第10回
学校に行くのは好きじゃないけど、行かなかったら行かなかったで退屈だ。朱音にも会えないし..まあ、今朱音に会った所で、前みたいに仲良くお喋りできるとは思えないけどね。
「佑樹、これからどうするつもり?」
ソファに寝そべる俺に、妖精が話しかける。
「どうするも何も、また1から始めるしかないだろ。ここまで来て諦めるのは癪だしな。それに..キラーの見当はついてる」
「傷心中かと思ってたけど、私のお門違いだったみたいね。何をしようっての?」
とは言ったものの、実際どうすればいいのか自分でも分かってない。行動に移した所で1人じゃどうにも出来ないしな。路頭に迷っていると、インターホンが鳴る。
「誰だ?」
俺はソファからまったりと体を起こし、インターホン越しに。
「どなた?」
「咲だけど? 暇だから来てあげた」
「咲か! 確かに学校終わってる時間だもんな」
訪ねてきたのは咲だった。部屋に案内しようとドアを開けると、そこには目を疑う光景があった。
「来たって何もないけど....って..朱音さん?! どうして?!」
「いきなり押しかけてごめん..」
どういう事だ? なんで朱音がここに..? 山本の件で失望されたはずだろ? 俺は戸惑いながらも2人を部屋に入れた。
「ごめん..佑樹くん! 私何も知らないのに..酷いこと言って..」
部屋に入るなり、深く頭を下げて謝る朱音。俺は目を細めながら咲の方を見ると、咲はスッと視線を逸らした。
「いやいや! 気にしなくていいよ! 俺が勝手にやった事だし、それに暴力は良くなかったのは事実だから..」
「どうして私の為にそこまで..」
朱音の呟きに、俺は言葉に詰まる。だって好きだから..そんな簡単な言葉なのに、俺は何も言えなかった。そんな空気を見かねて咲が。
「ていうか! このまま終わっていいわけ? 山本のやつ..放っとけば調子に乗るだけだよ!」
「確かに、それが事実なら許される事じゃないし、私以外にも山本くんに狙われてる人がいるかもしれない..」
咲と朱音の会話に割って入るように俺は。
「何の為にやり直したんだ俺は..」
「佑樹?」
「山本に吠え面かかせてやろう! 俺にいい考えがある!」
言うと、咲と朱音は笑みをこぼした。俺は咲を見て。
「咲、頼みたい事がある。聞いてくれるか?」
「貸しな?」
「それと朱音さんに..確認しなきゃいけないことがある」
「私に..?」
「山本の事..好きなの?」
聞くと、朱音は顔色一つ変える事なく答えた。
「え? 全然意識した事ない..バイトの事で相談に乗ってくれるとは言ったけど、好きにはなってないよ」
「それなら良かった..これで心置きなく山本に仕置きができる」
朱音のこの顔はマジだ。微塵も山本の事は好きじゃないんだろう。これはかなり博打に近い作戦だが、俺が導き出した最良の方法はこれしかない。後悔しない為にも..やってみせる!
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翌日、俺は親友である圭介をとある公園に呼び出していた。かなり信用してる奴なので特に心配する事はない。
「お前色々やらかしてるらしいなぁ? 今度は何企んでんだ?」
「全部冤罪だっての..ていうかお前、前にチラシ作ったことあるって言ってたよな?」
「冗談だって! ああ..うん。あるけど? なんで?」
「至急作ってほしい書類があるんだけど」
圭介は面倒臭そうな顔をしながらも引き受けてくれた。後は、咲と朱音が上手くやってくれればいいけど....
「おい..おいおい! 佑樹..!! あれ見てみろよ!」
その時、圭介が遠くを指差して言った。俺も圭介の差した方を見ると、そこにいたのは咲と山本の姿だった。どうしてあの2人がこんな所に..? まさか..?!
「佑樹どうした? そんなにビビることか?」
「いや..! なんでもない..! 早く作ってくれ!」
俺は予想外の出来事に驚きを隠せない。でも、とりあえず俺のやるべき事はやらなければ..俺はソワソワしながらも圭介の家に向かった。
「でもびっくりだなぁ..咲ちゃんが俺の事気になってるなんて!」
「う..うん..! ずっと言おうか迷ってたんだけど!」
「そっか! いやぁ、咲ちゃんみたいな美人に言われると照れちゃうなぁ」
佑樹には悪いけど、これが私のやり方..私は私がやりたいようにやらせてもらう。
「咲ちゃん、これから予定ある? 無いなら遊びに行かない?」
「えー! いいの? 全然行く!」
私は山本に言われるがまま、彼に案内された場所に向かった。山本がとある建物の前に立つと、微笑を浮かべた。
「ここって..?」
「そう、ホテルだよ」
「さすがに未成年でホテルは早いんじゃないかな..?」
「大丈夫だよ。最近は高校生でも全然行くみたいだよ? ほら、行こうよ?」
まさかの展開に私はそれとなく拒否をしたが、山本は巧妙な話術で私を連れて行こうとする。すると、数人の男たちが山本に声をかけた。
「お! いたいたぁ! もう女捕まえてんじゃん!」
「しかもすっげえ美人! こりゃ今回も山本の一人勝ちかぁ?」
男達は私の全身を舐め回すように見ると、薄ら笑いを浮かべて山本に言った。山本は男達に。
「おいおい、邪魔してくれるなよ? これから楽しい事するんだからさぁ、ねぇ? 咲ちゃん?」
「や..やっぱり今日は帰ろうかな..」
私が後退りすると、山本は私の腕を強引に掴んだ。
「俺の事好きなんでしょ? せっかく誘ってあげたんだからさ、楽しもうよ?」
「は..離して!」
「そんなに暴れないでよぉ、友達の前で恥かくわけにはいかないんだわ。つーか..不登校児の分際で俺に逆らうつもり?」
その時、私は顔を下げて呟いた。
「まさか..ここまでクズだったとはね..」
「あ? なんて?」
「息臭えって言ったんだよ」
私が山本の腕を振り払った直後、どこからか男の声が聞こえた。
「本当に息を吐くように吐き気がする事を言えるんだなあんたは。逆に凄いよ」
「んぁ? 誰だ?」
男の正体に気づいた私は、笑みをこぼして男に。
「ったく..! 来るの遅いし、佑樹」
「咲が作戦通りに動かないからだろ? 何もここまでやらなくても..咲から連絡来なかったらどうしようかと思ったわ..」
俺が咲に頼んだのは、山本の悪事の証拠を掴むことだったが、まさか自分を囮に使ったとは..確かに手段は咲に任せたけど、俺が来るの遅れたらどうするつもりだったんだ? まあでも、とりあえずここまでは結果オーライだ。山本は顔を引き攣らせながら俺に。
「八乙女..正義のヒーロー気取りか? この事を学校に言えば、朱音ちゃんがどうなるか分かってんだろうな?」
「さあ? どうなるのかな?」
「とぼけんじゃねえぞ! 朱音ちゃんがバイトしてる事知ってんだからな!」
その言葉を待ってたよ山本くん。そうならない為に、俺はあるものを親友に作ってもらった。俺はそのとある書類を山本に見せて。
「これ見えてる? 言ったところで何も問題ないと思うけど?」
「それは..バイト許可証..?! そんなまさか!」
「意外と知ってる人少ないけど、やむを得ない理由があれば許可取れるんだよなぁ」
唖然とする山本に畳み掛けるように、今度は自分の後ろを指差して言った。
「それと、あそこにいる朱音さんがあんたの実に潔いまでの悪態を動画に収めてくれたので、いつでも学校側にあんたの醜態を晒す事ができる」
「くそ..はめたのか..?」
「人聞きの悪い事言わないでくれよ。俺たちはただ、あんたがどういう人間かを証明したかっただけだ。いいか山本..こんなくだらないゲームもうやめろ..それと、二度と朱音に近づくな..約束出来ないならこの動画を学校に報告する」
山本の胸ぐらを掴み言うと、男達は舌打ちをしてその場を去って行った。山本は小さな声で。
「分かったよ..だからこの事は黙っててくれ..」
「あと..あんたに聞きたい事がある」
言うと、俺は朱音と咲を先に行かせて山本と2人になった。どうしても確認しなきゃいけない事があるからだ。俺は山本を睨み。
「あんたがタイムスリップして俺の未来をめちゃくちゃにしたんだろ? 答えろ!」
「はぁ? 意味分かんねえよ..タイムスリップ? そんな事出来るなら1日前に戻りてえよ..」
「とぼけるなよ! お前が過去に戻って俺を退学させようとしたんだろ! 今回の事だって..過去では無かった! お前が全部仕組んだんだろうが!」
「だからなんの話してんだよ! 俺はただ朱音ちゃんが俺の事好きだって聞いたから..簡単にヤれると思っただけだ..」
山本の表情を見ても、出まかせを言っているようには見えない..本当にキラーじゃないのか?
「じゃあ、誰があんたにその事を話した?」
「それだけは言えない..! 例え八乙女が動画を晒すと言っても..言えない!」
山本の様子がおかしい、明らかに怯えているようだ。誰かに脅されてるのか..?
「もういいだろ..! お前らには関わらない..! 悪かったよ..!」
「おい..! 山本!」
山本はそう言って矢継ぎ早に逃げていった。確か朱音は山本の事を全く好きじゃないと言っていた。じゃあ何でそいつはわざわざ山本にそれを言う必要があったんだ? しかも脅してまで..まさか..こうなる事を予想して..?! いや、予想してたんじゃない..知ってたんだ..山本がこういう人間だった事を..!
「そう簡単にはいかせてくれないみたいだな」
俺は呟くと、朱音達の元へ向かった。
「ごめん..2人に迷惑かけて..でもありがとう」
「勘違いしないで、あんたの為にやった訳じゃないから。この機会だからはっきり言っておくけど、私は佑樹が好きだ。今すぐにでも私の物にしたいくらいね..」
「ごめん2人とも! 待たせた!」
朱音と咲が何か話している様子だったが、2人の元についた俺は声をかけた。朱音と咲は何やら気まずそうに下を俯いている。
「2人とも..どうかした?」
「いや..! 何でもないよ! それより山本はどうなった?」
「ああ、尻尾巻いて逃げて行ったよ。これも2人のおかげだ。協力してくれてありがとう」
2人に言うと、朱音がゆっくり口を開いた。
「佑樹くん..貴方のこと疑ってごめんなさい..本当に感謝してる..ありがとう」
「気にしなくていいよ! 俺がしたくてやっただけだからさ」
「うん..でも..バイト許可証なんて私書いてないけど..あれは一体?」
「あれ実はさ..」
正直に言うと、バイト許可証なんてあの学校には存在しない。あれは俺が親友に頼んででっちあげた嘘の書類だ。山本に気づかれたら終わりだったけど、知らないようだったので良かった..けど、確か俺が2年に上がるちょっと前に、やむを得ない理由があればバイトが出来るようになったのは事実だ。とりあえずそれまで騙していられれば問題ないだろう。勿論、未来を知っていないと出来ない賭けだったけど。俺は一通り朱音に説明すると、苦笑いしながらも納得してくれた。
「とりあえず! これで一件落着みたいだし、帰るね!」
「咲、ありがとう」
「貸し! だからね? ちゃんと覚えててね」
咲はそう言って帰っていった。ここで朱音と2人きりになった訳だけど、なんか凄い気まずい..でも待てよ..これってチャンスなんじゃ? 思い出した俺は朱音に。
「朱音さん..!」「佑樹くん..!」
その時、俺の声に被って朱音も言った。俺は朱音に。
「朱音さん咲いいよ」
「ごめん..えっと..連絡先交換しない?」
「..え?」
こんな奇跡があっていいのだろうか? 俺もちょうどそれを言おうとしたところだったぞ! やばい..嬉しい..! 堪えなきゃと思いながらも、俺は思わず素を出してしまった。
「まじか!! 俺も交換したかった所だったんだよ! いやぁ..こんな偶然あるのか! 最高すぎる..! 生きててよかった!....ゴホンッ..ごめん..」
気づいた俺は顔を赤くしながら咳払いをした。すると、朱音が吹き出すように笑った。
「リアクション大きすぎでしょ..そんなに喜ぶこと?」
「ああいや..! そうだね..! 何と言うかその..」
「もう分かったよ..とりあえず交換しよ」
まだまだ解決してない問題は山積みだが、とりあえず朱音を助ける事が出来たし、何より連絡先を交換出来た。少しづつだけど、狂った歯車は戻りつつある。キラー..必ずこの手で暴いてみせる..
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