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転生後の世界はヤンキー漫画の法則に支配されていた  作者: カブキマン
中学編

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命の別名⑤

1.……遂に来たか


 待ち合わせ場所で待つことしばし、バイクの音が外から聞こえて来た。

 既にテーブルと椅子は用意してあるので話し合いは何時でも始められる。


「悪い、待たせたな」

「いや良いよ」

「とりあえずこれ、土産な。食べながら話そうや」


 龍也さんの手には熱気を立ち上らせる袋があった。匂いからしてたこ焼きか。

 夕飯前だが……まあ、これぐらいなら問題なかろう。丁度、お腹も空いてるしな。


「あ、美味しい」


 外パリッ、中ふんわりタイプのたこ焼きだ。普通のも好きだけど、こっちのが俺好きなんだよな。

 生地に出汁を混ぜてあるのだろう。その風味もグッドだ。


「さて……なあ笑顔くん。最近、金太郎や他の四天王の子らから変わった話とか聞いてねえかな?」

「? 特にそういうのはないね。最近は平和そのものだよ」


 まあ平和じゃなくなる前兆がもう目の前に居るんだけどね。

 それはさておき、今んとこ特に変わったことはない。

 何かきな臭い動きがあるなら情報通のトモか金銀コンビあたりからそれっぽい話が流れて来るだろう。

 毎日のように夜、話してっけど話題はアホなのばっかだし。


「……大我、どう見る?」

「幾つか考えられるな」


 俺の返答に二人は難しい顔をする。

 ちゃっちゃと本題に入れよと思わなくもないが……まあ、様式美だわな。

 会話の最短ルートだけを辿ってたらそれは酷く事務的なものになるだろう。会話の妙味も糞もない。

 漫画で読んだら多分、めっちゃつまらん。なので俺もたこ焼きをぱくつきながら黙って耳を傾ける。


「まだそこまで及んでいないのか、そもそも標的じゃねえのか」

「どっちにせよ放置は出来ねえぜ?」

「分かってる。後者だとしても直接的な被害はさておき、間接的な被害は確実に出るだろう」

「ある意味、逆十字軍より危険だ。“トン“じまってる奴らに理性なんか期待出来ねえしな」


 二人は同時に溜息を吐いた。

 金銀コンビ並みに息ピッタリだよなこの人ら。柚と桃もそうだけどこういう関係って羨ましいわ。


「そろそろ本題、かな?」


 水を向けると二人は小さく頷き、俺をここに呼び出した理由を語り始めた。


「気付いてないと思うがこの街で“ヤク”が広がり始めてる」

「!」


 ヤク――つまりは違法ドラッグ。

 自分がヤンキー輪廻に組み込まれた時……いやさ、この世界がどういう法則の下に回っているのかを理解した時点で分かっていた。

 ヤンキー漫画においてドラッグは定番要素の一つだ。

 多くの作品で一人ぐらいは薬物中毒者(ジャンキー)が出て来るし何ならドラッグがエピソードの中心に据えられることだってある。

 それだけヤンキー漫画の一読者であった俺には馴染み深い要素なのだ。


(……遂に来たか。来てしまったか)


 いずれ俺もドラッグ関連の話に巻き込まれるだろうとは頭の隅で考えてはいた。

 いたのだが……正直、関わり合いになりたくないってのが本音だ。

 違法薬物に対する嫌悪感もあるが、それ以上にドラッグ関連の長編だと危険度が跳ね上がるからだ。

 危険度で言うなら三代目悪童七人隊との戦いよりもよっぽどだと思う。


(とは言え、だ。まだ全容は見えちゃいない)


 まだ重要ワードである“ドラッグ”が出ただけで話の筋が見えたわけじゃない。

 ポジティブだ。ポジティブなことだけ考えろ俺。ネガティブなことばかり考えるのは危険だぞ俺。


「俺が疎いだけかもしれないけど、中学生の間でそういう話は聞いたことがない。つまり……」

「ああ、流行ってんのは高校生(おれら)の間でさ」


 ……そりゃこの二人が難しい顔をするわけだ。

 今はまだ高校生にしか広まっていないだけなら、いずれは中学生にも広まりドラッグによる直接的な被害が出る。


(高校生だけを標的にしているのだとしても……それはそれで危ない)


 この手の展開で自分からドラッグに手を出す不良なんて大概、性根が腐ってる。

 暴行、恐喝、ドラッグに手を出す以前からその手の犯罪行為に耽溺していただろうよ。

 そしてそういう奴らは弱い奴にしか噛み付けない。つまりどういうことだ?

 これまでも十分糞だが、それでも保身のために最低限超えちゃいけないラインは守れていた。

 しかし、ドラッグで頭をやられてしまえばそのラインさえ飛び越えちまうような馬鹿になる危険性が高いってことだ。


(……ドラッグ欲しさに金を巻き上げる奴は絶対、出て来る)


 大人しく金を渡すなら……いや、渡しても危険だな。

 何でこんだけしか持ってねえんだよ! なんて理不尽極まることを抜かす屑は絶対、居る。

 その怒りの解消手段として暴力に訴えるだろう。トンじまった馬鹿の行いだ、最悪も十分起こり得る。


「……頭が痛いな」


 思わず呻いてしまった俺に二人も同意を示す。

 俺らは世間様のルールから外れた場所で生きている不良だ。

 でも、だからって誰も彼もが滅茶苦茶になれば良いなんてイカレタことは考えちゃいない。


「まずは、感謝するよ。よく俺に知らせてくれた」

「笑顔くんはこの街の不良中学生の頂点だからな。知らせんわけにはいかんだろ」

「中学どころか高校を含めても限りなく最上位に居る“顔”の一人だろうぜ」


 全然嬉しくない……。


「俺が顔云々ってのはさておくとしてだ。あんたら、ちょっと動くのが遅過ぎやしないか?」


 この口ぶりだと高校生の間ではかなり、蔓延していると見て良いだろう。

 この街の名のある不良の一人である秤大我と骨喰龍也って男ならもっと早く察することが出来たんじゃないのか?

 俺の指摘に二人は、その通りだと認めた上でこう続けた。


「言い訳に聞こえるかもしれねえけどさ。気付くのに遅れた理由は幾つかあるんだわ」

「まず一つが時期。どうにも、ヤクが広がり始めたのはジョンが“イキ”ってたあたりみてえなんだ」

「それは……」


 逆十字軍が調子こいてた時期ってことか。

 それは同時にこの二人も別件で揉めてる最中で更にその裏では三代目悪童七人隊が暗躍していた時期でもある。


(……俺らが原因でもあるわけか)


 逆十字軍の存在を認知し、俺らが塵狼を結成しその討伐に動き始めたことでそれも目くらましになったんだろう。

 センセーショナルな話題に塗り潰されて話題はそれ一色。

 狙ってやったことだがそんな状況でまだ大々的に広まってるわけでもないドラッグの話題なんぞあっさり押し流されたはずだ。

 逆十字軍討伐後、ある程度落ち着いた期間もあったが夏休みだからな。

 裏サイトとかでも情報は得られるが学校という場に比べれば情報の流動は活発じゃない。


(それに加えて、三代目悪童七人隊との抗争も……)


 抗争自体は夏休み中に終わったが、その話題がより活発になったのは夏休み明けだろう。

 学校が再開したら当然、学生は夏休みの間に起きたことを話題に挙げる。

 個々人間のあれこれではなく皆が共有出来る話題として叛逆七星は打ってつけだ。


(……頭が痛くなって来た)


 どれか一つでも間が空いてたら気付ける可能性も……いやそれも難しいか。

 ヤクなんてリスクの高いものを捌いているのだ。当然、馬鹿ではない。

 俺らの動きを利用していたのはまず間違いないと思う。

 いずれバレることは計算に入れているはずだ、種を撒き始めた段階で気取らせるようなことはないだろう。


「で、もう一つの理由。生息域の違いだわな。普通、淡水魚と海水魚が交流なんてしないだろう?」

「鮭さんディスってんの? ってのはともかくだ。言いたいことは分かったよ」


 考えてみれば当然だわな。

 ドラッグに手を出すような輩と竜虎コンビに付き合いがあるとは到底、思えない。

 普通に考えて気が合わないし、弱者にしかイキれないカスどもも二人に目をつけられんようコソコソしてるだろうからな。

 二人が積極的にそういうとこを調べない限りは接点が生まれんだろう。

 更に言うなら積極的に踏み入って行くことも普通はない。

 言うてこの二人もヤンキーだからな。積極的にカスどもを更正させようだなんてことを考えることはまずない。


「……そんな状態でよく気付いたね。裏サイトとかで話題になってた?」

「殆ど偶然だよ。一応、裏サイトなんかも覗いてみたが特にそういう話題はなかった」


 話題に挙がらないよう立ち回っているのか、まだ明確な被害が出ていないからか。

 もしかしたら両方かもしれんが……だからって悠長に構えてるわけにもいかんわ。


「今、分かってることは?」

「ヤクが蔓延り始めてることとその名前ぐらいで本格的な調査はこれからだ」


 ってーことは知ってまだ間もない感じか。

 大した情報を得られそうにないのは残念だけど、こんな早くに知らせてくれたのはありがたいことだ。

 知るのが遅れれば遅れるほど受身にならざるを得んし。

 まあ受身でも悪いってわけじゃないんだがな。その場その場で対処してりゃ解決には向かうし。

 ただ受身のスタンスを取るにしても情報があるのとないのでは気の持ちようが違うのだ。


「ちなみにそのドラッグは何て名前なわけ?」

「Re……正式名称は楽園(Return to)回帰(eden)

「楽園回帰と来たか。そりゃまた皮肉の利いた名前だことで」


 一回、言いつけ破って知恵を得ただけで楽園追い出されたんだぞ。

 ドラッグなんぞキメてる奴が楽園に戻れるわけねえだろう。

 ドラッグの効能で一時的に快楽を得てそこを楽園と錯覚するだけじゃねえか。

 それでもその夢幻がずっと続くってんなら楽園と言えなくもないが快楽は制限時間つきで魔法が解けりゃ後は地獄だ。

 ドラッグの名前としては皮肉が利いてるなんてレベルじゃねえ。ドラッグに手を出す連中を小馬鹿にしてるとしか思えねえネーミングだわ。

 や、実際馬鹿だと思うがね。違法薬物なんぞ百害あって一利もないんだから。


「聞くまでもないかもしれないけど一応、聞くよ。二人はどうするんだい?」

「「黒幕を突き止めて馬鹿な真似を止めさせる」」

「だよね」


 それでこそ光のヤンキーだ。


「烏丸先輩にも既に伝えてある」


 当然だな。竜虎コンビの下に居る二十人とそこに烏丸さんと螺旋怪談が加わるんだ。

 外部協力者なんかも居るだろうし人手についてはまあまあ、良いんでねえの?


「ちなみにその烏丸さんは?」


 話し合うならあの人も一緒の方がスムーズだと思うんだが……。


「……食中りでダウン中なんだわ」

「……そっか」


 しまらねえなあ。


「で、俺はどうすれば良い? 柚と桃に内緒ってことは塵狼(うち)を捜査に加えるつもりはないようだけど」


 妙な行動を取らないよう目を光らせていれば良いのか。塵狼は動かさないが俺個人を捜査に加えたいのか。

 どっち? と聞くと二人は即答した。


「後者だ。笑顔くんの力を貸して欲しい」

「勿論、それは構わないよ」


 姉が高校生だからな。パンピーで女と来ればカスどもの餌食になりかねない。

 俺としては動かない理由がないから力を貸せと言うなら喜んで貸す。

 けど、


「役に立てるかい?」

「君が切れる男なのは十分、理解してる」

「大我の言う通りだ。ヤク捌いてるような奴だ、一筋縄じゃいかんだろう。頭の切れるリーダーが必要だ」

「……二人と烏丸さんはともかく他は納得してるの?」

「逆に聞くが叛逆七星として戦いに加わった奴らで笑顔くんを認めてねえ奴が居ると思うか?」

「安心しろ。キッチリ手足となって動くさ」


 そこまで言われたならリーダーはちょっと……とは言えんわな。

 同じ中学生ならまだしも高校生に指示をってのは正直、やり難いんだが俺も腹を括ろう。


「分かった。微力を尽くすよ」

「助かる」

「さしあたって考えなきゃいけないのは……どう誤魔化すかだな」


 俺のぼやきに二人も頷く。とは言え俺の場合は半ば諦めてるけどな。

 皆を違法薬物なんてものに積極的に絡ませたくはないってのは俺もそう思うよ。

 でも話の筋を考えたらどう考えても絡んで来るでしょって言うね……。

 なのでこれはあくまで二人向けのアピールだ。いや、関わらんならそれに越したことはないんだけどさ。


「笑顔くんがこそこそ裏で動いてたら流石にあいつらも気付くだろうしなぁ」

「何か良い案ない?」

「補習……とかどうよ?」

「生憎と成績は良い方なんだ」


 三人で頭を悩ませているとスマホが震えた。

 あまりにもタイミングが良かったので一瞬、動揺したが……画面を見て胸を撫で下ろした。


「ごめん、従姉妹からだ」

「はー……いやビックリしたわ。タイミングバッチリだもんよ」

「ホントにね。ちょっと席を外すよ」

「「あいよ」」


 席を立ったところで、ふと思った。


(……これ、使えそうだな)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 竜虎コンビの下に居る二十人 看板降ろしてたハズですが、また期間限定で旗揚げしたのかな?もしくは普通に友人等として協力してくれてるみたいな? [一言] 外パリッ、中ふんわりタイプのたこ焼…
[一言] イレギュラー回収か、楽しみ。
[一言] あー…キマってたから痛覚麻痺してて耐久力上がってたんかあの雑魚共 薬系とか逆十字軍以上に表に出てこない小賢しいやつが黒幕にいそう…
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