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悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~  作者: あおきりゅうま
第一部 悪役貴族は死ぬべきなのか?
102/112

第102話 にょ~ん……って。

 湖畔からアリシアが上がっていく。


「これで……8体目……」


 濡れた服を絞り、地面にぽたぽたと水滴を零す。

 本日出現した2体目のウォータースライムを先ほど倒したところだ。

 目標の100体まであと92体……か。


「できると思うのか?」


 隣に立つナミに聞く。


「できます」


 すっかり目を覚まし、凛とした雰囲気を携えて(たたず)んでいる。


「今はアリシア王女のレベルが足りていないだけ。ウォータースライムがDランクの魔物でまだ熟練していないアリシア王女はせいぜい騎士ランクでいうところのE。一段ランクが低い状態ですので時間がかかって当然です」


 この世界では騎士、魔物共にランク付けがされている。

 武器を持っただけの素人、あるいはそれで討伐可能な魔物がF。それを基準に熟練度が増すにつれて、アルファベットを遡っていく。

 Dランクと言えば、一年程度は戦闘経験を積んでいる初級騎士と中級騎士の間ぐらいの人間、またはその程度なら討伐可能な魔物。

 まだ学園に入学して間もないアリシアはEランクで当然なのだ。それが彼女たち聖ブライトナイツ一年生の平均だ。

 だが———平均では、平均のままではダメなのだ。


 なにしろアリシア自らが、卒業生であるアリサ・オフィリアに喧嘩を売ってしまったからだ。


「討伐100体という目標を達成したとしても勝てるかどうかは怪しいな……」

「はい……まず勝てないと思っています。それだけお姉ちゃんは強い〝はず〟ですから」

「はず?」

「ええ———」


 泉から出現してくる9体目のウォータースライムと対峙し始めたアリシアから視線を逸らし、ナミの方を向く。

 

「何だその曖昧な言い方は。アリサの実力を正確には知らないのか?」

「あ、はい……そう言われれば……3年以上直接手合わせしてないので何とも……」

「何だと⁉ (オレ)はお前がアリサの戦術をよく知っているものだと……!」


 だから、こうして無理やり連れてきたのに……!

 アリサの戦い方を熟知しているからこそアリシアのいい教師になると思い、この修行に引っ張り込んだ。そして一日目は自信満々にアリシアに対して「ウォータースライム100体討伐」という修行メニューを課したので俺の判断に間違いはなかったと思ったのに……!


「妹だろう? なぜ知らない……⁉」

「いや……お姉ちゃん学校入って戦い方変えたんですよ……昔は私と同じ居合術・剣仙源流(けんせんげんりゅう)を使ってたんですけど……なんか分流の方に切り替えちゃったみたいで」

「それでも姉妹だから多少の手合わせぐらいはするだろう⁉」

「いや……なんかそんな雰囲気にならなくて……それにわざわざ家族で手合わせしなくても騎士学園にいるんですから、する必要性がなくて……」

「なん……だと……?」


 じゃあ、あの湖の上で戦っている、スライムの触手をかいくぐって肉薄しようとしているアリシアの修行は全く的外れの可能性があるということか———?

 このナミ・オフィリアという女は……本当に相変らず……!


「まぁ……でも……大体こんな感じで大丈夫だと思いますよ……」

「何を根拠にそんなことを……! お前はアリサ・オフィリアの実力を知らないのだろう……?」

「大体はわかります。(いにしえ)魔活剣術(まかつけんじゅつ)を極めた男———〝剣仙(けんせん)〟。その直系のオフィリアの家には〝剣仙流(けんせんりゅう)〟の資料がたくさんあって、私はそれを暇なときに読んでましたから」

「だから、なんだ?」

「いや……だからです……」


 今、理由を言ったじゃないかと。

 アリシアの修行がアリサを打倒するのに効果的である理由を述べたじゃないかとキョトン顔で俺を見るナミ。


「だからですじゃわからんと、いつもいってるだろうが!」

「ヒ、ヒィ……!」


 先ほどまでの凛とした雰囲気は何処へやら、最初にあった頃のビクビクした雰囲気に逆戻り、怯えながら彼女は答える。


「だから……大体覚えてるんですよぉ……! 剣仙分流(けんせんぶんりゅう)の源流から別れた99の剣術も……!」

「……99の剣術が、全部その頭に入っているのか?」

「一応……」


 自信なさげに答えるが……普通にもっと誇ってもいい。

 いい加減そのビクビク怯えたような性格を変えて欲しいものだと思うが……まだ友達を一人作った程度なので、そこまでの自信を持てないのだろう。

 何となく……ナミの言うことに従えば、アリサに勝てるような気がしてきた。


「ところで、ナミの使う剣術はという名前の剣術なのだ?」

「名前は……忘れましたけど……とりあえず剣が伸びる奴です……にょーん、って……にょーん、って……」

「……わかった。剣術の名前はいい。剣が伸びると言うがそれはどういう理屈で伸びるのだ?」

「いやだから……にょ~ん、って感じで伸びます」


 やっぱダメかも……。


 ひたすら両手を伸ばして伝えようとするナミの言葉に具体性はなく、アリサがどんな剣術を使うのか、さっぱりわからなかった。


 ◆


 一方その頃、ハルスベルク『イタチの寄り合い所』の裏道で———。

 日が差し込まない薄暗いその路地にガラの悪い連中が(たむろ)していた。

 全員、『(スコルポス)』の構成員だった。

 顔立ちは多少老けていたり、幼かったりはあるものの、体つきや姿勢から感じ取れる雰囲気はどことなく若い。

 まだ組織に入ったばかりの連中だった。


「よ~っす☆ あんたらもひっさっしぶり~」


 その中に似つかわしくない、軍服風の格好をした茶髪の女がやってきた。

 アリサ・オフィリアだ。

 彼女が来た瞬間、ガラの悪い連中の顔が明るくなる。


(あね)さん! 久しぶりっス」


 モヒカン頭が頭を下げ、わらわらと彼女へ向かって集まって来る。


(あね)さんはもうやめろって……もう学生ギルドなんてダセーもんは昔の話だし、あんたと私同い年だし」

「でも……俺達はずっと(あね)さんのことをリーダーだと思ってます! 聖ブライトナイツの学生ギルド『ムメイ』は俺らの青春っスから!」

「だから……やめろってそれ、立派な黒歴史だから」


 頭を抱えるアリサ。

 だが、直ぐに首を振って気を取り直す。


「それで……これからの話だけど……『(スコルポス)』に行った私の友達(ダチ)には、大体話しまわしてくれたんだよね?」

「あ、はい! 嬉しいなぁ~……また、俺らで暴れ回れるなんて!」


 モヒカンが腕をグルグルと回す。

 それに対してアリサは慌てたように人差し指を立てて口に当てる。


「し~……! 物騒なことを言うなって……暴れるんじゃない、あくまで遊ぶだけ。あ・く・ま・で、ちょ~っと……派手に遊ぶだけだからさ……」


 意地の悪い笑みを浮かべるアリサを、壁の陰からロザリオ・ゴードンは観察していた。

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