第18回
「けどさぁ、自分から誘っといて断るってどんな神経してんだろうね?」
「用事が入ったなら仕方ないよ..ていうか綾子、浴衣似合ってるね。私とサイズが同じで良かったよ」
「ほんと!! 嬉しいなぁ..」
多分佑樹が断ったのは私を避ける為の嘘だと思う。これという根拠は無いけど何となくそんな気がする。無理もない、私は疫病神かってくらいトラブルに巻き込まれるし、その度に佑樹を巻き込んでる..だから、佑樹は来ない..
「朱音? どうかした?」
「ううん..! 何でもないよ」
「そっか! てかもうすぐ花火始まるよ! 良い場所があるんだ!」
もしかしたら祭りに来てるかも..なんていう期待をするのはやめよう..仮にいたとしても..私とは関わらない方がいいだろうし..この感情は多分恋なんだと思う。そういうのとは無縁だと思っていたけど、佑樹は私に初めての感情を与えてくれた。最初はやたらに話しかけてきて少しめんどくさい人って思ってたけど..今はこんなにも佑樹の事を考えてしまう..でもだめ..この恋は忘れなきゃいけない..
「朱音!!」
その時、男の声が私を呼び止めた。男は息を切らしながら私の名前を呼び続ける。声を聞けばすぐに分かった。
「佑樹..?」
「はぁ..はぁ..朱音!!」
走り回ってようやく朱音を見つけた俺は、躊躇いなく名前を叫んだ。朱音はこちらに気づくと、驚いたように目を見開いて俺を見た。俺は荒くなる息を抑えながら。
「はぁ..やっと..見つけた..やっぱ来てたんだ」
「どうして..?」
そうだ..! まずは朱音に謝らないと! 言いたい事はいっぱいあるけど、頭の中でうまく整理できない..
「ごめん..! 本当は用事なんてないんだ..! 俺..怖くて逃げたんだ..今は何からとは話せないけど..」
「待ってた..」
「え? 今なんて..?」
うまく聞こえなかった俺は聞き直した。
「待ってた..!! もしかしたら..来てくれるんじゃないかって..! 私も怖かったの..ひょっとしたら佑樹は..もう私の前から居なくなっちゃうんじゃないかって..」
「朱音..」
ああ..俺は最低だ。朱音を取り戻すって決めて過去にまで戻ってきたのに簡単に諦めて..挙げ句の果てに朱音を不安にさせた..何してんだよマジで..
「もう逃げない..俺..もう逃げないから! 絶対に朱音を守ってみせるし! もう絶対に弱音も吐かないから! だからもう一度..」
その時、突然朱音が俺の胸元に寄りかかった。朱音は肩を震わせながら。
「居なくならないで..勝手に..私から離れていかないで..」
「朱音..うん..! 約束する! 絶対に朱音を悲しませたりしない!」
俺はそう言って朱音を強く抱きしめた。華奢な体から伝わる朱音の体温は、夏のむさ苦しさとは違って暖かい。ずっとこうしていられたらどれだけ幸せだろうか..そうだ、俺は朱音にこんな思いをさせる為に過去に来たんじゃない! 覚悟を改めた俺は朱音に。
「朱音、俺は朱音のことが..」
言いかけたその時、大きな花火が激しい轟音を鳴らして打ち上がる。花火の音に声がかき消され、聞き取れなかった朱音は再び俺を問いただした。俺は朱音の耳元で。
「いや..何でもない..! そんなことより見てみ! でっけえ花火! 綺麗だよなぁ!」
朱音は戸惑いながらも、打ち上がる花火を見て小さく感動していた。本当は朱音に告白しようと思ったけど、それは今じゃないな..次朱音に告白する時は、キラーを捕まえた時だ!
「あ、綾子! 綾子と来てたんだ!」
「ん?」
花火に夢中になっていた朱音は、親友の綾子と一緒に祭りに来ていた事を思い出し慌て出した。そうか、友達と来てたのか..親友に悪い事しちゃったな..
「ごめん綾子! 置き去りにして!」
「面白くねぇなぁ..アツアツの2人を邪魔するのもあれだし、私は別の友達のとこ行ってくるわ!」
2人の会話を聞いていると、綾子はどこかへ行ってしまった。綾子と別れた朱音は再びこちらに戻ってくる。
「綾子友達のとこ行くって、それより綾子似合ってるでしょ? 私浴衣2着持ってるから一着貸してあげたの」
「そうなんだ! 確かに似合ってるな..でも親友に悪いことしちゃったな」
「大丈夫、綾子はそんな事で怒ったりするような子じゃないから」
そう話しながら、俺たちは空に打ち上がる無数の花火を眺めていた。口笛のような音を立てて次々と煌びやかな閃光が打ち上がる中、俺は叫んだ。
「どうせ近くで見ているんだろ!! 俺はもう逃げも隠れもしない! お前がどんなに俺を打ちのめそうとも..! 俺は何度でも立ち上がってやる!! お前が吠え面かくその時までな!!」
きっとキラーの事だ、夏祭りという大イベントで朱音の近くにいない訳がない。でも今はこれでいい、必ず反撃のチャンスはやって来る..!
「佑樹..? どうしたの急に..?」
朱音はびっくりしながら言った。周りの人たちも俺を見てざわついている。でもこれくらいしないと、俺はまためげてしまうようなそんな気がした。そう、これは自分への戒めであり、そして何より..
「宣戦布告だよ」
言うと、朱音はクスッと笑って。
「何それ..誰と戦ってんの?」
「ほんと..可笑しいよな」
いつか朱音に本当の事を話せる日は来るのだろうか? それを伝えて朱音は信じてくれるのだろうか? そんな疑問を浮かべながらも、俺は打ち上がる花火に色々な思いを馳せていた。
そして、朱音と初めて見た花火は、散らばる火の粉と共に夜空の暗闇に消えていった。花火の音が消え刹那の沈黙が辺りを包み込む中、俺は朱音に。
「朱音..一緒に花火見れて良かった..ありがとう」
「こちらこそ、ありがと」
そいえば..考えてみたらさっき割と強めに朱音を抱きしめてたよな..冷静になってみたらめっちゃ恥ずい..朱音もちょっと気まずそうな顔してるし..
「ご..ごめん..! 綾子の所戻らないと!」
「そ..そうだね..!」
我に帰って恥ずかしくなった俺と朱音は小っ恥ずかしそうに別れた。帰り際に朱音が。
「佑樹! 何かあったら言ってね! 私も力になるから!」
「うん! ありがとう!」
その言葉だけで十分だ。絶対に負けないからな..朱音..!
こうして、夏の終わりを告げるかのように..花火大会が終わった。
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