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第11回

 停学期間も終了し、とりあえず学校に行く事が許された俺は、学校中で噂話をされながらも登校する日々を送っていた。唯一の安らぎと言えば、朱音と連絡が取れることくらいだろううか。しかし、キラーの手掛かりもこれと言って掴めず、クラスでも冷たい視線を送られていては、結構メンタルに来るところがある..最近の俺は憂鬱だった。


「気晴らしに散歩でもするか」


 今日は休日なので気を紛らわそうと外に出ることにした。とくにあてもないが、俺はとりあえず歩いた。トボトボ歩く俺の前に、妖精がふっと現れて。


「煮詰めてるみたいだね」

「結局山本はキラーじゃなかったし、また振り出しに戻ったよ。けど、相手はかなり慎重なやつだ..簡単に面は見せてくれないだろうな」

「そうだね..早いとこ捕まえないと、取り返しのつかない事になる..」

「?? どうして妖精がそんな事気にするんだ? キラーは俺に害を与えてくるだけだろ?」


 言うと、妖精は焦りながらも。


「あーいや..! そうだね..! 私が気にする事じゃないか..!」

「おかしな奴だなぁ」

「うっさい!」


 不貞腐れたのか、妖精は姿を消した。なんなんだよあいつ..急に現れたと思ったらすぐ消えたり、少しは手貸せっての..


「誰と話してるの..?」

「んだよ! まだ居たのか! 冷やかしなら....朱音?!」


 なんで朱音がこんな所に!? 最悪だ..妖精は俺にしか見えないんだよな..これじゃあただのやべえ奴じゃねえか..


「いや..! 独り言! ていうかなんで朱音さんがここに?」

「独り言にしては会話してるみたいだったけど..バイトまで暇だったから、散歩してたの」


 タイミングは悪かったけど、休みの日に朱音と会うなんていつぶりだろうか。考えてみれば、過去に戻ってから結構経ってるもんな..


「なんか..佑樹くんって、いつも何かと戦ってるみたいだよね..忙しないというか..いつも悩んでるみたい」

「そうだね..なんか敵が多くてさ、でも..どうしても失いたくないものがあるんだ」

「そうなんだ、ねえ、今時間ある?」


 朱音はそう言うと、俺をとある場所に連れて行ってくれた。


「ここ、町が一望できるでしょ? たまに来ては、この町の灯りの数だけ悩みや幸せがあるんだろうなって思ってさ、なんか自分も頑張ろって思えるんだよね」

「確かに..いい景色だね」


 朱音が連れてきてくれたのは高台にある公園だった。俺がぼうっと町を眺めていると、朱音が俺の背中を強めに叩いた。


「ほら、シャキッとして..貴方が何と戦ってるかは聞かない事にするけど、私は応援してる。失いたくない物があるなら、そんな気落としてちゃだめだよ」

「朱音さん..」

「朱音でいいよ。さっき呼び捨てしてたし」


 朱音はそう言って、俺に優しく笑いかけた。朱音..俺を励ましてくれたんだな..何やってんだよ俺、守りたい人に背中押されててどうする..よし! 俺は両手で自分の頬を強く叩くと、朱音に。


「朱音! ありがとう! 絶対に負けないから..! 絶対に君を..いや..失いたくない物を取り戻すから!」

「うん、頑張ってね、佑樹..」

「今..呼び捨てで..?」

「いいでしょ? 私も呼び捨てしても..」


 俺は今喜びを隠せない。あの朱音がついに俺を呼び捨てで呼んだ! 徐々に元気を取り戻してきた俺はある事を思い出した。


「朱音、もうすぐバイト?」

「いや、まだ時間あるけど?」


 この近くにたい焼きの美味い店がある事を思い出した俺は、朱音をそこに連れて行く事にした。

 店に着いた俺は、たい焼きを二つ買うと、一つを朱音に渡した。たい焼きを受け取った朱音は不思議そうに呟く。


「こんな偶然ってあるんだ..私たい焼き大好物なの、綾子も知らないんだけどね」

「そうなんだ..! じゃあちょうど良かった! 俺もたい焼きが好きなんだ!」


 そう。朱音の大好物はたい焼き、忘れるはずが無い。確か一年の3学期で朱音の弁当にたい焼きが大量に入ってて、クラスのみんなにたい焼き好きって事がばれて恥ずかしがってたんだっけ? そして、朱音は決まっていつも尻尾から食べるんだよな。


「佑樹はどっちから食べるの?」

「んー..俺は頭かな」

「そうなんだ、私はいつも尻尾から食べるの。だって..」

「その方があんこが詰まった頭の部分を最後に食べれるから..だよね」

「..え? どうしてそれを?」


 しまった..! 思わず口走った..俺は慌てて。


「尻尾から食べる友達がそうやって言ってたからさ! 朱音もそうなのかなと思って..!」

「なんだ..そういう事ね」


 良かった..なんとか誤魔化せた..俺は嬉しそうにたい焼きを頬張る朱音を見て思った。きっと、本当だったらこうやって笑いながら2人でたい焼きを食べる日常があったのかもしれないと..そう思うほど、悔しさと切なさが俺の頭の中を蝕んでいく。居ても立っても居られなくなってきた俺は。


「朱音。実は俺..」

「ん?」

「いや..何でもない..俺あんこ苦手なんだよね!」


 未来から来た。そう言おうとした俺は、ギリギリのところで踏み留まった。きっとこれを伝えるのは禁忌に近い気がするから..


「なのにたい焼きが好きなの? ほんと佑樹って変わってるね」

「ははは..それな」


 俺は苦笑いで答える。すると朱音が。


「なんかおかしな話だけどさ、佑樹と話してるとまるでずっと前から知ってたみたいな気になるんだよね。そんな事あり得るわけないのに..何でだろ」

「え?」

「いや..気がするってだけだよ? ただの勘違いだと思う」


 そうだ。そんな訳がないよな..朱音も前の記憶があるなんて事..あり得ないよな..


「あれだよ多分、俺って割と親しみやすいみたいな所あるからさ、単純に話しやすいんじゃないかな?」

「多分..そうだね」


 妙に気まずい雰囲気が流れる中、朱音が。


「私、そろそろバイトだから行くね」

「あー、うん..! 付き合ってくれてありがと」

「こちらこそ、ありがと」


 俺は朱音の後ろ姿をもの悲しく見つめた。


「俺も帰るか....ん? 今誰か居たような..?」


 帰ろうとした時、物陰から妙な気配を感じたような気がした。


「..気のせいか」


 多分野良猫かなんかだろ、気張り過ぎだな。


「ちょっとちょっと、いい感じだったんじゃないのぉ〜?」

「んだよ! いきなり出てくんなよ!」


 その時、いきなり妖精が現れて俺の肩をからかうようにつついた。俺は妖精に。


「そいえばさ..朱音にも前の記憶がある可能性ってあんの..?」

「それはまず無いかな。直接的に干渉されてないはずだし..」

「そっか..まあどちらにしても、うかうかしてられねえな」

「そうだね、気付けばもう夏も近い。このままじゃ、朱音ちゃんを手に入れられないまま、君の未来を超えちゃうよ?」


 そうだよな、どんだけ考えたって季節は巡る。とりあえず今は、俺のやるべきことをやる。それだけで十分かもしれない。






 


 

 

 

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