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悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~  作者: あおきりゅうま
第一部 悪役貴族は死ぬべきなのか?
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第4話 メインヒロイン——アリシア・フォン・ドナ・ガルデニア


 裏庭を後にし、校舎に戻る道中(どうちゅう)———。


 後になってロザリオに対してやりすぎた……と後悔しても遅く、今更彼にフォローを入れようとしたところでグダグダになるのはわかる。


 このままロザリオが意気消沈(いきしょうちん)して引きこもりにならなければいいがと心配していると、真正面から(くれない)の髪を肩まで伸ばした凛とした雰囲気の女性徒が向かってきた。


 意志を宿したエメラルドの瞳。小顔に整った形の胸と女性の憧れを顕現(けんげん)させたような女の子だ。


「———ン、ンッ!」


 咳ばらいをする。

 彼女を目にした途端、視線を奪われそうになったが、それはシリウスらしくない。

 傲岸不遜(こうがんふそん)が足をつけて歩くシリウス・オセロットは、美人が目の前から来たからと言って(ほう)けた表情をしていないのだ。


「ん?」


 俺の咳払いで彼女が視線を向ける。


「何だ、君か……」


 露骨に嫌そうな顔をする。会いたくない人間に会ってしまったと顔に書いてある。

 俺はわざとらしく、手を下腹の位置に添えた———行儀のよいお辞儀(じぎ)をした。


「これはこれは王女殿下。ご機嫌(きげん)はいかがですかな?」

「最悪だよ。君のような人間に話しかけられたからね」

「そう、邪険にしないでいただきたい。この国を治めているのはあなたの父上だとしても、この聖ブライトナイツ学園のあるテトラ領を治めているのは私の父なのです。そのような態度を取られていますと敵を増やしますよ。そうなれば、あなたの父上が亡くなられた後が大変でしょう? 


 ガルデニア王国第三王女———アリシア・フォン・ガルデニア殿下」


 赤髪の少女は「チッ」と一つ舌打ちをした。


 彼女こそがこのゲームのメインヒロインであり、この国の王女である。


「ボクには関係ない。王位なんて兄上の内の誰かが継ぐだろうし、こんな国知った事か。ボクはこの学園で力をつけて旅に出るんだ。だから君に愛想をよくする必要もない」


 しかも———ボクッ娘だ。


「ハッ、それはお父上が許さんでしょう。この学園に来たのもあなたの意志ではない。御父上の意志だと聞いておりますよ。それも……隣国の皇子ミハエル・エム・プロテスルカ殿との仲を深めるためだとか」


 アリシアの許嫁ミハエル―――プロテスルカ帝国の第一皇子で、次期皇帝とされている人物。ガルデニアとプロテスルカは長い間戦争状態にあったが、ほんの五年前に講和条約を結び、互いに不可侵条約を結んでいる。


 そして友好の証しとして互いの子供を婚約させる。


 要は、アリシアは政略結婚にプロテスルカ帝国に差し出されていると言うわけだ。


 今後戦争を起こさないように友好関係を結ぼうと娘を他国の嫁に出す————歴史を見ればよくあることだが、それに対して当の本人が反発すると言うのもよくあることだ。


「誰があんな気持ち悪い男と結婚なんかするもんか! ボクは弱い男となんか結婚しない!」


 いーっと歯をむき出しにして、反抗心を表すアリシア。


「ほう……では誰と結婚するつもりですかな?」


「それは……わからないけど……もっとかっこいい男と結婚するんだ! 男らしくて逞しい強い男と! あんなずっと本なんか書いて自分の世界にこもるような男と結婚するか! それになんか、目つきが嫌らしいし……」


 自分の体を抱きしめるアリシア。


「ハッ……! どこまでも頭がお花畑でいらっしゃる!」


 俺は、一蹴した。


「何ィ~?」


 子供が望まぬ結婚を親に強制させられている。それは同情するべきことで、自由恋愛が許される現代では非難されるべきものだろう。

 だから、自分の好きな相手と結婚したいと望む彼女の意志を本音を言うと尊重したいが、俺はシリウス・オセロットなのである。


 ここで優しい態度を取ってはいけない。


「現実が見えてない。ただ大人になりたくないから、漠然とした白馬の王子様を待ち続ける。あなたはただの子供に過ぎない。いや、籠の中の鳥か。青い空に旅立つことだけを夢想し一生を終えるだけの、ただの鳥よ」

「何ィィィ~~~~?」


 流石に頭に来たようで、肩を怒らせて接近し、パンッと俺の頬を張った。


「お前に何がわかる‼ 失礼な奴だ‼ これだから男は嫌いなんだ‼ どいつもこいつもボクが女だからって上から目線で‼ 誰も王女に産んでくれなんて頼んでいないのに‼ いいよな、お前らは自由で! 王族は自分の結婚相手もまともに決められないって言うのに‼」


 甘ちゃんだなぁ……こいつ。

 この先のシナリオで、これとほぼ同じ内容のセリフをロザリオに吐く場面がある。

 王位を簒奪(さんだつ)されたロザリオに対してだ。

 そのことを深くアリシアは後悔して、自らを省み成長し、真のノブレス・オブ・リージュに目覚めるという名シーンがあるのだが、それはまた先の話でシリウスの死後の話だ。

 俺は心を鬼にして、ギロリとアリシアを睨みつける。


「な、なんだよ……やるか? 決闘なら受けて立つぞ!」

「決闘? ハッ! しませんよ。王女様相手に決闘などバカバカしい」

「何ぃ? それはボクが女だからか! 女子供は戦う価値もないって言いたいのか!」


「女だからではない———貴様が弱いから相手にせんのだ」


「———ッ!」


 少し語気を強めて言うと、ビクンとアリシアは背筋を硬直させた。


 おっと、少し怖がらせ過ぎた。


 王女様相手に〝貴様〟なんて言うもんじゃないな。

 俺はこれ以上怖がらせないよう、できるだけの笑顔をアリシアに向け、


「そんなに自由が欲しいのなら、この先にいる者に会ってごらんなさい。そして知るがいいでしょう。自由であるということは何も持っていないということを———」


 先ほど俺が吹き飛ばした薔薇(ばら)園を指さす。

 そこには何も持っていないがゆえに何物でもなれるこの物語の主人公・ロザリオ・ゴードンがいる。


「……………ッ!」


 アリシアは俺に対して背を向けまいと、じりじりと横歩きで通り過ぎていき、俺の後ろに回るとダッと薔薇園へ向けて、逃げるように駆け出していった。


「フゥ………」


 これでいい。

 本来のシナリオ通りだ。

 アリシアの初登場シーンはティポとザップにボコボコにされたロザリオを助けるシーンから始まる。情けないとロザリオを罵倒しつつも放っておけずに介抱するという、彼女のツンデレらしさが詰まっているシーンだ。


「あとはお若い者同士でってやつか……」


 何とか、ロザリオのフォローもできたな。

 彼女に励まされて彼も頑張ることだろ。


「ハァ……でも、アリシア。可愛かったなぁ……」


 せっかく転生したのだから、できれば俺がアリシアと添い遂げたいと願ってしまうが、それを望むにはシリウスは罪を重ねすぎている。


「俺はどう頑張っても、所詮はシリウス・オセロットだからな……」


 美人なアリシアを未練がましく思いつつ、心の中でロザリオに「がんばれ」とエールを送って、俺は校舎へと歩を進めた。

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