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悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~  作者: あおきりゅうま
第一部 悪役貴族は死ぬべきなのか?
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第72話 二人の視点から見た、昨日のオレ

 シリウスがただの人間ではなく、人工生命体だった……?


 ———その衝撃の真実を知ってから一夜明けた。


 聖ブライトナイツ学園では相変わらず日常が繰り返されている。昨日のロザリオとの決闘は見事俺が勝ったような感じで、オセロット家の権力にあやかりたい人間が次々と手をこすりながら媚びを売ってくる。

 俺の意識は途中でなくなったというのに。

 魔剣で刺されたことなど、みんなの記憶から消えた様に。

 ルーナが言うには……、


「やあ、師匠!」


 学園の廊下を歩いていると、向かい側からアリシアが手を上げ声をかける。

 彼女も、俺を心配している様子などなく、普通に俺がロザリオを下したような様子だった。


「あ、あぁ……アリシア、怪我はないか?」


 アリシアが俺を待ち構え、俺が追い付くとその隣に自然な様子で並んで歩き始めたので、そのまま俺たちは廊下を共に進んでいく。


「ん? ああ君が指パッチンをした時の事か? ああ、ちょっと体は打ったけど、直ぐに治った。この通り全く持って問題ない」


 腕を折り曲げて力こぶを作り微笑むアリシア。


「指パッチン?」

「ん? うん……それだけで衝撃波を出して影を倒したじゃないか……それでスタジアム中の生徒が気絶しちゃったし、ボクも吹き飛ばされて体を打ったから……てっきりそのことを心配してくれたんじゃないのか?」

「…………」


 俺の記憶の最後ではアリシアから鉄の剣を借りてリングを降りてもらったところまでだ。その前にロザリオと戦い多少なりとも攻撃を受け止めていたので、何処か体に痛むところはないのか気づかった言葉のつもりだったのだが。


「……アリシア、実はな(オレ)には昨日の記憶があまりない、ぶつ切りになっている。魔剣に貫かれてから、何が起きたのかあまり覚えていないのだ」


 アリシアは目を丸くする。

 そりゃあ驚くだろうな……。


「ルーナが言うには、その後いつも通りに振舞って、気絶した生徒たちに一言言って決闘を締めたらしいが、全く持って何も覚えていない……貴様から見て、(オレ)はどうだった?」


 ルーナの視点から見た昨日の決闘での出来事は、今朝既に報告を受けている。

 魔剣に貫かれた後、ルーナは突然大きな音が聞こえたと思ったら気を失い、目が醒めたらリングの上にシリウスだけが立っていた、と。そんなに気絶した時間は長くなかったらしく、他の生徒たちもぽつぽつと目覚め始め、シリウスは彼らを見回して———「これでロザリオとの決闘をしまいとする」と宣言し、片付けを始めたという。魔剣もいつの間にかなくなり、ロザリオやアリシアも立ち上がり始め、シリウスと二、三言話し、別れ、ルーナも決闘の事後処理があったのでシリウスの元へ行くと、少し上機嫌な様子で話していたという。そして、学園の事務を終えると普通の様子で家に帰った———そう聞いた。

 少し上機嫌だったが、普通だったとルーナは語っていた。

 そして、アリシアも昨日の俺と接触したらしいので少し確認をしてみる。

 アリシアにしてみれば、普通の様子だったという俺が、何があったんだと確認をしているのだから驚きだろう。まるでボケ老人だ。


「昨日の君が言った通りだな」

「———ん? 昨日の(オレ)?」


 なんだか、アリシアの驚きの方向性がおかしい。


「ああ、師匠。君自身が言っていた。魔剣や指パッチンはどういうことだと君に聞いたら、『もしかしたら自分はこのことを覚えていないのかもしれない』と前置きして、『命が危険になったから集中力が増す〝ぞーん〟や〝無我の境地〟というものに入って、強力な魔法が使えるようになった。〝すぽぉつまん〟にはよくあることで、今は極限の集中状態に入っているので、時間が経つと忘れ去っているかもしれない』……そう君自身が言っていた。その通りだったな」

「なんだそりゃ?」


 アリシアも何を言っているのかわかっていないようで首を捻り、


「さぁ……だけど、君自身が言ってたぞ?」

「…………」 


 あごに手を当てて考え込む。


 ゾーン? 無我の境地?


 俺が日本で生きていた時に読んだスポーツ漫画の設定だな……極限まで集中することによりいつもの何倍ものポテンシャルを発揮できる状態になる。確かにその漫画でもあまりにも集中しすぎたせいでゾーンに入る前後のことをあまり覚えておらず、そう簡単に入れるものじゃないという説明があったが……その状態に俺がなったということか……?

 確かにそれをペラペラとひけらかすのは俺らしいような気がするが……。


「アリシア、指パッチンというのは———ルーナは憶えていなかった様子だが、何のことだ?」

「君がパチンと指を弾いたら、とてつもない衝撃波が君の指先から跳んで魔剣の影を吹き飛ばしたんだ。あれは何の魔法かと聞いたら、魔法でも何でもないただの〝魔力の波動〟だと言っていた。それをぶつけただけだと」


 雑だ……それも俺らしいような気がする。

 だが、やはり……昨日の俺は……全く違う別人……、


「それよりも———君はここに来たかったんじゃないのか?」

「む?」


 気が付くと、俺達は目的地についていた。


 『生徒会室』。


 聖ブライトナイツ学園の学園運営を執り行っている部屋で、シリウス・オセロットが権力を振りかざす場所だ。


「あ、あぁ……そうだった……」


 まだモンスターハント大会の成果に関する書類、そしてロザリオとの決闘についてスタジアムの使用許可に関する書類作成など、細かな事務処理が残っていたのでそれを片付けに来たのだった。

 とりあえず昨日の件はそれを片付けながらアリシアに聞こうと、視線で一緒にいるように促すと、彼女は何となく察してくれたようで軽く頷き、一緒に部屋に入る。


「あ———お疲れ様です! 会長」


 すると———中にすでにいた一人の少年に俺達は出迎えられた。


「ロザリオ……」


 ロザリオ・ゴードンは、生徒会室の棚の書類を取り出しながら、ニコリと微笑みかけた。

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