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第5回

「よし! それじゃあ今日はみんなで登山に行くぞ! 辛い状況こそ絆は強くなると先生は思う! 協力するようにな!」


 担任の声掛けの後、みんなでバスに乗り込む。目的地はとある山、班ごとに分かれて山頂まで登るという行事だ。このままでいけば俺と朱音は同じ班になるはずだけど、もしそうならなかった場合、確実にこのクラス内にキラーが居ることになる。俺は一層に気を引き締め、目的地に向かっていた。


「お前..あんな事しといてよく平然と来れるよな?」


 向かう途中、集金袋の件で俺を責め立ててきた奴がまた絡んできた。確か名前は山本 繁生(しげき)。過去に戻る前からこいつはやたらとクラスを仕切りたがる癖があったやつだな..でも..執拗に俺に絡んでくるし、ワンチャンキラーって可能性もあり得るな..あー..みんな怪しく見えてくる..


 目的地に着いた一同は、バスを降りて整列する。そしていよいよ班が発表される時がやってきた。俺は固唾を飲み、先生の言葉を待っていた。


「よし、じゃあ班を発表するぞ〜、まず1班からなぁ〜....」


 担任が班を発表し始めるが、未だ俺と朱音の名前は呼ばれない。そわそわしていると、担任が。


「最後の班は佑樹、朱音、安田、隆史だ。以上がこのクラスの班編成だ。んで、1班から順にそこにあるスタート地点から山頂まで登ってもらう。柵があるから道に迷う事はないと思うが、注意して進むようにな。それから、道草食って時間内に戻って来れないなんて事がないようにな! じゃあ行くぞ〜」


 よっし! 朱音と同じ班だ! という事はこのクラスにキラーは居ないって事か? もし朱音と俺をくっつけさせたくないなら、何としても一緒にいる機会を奪って来るはず..まあ、とりあえず今は朱音との距離を!


「朱音さん! 宜しくね!」

「宜しく..」


 朱音は相変わらずドライで答える。でもどうやって距離を縮めようか? 考えていると、同じ班の女の子が朱音に。


「朱音!! 同じ班だね! ラッキー!」

「ちょい綾子近いから..でも私も嬉しいよ」


 あの子は確か朱音の親友の安田 綾子。くぅ〜! 羨ましい! まあ親友となれば仕方がない事だ。羨ましそうに2人を見ていると、班員のもう1人が俺に話しかけてきた。


「フィールドワーク来れたんだね! 先生も寛大だなぁ」

「そうだな..ははは..」


 何だよこいつ、煽り方が妙にムカつくな。途中でへばっても助けてやらねぁからなマジ! そんなこんなで山を登り始めたが、とりあえずここまでは記憶通りだ。て事はこれから何が起こるのかもなんとなく分かっている。朱音に良いとこ見せて好印象を与えてやる! たしかこの先で..


「きゃあ!! で、出た!!」

「うそ..!」


 朱音とその親友の声が聞こえる。やっぱりそうだ! 確かこの先は蛇が出たんだ! 俺はすかさず朱音の前に向かった。


「あっち行けぇ〜!!」


 その時、朱音の隣にいた安田が蛇を鷲掴みにして投げ飛ばした。おい親友何してくれてんだ! 俺の見せ場だっただろ!! ていうか何で蛇鷲掴み出来んだよ! というか待て..これは記憶と違う..そうか! 俺が飛び出すの遅れただけでも未来は変わっちまうってことか..くそぉ..負けてられねえ。


「綾子強すぎでしょ..」

「へへっ! こんなの余裕だよ!」


 綾子は何事もなかったかのように先に進んでいく。切り替えろ俺! 次だ、次こそは..


「ねえ見てよ八乙女! このペンダント、妹が作ってくれたんだぜ? 凄くないか!」


 次なる時に備えていると、隆史が声をかけてきた。シスコンなのは良いけどタイミング考えてくれよ..俺はそれとなく返事をした。


「へぇ、凄いじゃん!」

「だろ?! これは命よりも大事な物なんだよ〜。それにさ..」

「あー分かった! 後でゆっくり聞くから!」


 すまん隆史、今はそれどころじゃない。確かこの後は朱音が足を痛めて歩けなくなるんだったよな? それで俺がおぶって山頂まで登ったんだ! よし! これなら!


「おっと! ここ足場悪いなぁ..」

「綾子大丈夫? 私も気を付けないと」


 親友ちくしょう! 蛇の時からタイミングがずれたのか? 全く思うように進まない..! この調子じゃこの先もちょっとずつ変わってるかもな..


「とりあえず休憩ポイントまで来たし、昼飯にしようか!」

「そうだね」


 休憩地点まで来た俺たちは昼飯を食べる事にした。班員が鞄から弁当を取り出す中、俺はコンビニのメロンパンと紙パックの牛乳を取り出す。そんな俺を見た綾子が。


「あれ? 佑樹くんお弁当忘れたの?」

「いや、これは違くて、うちの親仕事の都合で家に帰って来ないから弁当は無いんだ」

「そうなんだ..卵焼きあげようか?」


 なんだよ..親友めっちゃ良い奴じゃないか! 類は友を呼ぶって言葉は本当なんだな! 俺は綾子の言葉に甘えて卵焼きをもらった。


「俺もやる。ブロッコリー食えないし」

「あ..ああ..ありがとう..」


 いや隆史よ。凄くありがたいけどその言い方は要らないからあげるみたいに聞こえるぞ? でもここはありがたく頂戴する事にしよう。ちなみに、朱音はくれませんでした。


 そして、弁当を食べ終えた俺たちは、再び山を登り始めた。いよいよ終わりが見えた所で、隆史が突然。


「無い..ペンダントが無い..!」


 言って騒ぎ始めた。やっぱそうだ..俺の記憶と全然違う。ちょっと違う行動をするだけでもかなり変わってしまうわけだ..


「自慢しようと思ってずっと手に持ってたからだ! しまったぁ!」


 そういう事か..俺があの時隆史をあしらったから..けど時間も無いし、登頂に遅れれば朱音達まで怒られる羽目になる..考えた末、俺はみんなに。


「先に登ってて。ペンダントは俺が探す」

「けど..落としたのは俺だし、それに遅れたら怒られる事になるんだぞ?」

「俺は集金泥棒だぜ? 慣れっこさ」


 俺は笑みを浮かべて隆史に答えた。馬鹿だなぁ俺、他人のペンダント探す為に朱音との時間を割くなんて..けど..これは俺が招いた結果だ..自分のケツは自分で拭く!


「俺も見つけたらすぐに追いつくからさ!」


 言うと、隆史は地面に這いつくばって。


「いや、俺も探す。俺が落としたわけだし」


 2人で探し始めると、綾子が。


「諦めた方が良いと思うけど..ここから見つけ出すのは流石に..」

「私達も手伝おう」

「いやでも、班員が誰も帰って来なかったら先生が心配するかもしれないし、先に登って事情だけでも説明したほうが良いかも」


 朱音と綾子は話し合うと、先生に事情を伝えると言って先に登っていく。俺と隆史は血眼になってペンダントを探した。必死に探す俺を見て、隆史が。


「何で..なんで八乙女がそんなに必死に探してくれんだよ..自分のでもねえのに..」

「だって言ってただろ? 命より大事な物だって..そんな簡単に手放していい物だったら、俺だってこんなに必死に探さねえよ」

「八乙女..」


 それからもペンダント探しは続き、登頂の時間はとうに過ぎていた。諦めかけていた時、俺は岩場の隙間に()()物を見つけた。


「あった..これだ..! 隆史! あったぞ!!」

「まじ?! それだ..それだよ! 昼飯食った時に落としたんだな!」


 そして俺と隆史は笑い合った。でも、この先に待っているのは恐らく..


「おいお前ら、何時までに戻って来いって言った? 朱音たちから事情は聞いたが、落とし物一つの為にクラスの列を乱すな?」

「いやでも! そのペンダントは隆史の大切な..!」

「いいよ八乙女..シスコンなのバレるのやだし..」


 反論しようとした俺を、隆史は止めた。それからも担任の説教は続き、ようやくバスに戻ろうとしたところで隆史が。


「八乙女ありがとう..それと..朝の事は悪かった、やなこと言ったわ..」

「別に気にしてないよ。俺は弁当の借り、返しただけだから」


 俺は笑みをこぼして隆史に答えた。結局朱音との距離は縮まらなかったけど、ペンダントは見つかったわけだし、良しとするか!


「また怒られてるし..そんなんじゃいつまで経っても集金袋の事払拭出来ないじゃん..」

「朱音..さん?」


 バスに乗る間際、朱音が声をかけてきた。俺は笑いながら。


「落とし物見つからないまま帰るよりはマシかな?」

「まあ、私は信じる事にしてみる..貴方のこと..」

「え?」

「ほら、早く乗って」


 朱音は俺に笑いかけると、背中をポンと押してバスに乗るのを催促させた。これはあれか? 少しは距離が縮まったって事でいいのか? 結局キラーの事は未だ手がかりを掴めていないが、きっとどこかでつきとめてみせる。こうして、2度目のフィールドワークは幕を閉じた。




 


 





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