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昔話の御札

作者: ウォーカー

 九月。夏本番が終わり、秋の気配を感じさせる季節。

過ぎゆく夏を名残惜しむように、

各地の神社では夏祭りや盆踊りが行われている。

ここ、地方にある小さな農村の神社でも、

近隣の人たちが集まって、夏祭りが行われようとしていた。


 農村の夜は早く訪れ、日が暮れれば静かなもの。

日中の暑さは鳴りを潜め、鈴虫の鳴き声が主になる。

しかし、今日は夏祭り。神社を中心とする華やかな喧騒が主だった。

普段は村の外に出稼ぎに出ている大人たちも、今は村に戻ってきていて、

夏祭りの人出はちょっとした都会を思い起こさせるほど。

立ち並ぶ大人たちの人混みに紛れて、4人の子供たちが集まっていた。

「よう、待ったか?」

「ううん、わたしも今来たところ。」

「あたしも。」

「僕は少し待ちましたけどね。」

4人の子供たちは、近隣の小学校に通う友達同士。

年は多少違うのだが、都会の学校とは違って、上級生下級生が気安い。

その4人の子供たちは、大人たちにもらったお小遣いを手に、

この夏祭りに遊びにやってきたのだった。


 4人の子供たちは早速、夏祭りが行われている神社と村を練り歩いた。

ソースせんべい、金魚すくい、焼きそば、などなど、

夏祭りの名物を堪能していく。

「やっぱりお祭りの食べ物は美味しいね。」

「そうですか?どれも添加物が多そうな駄菓子ですが。」

「お前は一言多いんだよ。」

「まあまあ、みんな仲良くね。」

澄ました顔で嫌味を言う眼鏡の男の子を、坊主頭の男の子が軽く小突く。

おかっぱ頭の女の子がソースせんべいを美味しそうに齧り、

長い髪の女の子が微笑ましそうにそれらを見ている。

いつもの仲良し4人組。

しかしそこに、もう1人の子供がいることに気が付いた。

いつの間にそこにいたのだろう。

その子供は男の子。歳は4人の子供たちと大差無いだろうか。

ボサボサ頭で、服装は古く見窄みすぼらしい。

どこかぼーっとした様子で、4人の子供たちの近くに佇んでいた。

好奇心旺盛な、坊主頭の男の子が、興味深そうに話しかけた。

「お前、見ない顔だな。どこの子だ?」

「・・・おいらのことかい?おいらもここの村の者だよ。」

「へえ、そうだったのか。」

「そうなんですか?僕は見たことがありませんが。」

「あなた、お父さんとお母さんは?」

長い髪の女の子が尋ねると、ボサボサ頭の男の子は頭を横に振った。

「わからない。もうずっと会ってないから。

 ずっと前から出稼ぎに行ってるんだって。」

「夏祭りなのに、一度も帰ってきてないの?」

「わからない。帰ってきてるかもしれないけど、会うのが怖い。」

「どうして?」

「・・・おいら、何をするかわからないから。」

言っていることが何だかおかしい。

ボサボサ頭の男の子には、何か事情があるようだ。

4人の子供たちは顔を見合わせて頷き合った。

子供が少ない農村の子供たち同士、

訳ありの子供の対応は心得ているつもりだった。

「じゃあさ、俺たちと一緒に夏祭りを周ろうぜ!」

「そうね、子供が1人で夜に出歩くのは危険だもの。」

「えっ、でもおいらは・・・」

「いいから、いいから。さっ、あっちに行ってみよう!」

そうして、4人の子供たちは、夏祭りで出会った見知らぬ男の子と、

行動を共にすることにした。


 ボサボサ頭の男の子は、半ば手を引かれる形で連れ回されていた。

しかし、4人の子供たちがわいわいと楽しんでいるのを見て、

おっかなびっくり、徐々に打ち解けていったようだ。

やがて自分から夏祭りの駄菓子を食べたり、射的や輪投げを楽しんだりと、

子供らしい適応能力で楽しむようになっていった。

「お前、知ってるか?

 この夏祭りで使われてる箸や皿は、全部食べられる素材でできてるんだぜ。」

「へえ、そうなんだ。おいら、全然知らなかったよ。」

「この村ではね、かつて大変な食料危機があったんだって。

 だからその時の教訓で、食べ物は粗末にしないの。

 お皿やお箸についたソースだって無駄にしないように、

 それが付いたお皿やお箸ごと食べられるようにしてあるんだよ。」

「へぇ、それは面白いな。」

そんな様子で、ボサボサ頭の男の子も、夏祭りを楽しんでいた。

夏祭りを端から端まで存分に堪能していく。

しかし、どうしても近付きたがらない場所があった。

「そんなに怖がらなくても平気だって!

 お化け屋敷って言ったって、村の大人たちが用意したものだぜ?

 神社で作った御札を空き家に貼っただけの子供騙しだよ。」

「そんなこと言って、去年は背中にこんにゃく入れられて飛び上がってたよね?」

クスクスと笑い合う4人の子供たち、

しかしボサボサ頭の男の子は怯えたままだった。

「ごめんね、おいらはやっぱり、あそこには入れないよ。」

「どうして?」

「もしかしたら、お父さんとお母さんがいるかもしれないから。」

「ご両親がお化け屋敷の係員かもしれないということ?

 それなら会えるんだから、丁度いいじゃない。」

のんびりした話にしようと努めるが、

しかしボサボサ頭の男の子の様子は尋常ではなかった。

「おいら、もしも、お父さんとお母さんに会ったら、

 何をするかわからないから。」

そう話す表情は鬼気迫っていて、目は血走っていた。

どうも、深刻な事情があるようだ。

仕方がなく、4人の子供たちは他所へ移動することにした。

移動の最中にそっと顔を覗くと、

ボサボサ頭の男の子が、

お化け屋敷の御札を食い入るように睨んでいたのが気になった。


 夏祭りが始まって時間も過ぎて、宴もたけなわ

この神社の夏祭り恒例、神社の神職である宮司の昔話が始まった。

夏祭りの会場の中心の広場にみんなが集まって、

宮司の老爺を中心にして車座に座る。

皆の顔が提灯に照らされて、ちょっとした怪談の様相。

おっほん!と咳払いを一つ、宮司の老爺の話が始まった。


今から話すのは、昔にこの村で実際にあった出来事。

この村ではかつて、大きな飢饉が発生した。

水は干上がり、作物は採れず、人々はその日の食事にも困る有様。

藁にもすがる思いの村人たちは、

わずかばかりの蓄えをはたいて、

魔除けの御札だの御守りだのを買い集めたりもした。

しかし、もちろん、御札や御守りで飢饉は祓えない。

どうすることもできず、大人たちは村の外へ出稼ぎに行くことになった。

一人、また一人と村から大人が姿を消し、後には子供たちだけが残された。

子供の食は細いとはいえ、それでも食べ物は足りない。

飢えた子供たちは衰弱していき、明日の命も知れない生活。

あわやというところで、やっと、出稼ぎに出ていた大人たちが帰ってきた。

村人たちは、子供も大人も、待望の食べ物にありついたというわけだ。

しかし、村人の全員が助かったわけではなかった。

まだ一軒だけ、大人が出稼ぎに出たまま帰らない家があった。

その家には小さな男の子が一人いて、じっと両親の帰りを待っていた。

この家の両親は、幼い子供を置いて出稼ぎには行けないと、

最後まで出稼ぎに出るのを渋っていた。

だが、最後には仕方がなく、食べ物を求めて出稼ぎに出ていったんだ。

それから待てども待てども、その男の子の両親は帰ってこない。

その間、その男の子は家から出てくることはなかった。

当時、この村では、隣近所で助け合うという習慣が乏しかった。

やがて、男の子の姿が見当たらないと、

村の大人たちが家の中を調べると、そこには。

口の中に御札をぎっしりと入れ、

御札で喉を詰まらせた男の子が死んでいた。

どうやら、男の子の両親は、御札で男の子を清めようとしていたらしい。

体の中に巣食う空腹の餓鬼を祓おうとして、

喉に御札を詰めて死なせてしまったに違いない。

子供を死なせてしまった罪悪感から、村の外に出て行って、

そのまま帰ってこないのだろう。

村の大人たちはそういう結論を下し、男の子の亡骸は丁重に埋葬された。

すると、それから僅か数日後、その男の子の両親がひょっこりと村に戻ってきた。

息子はどうしていますか!?

数日前に亡くなってたのが見つかったよ。もう埋葬も済ませた。

あんたたち、今までどこで何してたんだ?子供を放ったらかしにして。

村人から罵られても、その男の子の両親は何も言い返さなかった。

ただ一言。あの子のお墓はどこですか。

それだけを聞いて、お墓へ向かっていった。

数日後、村の大人がお墓に行くと、

その男の子のお墓の前で、両親もまた亡くなっていた。

その時に調べてようやく気が付いたのだが、

男の子の両親の体は痩せ細ってボロボロで、

荷物には僅かばかりの食べ物が残されていただけだった。

きっと子供を見捨ててもなお行き場が見つからず、

仕方がなく村に戻ってきたのだろう。

男の子と両親との3人の遺体を埋葬することになって、

この村の者たちはやっと気が付いた。

みんながバラバラのままでは、この一家3人と同じになってしまう。

狭く貧しいこんな農村では、隣近所との協力が欠かせない。

そうして、この村では隣近所との協力が大事にされるようになって、

村人同士の友好のために、この夏祭りが行われることになりましたとさ。


パチパチパチと、湿っぽい拍手が村人たちから上がった。

かつてこの村で起こった悲しい出来事。

食べ物が無いばかりに、子供が置き去りにされ死ぬことになった事件。

しんみりとしている村人たち。

しかしその中で、ボサボサ頭の男の子だけが、何やら頭を抱えて唸っていた。

4人の子供たちが様子を伺う。

「どうしたの?具合でも悪い?」

「・・・いや、違う。」

「具合は問題ないの?」

「いいや、そうじゃない。

 今のお爺さんの話、おいらが知ってる話と違うんだ。」

「違うって何が?君は何を知ってるんです?」

「詳しくは思い出せないけど、あのお爺さんの話は間違ってる。

 みんな、手伝って欲しい。おいらの一生のお願いだ。頼む。」

宮司の老爺の昔話が間違っている。そんなことがありえるのだろうか。

仮に間違っていたとして、ただの昔話に過ぎないはず。

だが、間違いだと主張するボサボサ頭の男の子の顔は真剣そのもの。

4人の子供たちも、何か違和感を感じているのは事実のようで、

眼鏡の男の子が、眼鏡をすっと整えて答えた。

「なるほど、確かに考えてみると、今のお爺さんの話は変ですね。

 それが何を意味するのか、あなたが何を知っているのか、わかりませんが。

 協力してみるのもよさそうです。みんな、良いですね?」

「ああ、いいぜ。

 こうして今日一緒に夏祭りを周ったのも何かの縁だ。」

「そうね。協力が大事って話を聞いたばかりだものね。」

「うんうん、あたしも役に立てることがあれば、協力するよ。」

「・・・みんな、ありがとう。」

4人と1人の子供たちが頷いて、

眼鏡の男の子が挙手をして高らかに宣言した。

「待ってください。今の話は間違っています。

 それをこれから正していくので、みなさん、もう少し続きを聞いてください。」


 かつてこの村で起こった悲しい出来事。

飢饉で見捨てられた男の子が亡くなった事件。

神社の宮司の老爺が話した昔話は、

しかしボサボサ頭の男の子によれば間違いだという。

確かに考えてみると、おかしい場所もある。

4人の子供たちは、ボサボサ頭の男の子と共に、

夏祭りに集まった村人たちに向かって話し始めた。

まず眼鏡の男の子が突破口を開く。

「聞いてください。

 今のお話では、亡くなった男の子の両親は、子供を見捨てたという話でした。

 でも、それは変です。

 もしも本当に子供を見捨てて村から出ていったのなら、

 その後で帰ってくるはずがない。」

こんな風に、子供の口から発せられたのは、思ったよりも論理的な話で、

耳にした大人たちは虚を突かれたようだった。

やがて、あちこちから反応が返ってきた。

「それは、子供を見捨てたけども、他にも行き場がなくて、

 仕方がなくこの村に帰ってきたんだろう。」

「いいえ、それは違うと思います。

 両親は亡くなる直前に痩せ細っていたことから、餓死である可能性が高い。

 飢えているのであれば、移動するよりも先に食べ物を探すでしょう。

 しかし、両親は、食べ物よりも村へ帰ってくることを優先した。

 荷物に食べ物を残したままで餓死してしまうほどに飢えていて、

 それでもなお村に帰ってきたのは、きっと、

 村に残した男の子に食べさせるためだったのでしょう。

 荷物には僅かな食べ物しかなかったのではなく、

 実際には、子供の分の食べ物を残していたのです。

 子供を見捨てた両親が、自らの食事も摂らず、

 子供に食べ物を持って帰るわけがありません。」

両親は男の子のために食べ物を残していた。

確かにそうかもしれない。

そのことに反論する人はいないようだ。

しかし、今度は別の反論が起こった。

「じゃあ、男の子が御札を喉に詰めて死んでいたのは何なんだ?

 あれは両親が、男の子の腹の中の餓鬼を祓おうとしたんじゃないのか。」

すると今度は、長い髪の女の子が声を上げた。

「それは違うってことは、わたしでもわかります。

 だって、男の子が亡くなっていたのが見つかったのは、

 両親が出稼ぎに出てから、しばらく日数が経ってからだった。

 もしも、両親が男の子を殺してから出かけたのなら、

 かわいそうだけど、遺体が綺麗なままでは残ってなかったと思います。」

「じゃあ、誰が何のために口に御札を詰め込んだんだ?」

その疑問にはすぐに答えは出てこず、う~んとみんなが唸った。

やがて、ハッとおかっぱ頭の女の子が声を出した。

「もしかして、御札は男の子が自分で口に入れたんじゃない?」

「自分で御札を口に?何のために?」

「口に入れるんだから、食べるためだよ。

 だって、飢饉で食べ物が無かったんでしょ?

 もしかして男の子は、食べ物に困って、御札を食べようとしたんじゃないかな?

 考えてみれば、この夏祭りで使ってるお皿やお箸だって、食べられるじゃない。

 だったら、御札を食べようとすることもあるかも。

 きっとそうだよ!」

すると眼鏡の男の子が、してやったりと微笑んでみせた。

「なるほど、御札を食べようとしたというのは、当たりかもしれません。

 良質の和紙は、植物素材を多く含んでいます。

 水でふやかせば、食べられなくもないでしょう。

 食べ物を選べない飢饉の際は特に、食べようとした可能性がある。

 ですが不幸なことに、飢饉で水も不足していたのでしょう。

 水もなく食物繊維ばかりの御札を無理に食べようとして、

 男の子は御札を喉に詰まらせてしまった。

 つまり、これは事故死です。」

男の子の死因は事故死。

現代的な言葉での説明に、夏祭りの会場がどよめく。

すると坊主頭の男の子がうんうんと頷いて言った。

「なるほどな。それでわかったよ。

 飢饉の時に村では魔除けの御札が流行ったんだって?

 きっと正直者の大人ほど、大事な蓄えを御札に換えてしまったんだろう。

 その男の子の家には食べ物は無く御札ばかりが残っていた。

 それもまた、両親が正直者で悪さをしない証明になる。

 それと、その男の子の両親は、

 最後まで子供を置いて出稼ぎに行くのに反対してたんだろう?

 出稼ぎに出かけるのが遅くなれば、近場の良い出稼ぎ先は先客に取られて、

 どうしても遠くて条件が悪い出稼ぎ先しかなくなってしまう。

 だから、男の子の両親は帰るのが一番遅くて、

 それから持って帰った食料も少なかったんだ。」

つまり話を総合すると、こういう結論になる。


男の子が喉に御札を詰めて死んでいたのは、御札を食べようとしたから。

正直者の両親が、僅かな蓄えも御札に換えてしまい、

食べ物も飲み物も無く、食べる際に事故が起こってしまった。

両親の帰りが遅かったのは、出稼ぎに出かけるのが遅かったので、

遠くに出稼ぎにいかねばならなかったから。

しかし、やっと帰った頃には子供は亡くなっていて、

子供のために取っておいた食料を残したまま、両親も餓死してしまった。


親が子供を見捨てたという昔話の真相は、貧しさがもたらした不幸な事故だった。

夏祭りにいる誰もが納得しているのを見て、4人の子供たちは満足そうな笑顔。

「どうだい?これで間違いは正せただろう?」

「最初にあなたが切っ掛けを与えてくれたおかげですよ。」

ボサボサ頭の男の子を喜ばせてやろうと、4人の子供たちが振り返ると、

しかしそこにボサボサ頭の男の子の姿は無かった。


 話におおよそ決着が付いて、集まっていた村人たちはやっと緊張を解いた。

長い間、村で信じられていた昔話の真相が究明され、

この村に悪い人がいたわけではなかったとわかった。

それでも、昔話の教訓は変わらない。

隣近所で協力できなければ、小さな農村ではすぐに困ることになる。

大人たちはそれを確認するのだった。

一方、間違いを暴いた4人の子供たちはというと、

姿を消した仲間の行方を追って、夏祭りの中を駆けずり回っていた。

しかし、どうしても見つけることができず、元の場所に戻るしか無かった。

「あの子、見つかった?」

「いえ、どこにも見当たりません。」

「あいつ、どこ行っちゃったんだろうな。」

「こんなに探しても見つからないってことは・・・」

広くもない村で子供が隠れるのには限界がある。

そもそも、誰も知らない男の子が突然現れたのがおかしかった。

ボサボサ頭の男の子の正体について、4人の子供たちは薄々気が付いていた。

でも、一緒にいたくて、普通の男の子として接していた。

それが、昔話の間違いを正したことで、終わってしまったようだった。

うなだれる4人の子供たちに、宮司の老爺がやさしく語りかけた。

「子供たちよ、ありがとう。

 おかげで、長い間気が付かなかった間違いを正すことができた。

 昔話の男の子や両親に謝らなければいけないね。

 しかし、もうずっと昔に亡くなっている人たちだから、

 どう供養したものやら。」

すると、4人の子供たちは顔を合わせて、元気よく言った。

「いい考えがあります!」


 いよいよ、今年の夏祭りも終わりの時が近付いてきた。

しかしその前に、夏祭りの最後に追加する、ある準備が行われることになった。

今年の夏祭りに追加することとは、

長らく昔話で濡れ衣を着せられていた人たちを供養すること。

そのために何ができるかと言うと、4人の子供たち曰く。

「食べ物が無くて亡くなった人たちだから、お供物は食べ物が良いと思う。」

「それも、思い入れがあるものが良いですよね。」

「昔話の間違いがわかって、裏表が入れ替わったみたいに、

 印象がくるっと変わるといいよね。

 食べられる御札なんて、どうかな?」

「ちょうどこの夏祭りの会場には、食べられるお皿やお箸がたくさんあるものね。

 あれを少しいじれば、食べられる御札が作れると思う!」

そうして4人の子供たちの発案で、食べられる御札作りが始まった。

とは言え、今は時間も食材も限られている。

食べられる皿を切って即席の御札の形にして、

ソースやケチャップを文字の形にして、呪符を書き込んでいく。

文字が消えないように炙ったり、色や味を換えてみたり、

楽しい夏祭りの雰囲気も加味していく。

辺りに焦げたソースなどの香ばしい香りが広がっていく。

その匂いと賑やかさに惹かれたものどもが、

神社や村の中にたくさん集まっていることに、

村人たちが気が付いていないのは幸いだっただろう。

そうして出来上がった食べられる御札は、

神社や近所の墓地などに奉納されることになった。

村人たちで協力して、食べられる御札をあちこちに配り終えて、

最後はみんなで村の共同墓地に集まった。

すると、どこからか、聞いたことがある声が聞こえてきた。

「みんな、ありがとう。本当のことを教えてくれて。

 おいら、あの時のことをあんまり覚えて無くて、

 ただ御札が怖いとしかわからなかったんだ。でも、それももう終わり。

 やっぱり、お父さんもお母さんも、誰も悪くなかったんだね。

 これでおいらも安心して、お父さんとお母さんに逢いに行けるよ。

 みんな、本当にありがとう。じゃあ、またね。」

4人の子供たちが、聞こえる声を追って頭上に向けていた視線を下げると、

男の子のお墓にお供えしておいた、食べられる御札は、

ペロッときれいに平らげられたように無くなっていた。

そこには代わりに、手作りらしい家内安全の御守りが置かれていたのだった。



 そんなことがあって、その農村で言い伝えられていた昔話は内容が変わった。

子供を捨てた両親の話ではなく、最後まで子供を守ろうとした両親の話へと。

それから、夏祭りには、食べられる御札を作って奉納することも風習となった。

すると、その村の食べられる御札は、美味でご利益もあるということで、

やがて村の名物になっていったのだった。



終わり。


 夏もそろそろ終わりなので、夏祭りをテーマに、

怪談にはよくある御札を合わせて一つの話にしました。


最近は屋台などで食べられる食器が使われると聞いて、

それなら食べられる御札があっても良いかも知れないと、

御札を食べる理由を考えていきました。


お読み頂きありがとうございました。


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