突然の…
僕は今、特訓の休憩にエリックさん夫妻と共に村の近くの小高い丘までピクニックに来ている。
そういえば早いもので初めての特訓の日から一ヶ月が経った。
魔法については《ネームドマジック》をおおよそ全て習得し、現在はその場に応じた魔法の作成と戦い方の訓練を行なっている。が、エリスさんの放つ魔法にはまだまだ追いつけそうにない。
剣術については攻撃を見切るための動体視力の強化、各所筋力の強化に純粋な剣術の訓練など、基本的な訓練を一通り終え、最近はずっとエリックさんと模擬戦を繰り返している。エリックさんには太刀筋は見切れないし、正面衝突をしたら力負けしてしまうが。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
僕たちはお弁当を食べながら談笑している。
「それにしてもエリックさんたちと出会えて本当によかったです!お二方がいなければ今頃強くなるどころか野垂れ死んでいたかもしれません。」
「そんなことないわよ。きっと私たちとアオイ君が出会うのは運命だったんだと思うわ。それにね、君は君自身が思っている以上にこの世界への素質を持っている。きっと私たちに会わなくても別の形でうまく行っていたんじゃないかな?」
「あはは、そう行ってもらえると嬉しいです。」
それならばその”運命”とやらに感謝だな。
「ところでお前に言わなきゃならねえことがあるんだが、お前には明日には一人前の冒険者として自立してもらう。」
は?聞き間違えじゃないよな。僕は吃驚する。
「えっと…冗談ですか?僕はまだ二ヶ月しか修行していませんよ…?それにエリックさんにもエリスさんにもまだまだ敵いません!」
「そう言えば言っていませんでしたが、魔法の本質は確かに魔素を望むマジックエレメンタルに変えることにありますが、そんなことが当たり前にできる人間はごく一部。ほとんどの人間は、一流冒険者でさえ、簡単に発動させることに最適化された《ネームドマジック》しか使えないんですよ。」
エリスさんがそう言う。ちょっと待ってくれ、そもそも《ネームドマジック》は敵に効果的だからと名前が付けられた魔法ではなかったのか?それに、だとするとエリスさんは一流冒険者よりも強いことになるぞ。
エリックさんも口を開く。
「そうそう、今のお前なら、帝国の近衛騎士団程度には遅れを取らないと思うぞ。」
それって例の魔王と戦った騎士団の中でも精鋭の騎士だよ…な。
じゃあそんな僕の歯が立たないエリックさんはどうなるの…?
「それじゃあ、あなた方は一体何者なんですか?二人とも一流冒険者よりも強いってことですよね?それこそ聖女と剣聖か何かなんですか?」
突然のカミングアウトで少し動転して熱くなってしまった。
そんな僕の言葉にエリスさんが答える。
「ふふ、君も冒険者になればいずれ知る事になるでしょう。今は強くなることだけ考えなさい。そのために今の君に必要なのは私たちではなく場数です。そうやって冒険者として名を馳せてから、再びこの村に帰ってきて答え合わせをしましょう。」
エリックさんも話す。
「少なくともS級冒険者ぐらいになるまでは帰ってくることは許さねえからな。それから俺に勝って聞きだせよ!」
ははは、手厳しいな。少し落ち着いてきた。
「取り敢えず今はわかりました。でも待っていてくださいね!すぐに二人よりも強くなって戻って来ますから。」
今、僕の人生に一つ、目標ができた。巣立つ決心もついた。
「おう、いつまでも俺らを待たせるなよ!」
「うふふ、楽しみにしていますね。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その日はエリックさん達と丘で綺麗な夕日を見てから家に帰った。
翌早朝は早いからと言うことですぐにベッドに入った。
あまりにも突然の出発にいまだに驚きを隠せない。
それ以上に寂しさ故の悲しみが込み上げてきて、柄にもなく涙を流してしまった。
そんなうちにいつの間にか眠りに落ちていた。その日はこの世界に来て初めて元の世界の夢を見た。




