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第7回

 咲の部屋の前に着いた俺は、ドアをノックした。最初は反応が無かったが、少ししてドアが開いた。


「何? ..って! まだあんた居たの?!」

「うん..少し咲さんと話がしたくてさ..いいかな?」

「何? 要件だけ言って」

「学校行か..」


 俺の言葉を遮るように、咲はドアを閉めようとする。俺は慌ててドアの隙間に手を入れた。


「いてて..! まだ佑樹さんが話してる途中でしょうが..!」

「学校なら行かないから! そんな話なら帰って!」


 咲さんは聞く耳を持ってくれない。母親が俺に頼む理由も何となく分かる。ずっと挟まれてるから腕も痛いし、とりあえず今日は無理そうなので諦める事にしよう..


「分かった! じゃあ、また明日来るから!」

「もう来んな!」


 咲の母に明日も来る事を伝え、俺は家に帰っていた。帰り道、久々にあいつが姿を現した。


「ちょっと佑樹! どういうつもり?!」

「出た妖精! やっぱ聞いてたのか..」

「ふらふらほっつき歩いてると思ったら、約束忘れた訳じゃないでしょうね?! 」


 妖精の言葉にぐうの音も出ない..が、しかし俺は咲をこのまま放っておくわけにもいかない! 俺は妖精に。


「ルールを破ったのは悪かったよ..けど断りきれなかったって言うかさ..まあ大丈夫だって..! 俺が言ったところで何も変わらないと思うし、やるだけやりましたみたいな雰囲気出してやんわり諦めてもらうからさ」

「本当にそれで終わるならいいけど? 佑樹はお人好しすぎなのよ..」


 そうだ、これで良いんだ。あの子が学校に行かない事が()()()未来なのだから..



    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 翌日も約束通り咲の家に向かった。ベルを鳴らすと、インターホンから咲の声が聞こえる。


「はい..ご用件は?」

「おはよう咲さん! 今日も来ちゃったよ!」

「げっ..ほんとに来たし..」

「話できるまでは毎日来るから!」


 言うと、咲はため息を吐きながらドアを開けた。凄く嫌そうな顔をされたが、何やかんや部屋に案内してくれた。


「話したらもう2度と来ないんでしょ?」

「うん..! 約束はできないかも..」

「はぁ?! もう来んな!」


 咲は言うと、ゲームの途中だったのか、テレビ画面の前に座りゲームを始めた。俺はそんな咲に。


「咲さんは、何で学校に行かないの?」

「つまんないから..」


 ゲームをしながら話す咲の顔は少し曇っているように見えた。俺がそっと視線を逸らすと、ゲーム画面に目がいった。


「あ! それ俺もやってるよ!」

「ちょ..! 何勝手にコントローラー出してきてんだよ!」


 俺もハマってるゲームだったので、思わず近くにあったコントローラーを持ち出した。咲は最初は嫌そうだったが、やり始めると案外楽しそうにしていた。


「おい! 射線切らないとやられるぞ?」

「あ! しまった!」


 ゲーム中、突然咲が呟く。


「居心地が悪いんだよ..クラスの奴らは気が合わないし、無理に話合わせるのもしんどいし..なんかそう思えば思うほど嫌になってきたっていうか、全部投げ出したくなったんだよね」


 突然本音をこぼす咲に一瞬戸惑ったが、俺は答えた。


「ていうか俺、ぶっちゃけ思うんだけどさ、学校なんて行かなくていいんじゃないの? 別に好きでもない場所にいる必要ないと思うんだよね」


 咲につられたのか、俺も思わず本音をこぼした。やべぇ..肯定してどうすんだよ..そう思っていると、一瞬黙り込んだ咲が吹き出した。


「ぷっ..! やっぱあんたアホだろ? 学校行かせたいやつが言うセリフじゃねえし」

「いや..! そりゃ勿論学校には来てほしいよ? 親御さんだって心配してたし..それに、学生の時にしか味わえない事ってあると思うんだよね..学生の俺が言うのもあれなんだけど」


 俺は笑いながら答えた。それから、咲とのゲームに夢中になっている俺は、咲に言われてようやくやばい事に気付く。


「あんた学校は? もう始まるぞ?」

「しまった! 忘れてた! 急に押しかけてごめん! じゃあ俺行くわ!」


 焦る俺を見て、咲は腹を抱えて笑いながら。


「バカじゃん? ほんと面白いねあんた!」


 咲の言う通りだ、俺は大バカ者。だって、今1人の女の子の未来を変えようとしているのだから..


「明日も来るから!」


 咲の家を後にした俺は全力疾走で学校に向かった。結局間に合うはずもなく、担任にこっぴどく説教を受けた。何回目だよマジ..教室に戻ると、朱音が笑いを堪えながらこちらを見ているのが分かった。


「何笑ってんだよ..」

「何にも?」


 きっと凄いバカにされているんだろうけど、何だろう、嬉しい。そうだ、今日こそ連絡先を!


「あか..!」

「朱音ちゃん! 今時間あるかな?」


 俺が朱音の名前を呼ぼうとしたその時、クラスメイトの山本が朱音に声をかけた。あいつ昨日も朱音に声かけてたよな? 朱音は戸惑いながらも山本に。


「あるけど..どうかしたの?」

「いや実はさ..」


 山本は朱音の耳元で何かを囁く。朱音は山本の言葉を聞くと、そのまま山本に連れられ教室を出て行った。何を言ったんだあいつ? それから数分して朱音たちが戻ってくると、朱音の顔が少し曇っているように見えた。


「いきなりごめんね朱音ちゃん!」

「うん..」


 言うと、山本は自分の席に戻っていく。気になった俺は朱音に。


「朱音さん、何話してたの?」

「いや..ちょっとね..」


 他にも何か言いたそうだったが、朱音はそれ以上言葉を発さなかった。マジで何言ったんだよ山本..まさか..あいつがキラーなのか? 確かに考えてみれば、集金袋の時と言い執拗に俺を煽ってきたし、今の感じからして山本は朱音に気がありそうだった。気が気じゃなかった俺は、頭に蟠りを抱えたまま、1日を終えた。


 そして翌日、俺は今日も咲の家に向かう。家に着くと、玄関の前に1人の女の子が立っていた。


「あれって..咲..?」


 女の子がこちらに気付くと、照れ臭そうに前髪をいじりながら。


「しゃーなし行ってあげる..あんたしつこいし..」

「マジで! ありがとう!」

「別にあんたの為じゃないし..このまま閉じこもってたらずっとそうなる気がして怖くなっただけ..」


 俺は咲の言葉にハッとする。そうだよな..きっと俺も同じだ。このまま朱音との距離を図って接してるようじゃ何も変わらない..俺は咲に。


「そうだよね! その通りだ! 咲さん! 何かあったらすぐに言ってね! 俺が全力で力になるからさ!」

「お..おう..一応礼は言っとく..ありがと..」


 そう返事した咲の表情は少し赤くなっていた。結局咲は学校に行く選択をしたが、なにが正しいかなんてそもそも分からない。本来の未来がどうとかそういうことじゃなくて、俺は俺が正しいと思う事をする。もしそれが違う形になったとしても、俺は後悔しないと思うから。今一度決意を改めた俺は、咲と一緒に学校に向かった。





 




 


 


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