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悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~  作者: あおきりゅうま
第一部 悪役貴族は死ぬべきなのか?
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第19話 古代兵の呪詛

「邪魔をするぞ!」


 石室(せきしつ)の扉を勢いよく開ける。


「———ヒッ⁉ お兄様っ……⁉」


 びっしりと額に玉の汗を作っていたルーナが振り返る。


 彼女の前には何十体もの古代兵(ゴーレム)たちがいる。


 部屋というには広すぎる、体育館ほどのスペースがある石室。そこに敷き詰めるように詰め込まれた人間大のサイズの古代兵(ゴーレム)たち。


 ———のっぺりとしたタマゴ型の頭部に、人形のようなつるっとした手足。名前こそ「ゴーレム」というが、それよりも木製のデッサン用の人形な姿をした「パペット」の方がビジュアルとしては近い。


 それらが兵馬俑(へいばよう)のようにびっしりと並ぶ。


「な、何様(なによう)ですか……? 緊急の用事でも? ですが、この〝鍛錬〟は何があっても中座するなとご当主様から……ギガルト様から仰せつかっております(ゆえ)……」


 休めていた‶鍛錬〟の手を再び動かそう持っていた〝杖〟を強く握りしめるルーナ。


 彼女の持つ杖には、赤い宝玉が先端に付けられていた。


 ‶ギャラルホルンの杖〟———特別な加工をされた魔法石が使われた魔道具(まどうぐ)で、それに術者の魔力を送り込み、古代兵(ゴーレム)たちに飛ばす。遠隔操作のための中継アンテナのような物……リモコンのような道具である。

 それ一つで何百という古代兵(ゴーレム)に術者の意志を伝え、操ることができるの優れモノだから実際のことろ、リモコンよりもこちらの方が、優れている。


「んんっううううううううううううううう………‼」


 杖の先の赤い宝石が輝き、ルーナの体がバチバチと黒い稲妻が包む。

 ‶ギャラルホルンの杖〟を使うことで、この部屋にいる何十というゴーレムを操っている。その反動ダメージが、彼女の体を襲いつづける。


 だから俺は、悶える彼女の手を掴んだ。


「うぐうううううう……⁉ お兄様何を……⁉ 例えお兄様と言えども邪魔は……⁉」


 バチバチとした稲妻が、俺も襲い始める。


「たわ、け……誰が邪魔するか……」


 いや、これ本当に痛いな……!

 彼女の体に触れると雷撃が俺の体にも伝わってくる。


 昔、温泉街で使ったことがある電流を流す低周波マッサージ器。あれが壊れていて、バチッと罰ゲームのような電撃が襲ってきたのだが。それの何万倍……いや、何億倍もの痛みが襲い掛かってくる。

 こんなもの、何秒とも耐えられない。


「グッ……!」


 悲鳴を上げたい。

 だが、それはシリウス・オセロットとしてできない……。


「この……古代兵(ゴーレム)を……近日、使う要件(ようけん)があるのだ。このような動きも遅く———、」


 ルーナが操作している古代兵たちはゆっくりとした動きで足を上げ下げして、その場で行進をしているような動きを取っていた。


「———(オレ)(モノ)に痛みを与えるものなど……非効率で使えるものか! だから、改良してやるのだ!」

「お兄……様……?」


 ‶ギャラルホルンの杖〟に触れて、古代兵(ゴーレム)の‶魔法回路〟にアクセスする。

 魔法というものは「魔力の属性の付与」「付与した属性魔法の組み合わせ」その二つが重要であるというのが、【バカでもわかる基礎魔法】に書かれていた。


 要は言語やプログラミングと同じである。

 一つ一つ違う素材を組み合わせ、高度なものを形作る。


 そして、人も魔物にも道具にも魔法回路という魔力が通っている回路があり、魔力はそこを通って魔法という形になる。


 古代兵(ゴーレム)の場合はそこに命令が上書きされて、通常だと使えないようになっている。

 「ゼブルの国民でない者には従わぬように」———と。

 

 ———『ゼブルの国』というのが何なのかは知らない。


 『紺碧のロザリオ』上で多分キーワードとして出てきていないのでわからないが、おそらくは古代の国だろう。その国民でなければ古代兵(ゴーレム)は動かすことができないと、要はロックがかかっている状態にあったのだ。


 それを———‶禁止〟から〝解除〟へと変質させる。

 

 それには強いイメージと———高質な魔力が必要だ。


「〝シリウス・オセロットが古代兵(ゴーレム)らに命じる———ルーナ・オセロットを認めよ!〟」


 イメージを固めるために、声として発する。

 そして、‶ギャラルホルンの杖〟にシリウスの魔力を送り込む。

 

 イメージだ。

 魔法にはイメージが大事なんだ……。 

 頭の中描いたイメージが、現実に顕現(けんげん)されると強く信じる。


 それが大事なのだと———【バカでもわかる基礎魔法】の6P、【はじめに】の分に書いてあった。


 そして———、


「————え?」 


 ‶ギャラルホルンの杖〟の杖の先端に着いている赤い宝石が、(あお)く色を変える。そして、発せられていた黒い雷撃が消えた。


 ザッザッザッ……!


 そして、先ほどまで緩慢な動きしかできなかった古代兵(ゴーレム)たちが機敏(きびん)な動きでその場で行進をしている。

 ロックが解除されて、ルーナを認めた、彼女でも扱えるようになった証拠である。


「いったいこれは……黒いビリビリが消えましてございます……ですが、古代兵(ゴーレム)たちが私の命令を……きいており……これは一体どういうことですか?」


 ポカンとしているルーナに、俺は手に持っていた【バカでもわかる基礎魔法】の121Pを開いて見せる。


「フン……【誰でもできる呪詛解除☆】というモノをやったにすぎん」


 【応用・誰でもできる呪詛解除☆】———「昔の魔道具には誰でも使えないように呪詛がかかっていることがあるよ☆ それはこれまでに書いてきた【魔力属性の上書き方法】を使って、誰でも解除できるんだけど、モノによっては大量の魔力が必要になるから、高度な魔道具は大人になってから使おうね☆」


 と、コミカルな犬のキャラクターの吹き出しの上に書かれている。


古代兵(ゴーレム)もまた、魔物でありながら魔道具。これを読めば苦しむことなどなく———効率よく動かせる。簡単に済む話だったのだ」

「それでも……私には思いつきませんでした……古代兵(ゴーレム)のビリビリを解除するなんて、お兄様は流石に御座(ござ)います……」


 流石でも何でもない。

 これは後々、『紺碧のロザリオ』上でルーナが自力で辿り着いた方法だ。

 ギガルトが唱えていた「古代兵(ゴーレム)は魔物」という考え方が先行し、「魔道具でもある」という発想にいたらなかったという、蓋を開けてみたら間抜けな話だ。

 だから、俺はそれを知っていたから、俺も辿り着いたに過ぎない。


「フン……先ほども言った通り、近くあるモンスターハント大会で‶これ〟を使うのでな、貴様に(ひと)働きしてもらうぞ、ルーナ」

「は、はい……それは構わないでございます……どういった役割で?」

 

 戸惑っている様子を見せるルーナ。


「この古代兵(ゴーレム)もザコ敵として扱う。強力な敵を配置し、軟弱な生徒たちを更に恐怖のどん底に落としてやるのだ!」

「は、はぁ……」


 一応シリウス・オセロットらしい言い訳を用意しておく。


 本当は安全のためだ。

 古代兵(ゴーレム)を一応敵という(てい)で、生徒たちの傍に忍ばせておき、万が一があったら古代兵(ゴーレム)に生徒を回収させる。

 『(スコルポス)』だけには頼らない、二重の安全策だ。


「そ、それは構わないのですが……古代兵(ゴーレム)は秘密裏に準備しているオセロット家の大事業……ご当主様がそのような表沙汰にすることを許すでしょうか……」

「あ」


 そう言えば……古代兵(ゴーレム)は一応この時点では秘密兵器。ギガルトは一部の自分の味方の貴族をのぞいて、公表をしていないものだった。

 別に完全無視してもいいと思うが……。


「ん? 待て……」


 古代兵(ゴーレム)の、のっぺりとした粘土細工の顔、そして等身大のサイズを見て、思いついたアイディアがある。


「ルーナ、これを人間に似せることはできないか?」

「はぁ……こう見えてもルーナは造形術は得意でありますが……」


 と———ルーナは、どこからともなく彫刻刀と(へら)を取り出した。


「何故そんなものを持っている?」

「お兄様に……常日頃から‶輝かしいお兄様の像〟を作るようにと、命を受けておりまして、そちらの方も日々‶鍛錬〟をばしておりました(ゆえ)

「あぁ……そうか……」


 そういえばこの()は、シリウスに無茶ぶりされて石像造(せきぞうづく)りを叩きこまれていたんだった。

 『紺碧のロザリオ』ではその結果、ロザリオの石膏(せっこう)像を作り、彼にアピールをするというギャグな的な場面に繋がるのだが、ここでもその技術が役に立つようだ。


「では、頼む」

「は、はい……」


 これで———古代兵(ゴーレム)をモンスターハント大会で扱う算段が付いた。

 順調に、準備が進んでいく……。

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