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悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~  作者: あおきりゅうま
第一部 悪役貴族は死ぬべきなのか?
87/112

第87話 面白いという事。

 観客席へと飛来する岩石の弾丸———、


 わあ、と声を上げて逃げ惑う観客たち。

 

 だが、速度が足りない。

 迫る巨大な弾丸にその身を潰され—————、


 ————ィィィィィンッッッ!


 ———なかった。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……!」


 観客席の、手前に作られている壁の上に人が立っている。

 客が身を乗り出して下に落ちないように作られたその壁の上に———ナミ・オフィリアが立っていた。

 刀を振り抜き、全身で息をし、リングの上からたった一足(いっそく)一瞬(いっしゅん)で遥か遠くのこの地点へ移動したことを表していた。


 そして———静寂(せいじゃく)が訪れた。


「な、何が起きたんだ……?」

「ミハエル王子が……弾丸を撃った……よな……?」


 観客たちは戸惑っていた。

 自分たちへと弾丸は向かって来ていた。いくつもの、大きな岩の塊が。

 それが———消えていた。

 客席は、彼らが座っていた座席も通路も、傷ついていない。どこも無傷で健在(けんざい)している。

 着弾———という現象が起きていなかった。

 ナミ・オフィリアが斬って食い止めてくれたのなら———分かれて軌道を逸れた弾丸がどこかに当たっているはずだった。


 それが———どこにもない。


 着弾点がどこにも見当たらない。


 パラパラと砂埃 (すなぼこり)のような煙が———宙を舞っているだけだ。


剣仙源流(けんせんげんりゅう)九ノ太刀(きゅうのたち)———塵桜(ちりざくら)……」


 ぼそりとナミが呟き、俺を睨みつける。


「……お、お客さんを狙うなんて……どういうつもり……?」


 そう、問いかけるが声が小さすぎて耳を澄まさなければ聞き取れない。

 俺は挑発的にニヤリと笑う。


「ほぅ! 剣仙源流(けんせんげんりゅう)———塵桜(ちりざくら)か‼ それはどんな技だ⁉」

「え…………?」


 自分の疑問に答えてくれず、小さく口から漏れ出てしまった技名を大きな声で取り上げられてしまったので、ナミは戸惑う。

 そして、状況がわからないと周囲を見渡すと、興味津々でナミを見つめている生徒たちの目に気づく。


「あ……あの……刹那(せつな)の瞬間にいくつもの斬撃を繰り出して……まるで一振りで相手を細切れに切り刻むように見せる……そして、斬られた相手は塵芥(ちりあくた)のように消滅するから……塵桜(ちりざくら)……」


 (よう)は一瞬で何度も刀を振っているだけ。何往復も刀を振って細切れにしているだけというシンプルな技。

 そういう言葉にすると非常に頭の悪い技のように感じてしまうが……一瞬で塵のような小ささにまで細切れにできるというのは人間技ではない。それに、今のが岩石だからいいものの、人間に向けられたらと思うと想像するだけで恐ろしい。

 化け物のような技だ。

 それが———ナミ・オフィリアならできてしまう。


「ほぅ……! 中々小癪(こしゃく)な技を使うではないか! ナミ・オフィリア! ミハエルよ! 次を発射しろ!」

「…………岩土大連射砲グラン・ド・ガトリング‼」


 再び観客席に向かってミハエルに岩石の流星群を発射させる。


「———ッ⁉ どういう……つもり……⁉」


 壁を蹴り、空中へ飛び出した〝剣聖王〟が刀を鞘に納め―――、


「———塵桜(ちりざくら)‼‼‼」


 弾丸の群れを一閃する。


 すると、まるで映像が切り替わるように球の形をしていた岩石が、煙へと変わってしまう。

 ただの土煙となって、風に乗って飛んでいく。

 ダンッとナミが、観客席の壁と円形リングの間に着地する。


「……どう、いう……つもり⁉⁉⁉」


 ナミが着地した地点はいわゆる場外という場所。

 リングの枠の外の、芝生が張られた何もない場所。そこに彼女は足を付けているのだから、いや、観客席へと足を付けたのだからもうすでに〝決闘〟の上では負けている。

 だが、そんなことはもう———どうでもいい。


 パチ、パチ、パチ……!


「え…………?」


 誰かが———手を叩いている。

 ナミが振り返ると———、


 ―――パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッッッ‼‼‼


 ———その〝拍手〟は喝采の嵐となって彼女の身を包んだ。


「凄いぞ~~~~~~~~~~~~~~~‼」

「流石〝剣聖王〟~~~~~~~~~~~‼」

「弾を消すなんてどうやったの~~~~~‼」


 やんややんやと、生徒たちがナミへと声をかける。


「え……え⁉ え……⁉」


 当の本人は何が起きているのか全く分かっていない。どうして生徒たちが自分を絶賛しているのかわからないと困惑していた。


「おい、〝剣聖王〟‼」


 半ばパニック状態になっている、鈍いナミ・オフィリアに声をかけてやる。

 彼女はきょとんとした顔でこちらを向く。


「今、お前の後ろにいる(やつ)らは———お前のことを〝面白くない〟と思っているか?」

「…………あ」


 再び、ナミが観客席を振り返る。

 

「さっきの技! もう一回見せて~~~~~~~~~~~~~~~~‼」

「九ノ太刀って言ったよな? ってことはその前もあるんだろ~~~⁉」

「かっこよかったぞ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~‼」


 皆———笑顔だった。


 ナミが「あ……」と声を漏らす。


「ナミよ。貴様は天才だ———剣の怪物(かいぶつ)だ———だからこそ今、ミハエルの魔の手から観客を守れたのだぞ?」


 彼女に声をかける。「やらせたのはお前だろ」と愚痴るミハエルを無視して。


「会長……」

「どうせ負けたことを知らんのだろう? どうせ苦労もしたことがないのだろう? だが———それがお前だ———これがお前だ。そんな自分を否定して、自分をつまらんモノだなどという前に。剣で人を笑顔にする方法に気づく方が先だったのではないか?」

「でも……才能に胡坐(あぐら)をかいているだけの……ダサい人間じゃないですか? それって……」


 もじもじと、この後に及んでまだ文句を言うナミ。


「たわけが! お前をダサいと言う人間はダサいと言わせておけばいい! この世に人間が何人いると思っている⁉ 一人や二人、そんな人間いて当たり前だろう!」

「当たり前……」

「だが———そんな少ない人間に構って身を縮こませるよりも、才能を見せつけてやった方が、こうしてお前に好感を持つ人間が増えるのではないか?」

「あ……」


 またくるりとナミが観客席を見る。

 さっきからぐるぐると首が回って忙しそうだな……。


「つまらん言葉を真に受けるな! お前はお前だ! (ただ)のナミ・オフィリアだ! (ただ)の一生徒であり、(ただ)剣聖王(けんせいおう)と呼ばれているだけの普通の女だ!」

「普通……私が……?」

「そうだ! だから……普通に話しかけてみろ。普通に友達になりたいと思った人間に、普通にな」


 ナミの目が観客席のある一点を見ていることに気が付く。

 彼女と同い年ぐらいのおかっぱの女性徒だった。

 誰だか知らないが、恐らく三年生。彼女は心配そうにナミを見つめていた。

 多分———もう、大丈夫そうだな。


「フッ……、まぁ今ので(オレ)が言いたいことはもう言いつくしてしまったわけだが。せっかく場がここまで温まったのだ。このまま終わりというわけにはいかんだろう?」


 俺は右手を軽く上げる。

 すると―――それに呼応して、観客席の方(・・・・・)から次々と人影が飛んできて、リングの上に着地する。

 白ランに身を包んだ。鉄仮面を被った者共が、俺とミハエルの周りを囲む。


(オレ)の忠実なる(しもべ)———鉄仮面軍団(てっかめんぐんだん)だ!」


 シリウスの妹、ルーナが操る動く魔導人形———古代兵(ゴーレム)

 オセロット家の秘密兵器であるため、魔導人形などと気づかれないように仮面を被せて正体を隠しているモノだ。

 それを十体ほど観客席に俺はこっそり忍ばせていた。

 こういう———役回りをさせるために。


「さぁ‼ 〝剣聖王〟よ! まだ悪役(ヒール)はステージの上に立っているぞ! まだ幕は下りていないぞ! (オレ)はまだまだ悪いことをするぞ‼」


 ……今のセリフはない、ないな……これこそ———ダサい。


「————? …………ぁ‼」


 案の定、見抜かれた。

 俺の方を向いていたナミが一瞬視線を上げて考え込むと、微笑を浮かべて見透かしたような目線を向けてきた。

 まぁ、察するよな……。

 だが———続けるしかない。

 まだ、終わっていないのだから。


「さぁ———来い、ナミ・オフィリア‼ さぁ、行け―――鉄仮面軍団よ! あの小癪(こしゃく)な小娘をボコボコにしてしまえ―――!」


 うっわダッサ……!

 いい感じのセリフが全然思いつかない。

 何だか昔見たヒーローショーが頭をよぎってノイズとなり、全然シリウス・オセロットらしく振舞えない。

 まぁ……いっか。

 観客席はなんだかんだで「わああ」と歓声を上げて盛り上がってるし、ナミも笑顔を浮かべていて———、


「ありがとうございます……会長———、」


 ―――刀の柄を握りしめながら、迫る鉄仮面軍団を迎撃していた。


「———私の剣術は……宴会魔法だったんですね」


 それは———違う。


 何だか間違った結論に達してしまったようだが、主役(ナミ)が次々と悪役(ゴーレム)を刀で叩きのめす演目(ショー)は続いていく……。

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