門出
異世界にきてはや二ヶ月。遂に旅を始める日が来た。まだ日の出前だから外が暗い。
昨日はエリスさん達との別れが悲しかったが、今は一変、ワクワクが止まらない。
まずは冒険の支度をしようと思い、部屋を出たところ、なんとエリックさんもエリスさんも既に起きていた。
「おはようございます〜。お二人とも早起きですね。」
眠い目を擦りながら僕は言う。
「ははは、なんてたって今日はお前の門出だからな、俺たちで色々用意してたところだ!」
そう言ってエリックさんが指す方向を見ると、麻のような材質でできた、片手におさまる程度の袋だけが置いてある。
「あれはマジックバッグと呼ばれていてね、大きさに反して中に大量の物を入れられる袋なのよ。ほら、アオイ君が初めて私たちと会った時に持っていたバッグがあるでしょう、あれでは邪魔になるかなと思って用意してみたの。」
そういえば忘れていた。僕はあの時通学鞄を持っていたんだった。
「ありがとうございます!ところでどんな仕組みなんですか?」
興奮しているからか、普段では聞かないようなことを聞いてしまった。
「それがね、わからないのよ。一説によると古代文明で使われていた失われた技術で作られていたそうだわ。」
「それじゃあそのマジックバッグはどうやって手に入れたんですか?」
「これはね、冒険者として功績を出したときに王様から褒美として頂いたのよ。時々古代遺跡なんかから発掘されるんだけど貴族達がこぞって金を出すから早々手に入らないのよ!」
「ええ…そんな貴重なものをいただいていいんですか?」
「勿論!だってあなたは私たちの愛弟子だし、私たちはもう冒険者を引退した以上これを使う機会はないもの。」
「こいつがあるとかなり便利だぞ!どんな仕組みかは知らんが中にある物は時間の影響を受けねえから飯も持っていけるし、デカい魔物を討伐しても持ち帰るのに困んねえからな!」
すごい!ファンタジーだ!!
「それじゃあ早速朝食を作ってくるわね!」
そう言ってエリスさんは台所へと行った。
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部屋には僕とエリックさんの二人きりになった。何だか最初に出会った日が懐かしい。懐旧の念に駆られていた僕にエリックさんが声をかける。
「ところでそのマジックバッグを開けてみろよ。」
「わかりました。」
そう言って僕はマジックバッグを開けようとしたが、開かない。もしや、と思い魔素を通してみたら予想通り開いた。中には真っ暗な空間が広がっており、はるか奥の方に剣と杖、それにおにぎりが見える。
「中が見えたか?それじゃあ取り出したいものを念じながら魔素を流してみろ。」
何やらかっこよさげな剣があったので、言われた通りそれを念じて魔素を流してみる。
すると、遥か彼方にあったはずの剣がぐんぐんこちらに近づいてきたかと思うや否や、マジックバッグから取り出すことができた。
「すごい…!」
「そうだ、マジックバッグの使い方はわかったか?今お前が取り出したのは俺からのプレセントの剣だ。後その中には幾らかの食糧とエリスからの杖が入ってる。」
「ありがとうございます!」
ところでこの剣、何か既視感があるかと思ったら僕が中学生の頃、修学旅行のお土産に買った龍が巻き付いている剣にそっくりだ。
「その鞘のデザインだがな、龍はこの世界では強者の象徴だ。覚えておくと良い。」
何故かニヤニヤしながらエリックさんはそう言う。なるほど、ただの厨二病を拗らせただけのデザインではなかったのか…。
そういえば、エリスさんからの杖も見てみるか…。
僕は件の剣をしまい、杖を取り出す。
「綺麗だ…」
エリスさんがくれたその杖は、持ち手は綺麗でありながらも重厚感がある黒い木材。そしてルーンにはまるで万華鏡のようにキラキラひかる宝石か何かが嵌められていた。
杖に魅入っていたらエリスさんが朝食を持って帰ってきた。
「あら、私からの杖はどうかしら?」
「すっごく綺麗です!ところでこのルーンはなんなんですか?」
「それはね…秘密よ。そのほうが神秘的だと思わないかしら?それとね、『この杖は世界の祝福と共に在り』忘れないでね。」
ルーンは企業秘密なのか…
その後の言葉はこの世界での習慣か何かかな?取り敢えず凄い杖なのだろう。
「さて、早速朝ご飯にしましょっか。今日はアオイ君の為にいつも以上に張り切っちゃいました!」
「わああ、美味しそうです。」
そこには、ト●コにでも出てきそうなサイズの美味しそうな肉が用意されていた。
「これは絶品と話題のファイアドラゴンの肉よ!熱を通すのがすっごく難しいんだけど、それはもう美味しいわよ。」
「そうそう、俺も冒険者だった頃に初めて自分で倒したファイアドラゴンを食った時のことは忘れられねえな!」
エリックさんも目を輝かせている。そんなに美味しいと言われると早く食べたくてうずうずしてくる。
「「「いただきまーす」」」
三人で声を揃えて言う。
肉を切って口に運ぶや否や、舌の上でとろけるかのような感覚に陥る。味付けは胡椒少々といったところか?見た目に反して柔らかい。そして何よりジューシーだ。噛むたびに肉汁が溢れ、僕がこの人生で食べた何とも比べ物にならない美味しさだ。
「おいしいです!」
「そう言ってもらえて嬉しいです。」
そう話すエリスさんも美味しそうに肉を口に運んでいる。
「おうおう、今日はお前の門出だ。どんどん食えよ!」
エリックさんに至ってはそんな気があるのか?と言うくらいバクバク食べている。
僕も負けじとフォークとナイフを動かす。美味だ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そんな楽しくて美味しい時間も終わり、ついに出発の刻を迎える。腰にさした剣にちょうど昇り始めた朝日が反射して輝いている。まるで僕の門出を祝福するかのように。
エリックさん達が村の出口まで送ってきてくれた。
「お前の名がこの辺境の村まで聞こえてくるのを期待してるぜ。」
「何よりも体を大切にね。それで、私たちよりも強くなって、再び元気な姿を見せてください。」
別れは寂しいが新たな物語の始まりでもある。
「行ってきます!お二人のことは絶対に忘れませんから、僕のことも忘れないでくださいね!」
「あんまり待たせすぎると忘れちまうかもしれないぜ?」
「あはは、すぐに強くなるのでその時は覚悟していてくださいね!?」
冗談に冗談で返す。
「楽しみにしてるぞ!」
そう言うエリックさんの言葉を聞いて、僕は歩き始める。
「行ってきます!」
時々振り向きながら歩く。
二人は僕が見えなくなるまで手を振っていてくれた。
僕もできる限り手を振りかえしていた。
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こうして僕の異世界生活は新たなステージへと移行した。




