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悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~  作者: あおきりゅうま
第一部 悪役貴族は死ぬべきなのか?
80/112

第80話 ナミを探す道中で、

「まったく……どうして俺が……これはロザリオの役目だろう?」


 愚痴ながら聖ブライトナイツ学園の校舎内を歩く。

 すでに授業が終わり、歩く生徒の数もまばらだ。

 俺は外道で非情な生徒会長として知られているのですれ違う生徒たちが「ヒッ!」と悲鳴の様な声を上げる。それが少し心に来る。現代社会で普通に暮らしていた俺にとって怖がられるというのは慣れないリアクションだ。本物のシリウス・オセロット。心までシリウス・オセロットならばまったく気にしないのだろうが……。


「本物のシリウスなら、生徒一人の悩み何て放っておくのだろうな……」


 律儀に目安箱に入れられたナミ・オフィリアのお悩み相談の紙を握りしめている。

 俺が原作ゲーム通りであれば、外道貴族のシリウス・オセロットはそんな行動は絶対にしなかった。

 それもこれも俺がこの世界に転生してしまったからだろうか。


「本当の……シリウス・オセロット……か」


 気が付いたら足を止めて、下を見ていた。

 足元を見つめているのではない。

 自らの胸を見つめていた。


 ————貴様は〝魔導生命体〟なのだ。


 そう、父ギガルト・オセロットに言われたことを思い出す。

 俺が原作ゲーム『紺碧のロザリオ』をやったときには全く明かされていない情報だった。

 俺が———彼が、魔王を現代に復活させるために作られた器だった、と。

 ギガルトが自分の目的のために生み出した。全く愛されていない子供だったと。


「…………」


 そう考えれば、外道として振舞い続けた彼の行動も同情の余地がある。

 そんな気がしてくる。

 愛を知らないのだから、愛を伝えることなんてできない。

 傷つけられたことしか知らないのだから、傷つけることしかできない。


「あ……」


 そんなことは、思っても口にはできない。

 特に———彼女の前では。


「アン・ビバレント……」


 廊下の向こう側から、本を片手に歩いてくる深い炎のような色の髪をした小柄な女性徒の名前を告げる。


「お前……」


 あちらも俺の存在に気が付き、足を止める。

 彼女とは———いろいろあった。

 いろいろあったからこそ、顔を見るとグッと胸が締め付けられる。


「……どうした? 復讐はしないのか?」


 彼女は———復讐者だ。

 このシリウス・オセロットに父親を殺され、母の心を壊された哀れな少女。


「以前であったら顔を合わせればすぐに殺しに刃を片手にこの(オレ)に挑んできたものだが、今日はそれをしないのか?」


 常日頃、四六時中シリウス・オセロットの隙を伺いアンは命を奪おうとしてきた。

 だが、あのモンスターハント大会以降そのなりを潜めている。


「…………しない」


 アンは短く答えて、ふと視線を逸らした。

 そして、俺の脇を通り過ぎて去っていこうとする。


「待て。もう、いいのか? もう俺に対して復讐はしないのか?」

「……どういう意味?」

「その……何かわかったのか? 父親の死の真相が———」


 アンの父親、ダン・ビバレントはシリウスに殺された。

 アンの母親、ヘカテ・ビバレントを愛してしまったシリウスが彼女を自分のものにするために夫を殺した。

 そう世間に広まっているし、俺もそうだと思っていた。

 だが、実は違う可能性が最近浮上してきた。

 ダンは〝魔剣〟という精神を病む魔王が遺した武器を所有していた。彼の死もアンの母親の精神崩壊もそれが原因の事故である可能性が浮かび上がってきたのだ。

最近———アンの様子がおかしい。

 もしかしたら、彼女はその真相に辿り着いたのではないかと俺はひそかに疑っていた。


「わかんないよ……あたしには全部。だってあたしはまだ、子供だから」


 そういって彼女は視線を逸らす。


「そうか」

「だけど———あんたを殺すことを諦めたわけじゃない。まだ何もわからないけど、あんたが邪悪な存在であることは変わりないから。今はまだ、あたしに力が足りないから殺せないだけ。いつかは殺してやるから覚悟していなさい」

「……そうか」


 彼女の今のセリフに、覇気はなかった。

 まだ迷っているような、そのように読み取れた。


「まぁ、いい。その手の剣術書は(オレ)を殺すための参考書とでも言ったところか?」

「まぁね」


 フッと笑って肩をすくめる。

 普通に言葉を返したな……。

 なんとも、よくわからん変な関係になってしまった……。

 そういえば、モンスターハント大会でも裏社会のボスと関係を持つために彼女の世話になったし、大会中に事故に会ったに彼女に助けてもらった様子だし、復讐するものとされる者の関係でありながら協力しあってしまった。

 なんだか、なぁなぁで仲良くなり、復讐なんてどうでもいいという感じになりそうだな……。

 ……やっぱり、それもそれで困るな……俺の中にはこの世を滅ぼそうとする魔王がいるんだった。全てを忘れてみんな平和になり、ぬるま湯につかったような穏やかな世界で生きているところを、全く予想もしていなかった脅威にぶっ叩かれ、全てが破壊される。

 そのような事態は避けたい。

 そのためには適度な緊張が、ストレスが必要になる。

 この世界においてその役目を担うのは———このシリウス・オセロットだ。


「フッ、励めよ」

「……何それ? あたしあんたを殺そうとしているんだけど?」


 それを応援するとはどういうことだ、とアンは(わら)う。


 だが、俺はそのまま何も言わずにすれ違い、ナミ・オフィリアを探すことに……、

「ところで、ナミ・オフィリアを見なかったか? 探しているんだが?」

「さっきあっちの方に走っていったわよ」

 ……した。


 最後の最後で格好(かっこう)のつかないことをしてしまったが、アンに指さされた方向へと俺は歩を進めることにした。


 ◆


 ナミは魔道具倉庫(まどうぐそうこ)にいた。

 授業で使う演習用の模造刀のような武器や魔力を増幅させる杖などを収納している倉庫で、現代日本の学校で言うところの体育用具入れに近い。

 薄暗くて埃っぽい魔道具倉庫の中、ウォータースライムの破片でできた衝撃緩衝マット『スライムマット』の上でナミは膝を抱えて座っていた。


「こんな場所にいたのか……」

「————ッ⁉」


 話しかけられて俺がいることに気が付いたのか、薄く光る蒼いマットの上でナミは跳ねた。


「————ッ‼」

「待て、逃げるな———」


 そして、またわたわたと地面を這って逃げようとするナミの首元を捕まえる。


「———悩み事があるのであろう。この生徒会長であるシリウス・オセロット様が直々に聞いてやろうというのだ。ならばちゃんと逃げずにそれを話してみたらどうだ?」

「………⁉ き、きききき、聞いてくれるん……ですか?」


 頭を震わせながら、恐る恐る振り返って来る。


「聞いてやる。友達が欲しいんだったか?」

「スゥーーー……は、はい……」


 大きく息を吸いながら、ナミは姿勢を正してこちらに向き直る。

 そしてもじもじと指を突き合わせながら、チラチラと俺の様子を伺い、



「あの……どうやったら友達ってできるんですかね……?」



 そんなの俺が知りたい。

 現代日本で学生生活をしている時に友達はそれなりにはいたが、多い方ではなかった。それに友達なんて作ろうと思ってできるものではあなく、自然とできるものだ。

 だから、適切なアドバイスなんて思いつかないが———それでも、まぁ……。


「共通の話題を見つけることだ」


 現実世界での友達としていた会話をぼんやりと思い出しながら、助言する。


「共通の話題?」

「あぁ、同じ趣味を持つ相手を探し、その趣味の話をする。ゲームだったらゲーム、本だったら本という風にな」

「……はぁ」


 俺はコンピューターゲームのつもりで『ゲーム』という単語を使ってしまったが、ナミは納得したような声を漏らした。どうやらこの世界の運動競技(ゲーム)と解釈してくれたらしい。


「〝剣聖王〟———ナミ・オフィリア。お前には剣術という立派な得意分野があるだろう。ならば同じ剣術が趣味の人間に話しかけてみろ。すると意気投合してすぐに友達ができるぞ」


 はい、お悩み解決。

 と———思っていたら。


「そ……それで———友達100人できますかッ⁉」


 ナミが前のめりになって尋ねて来る。なんだか必死な様子で。

 いや———そんなにできるかは知らんが……。


「できる」


 ……んじゃないの?

 だってこの学園の最強の女なんでしょ、君。


明日(・・)までに———できますかッッッ⁉⁉⁉」


 …………それは無理じゃない?


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