涙が止まらない
なんやかんやといろいろあった。
昨日今日に始まったことじゃない。
この2・3年、あたしには、いろんなことがあった。
そして、今日。
目覚まし時計が10分遅れてた。
首を寝ちがえた。
前髪が、はねあがってた。
シャツのボタンが、取れた。
お星様のくつしたが見つからなかった。
パパが、マーマレードを忘れた。
ひまわりのコーヒーカップを割った。
ミルクをスカートにこぼした。
サボテンが、タマにけ落とされた。
今にも雨がふりだしそう。
今日は算数と国語の日。
そして、金魚が死んだ。
あたしの目からは、涙があふれ出た。
つぎからつぎへとあふれ出た。
そして、うぉんうぉん声をあげて泣きはじめた。
もう誰にも止められなかった。
あたしは大声をあげて泣いた。
両手を握りしめて泣いた。
ランドセルをほうり投げて泣いた。
部屋中グルグルしながら泣いた。
上を向いて泣いた。
下を向いて泣いた。
足をどんどん踏みならして泣いた。
かべをけ飛ばして泣いた。
ぬいぐるみのクマにしがみついて泣いた。
泣いて泣いて泣きまくった。
息ができないくらい泣いた。
それでも、涙は止まらなかった。
学校、友達も、パパも、ママも、算数も、国語も、マーマレードも、どうでもよかった。
あたしは、泣きつづけた。泣いても泣いても涙が止まらなかった。
シャツもスカートも涙でぐじゅぐじゅになった。それでも、涙は止まらなかった。
あたしは、そのまま昼まで泣きつづけた。
それでも、涙はあふれ出た。
お昼になっても、お腹なんかすかなかった。
涙であたしのまわりに水たまりができた。
水たまりは、どんどん大きくなって、日暮れには、部屋が水浸しになった。
そして、あたしも、水浸しになって泣いた。
夜になった。
月も星も見えなかった。
あたしは、泣きつづけた。
水たまりは、こしの深さになり、部屋からちょろちょろ流れ出した。
タマは、タンスの上で知らんぷりしていた。
あたしは、いつの間にか眠ったけれど、寝ている間も、涙はつぎつぎあふれ出た。
朝になっても、涙は止まらなかった。
家中が水浸しになった。
涙は家からあふれ出て、外に流れ出した。
それでも、あたしは泣きつづけた。
お昼になった。
家のまわりは、涙の水たまりに囲まれた。
水たまりはどんどん大きくなって、街の中に流れ出した。
あたしは、夜まで泣きつづけて、そして、泣きながら眠った。
朝になると、街中が水浸しになった。
街中、大騒ぎで、タンスや机が屋根や二階に運ばれた。
ボートで逃げ出す人もいた。
それでも、あたしは、泣きつづけた。
涙の水たまりに浮かんだベッドの上で泣きつづけた。
街は、涙でいっぱいになり、家も、道路も、信号も、パン屋も、学校も教会も水たまりに沈んだ。
それでも、あたしは泣きやまなかった。
夜が来て、朝が来て、街から涙が流れ出した。
流れ出した涙は、川になり、川はどんどん流れていった。
あたしもベッドも流れ出し、涙の川を流れていった。
朝も、昼も、夜も、あたしは泣きながら、涙の川を流れていった。
雨の中を、ベッドの上で、泣きながら流れていった。
そして、あたしは、忘れてしまった。
悲しいことがなんだったのか。
あたしは、すっかり忘れてしまった。
それでも、あたしは、泣きつづけた。
朝と、昼と、夜が過ぎ、朝と、昼と、夜が過ぎた。
そして、ベッドが止まった。
顔をあげると、あたしは海の真ん中に浮かんでた。
遠くに白い砂浜が見えた。
空は、すーんと高かった。
波がベッドをゆらゆら揺らした。
風が、あたしの頬をなでた。
あたしは、ベッドの上で大きく息を吸い込んで、ぐっと背伸びをした。