第3回
「うおおおお!!....お..?」
目を開けると、飛び込んだはずの俺は再び橋の上に立っていた。戸惑いを隠せないでいると、持っていた携帯の電話が鳴る。
「ん? 圭介から? もしもし..」
「おい佑樹! 今どこにいんだよ! もう入学式始まんぞ?!」
圭介の言葉に一瞬思考が止まる。
「入学式..? えぇ?! マジで戻ったのかぁ?!」
「は?! 何わけわかんねえ事言ってんだよ! 早く来いって!」
念の為携帯の日付を確かめてみるが、本当に1年前の入学式当日の日にちが表示されている。これはマジなやつだ。本当にあの妖精は本物だったわけだ。待て、狼狽えるな俺! 何の為に遥々過去にやってきたんだ! 俺は一目散に学校へ向かった。
「入学式も寝坊かよ? お前は変わんねえな! もうすぐ式始まるから急ぐぞ!」
「わりぃわりぃ! 昨日夜更かししちゃってさあ!」
笑いかける圭介にそれとなく誤魔化し、体育館に向かった。無事に式も終了し、ホームルームのために教室に向かう。どうやらここまでは先生に止められる事もないし、周りからの視線も感じない。そして、教室に着き席に座ると、隣に座っていたのは朱音だったことに気づく。ここでようやく俺は思い出した。とりあえず挨拶をしてみよう。
「お..おはよう..!」
「..おはよう..」
そうだ! 確か朱音とは一年から同じクラスで席も隣同士だ! にしても一年の時から美人だなぁ、いや、少し大人っぽくなったか? でも、なんにしても..
「あの..何か用? さっきからすごい視線を感じるんだけど..」
「いや..! ごめん! 何でもないよ..!」
しまった! 俺とした事が、思わず見惚れていた! ここで印象悪くしたらこの先がおじゃんだ。いやしかし、何か話したい! そうか! あの話題なら..!
「そいえば朱音..じゃなくて朱音さんは魚が好きなんだよね! 俺も興味あるんだよねえ魚!」
「...え? 何で知ってるの?」
やばいやらかした..これはあくまで初対面だ、魚好きを知ったのは付き合ってからだし、そりゃあそういう反応するよなぁ..とりあえず何か誤魔化さないと!
「あ..ああそうそう..! なんか魚好きそうな顔してたからさ!」
「そ..そう..魚が好きそうな顔ね..」
朱音は苦笑いを浮かべて答える。最悪だ..かなりひかれている..話しかけるのはもう少し距離を縮めてからにしよう。
「みんな集まってるなぁ! まずは出席から確認するぞお」
そんなことを考えていると、先生が教室に入ってきた。担任は変わっていない。ここまではとりあえず記憶通りという訳か..
「はい、じゃあとりあえずみんな無事に新入生になれた訳だが、ハメ外すんじゃねえぞ? 先生はちゃんと見てるからな?」
担任は相変わらず陽気な人で、緊張していたクラスの空気を和やかにした。打ち解けた生徒たちも徐々に笑みをこぼすようになり、ホームルームは平和に終わろうとしていた。
「じゃあ今日はここまで! あ! そうだ! 今週末お前たちの絆を深める為に先生がイベントを用意したから! 内容は簡単に言えばフィールドワークみたいなもんだ。 入学のしおりに書いてあったから大丈夫だと思うが、みんなお金持ってきてるよな? とりあえず出席番号1番の安藤が集めてくれ? 頼んだぞ! 大事をとって明日の朝回収するからな!」
フィールドワーク..ああ、これはしっかり覚えている。そいえば1人千円持っていくんだったか? そんな事よりも..確か朱音と同じ班だったはず! 言っても、朱音にいかに好印象を与えるかで必死こいてた記憶しかないけど。でも、これで一気に距離を詰められる!
「じゃあ解散! 日直の奴は掃除終わったら集めた書類を職員室まで運んでくれ! そんじゃまた明日な!」
先生の一言で学校での1日は終わりを告げた。中庭の掃除を終えた俺は、忘れ物を思い出して教室に戻った。
「何やってんだ俺、カバン忘れちったよ..ん? まだ誰か教室に居たのか?」
教室に戻ると、日直の人が書類を纏めているのが見えた。見たところかなりの量で、1人で持っていくのは大変そうだ。
「私も手伝おうか? この量1人はきついでしょ?」
「ご..ごめん..ありがとう..」
その時、1人の女の子が日直に声をかけた。その女の子の正体は言うまでもなく朱音だ。やっぱりいい奴なんだよなぁ..ていうか..あの日直、気弱な性格でクラスのみんなからやたらといじられてたやつだっけ? よし! 俺も!
「俺も手伝うよ! ちょうど暇だったし!」
「ああ..ありがとう..」
日直の男は下を俯きながら小さな声で言った。なんか朱音の時よりテンション低いのは気のせいだろうか..まあいいか。
「そいえば君..名前は?」
「俺? 佑樹だよ! 八乙女佑樹! よろしく!」
そっか、朱音はまだ俺の事何も知らないのか。こんな事で傷ついてたらこの先お先真っ暗だぞ、しっかりしろ!
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そして翌日、俺は何食わぬ顔で人生2度目の学校2日目を迎える。教室へ向かっていると、曲がり角で誰かとぶつかってしまった。
「ってぇ..ごめん..! って..あれ?』
ぶつかった瞬間周りを見たが、どうやら相手は先にどこかへ行ってしまったようだ。俺も悪かったけど一言くらいあってもいいのによ..
「やべ..カバン開けっぱだった」
そいえば、よく朱音に注意されたっけ、何でも開けっぱにするなって..しみじみとそう思い出しながら教室に着くと、クラスが騒然としていることに気付いた。
「ない..みんなから集めた集金袋が無い..」
「家に忘れてきたんじゃねえの?」
「それは無いよ! 昨日みんな出してくれたから、忘れない為に引き出しに入れておいたんだよ!」
どうやら、集金回収に指名された安藤が、集金袋を無くしたと騒いでいるらしい。全く..何やってんだか..
「おはよう! 全員席座れよぉ〜」
その時、担任が教室に入ってくる。焦る安藤を見た担任が事情を聞くと、全員を静まらせ教卓に立ち。
「安藤は確かに集金袋を引き出しにしまったんだよな?」
「はい..間違いないです..」
「わざわざ学校に強盗するバカは居ないだろうし、疑いたくはないが、考えられるのはこのクラスの誰かだ..とりあえず一旦、持ち物検査させてもらうぞ」
そう言って、担任は1人ずつ鞄の中をチェックし始めた。わざわざ入学式早々盗みなんてする奴居ないでしょ..安藤の勘違いじゃねえのか? そんなことを考えていると、俺の番がやってきた。
「盗む人なんて居ないでしょ..」
「..佑樹..これは何だ?」
その時、担任の声が突然暗くなる。俺は余裕の表情で担任の手に持っていた物を見て、目を疑った。
「..え? 集金袋..?」
は? どういうことだ? どうして俺の鞄の中に集金袋がある? 状況が全く理解出来ない。俺は盗んだ記憶もないし、ちゃんと安藤にお金は渡したはずだろ? そんな俺を畳み掛けるように担任が。
「自分が何したか分かってるのか?」
「いや..! 俺は盗んでませんよ!」
「じゃあなんでお前の鞄の中に集金袋があるんだ?」
俺は本当に盗んでないだって! なんで信じてくれないんだよ! そう叫びたい気持ちは山々だったが、ここで下手に吠えても怪しまれるだけだ。その時、クラスの1人が。
「入学式早々勘弁してくれよ..強盗と同じクラスなんて御免だぜ..なあみんな!」
そいつはニヤニヤと笑いながら話し始める。腹が立った俺は、立ち上がってその男の胸ぐらを掴んだ。
「俺はやってねえって言ってんだろ!! 誰かが勝手に..!」
その時、俺はある事を思い出した。それは俺が退学になったと聞いた時の話だ。確か友人の圭介が、暴力沙汰で俺が退学になったと言っていた。つまり..
「誰かにはめられた..?」
「おい..! 離せよ!」
俺は掴んでいた胸ぐらから手を離し、ゆっくりと口を開いた。
「そうです..俺がやりました..ごめんなさい..」
この状況で考えられるのは一つ、誰かが俺の鞄に集金袋を入れたという事..理由はそう、俺を退学させる為..そして明らかにおかしいのは、こんな記憶が微塵もないという事..勘のいい人ならここまでで何となく予想はつくだろう。
《誰かが俺の過去を変えている..?》
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