第17回
人混みを掻き分けて朱音を探している途中、俺は昔のことを思い出した。昔っていうほど古い記憶でも無いけど..今の俺にとって何年も前なんじゃないかってくらい遠い記憶だ..それは、朱音と付き合った日のことだ..
『朱音!! 今時間ある..?」
「佑樹..? どうしたのそんな気張って』
あれはある日の放課後だった。朱音に思いを伝えたかった俺はいつもの河川敷に向かったんだ。案の定朱音はそこにいて、いつものように微笑を浮かべて俺を見ていた。
『い..いや..! 俺も河川敷行こうかなぁなんて思ってさ..! やっぱここ良いよなぁ..!』
そんな事を言いに来た訳じゃなかったのに..どうしても言葉が出てこなかったんだっけ? だけど自分を何度も奮い立たせて絞り出したんだよな..
『朱音ってさ..好きな子..いるの..?』
言うと、朱音は笑いながら。
『なにぃ急に..ま..まぁ..居ない訳じゃないけど..』
まじで?! 好きな子いるの?! 尚更告白しにくいじゃねえかよ..でもここまできた以上絶対に伝える..! 伝えなかった後悔より伝えた後悔の方が幾分マシだ!
『いきなりなんだけどさ! 俺は朱音が好きだ! 付き合いたいと思ってる!』
言っちゃったあ..なんか上手いこと言おうと思ったけど結局この言葉しか思い浮かばなかった..朱音は唖然としながら俺を見つめる。そして数秒してから吐き出すように笑った。
『急に..?! てか素直すぎでしょ、もっとくさい言葉とか思い浮かばなかったの?』
『俺はそういうの不向きかな..と思ってさ..はは..』
俺は苦笑いをして答えた。すると朱音は。
『でも..そういう所が私も好きなんだけどさ..』
『..え..?』
『私も好きだよ、佑樹の事..』
あの時は両想いだと知って飛び上がるほど嬉しかったんだよな..だから俺は改めて朱音に。
『俺は朱音を悲しませないし、辛い時はそばにいるし、笑いたい時は全力で笑わせるし、朱音があそこ行きたい! って言ったらどこでも行くし..絶対に朱音を..』
『ちょっと待って』
俺が話してる途中、突然朱音が俺を止めた。そして目の前まで歩いてくると、俺のおでこを軽く押すようにつついた。
『なんか勘違いしてない?』
『か..勘違い..?』
俺まずい事言ったか..? 勘違いってなんだ? 勘違い野郎って意味なのか? すると朱音は続けて。
『なんで佑樹ばっかりが苦労するみたいになってるの? 付き合うって、お互いが苦労したり、何かを分かち合ったりするものじゃないの? そうやって絆を深めていって..』
朱音は何かを言いかけたと思えば突然顔を赤くしてモジモジし始めた。先が気になった俺は朱音に聞いた。
『深めていって?』
『あ..愛を育んでいく..んじゃないの..? ってこんな恥ずかしい事言わせないでよ..』
まさか朱音があんな事言うなんて思ってなかったけど、確かにその通りだなって俺も思ったっけ?
「いや! 朱音の言う通りだ、お互いに支え合っていかないとな....ん..? それって要するに..」
「いいよ、こちらこそよろしく..私の彼氏..」
あの時は嬉しすぎて叫んだんだよな..そしたら朱音に怒られて..でもお互い腹抱えて笑って..一生記憶に残る思い出になったよな..
そんで別れ際、朱音が俺を呼び止めて言った。
「佑樹、私は佑樹が辛くてどうしようもない時、すぐに駆けつけるから..私が辛くてどうしようもない時は..私のそばにいてよね..約束だよ..」
「うん..! すぐに行く! 俺がどんな状況でもすぐに行く!」
「いや..そこまでしてくれなくてもいいよ..」
そうだ..! 朱音と約束したじゃないか..! 俺がどんな状況だとしても必ず行くって..あの時から朱音を守り抜いてみせるって決めたんだ..! 昔の記憶を思い出した俺は、速度を上げて走り出した。
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