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転生後の世界はヤンキー漫画の法則に支配されていた  作者: カブキマン
中学編

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命の別名④

1.フラグぅ……ですかねえ(有識者E氏による見解)


 脱いだ学ランでゲームの入った袋を包み込み、そっとベンチに置く。

 いざとなればコイツらから金巻き上げて買い直せば良いがそもそも被害を受けないに越したことはないからな。


(しかし……何か既視感あると思えばコイツら……)


 通り過ぎるだけなら俺も気付かなかっただろう。

 だがこうして向き合ったことで記憶の片隅が刺激され、思い出した。

 コイツラは俺の先代にあたる四天王、薬師寺 中(やくしじ あたる)の取り巻きだ。

 元々関わりが薄く、薬師寺を返り討ちにした後は向こうも接触を避けていたから直ぐには思い出せなかったが間違いない。


(ま、確かに俺にゃ怨み骨髄だろうが……)


 何時だったかニコにも説明したが俺の先代はキレイキレイされる前の梅津と似たようなことをしていた。

 ただ、アイツと違う点もある。梅津の場合は過去のトラウマからそうしなければという強迫観念めいたものに突き動かされていただけ。

 だが薬師寺らはもっと俗だ。薬師寺が四天王の時代は薬師寺もその取り巻きも実に楽しそうにイキっていた。

 支配の優越に酔った馬鹿どもからすればそれを破壊した俺はさぞや憎かろう。


(特に、最近は俺の名も売れてるからな。余計に気に入らんだろうて)


 ニコほどではないが俺達四天王の名も中学生の枠を超えて広まっている。

 自分達を倒した男の名が売れて誇らしい、なんて思える殊勝な奴らではない。

 もしそうならそもそも支配なんてやらねーよっつー話だ。


「なあオイ、随分調子に乗ってるみてえじゃねえか。ああ?」

「調子に乗った覚えはないんだがな。薬師寺が四天王やってる時のお前らのがよっぽどだろうぜ」

「先輩に対する口の利き方を知らねえようだ」

「俺も大概、馬鹿だが敬う相手を選ぶぐらいの知能はあるさ」


 つーかこの時間無駄……無駄じゃない?

 口論程度で終わるならそもそも絡んで来ないだろ。だったらもう御託は良いから始めようや。

 俺には一刻も早く秘密基地に帰って宙日の未来を照らす有望な選手を育成するという使命があるんだからよ。


「あんたらを見てるとただでさえ悪い俺の頭がもっと悪くなりそうだ。消えてくれねえかな?」

「テメェ……!!」


 数は六人。実力も大したことはない。

 何なら狂騒あたりの平構成員のがまだ強いかなって感じだ。どいつもワンパンで沈められる。


(ちゃっちゃと終わらせんべ)


 そう考え真っ先に噛み付いて来た馬鹿の横っ面にフックを叩き込むが、


「ッ!?」

「ハッハァ!!」


 手応え十分。だというのに沈まない。それどころかまるで堪えていないようにそいつは俺に反撃して来た。

 顔面に走る衝撃。殴られるという心構えが出来ていなかった俺は拳をモロに喰らい、吹っ飛んだ。


「死ねオラァ!!」


 倒れた俺目掛けて振り下ろされた踵を転がるように回避し、立ち上がる。


(……油断していたってのはある)


 最近は高校生とやるのが当たり前になっていて、雑魚にしても結構なレベルのが多かった。

 だから薬師寺の取り巻きどもを舐めていたってのは確かにある。

 油断した挙句、無様にブン殴られたことは認めよう。


(だが、おかしい)


 街灯の光に群がる蟲のようにこちらへ向かって来る連中の攻撃を捌き、防ぎ、避けながら思案する。

 喧嘩の強い弱いはそいつを見れば何となく分かる。隔絶した実力差があるなら正確には測れんが自分より強いってことぐらいは分かる。

 自分より弱い奴に限って言えばその実力はほぼ完全に把握出来ると言っても良い。

 こればっかりは感覚的なものだからな。そういうもんだと理解してもらうしかないのだが……まあそういうことが出来るって分かってくれりゃ良い。

 今、俺とやり合ってる連中は全員“格下”だ。その実力もほぼ正確に感じ取れる、


「はずなんだがな」

「何をぶつぶつ言ってんだクソァ!!?!」


 折りたたみ式警棒が俺の顔面目掛けて振るわれる。

 それを潜り抜けながら鳩尾に一撃。痛みに呻きたたらを踏むが、やっぱり倒れない。


(……どういうことだ?)


 タフな相手にも種類がある。

 身体が頑丈だからちょっとやそっとの攻撃じゃ倒れない。心が強いから痛みに負けず肉体を限界まで酷使出来る。もしくはその両方か。

 名のある不良ってのは大体、両方を兼ね備えたタイプだ。

 じゃあコイツらは? 前者? 違う。大して鍛えてないのは殴った感触で分かる。後者? ますますあり得ねえ。

 中学生を囲んで袋にしようなんて野郎どもがだぜ? 心が強い? 冗談はよしこさんってなもんだ。

 どれにも当て嵌まらないのにこの奇妙なタフさは何だ?


(……まるでバグじゃねえか)


 HPを削り切ったはずなのに行動不能にならない雑魚キャラを相手にしているような気分だ。

 ああいや、バグは言い過ぎか。雑魚が中々切れない食い縛り系のアビリティ持ってるようなもんか。


(どうしてかって疑問はあるが、どうにもならないってわけじゃねえしな)


 見立て以上のタフさがあるとは言えだ。相手は人間。不死身の化け物ってわけじゃないんだ。

 元が雑魚なら多少、喧嘩が長引いたところでどうってことはねえ。


「倒れるまでブっ叩けば良いだけだもんなァ!?」


 別に単発で決める必要はないのだ。

 一発で仕留められないなら何発でも叩き込めば良い。


「あとはこういうやり方も!!」

「あぐっ!?」


 最後の一人に裸締めを仕掛ける。

 バタバタともがいているが何てことはねえ。この程度じゃ外せねえよ。


「ふぅ」


 泡を吹いて倒れた馬鹿を見下ろし、一息吐く。

 当初の予定より時間はかかってしまったが……まあまあ、切り替えていこう。

 俺にはやらなければいけないことがある。


「――――野球しようぜ!」


 電脳世界で!!




2.名探偵ニコ


 学生には委員会活動というものがある。

 クラス委員や図書委員、風紀委員、放送委員、保健委員とかそういうアレだ。

 学校側からの俺に対する認識は手のつけられない不良生徒だろうが俺としては理由がなければ普通に真面目な学生をやっているつもりだ。

 なので俺も普通の生徒の例に漏れず委員会に所属している。

 去年は特に自己主張をしなかったので余りもので人気のない美化委員に配置されたっけな。

 今年は俺に配慮して楽な図書委員の席を皆が譲ってくれたが固辞して、今年も美化委員に入った。


(ゴミ拾いやら花壇の手入れって存外、楽しいんだよな)


 こういう地味な作業は嫌いじゃない。むしろ好きだ。何か落ち着くんだよね。

 週に二度の活動だがもっと増やしても良いと思う。


「ねえねえ、花咲くん」


 一緒に土いじりをしていた女子生徒(同じクラス)が声をかけて来る。

 確か名前は……白浜さんだっけ? 何? と問い返すと白浜さんは好奇心に溢れる瞳で言った。


「塵狼ってさ。どんなことしてるの?」


 あー……ヤンキー輪廻の外に居る人からすれば謎だよな。

 族とかカラーギャングとかお前ら何やってんの? ってなるのも已む無しだ。


「そう、だねえ。普通に皆で集まって遊ぶことが多いかな」

「喧嘩はしないの?」

「することもあるけど基本、自分達からは特に何もしないよ」


 逆十字軍みたいに俺らの行動範囲で鬱陶しいことやってるなら話は別だけどな。

 喧嘩をすることもあるし皆で走りはするが、じゃあそれに特化してるかって言えばそんなことはない。

 喧嘩屋でもなければ走り屋でもないゆるゆる不良グループ。それが塵狼だ。


「こないだの集会では一発芸大会なんかしたね」

「……それは不良グループなのかな」


 ちなみに次の集会で何するかは議論中だ。

 今挙がってるのはチーム対抗麻雀大会とボドゲ祭り、缶蹴り大会である。

 肝試し系の提案する奴も居たがそれは総長権限と幹部権限で却下している。

 最近よぉ、例の鞠がやたらと自己主張しててマジぴえんなんだが? いやもうぴえん超えてどろんなんだが?


「ふぅー……よしよし、こんなもんかな」

「だね。あ、私ゴミ捨てて来るよ」

「いや俺が行くから白浜さんは先に上がって良いよ」

「良いの? じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとね!」


 ゴミ袋を手にゴミ捨て場へ向かう。

 これで今日の美化委員としての活動は終了だ。若干、物足りなさはあるがさてこれからどうしよう。

 五時近いし、そのまま直帰しても良いが今は気分が盛り上がってるからな。


(んー……ちょっと本屋にでも寄るかぁ?)


 基本、読書したいとなれば図書館or図書室で借りる俺だが偶には買うのも悪くはない。

 本棚に入ってるのが辞書やら必要書籍だけってのは寂しいしな。

 何を買おうか。小説か面白そうな専門書……いや、漫画ってのも良いんじゃないか?

 転生してからこっち、図書館や図書室で古い漫画は時々読んでたが新しいのはあんま知らないんだよな。


(ジャンルは……やっぱりヤンキー漫画、かな?)


 ヤンキー漫画の法則に支配された世界でヤンキー漫画を読むとか何かもうそれだけでツボだ。

 そうと決まれば早速、と思ったところでポケットのスマホが震える。

 誰じゃいと若干、不機嫌になりながらスマホを取り出し――目を丸くする。


「大我さん?」


 まったく予期していなかった相手からの電話に驚きつつも通話ボタンをプッシュ。


「はいもしもし」

《笑顔くんかい? 急に悪いな》

「いえ、構いませんよ」

《敬語は止めてくれよ。知らない仲じゃないんだ。前みたいにタメ語で良いからさ》

「そう? じゃあ、お言葉に甘えて。で、俺に何の用で?」

《……その前に、近くに金太郎達は居るかい?》

「? さっきまで美化委員の仕事やってたんで俺一人だけど?」


 皆にも今日は委員会活動あるから遊べないって事前に言ってあるしな。金銀コンビと梅津もそれぞれ用事あるみたいだし。

 金銀コンビは確か贔屓にしてるマイナーバンドのライブがあるとかで県外に、梅津はミリタリーショップにだっけ?

 前者はさておき後者は危険な香りがぷんぷんするよな。あの手のアイテムはネットで買えるってのにわざわざ店舗へだもん。

 ただでさえコミュ障のケがあるアイツがわざわざ店舗にってんだから……ねえ?

 現地でしか見せられない上客向けのやべえブツとかを物色しに行った可能性がひっじょーに高いと思う。

 光堕ちした今なら危ない趣味だなで済むが、汚かった頃の梅津ならかなりヤバイわ。


《美化委員……意外なとこ入ってんなぁ》

「案外楽しいよ」

《そうか? まあ、それはともかくだ。アイツらが居ないなら都合が良い。今、時間あるか? あるなら会いたいんだが》

「大丈夫だけど……えっと、どこへ行けば良い?」

《いや俺らがそっちに向かう。場所は――前にも使った例の廃工場にしよう》

「了解。じゃ、今から向かうよ」

《悪いな。じゃ、現地で》


 電話が切れた。


(ふぅむ)


 顎に手を当て思案する。


(――――新章の始まりですね、これは)


 だってそうだろ? 仲の良い金銀コンビに“内緒”で俺に会いたいなんておかしいじゃん。

 二人には聞かせられない話があるってことだろ?

 で、大我さん……俺らって言ってたし龍也さんも絡んでるのは間違いないな。

 あの二人の性格上、聞かせられない理由は金銀コンビを慮ってというのが一番高い可能性だと思う。

 そうならまず間違いなく厄介事だろう。そして厄介事=長編エピ。この図式は決して揺るがない。


(今回は俺が主役じゃないと思ってたんだがなぁ)


 四天王――全員個別の短・中編を四本、ないしは三本(金銀はセットだしこの可能性が大)セットで一本の長編か。

 もしくは誰か一人にスポットを当てた長編のどっちかだと俺は予想していた。

 そして後者の場合はタカミナが主役を張るんじゃないかとも。

 一人を主役に据えた長編やるなら一番最初に俺と出会ったタカミナが妥当だろう。

 何にせよ俺は次は脇に回ると思ってたから気が緩んで……いや待てよ。


(そうと決め付けるのは早計か?)


 今回、仮に俺が主役だとしてだ。大我さんが導入を務めるんなら高校生組もメインである可能性が高くなる。

 でもそれってどうなんだ? 今やってる過去編ってさ。主人公は俺なわけで俺は中坊じゃん?

 そんなら必然、メインキャラも中学生ってことになるよな?

 その上で三代目悪童七人隊との戦いを思い返してみよう。あれは四天王らが脇に回り、俺と高校生組がメインの話だった。

 八朔の長編を一回挟んだとは言え、直ぐにまた高校生をメインに据えるか? 俺が編集ならNGを出すぞ。

 となると俺は今回、どういう立ち位置になる? 幾つか想定は出来たが……この段階で結論は出せんな。


(とりあえず大我さんらと会って、その上でまた考えるとしよう)

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― 新着の感想 ―
[一言] 第4話「Hello,world!④」のtipsが証明されてしまうか
[良い点] 「こないだの集会では一発芸大会なんかしたね」 「……それは不良グループなのかな」 確かになw。そして毬の主張はおそらく肝試し大会しろっていう催促かなw [気になる点] 梅津何仕入れたのかな…
[一言] 相手ジャンキーっぽいし、タカミナが死ぬんじゃないかと気が気でなかった。
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