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悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~  作者: あおきりゅうま
第一部 悪役貴族は死ぬべきなのか?
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第5話 復讐者——アン・ビバレント

 俺は異世界に———悪役貴族として転生した。


 そして俺は主人公・ロザリオ・ゴードンの覚醒イベントで殺されなければならない。

 この『紺碧のロザリオ』というゲーム世界には様々な強大な敵が存在する。


 眠り続ける古代の魔王、王立魔導機関で制作している無敵の魔法生物、実力をひたかくす最強の魔剣使い……挙句の果てには宇宙の果てからやってくる侵略者と……それはそれは様々な、ヒロインのルートに合わせたラスボスがこの世界のどこかに存在し続けている。


 それを撃破するのは、俺———シリウス・オセロット―――ではない。


 シリウスはこの学園ではSランクにあたる5本の指に入る実力者だが、傲慢故(ごうまんゆえ)(おご)り、研鑽(けんさん)(おこた)っている。だから、そのラスボスを倒せないのだ。

 

 この物語には俺ではない———主人公が存在する。


 それが———ロザリオ・ゴードン。


 今は四月……これから四か月後の八月にロザリオとシリウスの決闘イベントを含めた決闘祭が開催される。


 そのイベントを経てロザリオは大きく成長する。


 そしてロザリオの覚醒の力は、都合のいいことにラスボス相手にメタを張った能力となっている。


 ロザリオでなければラスボスたちを倒せない。


 ロザリオが倒さなければ、この世界は滅びる。


 なら———このシリウス・オセロットに未来はない。


「俺の転生先の命も———長くてもあと四か月か……トホホ」


 覚悟を決めたはずなのに、まだ未練がましく(ひと)()ちる。


 せっかく転生できたのに、死んでしまうなんて。前世で社畜生活で苦しんだというのに、今世でも早死にする。


 こんなつらい人生ってあるか?


 こんなん、死んでも来世があると思わないとやっていけない。


「来世はもっといい人生であるように今のうちに祈っておっこう……」


 と、誰もいないのをいいことに両手を合わせて神に祈ろうとした時だった。

 気配を感じた。 


 放課後の廊下。


 ―――その天井の闇から気配を感じ、俺は両手を離して警戒する。


断空(エア・ブレイド)!」


 魔法の詠唱が聞こえた。


 キィィィィィィンッッッ!


 金属音と共に、まばゆい光が弾ける。


「チィ!」


 短剣をもった小柄な女の子が空中でくるりと回って着地する。


「貴様か……」


 襲撃者の女の子は、ヒロインキャラだ。前世でゲーム上で攻略したキャラだ。

 彼女は、敵意を込めた目を向けて短剣を構えなおした。


「クソッ! シリウス・オセロット! お前は化け物か⁉」

「何?」

「私の渾身の斬撃魔法を……素手で受け止めるなんて!」


 天井から降ってきた少女の一撃。

 短剣を媒体にカマイタチのような真空波の斬撃。それを認識したときには避けることもできなかったので、素手で防御することにした。

 ゼロ距離で放たれた斬撃———それを、俺は手に一つの傷もつけることなく弾いた。


「たわけ。貴様ごときの貧弱な魔法が———この我に通用などするものか」


 内心———バクバクだった。

 手がなかったから、素手で防御したに過ぎず、全く無傷で弾くことができるなんて思ってもみなかった。

 シリウスの体が強靭でなければ、普通に死んでいたところだろう。


「単純に貯蔵する体内魔力が違う。Cランクごときの貴様と俺ではな。少量の魔力しか持たない貴様に膨大な魔力を持つ俺は傷つけることはできない。アリの一撃は巨象にはとどかんのだよ」


 才能の差というのは残酷だ。

 障壁魔法など使う必要もなく、少し手から魔力を発しただけで相手の詠唱付きの斬撃魔法をはじくことができるのだから。


「いい加減諦めたらどうだ? ビバレント家の娘———アン・ビバレントよ」


 短く、深い赤茶(あかちゃ)色の髪(雀頭’(じゃくとう)色というらしい)を持った、それに子供っぽい顔立ちに低い身長———。

 彼女は一見少年にも見えそうな外見には似合わない、豊満な胸を揺らしながら、短剣に魔力を込める。


「黙れ! 父さんの仇! 絶対にお前を殺す!」



 そうなんだよなぁ……シリウス・オセロットはすでにこの子の父親を謀殺(ぼうさつ)してるんだよなぁ……。


 アン・ビバレントは、復讐者のキャラだ。


 彼女はシリウスに父親を殺されている。それも本当にしょうもない理由で。


 アンの母親は非常に美しく、国で一番美人だと言われている貴族の女性だった。

 シリウスはその女性を抱きたくなった。だから誘拐して無理やり抱いた。母親はその事件がきっかけで廃人化し、シリウスは事が表ざたになると厄介なので、権力があったアンの父親を事故に見せかけて暗殺した。

 タイミング的にシリウスが殺したのは明白。だが、決定的な証拠がないためシリウスは裁かれず、アンに深い恨みを抱かれていた。

 本当に申し訳なく思う。

 俺のせいじゃないけど。


「あんたさえいなければ、あんたさえいなければ! あたしたちは家族仲良く過ごせたんだ! 絶対に殺してやる!」


 だから、ことあるごとにシリウスを殺そうとしてくる。

 それでも絶対的な力の前には敵わず、何度も撃退されそのたびに死にかけているところをロザリオに助けられ、復讐で周りが見えていなかったところをロザリオに指摘され、周囲の人間と友情を深めながら、シリウスに立ち向かっていくというシナリオになっている。


 そのルートでも最終的にロザリオがシリウスを殺すことになっている。彼女と協力してではあるが。


 悪いとは思うが、今、殺されるわけにはいかない。


「フン、言葉だけでは何とでも言えるがな、今の貴様はただの無力な小娘にすぎん」

「何だと! 全てを断ちきれ! 断空(エア・ブレイド)!」


 再び斬撃を飛ばすが———正直避けるまでもない。

 俺の顔面に斬撃があたる———が、


「そんな……」

「フッ、そよ風かな?」


 魔力を顔の周囲に(まと)うイメージをする。それだけでシリウスの体内から魔力が漏れ出て壁を作る。

 その魔力の壁に、彼女の渾身の斬撃魔法は阻まれてしまう。


「貴様の魔法など、所詮その程度よ。貴様一人がどう立ち向かおうが、圧倒的な力の差があると知れ」


 手を横に薙ぐ。


「キャッ———‼」


 それだけで魔力の暴風が生まれて、アンのナイフを弾き飛ばす……だけでは収まらなかった。


 ビリビリビリ‼


 あ———やべ。


 アンの制服も破り飛ばしてしまった。


「キャアアアアアッ!」


 顔を真っ赤にしてその場にしゃがみ込むアン。

 胸元は引き裂かれてブラジャーが丸見えになり、スカートもビリビリだ。

 ナイフを弾き飛ばすだけのつもりだったのに……やりすぎたぁ~……。

 シリウス・オセロット。こいつは単純な魔力の化け物だ。体内にある魔力が大きすぎて、少し念じるだけでそれが魔法に近い、場合によってはそれ以上の〝力〟として放出されてしまう。

 どうしようか……。

 制服を引き裂かれてうずくまるアンは可哀そうだが、ここで優しくするのは絶対

に違うしな……仮にもこっちは命を狙われたんだから。


無様(ぶざま)な負け犬よ。貴様の見苦しい駄肉(だにく)のついた体など見たくもないわ」


 仕方がないから俺の上着を投げとこう。

 バフッと、顔面にシリウスの白い制服のジャケットをぶつけられるアン。


「駄肉⁉ どういうつもり⁉ ———これは情けのつもり⁉」


 彼女はすぐに俺の上着を汚らしい汚物かのように床に投げ捨てた。

 まぁ、いいや。

 俺の眼がなくなったら着るだろ。流石に女の子がその巨乳を晒しながら歩いて行けるわけないし。


 俺はアンに背を向け、


「貴様は弱い。それは一人だからだ。それではいつまでたっても俺には勝てはしない」

「———ッ!」

「俺に勝ちたければ仲間を作れ。友を作れ、協力者を作れ……いや、貴様はせっかくその胸に駄肉をもっているのだ。男を誘惑し、味方にひきいれるほうが早かろう……そんなものに食いつくのはせいぜい平民の男ぐらいだろうがな! クアッハッハッハハッハッハ‼」


 哄笑しながら去っていく。


 ダンッ! と床を殴りつける音が背後から聞こえ、


「チクショウ、チクショウ! 殺してやる! 絶対にお前を殺してやる!」


 心底悔しそうなアンの声。


「ハッ———やってみるがいい!」


 そうだ。それでいい。


「———(オレ)を、殺してみろ!」


 あ、その時はちゃんとロザリオを連れてきてね。


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