第14回
作戦通り、朱音は出かけるフリをして外に出ていく。そして、俺もタイミングを遅らせて朱音の跡を追っていた。今の所は怪しい人影は無い。まあ、そう簡単には現れないだろう。そして、朱音にもう少し進むように指示し、様子を監視していたその時だった。猛スピードで走る自転車が俺の横を通り過ぎた。その自転車はスピードを落とす事はなく、明らかに朱音に向かって走っている。俺は咄嗟に朱音の名前を叫んだ。
「朱音!! 後ろだ!!」
「きゃあっ..!!」
俺の声に気づいた朱音は、間一髪で自転車を避けた。しかし、驚いた拍子に腰を抜かしその場に倒れ込んだ。俺はすぐさま朱音の元へ向かう。
「朱音! 大丈夫か?!」
「う..うん..何とか..」
くそ..! 今のスピードで当たってたら軽傷じゃ済まなかったぞ? 今のは明らかに意図的..キラーは本気だ。このまま続けるのは危険すぎる..俺は朱音を立ち上がらせると、今日はとりあえず家に帰す事にした。
「ごめん..心配かけて..」
「悪いのは俺だよ。朱音に怖い思いさせた..ほんとにごめん! 多分相手には俺の存在も気付かれてるだろうし、この作戦は中断しよう..別の方法を考える」
一つ方法を考えた俺は、朱音と別れ、まず親友に連絡をして合流する事にした。
「悪いな急に呼び出して」
「今度はなんだよ? お前が頼み込んでくる時は大体何か企んでる時だもんな」
俺が呼んだのは親友の圭介。嘘のバイト許可証を作ってくれた奴だ。
「実は、朱音ちゃんがストーカーに遭ってるんだ。犯人を捕まえたいから力を貸してほしい。けど、かなり危ねえから強制はしないけど..頼めるのがお前しかいないから..」
「余計な心配するんだったら最初から頼むなっての、巻き込み上等! やってやろうじゃん!」
「圭介..うん! ありがとう!」
そして、俺は圭介に一通り作戦の旨を伝え、明日朱音の家に来るように言った。かなり危ない橋渡りだが、こっちも手段を選んでる暇はない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、朱音の家に集まった俺と圭介は、念入りに作戦の復習をしていた。圭介は小さくため息をついて。
「これ本当に成功すんのか? ミスったら終わりだぞ?」
「俺は小柄だから朱音と背格好もそんなに変わらないし..これしか思い浮かばなかったんだ、仕方ねえだろ..」
「ごめんね2人とも..こんな時に私は何も出来ないなんて..」
朱音は下を俯きながら言う。俺は朱音の肩を優しく叩き。
「大丈夫! 絶対にストーカーを捕まえるから!」
作戦の概要は、まず俺が朱音に変装して朱音の家を出る。かなり早くに集まったので、おそらくキラーに俺たちが朱音の家に来たことはバレていない。それから、あえて人気のない所に向かいストーカーをあぶり出しキラーを捕まえる。圭介を呼んだのは1人だと万が一の場合に対処できない可能性があるからだ。そして、俺は計画通りかつらを被って朱音に変装し家を出た。人気の無い街路時に差し掛かったところで誰かが俺の肩を叩いた。
「お前がキラーだな..」
かかった! 俺はすかさず後ろを振り向きキラーの腕を掴む。
「残念だけど、お望みの朱音ちゃんはここには居ないぜ!!」
キラーは覆面をかぶっていて正体が分からない。俺はすかさず覆面を脱がせようとしたが、キラーは俺の腕を振り払ってカバンから何かを取り出した。
「うっ..! くそっ..! 催涙スプレーか?!」
キラーの催涙スプレーによって視界を遮られ、俺はその場で目を抑えながらも叫んだ。
「圭介! 頼む!!」
しかし、何度名前を呼んでも、圭介は一向に姿を現さない。らちがあかないと思った俺は、目を抑えながらもキラーを追った。
「圭介のやつ何やってんだよ! こんな機会は2度来ない..! 絶対に逃すわけにはいかねえんだよ!!」
俺は必死にキラーを追いかける。催涙の効果も切れてきたのか視界も戻ってきた! これなら追いつける!!
「ん? 電話..? 誰だこんな時に..!」
その時、俺のスマホの着信が鳴る。確かめると着信は圭介の番号だった。俺はキラーを追いかけながらも着信を取る。
「もしもし?! 圭介か?! 何してんだよ! 今キラーを..」
「もしもし? 佑樹さんですか? 山美病院の者ですが..実は圭介さんが..」
「..え?」
その時俺の思考は止まる。どういう事だ..? なんで圭介が..? 俺はキラーを追いかけるのを止め、病院に向かった。
病院に着くと、圭介の両親が心配そうに圭介の病室の前で立っているのが見える。俺は慌てて病室に入ると、病床で横たわっている圭介の姿に気付く。
「圭介..何があったんだよ..」
「わりぃ佑樹..勝手な行動しちまって..」
圭介は頭に包帯を巻いていて、かなり痛々しい姿だった。俺は拳を握りしめて。
「俺のせいだ..俺が圭介に頼まなきゃ..こんな事にはならなかった..ごめん..」
言うと、圭介はゆっくりと体を起こして。
「寝言言ってんなよ、これは俺の責任だ。お前が気にする事じゃねえって。それに幸い大した怪我じゃなかったしな!」
圭介は笑みを浮かべながら答える。俺にはその優しさが胸を突き刺すようにきつかった。俺はそんな圭介に。
「ほんとにごめん..俺やっぱ..」
「諦めるなんて言うなよ? お前が諦めたら、俺の頑張りは無駄になる。今回がダメでも、他の方法を探せばいい。だから諦めるなんて絶対言うな。朱音ちゃんと夏祭り行くんだろ?」
「圭介..ありがとう..」
俺は圭介に深々と頭を下げた。そして、圭介は何かを思い出したように。
「そうだ! 俺を階段から突き落とした相手なんだがよ、聞いたら驚くだろうぜ?」
そうだった、さっき医者が言ってたじゃないか。圭介は何者かにぶつかって階段から転がり落ちたって..でも待て..そうなると、俺が追いかけていたあいつは何者だったんだ? キラーが2人居るなんて事..ねえよな..?
「それがさ、そいつ、お前のクラスの岡田武史だったんだよ! 怪しいやつがいたから追いかけたんだけど、まさかあんな気弱なやつがストーカーだったなんてな!」
「岡田武史..?」
岡田と言えば、確か入学式の時日直で、俺と朱音で書類を纏めるのを手伝った奴..時系列からしてキラーで間違いないだろう..でもどういう事だ? 俺が追いかけてたのは誰なんだ? キラーが2人いるなんて事はねえよな..?どちらにせよ、圭介に言われた通りこんな所で諦めるのはだめだ。まずは岡田の所へ行こう!
「ありがとう圭介! あとは俺が何とかする! 絶対に諦めないからな!」
圭介の言葉もあり、俺は失いかけていた精気を取り戻していた。とりあえず圭介の事は朱音に黙っておいた方がいいな..変に気にするかもしれないし..つーか..岡田の居場所をどうやって突き止めようか..
読んでいただきありがとうございます。よろしければ評価、ブックマークお願いします。
諸事情により、次回の投稿が遅れます。申し訳ありません。