第18話 オセロット家の〝鍛錬〟
オセロット家の〝鍛錬〟———。
それは地下の石室で行われる〝獣魔法〟の訓練のことだ。
獣魔法は魔物を従える魔法であり、それはギガルト・オセロットの悲願である古代兵も例外でない。
古代兵もまた、古代にいた———魔物なのだ。。
それを操る才能が———ルーナにはあった。
それでも、古代兵は発掘したばかりの未知の古代技術の結晶体。
‶正しく動かす方法〟が、正確にはわかっていない。
魔法石を埋め込むことで動くことはわかっているが、それだけでは動かすことはできない。その魔法石に魔力を人間が送り込まないと動くことはない。
それならば、ファンタジーロボットアニメのように人が乗り込んで魔法石に触れて動かす展開を『紺碧のロザリオ』をプレイしている時に俺は期待したものだが……古代兵というのはとてもそのように扱えるしろものではなかった。
まず動きが遅い、石と粘土でできているために、重く、のろのろとしか動けない。だから体が大きくなれば大きくなるほど、鈍重な動きになる。巨大古代兵なんて作ったら、ろくに動かないただの的になる。
そして———一番の問題が、反動ダメージだ。
古代兵を魔法石で動かすと、まるで古代兵が拒否反応を指名してるが如く、反発の雷撃を発する。
それは、本来の動かし方がわからないのに、無理やり獣魔法で動かしているからなのか……操作している間、謎の黒い雷撃が術者を襲い続けるのだ。
それは激痛を与える。
『紺碧のロザリオ』の作中で、ルーナはギガルトに命じられるまま〝鍛錬〟を続け、自力で古代兵を操る獣魔法———操兵を開発し、何十何百体もの古代兵を操ることができる、実は一芸に特化した天才なのだが……、
「ああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ……‼‼」
石室からオセロット家の屋敷中に彼女の声が響く。
このシリウスの部屋までも届いている、操兵の反動で激痛に襲われているルーナの悲鳴。
———彼女は今〝鍛錬〟の真っ最中だった。
「う、あああああああああああああああああああ……! ひぎっ、ぃぃぃいいいいいい‼」
痛みに悶えるルーナの声を、俺は本を読みながら聞いている。
———耐えてくれ……ルーナ……古代兵はモンスターハントで重要な役割を果たすことができる……。
心の中でつぶやいた。
モンスターハント大会。討伐Sランク魔物管理をする上で古代兵もなるべく使いたかった。『蠍』に一応依頼は出していたが、彼らは絶対ではないし、それでも『黄昏の森』に生息するSランク魔物は危険だ。保険はなるべくかけておきたい。
ルーナは大量の古代兵を操ることがゲーム開始時で既にできている。
現在も十数体の古代兵を操って体操でもさせているのだろう。ただ、その間彼女の体に激痛が襲い続ける。なので長時間の操作ができない。
ギガルトが彼女に‶鍛錬〟を課し続けている理由はそれである。
〝鍛錬〟というのは古代兵の操作時間を伸ばすための訓練なのだ。
だが、一体の操作だけでも肉体に相当の負担がかかると言うのに……それを何十体も同時に動かす……ルーナの体を襲う激痛は想像できるものではない。
「あぁっ、あが……んぐぐぐぐっ、や、やだああああああああッッッッ!」
この悲鳴は昨晩も聞こえていた。
俺は止めに入りたかったが、昨日はギガルトも家にもいたし、シリウス・オセロットとして、優しさを見せてはいけないと迷っていいるうちに‶鍛錬〟が終わってしまっていた。
原作ゲームのシリウス・オセロットはこの悲鳴を聞いて寝るのが人生で一番の快楽だと笑って言っていたが、そんな心情になれるのはサイコパスだけだ。
———あいにくと俺は普通の神経をしている。
女の子が悲鳴と上げていれば、例え柵があろうと何とかしたくなるものだ。
「んアあぁぁぁぁああああああああああああぁぁぁ…………‼」
パタン……。
俺は読んでいた本を閉じた。
タイトルは———【バカでもわかる基礎魔法】。
「うん……大体わかった」
この状況を打破する魔法に関する知識は、おおざっぱにだが身に着けた。
だから———俺は、急いで石室に向かうことにした。