第6回
「じゃあここの問題、そうだな..佑樹、答えてみろ」
入学式から1ヶ月弱経ったとある授業中の昼下がり、いつもなら睡魔が襲ってくる時間だが、今の俺にそんなものは微塵もない。何故ならどうしても欲しいものがあるからだ。それは、気になる異性が居る人なら誰もが欲しがる代物..そう、連絡先だ。俺は今、朱音と連絡先を交換する方法を模索していた。
「ねぇ..ねぇってば..」
前はどうやって交換したんだっけ? なんか適当な理由付けて交換する口実を作ったような気がする..思い出せ俺!
「ちょい!! 当てられてるってば!」
「んぁ? ええ?! 俺?!」
考え事に夢中になっていた俺は、先生に名前を呼ばれている事に朱音の呼びかけでようやく気づく。俺はあたふたしながらも。
「連絡先です!」
答えると、教室内に沈黙が走る。そして俺は、数秒経ってようやく自分が何を口走ったのか理解した。先生は唖然としながら。
「お前、大丈夫か?」
「すいません..何でもないです..聞いてませんでした..」
何やってんだよ! 連絡先が欲しすぎるあまり、つい言ってしまった..朱音は何言ってんのこいつみたいな顔で見てるし..最悪だ..そうして、気づけば放課後がやってきた。そして、悩んだ挙句俺が導き出した答えは、帰りに朱音の所へ行って連絡先を聞くという作戦。作戦というほど大層なものでも無く、何の捻りもないただのナンパまがいの行動である。俺も朱音も帰宅部なので帰りは早い為、掃除が終わってすぐに、俺は朱音を追った。
「いたいた! 声かけるのはもう少し生徒がいない所まで行ってからにするか....って..ん?」
朱音を見つけたので近づいてみようとした時、同じ制服の男が朱音に声をかけていた。しかもその男はやたらと俺を煽ってくるクラスメイトの山本だ。しかし何を話しているんだ? やっぱり..あいつがキラーなのか? 気になって仕方がなかった俺は、2人の会話に割って入る事にした。すると。
「ん? 女の子が来たな..あれは?」
次は朱音の親友である安田が2人の元にやって来た。でかしたぞ親友! 何を話していたかは気になるが、とりあえず安田のおかげで2人きりにはならない! でも今考えてみれば、俺は完全に過去とは違う行動をしている。いや..このくらいじゃさほど変わらないよな? 俺はもう少し朱音たちの跡をつける事にした。
それから跡をつけてはみたものの、何も掴めるはずは無く、今日は諦める事にして帰ろうと後ろを振り向いた時、犬の散歩中だった女の人の飼い犬が突然道路に飛び出すのを目撃した。最悪な事に、一台の車が向こうから走ってくる。俺は血迷ったのか道路に飛び出した。
「ワンチャン間に合う!!」
そう叫びながら、俺は道路に飛び出した犬をだき抱え道路の脇に飛び込んだ。車が気付いて急ブレーキをかけてくれたおかげもあり、間一髪で避けた俺はホッとため息をつく。
「はぁ..良かったぁ..」
いってぇ..膝擦りむいた..犬は何事も無かったかのように俺の顔を舐め回す。すると、飼い主がこちらに走ってきた。
「ポチ!! 良かった..君..本当にありがとう!!」
飼い主の女の人は、俺に深々とお礼をする。自分が好きでやった事だし全然良いんだけど、女の人はお礼だけじゃ満足しなかったのか、俺に言った。
「何とお礼したらいいか..そうだわ! これから晩御飯の支度をするのだけど、君も一緒に食べていかない? 料理には自信があるのよ! ぜひいらして!」
「いやいや..! 気持ちだけで十分ですよ..!」
「そんな事言わずに! 私もしがない主婦なものですから」
優しく断ってもなかなか折れてくれない女の人の気持ちに負け、俺は食事をご馳走してもらう事にした。家に向かう途中、俺と女の人はたわいもない会話をしていた。
「佑樹くんって言うのね! おいくつなの?」
「17..いや、16です」
「あら! うちの娘と同い年なのね! 気難しい子だけど、仲良くしてあげて!」
「は..はい..」
へぇ..美人な人だと思ったけど人妻なのか、娘もすげえ美人なんだろうなぁ。そんな思春期らしい事を考えながら歩いていると、目的地の家に到着した。中に入るやいなや、俺はリビングに案内されソファに腰掛けた。
「佑樹くんはゆっくりしててね! すぐに支度するから!」
「いえいえ! お気になさらず..」
そんな感じで支度を待っていると、誰かがリビングに入ってくる。
「ママ帰ってきてたの..って..はぁ?! なんで私と同じ制服の人がいんの?!」
「..ん..?」
この子どこかで見覚えあるぞ..そうだ! 最近学校に来なくなったクラスメイトだ! 見た目が元ヤン感強めだったから覚えてるぞ!
「ただいま咲。咲の同級生がポチを助けてくれたのよぉ〜、だからお礼にご飯ご馳走しようと思ってね!」
「そんな偶然があんのかよ..てかママ! こいつクラスの金盗んだ犯罪者だから気をつけな」
おいクラスメイト! この状況でなんて事言いやがる! 俺は戸惑いながら。
「いや..! あれは無実なんだって! 俺やってないから!」
「あっそ..まあ何でもいいけど、早く帰ってくれる?」
咲は鋭い眼光で俺を睨みつける。ギャルこえ〜、ていうか愛犬助けてあげたんだからもう少し労ってくれても良くないか? そして、咲がそのまま部屋に戻っていくと咲の母が。
「ごめんなさいね? 根はいい子なんだけれどね..気付いたら学校に行かなくなっちゃって..佑樹くんは何か知ってる?」
咲の母は心配そうに言った。確かにそう言われれば、何で学校に来なくなったのだろうか? 俺は申し訳なさそうに答える。
「俺もクラスメイトからは距離を置かれてるもので..すいません..」
「そうよね..ごめんなさいね急に..」
言うと、咲の母は悲しげに下を俯きながら言った。微妙に気まずい空気が流れる中、咲の母は料理を振る舞ってくれた。
「いただきます」
「あんたまだ居たの?」
「せっかく作ってくれたからね..食べたらすぐに帰るよ..」
俺は肩を狭めながら答えると、咲の母が剣幕な表情で咲に。
「こらっ! なんて事言うの!? 少しは考えて物を言いなさい!」
「っるさいな!! 偉そうに説教しないでよ! もういい..ご馳走さま..」
「ちょっと咲?! 待ちなさい!」
咲は怒鳴ると、食事を半分以上残して部屋に戻っていった。なんか凄く申し訳ない気持ちになっていると、咲の母が。
「見苦しい所見せてしまったわね..ごめんなさい..最近、咲にどう接してあげればいいか分からなくてね..」
「きっと本人も何か悩みを抱えているんじゃないですかね? ちゃんと話し合えば大丈夫だと思いますよ? なんかすいません..偉そうに..」
図々しいにも程があるぞ俺。何偉そうにアドバイスみたいな事してんだよ。
「佑樹くん..1つ頼みを聞いてもらってもいいかしら?」
「はい? 僕にですか..?」
咲の母は改まって俺を見つめる。断りきれなかった俺は話だけでも聞いてみる事にした。
「咲を学校に連れて行ってあげてほしいの..私も何度か話をしてみたんだけれど、聞く耳も持ってくれなくて..きっと私が言うよりも、同級生の子が話をした方が咲も話しやすいと思って..佑樹くんが良ければだけどお願いできないかしら?」
俺は咲の母の言葉に躊躇う。理由はいくつかあるが、まず大きな問題として、未来が大きく変わる事になってしまうという事だ。確か、咲は俺が高2に上がった時も学校に来ていなかった。つまり、ここで仮に学校に行かせてしまえば、咲にとって全く違う未来になる。妖精にも言われた通り、他人の未来には干渉してはいけない。力にはなりたい所だが、ここは断るしかない..
「協力はしてあげたいんですけど..僕じゃ力不足なので..すいません..」
「そうよね..学生である期間は一生に一度しかないから..あの子にはいい思い出を作って欲しかったのだけれど..」
咲の母は小さく息を吐いて呟く。そんなに悲しまないでくれよお母さん..なんか凄い申し訳なくなってくる..でも待てよ..未来に干渉するなとは言ったけど、良い方向に変える分には問題ないんじゃないか? 俺は数秒考えた末、咲の母に。
「分かりました。出来る事はやってみます! ダメだったら申し訳ないですけど..」
言うと、咲の母はにっこりと笑って。
「本当に?! ありがとう! ポチの事と言い佑樹くんには助けてもらってばかりね..」
「気にしないでください!」
とは言ったものの、どうしたものか..相手はギャルだし..理屈は通用しなさそうだぞ? とりあえず、話をしてみるか。
「咲さんの部屋に案内してもらってもいいですかね?」
「ええ! もちろん!」
こうして、俺は咲を学校に行かせるべく動き始めた。
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