってますわね」
その問いに正確な答えを出せる者はいないが、本人は間違いなく自分自身が悪役令嬢であると確信していた。もし違ったのであればそれは自分が悪いのではなく社会が悪いんだというくらいには。
なんてことを考える彼女は、アクヤ・クレージョ。
大国と呼ばれるくらいには国土の広さや人口など国力を持つ国の公爵家の長女である。
しかも今日、
「……………それでは、ジュン・トウハ殿下及びアクヤ・クレージョ嬢の婚約を認めます!」
「よろしくお願いしますわ。殿下」
「ああ。うん。よろしく、ね」
国の王子と婚約したのだ。
周囲からは大きな拍手と歓声が起こり、表面上は祝福するような雰囲気を出している。婚約相手である王子、ジュンは次期国王最有力候補と呼ばれるほどの存在であり、このあっま順当にいけばアクヤが王妃となるのは確定と言ってもいい。
ただやはりそんな祝福ムードの中彼女は、
(いや、絶対ダメなやつだって!これ最終的に婚約破棄されて国外追放されたり身分剥奪されたり処刑されたりするやつだって!勘弁してよ本当にぃぃぃぃ!!!!……………あとどうでもいいけど、クレージョ嬢って「じょ」が2回続いて変な感じがするし若干言いにくいよね。なんかよく分かんないけど吸血鬼と戦ったり背後霊みたいなの使ったりしそう)
この状況を心の底から嫌がっていた。それはもう、呪っていると言っていいほどまでに。
しかしそれもまた当たり前ではあるだろう。何たって彼女は、前世の記憶を持つ転生者、しかも、悪役令嬢系作品をいくつも読んだことがあるタイプの転生者なのだから。
悪役令嬢がどんな目に合うかなんて大抵物語の最初辺りに書いてあるのだから知っているのである。
え?
そんな知識があるなら悲惨な未来にしないための対処ができないんじゃないかって?
怯えてる暇があったら手と口と足を動かせ、それでも本当に生き残りてぇのかタコナス!って?
男なんて、なんかそれっぽい感じで体を押し付けて色仕掛けしたらコロッと落ちるだろって?(ジェンダー問題を完全無視)
確かにそういった意見があることは彼女も理解しているのだが、
(いや、これは無理!よろしくって言いながら表情滅茶苦茶引きつらせてるし。この王子誰にでも隔たりなく優しく接するとかいう噂だったのに分かりやすすぎるくらい表情ひきつってるじゃん!こんな相手の好感度を今稼いでも遅いでしょ)
残念ながら今まで読んできた数々の作品の知識をもってしてもここからの改善は見込めなさそうであった。
一応相手はこの国の王子の中でも当たりの方と言われてる顔も良くて次期国王筆頭候補でついでに性格もいいとされている存在なのだが、もうファーストコンタクトを取った時点で彼女には関係構築が無理だと感じた。
とはいえ、だからと言って諦めるつもりもなかったのだが、
「殿下。今度お茶会をするのですけど参加なさらないこと?」
「ん~……………ごめん。遠慮しておくよ」
「殿下。今度一緒にお出かけに行きませんこと?」
「ごめん。その日は忙しくて」
「殿下、今度、」「ああ。ごめん。しばらく忙しくて付き合えないんだ。悪いね」
「……………そう、ですの」
見事に相手側から露骨に避けられているため何もできなかった。
お茶会に誘っても買い物に誘ってもデートに誘ってもパーティーに誘っても。まったくと言っていいほど取り合ってもらえない。
家の手のものからはすでに王子の予定は聞いていて空いている日を的確に狙っているのだが、どれも断られてしまうのだ。しかも集めた情報によれば、断った後のその日は城の中でダラダラしたり鍛錬したりと特に大事な用事も来ないしていないらしい。
「せめて、せめて前から誰と婚約するのかわかってればもう少し改善できたかもしれませんけど……………」
いつもの如くわざわざ王宮へ足を運んでお誘いをしたにもかかわらず断られてしまったアクヤはどんよりとした雰囲気でべt℃に倒れ込む。
その口からは後悔、というよりも不満と願いのようなものがこぼれるが、残念ながらそんなことができるはずもなかった。
これでもこの国の王子はかなりの人数いて、彼女と同い年や近い年齢のものも多数。その中から誰が婚約者になるかなんて言うのは予想できないのだ。
それこそ、婚約者なんて他家との奪い合いなのだから。
もし婚約者とは違う王族と仲良くなっていたなんて言うことになれば、浮気を疑われたりと問題しかないのでうかつに誰かと仲良くなるなんて言うこともできなかったのだ。
だからこそ幼少期から心に入り込むことができず、それに加えて竹などから流された悪い噂により今回の婚約者からもあまりよく思われていないのだろう。
(なんで嫌われてるのかもいまいちよく分からないし……………順当に考えれば調子に乗ってて平民にきつく当たるわがままな公爵令嬢だから?何か実績でも作っておけば変わったのかなぁ)
自分はもっと前世の知識を活用して実績でも作っておくべきだったのかと考える。
それこそ悪役令嬢作品の数々のようにジャガイモを育てさせて農業改革したりリバーシや石鹸を作って大儲けしたり孤児院にいる優秀そうな子供を使用人として雇って将来有望なイケメンに育てたり何かの卵を育てて聖獣を孵した後加護をもらったり。
そういうことをできていたならば評価も変わったかもしれないとは思うのだ。
だが、
(知らないよ!石鹸の作り方も!土壌の管理方法も!優秀そうな子の見つけ方も!というか、逆になんでそんなもの皆知ってんの!?おかしくない!?どこでそんなこと教わるわけ!?私みたいなタイピングくらいしか特技がない人間は何もできないんだよぉ)
彼女には何をなすにしても適した前世の知識を持ち合わせていなかった。
平凡に生まれ平凡に生活していた(と本人は考えている)彼女は、異世界に行って通用するものなど持っていないのである。
誇れるものなんてキーボードのタイピングが速いことくらいだが、異世界にキーボードなんて存在せずそれが力を発揮することなどなかった。
(絶対転生させるなら私よりもっと適した人がいたってぇぇ!!!)