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第4回

「自分の口から罪を認めたし、生徒に任せた俺にも責任はある。今回は反省文で許してやるから、お前なりにしっかりと改めろ? いいな?」


 放課後、担任に呼び出された俺は職員室で説教を受けていた。でも今の俺はそんな事よりも気になっている事がある。それは、俺以外にも過去に戻っている奴がいるかもしれないという事、そしてそいつが俺の未来を意図的に変えた可能性があるという事だ。そりゃあ人の金盗んで挙げ句の果てに暴力じゃ退学になってもおかしくはない。しかしどうして俺を狙ったんだ? 俺の頭の中は複雑に絡まっていた。


「すいませんでした..以後気をつけます..」


 とりあえずここは大人しく罪を認めるのが吉だろう、まあ盗んでないんだけどな..でもこれで退学は免れたわけだし、悲惨な未来から一歩遠ざかったって所か。しかしまあ、クラスからの印象は最悪だろうな..憂鬱な気分で下校していると、ふとある場所を思い出した。





「ここ懐かしいなぁ..朱音とよく来てたっけか?」


 俺が向かったのは、どこにでもあるような普通の河川敷だ。むしゃくしゃした時は大体いつもここに来る。


「佑樹..くん?」

「あ..朱音..?! さん?!」


 河川敷に着くと、朱音が声をかけてきた。そうだった..朱音もここによく来てたんだ。それで意気投合して一気に距離が縮まったんだよな..だけど..きっと今の朱音から見た俺の印象は最悪だろうな..


「本当は盗んでないって言ったら..朱音さんは信じてくれる?」


 朱音にだけは分かってほしかった俺は、思わず本音をこぼした。朱音は声色変えず淡々と答える。


「信じるわけないでしょ..まだ君のこと知らないし..けど..君が実際に盗んだ所を見たわけじゃないから、盗んだとも思ってない。偏見や憶測だけで決めつけるのは好きじゃないの」


 そうだ..俺は朱音のこういう所に惹かれたんだった..俺は拳を握りしめ。


「じゃあ..盗みなんてしない人間だって証明するから! 見ててよ!」


 言うと、朱音は一瞬黙ってからクスッと笑みをこぼして。


「君ってほんと変わってるね..まぁ..頑張ってよ..」


 そう言って朱音は河川敷を後にした。相変わらずドライな所は一年前から変わってないようだ。朱音の後ろ姿をじっと見つめて、俺は河川敷の土手に腰掛け、ため息をつく。


「はぁ..マジでどうなってんだよ..誰かに恨まれるほど人脈も無かったはずだしなぁ..ていうか、俺以外にも過去に戻れる奴が居るのか..? こんな事なら妖精にもっと聞いておけばよかった..」

「何が知りたいのかな?」

「いやだから、俺以外にも....って..え?」


 俺の呟きに答えたのはちょうど今話をしていた妖精だった。俺は驚きながらも。


「妖精?! 居たのかよ!!」

「うん、ずっと君を見てたよ」

「だったら最初から言えよな!」


 何だよこの妖精、勿体ぶりやがって! しかし俺が退学を免れたのもこの妖精のお陰だ、とりあえずそれはいいとして、妖精に聞きたい事が山ほどある。


「妖精、聞きたい事があるんだけど」

「何かな?」

「まず、俺以外にも過去に戻れる奴は居るのか?」

「そりゃあねぇ? 妖精は誰の心の中にも居るから、不可能では無いよ」


 「じゃあ仮に、そいつが過去に行って俺の未来を変えたとして、そいつが変えた過去の記憶が俺に無いって事はあるのか?」

「んー..普通はあり得ない事だね。でも、その過去に戻った人間が過去の一部を変えて、すぐに未来に戻った場合、そういう現象は起こるかもしれないね」

「どういう事?」

「つまり、その過去に戻った人間には、変えた過去から、戻った未来までの空白の記憶が存在する事になる。そうなると、その人が戻った過去で干渉した人間の記憶がおかしくなる可能性があるって事だよ」


 いまいちピンと来てないが、一旦俺の状況に当てはめてみよう。ここでは俺を退学させようとした奴のことをキラーと呼ぼせてもらう。そのキラーが俺に何らかの恨みがあって、過去に戻り俺を退学させた。そして無事に俺を退学させる事に成功したキラーが再び未来に戻った事で、干渉された俺の記憶がめちゃくちゃになったって訳か..


「だけど、前の過去の記憶が残っているのは奇跡だね。自分の存在すらも分からなくなってしまう人もいるくらいだからね」

「そうなの? 運良かったんだな俺。でも妖精、過去に戻ってすぐにまた未来に戻る事なんて出来るのか?」

「出来るよ。ただもう一度戻る事は出来ないけどね」


 なるほど、なら俺の仮説はおそらく間違っていない。確実に誰かが俺の未来を変えてる。そして、そいつは俺を退学させる事に失敗した..つまり..


《キラーはまだここに(過去に)いる!》


 俺が導き出した答えはこれだ。でもなんで俺の過去を..? 異変が起きたのは朱音とデートした次の日..つまりそれ以前までは俺の事を恨んではいなかったって事だろ? まさか..!


「妖精、ようやく分かったよ..俺のやるべき事が..」

「何をしようって?」

「キラーをとっ捕まえて、朱音を取り返す!!」


 断定は出来ないけど、多分キラーの正体は朱音のことが好きだった人間だ。それが理由じゃないとしたら、もっと早くに過去に戻って俺を退学させているはずだからである。俺に異変が起きたのは朱音と付き合ってからだし、何より朱音が言ってた、付き合ってる人がいるって..多分キラーは俺を退学させて、朱音と付き合う事が目的だったんだろう。つくづく腹が立つ。キラーの好き勝手にはさせない! 俺は立ち上がって叫んだ。


「待ってろ朱音!! 必ず取り戻してみせるからなぁ!!」

「ちょっと..声おっきいよ..周りの視線痛いから..」

「その見た目でそれ言う?」

「私の事は君にしか見えてないからいいの!」


 そうとなれば、週末のフィールドワークで一気に朱音との距離を縮める! そんでもって早いとこキラーを見つけ出す! だけど、キラーも俺と同じように前の記憶があるとしたら、この先の俺に何があるのかを知っているはず..いずれにせよ劣勢を強いられる事は間違いないだろう..でも俺は絶対に諦めない..!






 


 



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