第12回
気付けば学校も夏休みに入り、俺は人生二度目の夏休みを迎えていた。しかし、一度目の夏休みとは打って変わり、俺はソワソワしていた。なぜなら..
「朱音から返信が来ない!」
そう、学校で朱音に会えない為、最後の希望であるメールに頼るしかないのだ。俺は基本こうしてスマホと睨めっこする日々が続いていた。妖精が呆れた顔で。
「そんなに早く来ないよ..付き合ってもないんだし」
「それは言うなよな..俺だって分かってるっての..」
とは言うが、異性と連絡先を交換したなら誰もが俺と同じ悩みを抱えるんじゃないのか? 返ってきたらいつ返信しようとか、今日は一日返ってきてない..とか、俺だけなのか? すると、スマホの通知が鳴った。
「来た!! ....いや、違った..」
返信は咲からだった。嬉しくない訳じゃないけど、ここは朱音であってほしかったと思った俺はクズ男なんだろうか..とりあえず俺は咲からのメッセージを開いた。
『どうせ暇なんでしょ? 付き合ってよ』
トーク画面に表示されていたのはこの一文。咲らしいと言えばそうだが、やっぱりこの子は言い方に棘がある。俺はこう返信した。
『俺だって暇じゃないから、炊事洗濯その他諸々、一人暮らしは忙しいんですよ』
これでどうだ。まあぶっちゃけ、洗濯なんて週末に纏めてやるし、炊事もたまにしかしないんだけどな..数分待つと返信が返ってきた。
『嘘つかなくていいから、ていうかこの前の事忘れた訳じゃないよね? あんたには貸しがあるでしょ?』
あー..そうだった..そいえばそんな事言ったなぁ..結局俺はこう返した。
『はい、暇です』
『よろしい、じゃあ今から山美駅集合ね♪』
即答で返信が来た。俺は渋々準備を始め、約束の駅へ向かった。
駅に着くと、今どきの女の子って感じのイケイケな服装をした女の子が立っているのが見える。間違いない、あれは咲だ。
「お待たせ!」
「ちゃんと来たじゃん! じゃあ行こっか」
どうやら咲は買いたい物があるらしく、1人で行くのが嫌だからと俺を呼んだらしい。扱い雑だな! まあでも貸しがある訳だし、今日は文句は言わないでおこう。
「ねぇ、何か言う事ないの?」
店に向かう途中、咲が俺をじとーっと睨み言う。強いて言えば服装がめっちゃ似合ってる事くらいだけど、一体何を言えばいいんだ? 迷った挙句俺は。
「山本の件はマジでありがとう! ほんと助かった! 今日は何でも言ってよ!」
これくらいしか思いつかない。咲の顔色を伺うと、咲は小さくため息をついて。
「そんなんじゃ大好きな朱音ちゃんに振られるよ?」
「え? 違うの?!」
「期待した私が馬鹿だったわ」
咲はそっぽを向いて先に歩いていく。女の子って難しいんだなぁ..としみじみ感じながらもついていくと、目的の店に着いた。
「そいえば、咲が買いたい物って何?」
「内緒」
教えてくれてもいいだろ..でもこの店って男向けの雑貨屋だよな? どうして咲が..? 父親へのプレゼントとかか?
「ねえ、佑樹はどっちのデザインが好み?」
「んー..俺は左かなぁ」
「そっか! 分かった! もういいよ店出てて!」
咲は2種類のハンカチを俺に選ばせると、俺を店の外に出るよう言った。何なんだよ! 誰かへのプレゼントなら俺にも口出させてほしかったわ! まあ待つか..
「お待たせ! ごめんね遅くなって」
「んで? 父親へのプレゼントは決まった?」
「え? 父親? うち母子家庭だけど..?」
え? じゃあこれは誰のプレゼントなんだ? もしかして好きな男の子とかか? すると、咲が紙袋を俺に差し出して。
「はい、プレゼント..」
「お..俺に?!」
「声でかいから..一応、不登校の私を学校に連れ出してくれたお礼..」
「いやいや! あれは咲が自分で決断した事だよ! 俺は何も..」
「いいから! 受け取ってよ!」
せっかくのご厚意なので有り難く頂戴する事にしよう。咲に許可をもらって紙袋を開けると、中には俺が選んだハンカチが入っていた。咲は恥ずかしそうに下を俯きながら。
「ハンカチ持ってないって言ってたから..持ってて損はないでしょ? それにハンカチは必需品だし..常に持ってる物でしょ?」
「ありがとう! そんな事まで考えてくれたのか! いやぁ、マジで嬉しいよ!」
「そ..それなら良かったけど」
俺がお礼を言うと、咲ははにかんで笑った。それから、咲を駅まで送っていた俺は、2人で川沿いを歩いていた。駅に近づいてきた所で、咲が突然。
「佑樹!!」
「どうしたの?」
突然俺を呼び止めた。俺が問いかけると、咲は数秒黙ってから。
「私は佑樹が好き! あんたが星川の事好きなのは知ってる! けど..私は諦めないから! 星川からぶんどってでも..佑樹を振り向かせる!」
突然の叫びに俺は言葉を失う。だけどはっきり分かるのは、俺は今告白をされたということだ。こんな事があっていいのか? そもそも生まれてこの方異性に好意を持たれた事なんて無かったのに..その時、俺は妖精の言葉を思い出す。
『佑樹が関わらなかったらこうはなっていなかったはずでしょ?! それに..これは君も他人事じゃないからね? 思わぬ所で敵を作る事になりかねないんだよ?』
そういうことか..妖精は、咲が俺の事を好きになる可能性を予測してたのか..もしそんな事になれば、俺と朱音の間に入ってくるのはキラーだけじゃなくなるから..でも..よりにもよって咲かよ..! どうしたらいいんだ..? 多分今の感じじゃ、朱音が好きだって伝えても無意味だろうし..それに、咲の未来を変えたのは俺かもしれないけど、この気持ちは咲自身の本心だ。考えた末、俺は答えた。
「そっか..きっとこれは偽りない本心なんだろうね。それなら、俺も咲とは本気で向き合うよ! 勿論朱音とも本気で向き合うけど、咲の気持ちを蔑ろにするのは違う気がするから!」
そうだ。俺が変えた未来なら、俺自身が正々堂々向き合うべきなんだ。そうじゃなきゃ、俺はただの過去荒らし..キラーとやってる事は同じになる! 俺が咲に答えると、咲は。
「本当あんたってずるいわ..全然諦めさせてくれないもん..」
「え?」
「バカ!って言ったの! 私、こう見えて諦め悪いから..覚悟しなさいよね」
咲はそう言って駅に走って行った。追いかけようとしたけど、咲はついて来るなと言わんばかりの速さで先に行ってしまった。俺は遠ざかる影に手を振って、咲と別れた。
「ほらね? 私の言った通りでしょ? これで朱音と付き合うのがまた難しくなってきたわよ」
「そうだな、けど、ちょっと複雑なくらいが楽しいってもんだろ?」
「カッコつけちゃって..知らないからね..」
妖精の言う通り、少しカッコつけちゃったかな? そう思っていると、突然スマホの着信が鳴った。
「誰からだ? ..非通知..?」
着信画面には非通知が表示されている。怪しい電話か何かだと疑っていたが、万が一知り合いという可能性もある気がした俺は、とりあえず出てみる事にした。俺は恐る恐るスマホを耳に近づけて。
「もしもし..どなたですか..?」
「もしもーし! 佑樹くんの電話で間違いないかな?」
ボイスチェンジャーか? 明らかに加工された声だ。しかも俺の事を知っている..? 俺は戸惑いながらも。
「誰だ? どうしてわざわざ声を加工してる?」
「んー、なんて言えば分かるのかなぁ..そうだ! 未来から来たって言えば、分かってくれるかな?」
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