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第一回

 もしも過去に戻れたらみんなはどうするだろうか? 俺の答えは一つだ。それは、そんな事は絶対にありえない。もし1ミリでも希望を抱いた奴がいるのなら、それはSFドラマの見過ぎだろう。そう..ありえないのである..絶対に..




「やっべぇ!! 寝坊した!!」


 俺は目覚ましの音で飛び起きる。いつもなら目覚ましを止めてもう一度深い眠りにつく所だが、今日はダメだ。何故かって? そう、今日は初めて出来た彼女との初デートだからである。昨日それが原因でなかなか寝付けられなかった事は内緒にしておこう。


「なんか地味なんだよなぁ..」


 顔を洗って服を着替えている訳だが、どうもしっくりこない..最近のリア充はこんなに大変なのかよ..散々迷った挙句、結局シンプルな服装に落ち着いた俺は、支度を終え待ち合わせの駅に向かった。


「まじごめん! ちょい遅れた!」


 俺が息を切らしながら頭を下げた相手はそう、俺の自慢の彼女、星川 朱音(ほしかわ あかね)。しかしめちゃくちゃ可愛いな! まじで俺の彼女かよ! と、いつも会うたびに思ってしまうほどベタ惚れしている。


「いや、私もさっき来たばっかだしいいよ」


 朱音は基本ドライであまり感情を表に出さない。でもそこもまた良い! ちょっと塩な所も推せる! いやでもあまりテンションを上げてしまうと朱音に怒られるので堪えよう。


「じゃあ行こうか!」


 俺はこの日の為に念入りに下調べをして来た。朱音が無類の魚好きだという事はリサーチ済みなので、まずは水族館に行く。


「佑樹って魚好きだったっけ?」

「あ、ああ! 超好き! イワシの大群なんて見てるだけで癒されるよなぁ!」


 ここで言うのもなんだが、俺はそこまで魚に興味が無い。でも朱音の好きな物にはめっちゃ興味あるので全然おっけいである。水族館の中に入り、水槽のトンネルを通った時、朱音が目を輝かせて立ち止まる。いつも目だけは笑っていない朱音だが、今回は目が活き活きしてる! 連れて来て良かった! 俺は煌びやかな魚よりも、朱音の横顔に夢中になっていた。


「ちょっと佑樹..見過ぎ..顔に何かついてる?」


 朱音がじとーっと俺を見て言う。そりゃあ見過ぎるだろ! 横に女神居るんだぞ? いや待て俺、舞い上がりすぎるな! 今日はスマートにジェントルマンに朱音をエスコートするんだろ! 俺は感情を押し殺し平然を装う。


「いや..! 何でもないよ!」


 そして、俺は朱音を置いて先に行く。何故ならこれからイルカショーがあるからだ。最前列の席を確保する為にいち早く会場に行かなければならない。俺は朱音に。


「俺イルカショーの神席取ってくるから朱音は魚見てて! 最高のショーにするから!!」

「ちょ..! ちょっと佑樹!」


 魚好きの朱音を無視して会場に向かわせるのはスマートじゃない。本音を言えばもう少し朱音の横顔を見ていたかった所だが、ここは男である俺がしっかりしなければ朱音を楽しませられない。朱音は不服そうな顔でこちら見ていたが、俺はそそくさと会場に向かった。


「よし! 良いとこ取れたぞ!」


 会場に着いた俺は無事に1番前の席を確保。あとは朱音が到着するのを待つだけだ。しかしどうだろう..何か間違っているような気がしてならない。でも人生初のデートだからそれが明確に分からない。そんな事を考えていると、朱音の姿を発見する。


「おーい朱音! こっちこっち!」


 ショーも開演に近づいて来たところで、朱音と無事に合流した。良い席も取れたしここまではバッチリ..だよな..? 気のせいなのか朱音が少し不満そうに見える。


「朱音? どうかした?」

「何でもないし..」


 朱音は頬をぷくりとさせながらそう言ってそっぽを向く。やばい! なんか怒ってる! そして険悪なムードの中、イルカショーが始まった。ショーが始まると、突然朱音が。


「ねえ知ってた? イルカは紡錘形(ぼうすいけい)って言ってね、水の抵抗を少なくする形をしてるんだよ! それにみんな鳴き声だと思いがちだけど、実はあれ、頭の上にある呼吸孔から音を出してるんだよ? それにね..」


 イルカショーで機嫌が良くなったのか、朱音がいつものドライとは打って変わり、俺の腕を掴んで目を輝かせながらイルカについて語り始める。あかん! 可愛い! 何だよこの子、あざといのか?! こんな自然にボディータッチしてくるなんて聞いてないから! 俺は胸が高まり過ぎてショーどころではなかった。そんな朱音に見惚れていると。


「冷たっ..!!」


 その時、目の前で盛大にジャンプをしてくれたイルカのお陰で俺たちは滝のように水を浴びた。ここで俺は気づいた、イルカショーの最前列はカッパ必須であったと..確かに考えてみれば周りの人達はみんなカッパを着ている。マジでやらかした..神席を取る事に一杯一杯で考えてなかった..


「ごめん..朱音..」

「うん..私も忘れてたしいいよ..」


 さっきまでの興奮とは裏腹に、どんよりとした空気のまま、イルカショーは終わりを告げた..




 それからも一通り館内を見て回った俺たちは、水族館を出ることにした。メインゲートの近くに差し掛かった時、俺は朱音の前で深く頭を下げた。


「ごめん..! せっかくのデートだし、絶対に朱音を楽しませなきゃ! って思って..色々考えてみたけど全部上手くいかなくて..大好きな魚見に来たのに、気悪くさせたよな..ほんとごめん!!」


 言うと、朱音は大きくため息をついて。


「はぁ..柄にも無い事するからじゃん..」

「だよな..ごめん..」


 俺がもう一度謝ると、朱音は俺をじっと見つめ。


「なんか勘違いしてるみたいだけど、私は楽しくなかったなんて一言も言ってないでしょ?」

「え..?」


 俺が頭に疑問を浮かべると、朱音は照れ臭そうに呟いた。


「好きな子と一緒にいれば..何でも楽しいでしょ..」

「え? なんて?」


 上手く聞こえなかった俺は聞き返す。すると朱音はムッとして。


「ほんとそういうところだから! いつもの佑樹で居たらいいの! デートってそういうもんでしょ?!」

「やっぱ怒ってる?」

「怒ってないから! もっと乙女心を勉強してよね!」


 朱音はそう言って先にメインゲートを抜ける。ちょっと不機嫌っぽく見えるけどいつもの感じに戻ってくれたっぽい! 俺は早足で朱音に着いていく。


「じゃあ怒ってないんだよな? いやぁ! 良かったぁ! もう寿命縮むかと思ったぁ!」

「いちいちリアクションでかいから..明日居なくなる訳でもあるまいし..」

「え?! 居なくなるの?!」

「例えばの話だから! そんな簡単に居なくなる訳ないでしょ? 一応彼女なんだし」


 そう言って朱音はにっこりと笑った。普段は中々お目にかかれない表情に俺は感動する。そうだ、やっぱり俺は朱音が大好きだ。怒ってる朱音も、笑ってる朱音も全部..だけど何故だろうか? こういう幸せが続く時になると、何か悪い事が起きるんじゃないかと妙に不安になってしまう。でも、きっといつもと変わらない1日はやってくる..


「じゃあ、今日は誘ってくれてありがとね、また明日」

「うん! こちらこそありがと! また明日!」


 別れ際、俺は改札に向かう朱音の後ろ姿を見送る。


「あ..! 朱音..!」


 その時、俺は咄嗟に朱音を呼び止めた。それは朱音に伝えなきゃいけない事があったからだ。声に気づいた朱音が立ち止まってこちらを振り向く。だけど、伝えたかった言葉は喉に詰まって..


「え..えと..今日はマジで楽しかった! 気を付けてな!」


 結局、本当に伝えたかった事は言えなかった。でも大丈夫、また明日学校で会えるから、その時に伝えればいいか..



   

   ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 翌日、俺は眠い目を擦りながら気怠そうに身支度を整える。正直学校なんて行きたくないけど、彼女に会う為なら余裕で皆勤賞だって取れる。しかし、校門に着いた俺は異様な空気を感じた。


「おはよう!」


 今日はやけに周りから視線を感じる。しかもかなり冷たい視線だ。いつものようにクラスメートに挨拶をしたが、何故か無視をされる..マジで状況が掴めない。心当たりなんて微塵も無いし..


「おい佑樹! 何しに来たんだ?」


 その時、担任の教師が俺を呼び止める。正直言ってる事が分からない、俺は戸惑いながらも答えた。


「いや何しにって..学校に来たんですけど..?」

「だから、なんで学校に来ているんだと聞いている」


 マジでみんなどうかしちまったのか? 俺は1年前にこの山美(やまび)第一高校に入学したれっきとしたこの学校の生徒だ。担任は俺を校門に連れて行くと、剣幕な表情で襟元を掴んで言った。


「入学早々暴力事件起こして退学になったのはどこのどいつだ? 生徒も怖がるだろうが! とっとと帰れ!」

「...は?」


 本当に何が起きているのかさっぱり理解できない。暴力事件? 俺が? しかも入学早々って、俺先月2年に上がったばっかだぞ? その時、頭が混乱する俺に誰かが声をかけてきた。

 



 


 




 


 

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