読書感想文〜クリスマス・カロル
勢いに任せて書き殴った読書感想文。
幼い頃読んでもらったことがある「クリスマス・キャロル」。それほど長くはない絵本だ。ドケチのスクルージがクリスマスに3人の精霊と共に過去・現在・未来を旅し、会心するというストーリーだ。
読書感想文の本を探していて本棚の中に見つけたディケンズの「クリスマス・カロル」にふっと手が伸びた。あらすじを知っている話の方がとっつきやすそうと思ったからだ。
目次を見て、思っていたのと違うことに気がついた。「第一章 マーレイの幽霊」「第二章 第一の幽霊」「第三章 第二の幽霊」「第四章 最後の幽霊」「第五章 事の終り」…。短い童話を集めた短編集じゃなかった。
全部を読むにはなかなか骨がいる。だが、逆に興味が生まれた。短いストーリーを文庫本一冊分に引き延ばして書くテクニックは、読書感想文を書く時にこそ役立つのではないだろうか。(文庫本一冊分あるストーリーを簡略化して子供にもわかりやすい絵本にしてあるので、この表現が本質的には誤っていることは百も承知である。)
さて「第一章 マーレイの亡霊」を読み始めるが、冒頭の2ページでディケンズ師匠に対する尊敬の念が爆発して止まらなくなりそうである。スクルージの元共同経営者で7年前に亡くなったマーレイが、「死んでいる」ことだけを述べるために、2ページも費やされているのだ。原稿用紙にすると大体3枚分くらいだろうか。
「第一にマーレイは生きていない。それについてはいささかの疑いもない」に始まり、繰返し繰返し同じことを説明する。昨今流行りの「大事なことだからもう1度言う」ではなく、あの手この手で表現を変え、ユーモアを混じえ、楽しませてくれる。摑みはバッチリな状態で、読み進めることにした。
第二章でスクルージは幽霊と共に過去を旅する。少年時代の孤独、死んだ妹、奉公先の老人の思い出は、消して現在のどケチなスクルージそのものではない。彼を変えたのは何だったのか。
恋人との別れ話が出てくる。彼女は金ばかりを追い求めるスクルージに愛想をつかし、別れ話をする。そしてその後、他の男と結婚して幸せになり、夫とスクルージを貶す会話をしている。
スクルージと彼女の会話を読んでいると、心が痛くなってくる。金に困った過去がある人間が金に執着してしまうのを理解しようとせずに別れを決めた彼女と、それでも彼なりに彼女を愛していることを伝えられないスクルージ。
「女の恋は上書き保存、男の恋は名前をつけて保存」と言われるように、彼女の中でスクルージは黒歴史になっていたようだ。彼女と夫はスクルージの人格を否定するような会話をしている。だが本当はスクルージは彼なりの愛を否定した彼女の言霊に囚われて、その言葉通りの金の亡者になってしまったのではないか。
第三章の現在の旅でスクルージは現在を招いた過去の自分に後悔していて、第四章の未来の旅では留めを刺される。そして第五章、スクルージはすっかり改心した。周りの人間からすれば「異世界転生して違う人格が入った?」レベルだ。もちろん誰も疑問に思ったりせず、皆が幸せになった。
「クリスマス・カロル」は全体的は童話のような形をとりながら、時には辛辣な描写を交えたユーモア盛りだくさんのストーリーだった。全体のストーリーよりは、散りばめられたユーモアの方が面白いかもしれない程だ。
絵本ではどケチだったスクルージがわかりやすく改心しただけだが、原作では彼は本質にあった良い部分を引き出され、善良であろうとすることができるようになった。
幽霊との出会いはそうそうないにしても、誰もが本質に持っている良い部分を、引出してくれる「何か」に出会えることは幸運だ。スクルージの恋人はスクルージにとってのその「何か」になれなかった。
ふと、7年前に亡くなったマーレイが気の毒になった。出会えたスクルージと出会えなかったマーレイ、「何か」に出会えるも出会えないも、所詮は運次第ということだろうか。