レッツゴー!陰陽師⑤
1.圧倒的健全タイム……!
ハンモックパネェ。
昨夜はジャンケンで負けた俺がハンモックになったのだが特に身体を痛めるようなこともなく快適な目覚めだ。
いやさ、俺も最初はどうなん? と思ったよ。ちゃんと寝れるのかってね。
でも揺れが逆に良かった。心地良い眠りに誘ってくれた感が半端ない。毎日となればちょっとあれだが時々なら良いと思うの。
「っと」
未だ寝ているタカミナと梅津を起こさぬようそっと下に降りる。
柚と桃はもう起きているようで部屋の隅には畳まれた布団が置いてあった。
抜き足差し足で居間に行くと金銀コンビは茶を啜りながらテレビを見ていた。
「おはよ」
「「はよっす」」
「二人とも、早いね」
時刻はまだ七時を少しばかり過ぎたところだ。
平日ならまだしも夏休みで、それに加えて親も居ないのにこんな時間に起きているというのはちょっと驚きである。
「俺らはほら、朝飯と昼飯の用意もあったからな」
「ちな朝はサンドイッチ。昼はおむすびにする予定で米炊いてる。オカズは現地調達な」
今日は川遊びに行くのでそこで魚やらをってことか。
アウトドアに強い金銀コンビが居るなら最低限のオカズは確保出来るだろう。
「朝飯はタカミナと梅が起きてからだが、軽く何か入れとくか?」
「んーん、大丈夫」
よっこらせと腰を下ろし俺もテレビを見る。
地方局のチャンネルを見ているようで低予算感が半端ないけど、不思議とほっこりするな。
「しかしやっぱ田舎はちげぇな。飯の準備する前に金角と少し散歩してたんだがよぅ」
「おお、ジジババはとっくに起きて農作業に勤しんでたぜ」
「へえ」
「やっぱ畑仕事とかあるとリズムは全然変わるんだなぁ」
でも健康的で良いと思う。若いうちは不摂生でも良いけど三十ぐらいからはなぁ。
翌日になっても疲れが取れねえし、昔はバリバリ喰えてた揚げ物もキツクなってくる……。
健康的な生活を送らにゃと思いつつも、現実問題それは難しくてさ。
俺が死んだのは日頃の不摂生も確実に影響してると思う――いかん、何だか悲しくなって来た。
「ああそうだ、注意しとかねえといけねえことあったんだ」
「?」
「二件隣の爺さん居るんだが、近付かん方が良いぜ」
何で? と聞いてみると露骨に嫌なリアクションをして来たそうな。
ヤンキーだからってより、よそ者が嫌いなんだろうと。
「そん時、通りがかった別の家の婆さんがフォローしてくれたけど……」
「なあ? 態度悪いわあれ。嫌な気分になるだけだしえっちゃんも気ぃつけな」
「うん」
村長さんや昨日、すれ違った人らを見るに大部分は良い人なのだろう。
一部にそういうんが居るというだけなら近付かなければ良いだけだ。
(幾らヤンキーつっても年寄りに暴力を振るうわけにはいかんからな)
それからタカミナと梅津が起きるまで俺は金銀コンビと駄弁っていた。
コミュニケーション能力に難ありの俺だが、相手がコミュ強なので会話はまるで苦にならない。
テツとかもそうだがこういう陽気さは羨ましいね。絶対、社会に出てからも輝くスキルじゃん。
そして寝てた二人が合流すると作り置きしてあったサンドイッチを食べた。美味しかったです。
「そいじゃ準備も出来たし行くべや」
沢に行ってから着替えるとかはしない。家からだ。
海パンの上にシャツやら薄手のパーカーを着た俺達は荷物を手に村を出発。
昨日の内に村長さんから話を聞いていたので特に迷うこともなく辿り着くことが出来た。
「おー……やばい、これ、出てんだろ。マイナスイオン」
どどどど、と流れる滝にかかる虹がとても綺麗だ。
飛び込みに使えそうな切り立った部分もあるし、さっさと入りたい。
「よーし! そんじゃ早速……って梅は行かんのけ?」
「……眠気が取れるまではテキトーにゴロゴロしてる」
「そっか。んじゃ俺らだけで行くべ」
荷物を置いた俺達四人は一目散に川へと飛び込んだ。
結構な深さがあるようでどぼん、と身体は沈んでいく。
道中、熱で火照っていた身体が一瞬にして芯まで冷えていくようなこの感じ……確実に心臓に悪い。
しかし、若さゆえの特権でそれを快楽に転換しめいっぱい楽しむ。
「ぷはぁ」
水底に沈み込んでいたが息が続かなくなり浮上。めいっぱい息を吸い込む。
新鮮な空気が身体の隅々まで行き渡っていく感覚は最高の一言だ。
「桃が前に連れてってくれたとこも良かったけど」
「おお、あっこも中々だがここぁダンチだな。水の質がちげえわ。滝の水とかあれ直に飲めるだろ」
これで茶を淹れたりすればうめえだろうなと言われ確かにと頷く。
水出しコーヒーとかもやってみたいよね。
「村にゃ子供がいねえからしゃーないけど、俺らだけでこんな良いとこ独占しちまうのは申し訳ねえな」
「それな。タメか三つ四つぐらい上の奴らが居れば良かったんだが」
タカミナの言葉に柚がうんうんと頷くけど、それはちょっと困るかな。
三人は良いけどコミュ力がクソ雑魚なめくじな俺と梅津にはハードルたけえわ。
「「特に女の子が居れば……」」
悔しげに呟く金銀コンビ。
「…………まさかとは思うけどさ。夜這い文化とか期待してた?」
呆れ混じりにそう指摘すると二人は露骨にキョドり始めた。
「は? いや別にそんなん考えてねえし」
「そうそう。そんな……幾ら女に餓えてるっつっても流石にそれはねえよ」
「でも色白の東北美人に誘われたらほいほい忍び込むんでしょ?」
「「ったりめえだろ!!」」
即答である。呆れもあるが、それ以上に凄いとも思うわ。
さしたる関わりもない相手の寝所に忍び込むとかどんだけ胆力レベル上げたら出来るんだ……。
「アホだなおめえら」
「黙れむっつり! 最近、わりとマジで危機感抱いてんだよこっちは!!」
「おうさ! うちの奴らの中にも彼女出来たとか言ってるんがちらほら居るしよぅ」
ふむ、焦らんでも二人ならその内自然と出来そうなもんだけどねえ。
今でこそ顔良いけど前世の俺、あだ名が地蔵だぞ地蔵。
そんな男でも最終的に別れたとはいえ結構な美人さんと付き合うことが出来たんだし。
「はぁー……花火大会か何かで運命的な出会いを果たせねえかなぁ」
「少女漫画のような恋がしたい」
あ、性欲オンリーってわけでもないのね。乙女な部分もあるんだ。
でもまあ、そういうのなら俺も少しは憧れるかな。
ルイも……ある意味、ハード系の少女漫画タイプと言えなくもないけど俺はライトなんが良い。
何でもないことで一喜一憂してえ。見てるこっちが恥ずかしくなるぐらいの甘酸っぱいイベントに巻き込まれたい。
(この世界がヤンキー漫画の法則に支配されてなければ……)
ぴえんだわ。
悲しい気分を誤魔化すように一時間ほど泳いだり潜ったり飛び込んだりと水遊びに興じる。
黒狗の目がシャッキリして来たところでそろそろ昼のオカズ調達に入るべやとなった
「確かニコちゃんは前、銀角に釣りに連れてってもらったんだよな?」
「うん」
「そいじゃあ、今回は未経験の梅津とタカミナに譲ってやってくれい」
蔵にあった竿は二本、全員が釣りに興じれるわけではない。
ならば折角だし川釣り未経験の二人にということだろう。勿論、俺に異存はない。
「……俺ぁマジの素人だぞ。釣れなくても文句言うなや」
「カカカ、安心しろって。この釣りキチ金ちゃんが教えてやるんだ。人数分ぐらいは釣らせてやらぁね」
「おぉ、頼りになるじゃねえか。ヌシ釣らせてくれや川のヌシ」
「お前は調子乗りすぎ」
消去法で俺は桃と行動を共にするわけだが、
「こっちはどうするの?」
「んー……まずは沢蟹だな。前ん時は捕まえんかったがあれも中々うめえんだ」
「ほう」
「これはわりと簡単に捕まえられっからある程度、数揃えたら次だな」
「次って?」
「ふっふっふ、それは後のお楽しみよ。つーわけで沢蟹探そうぜ沢蟹」
何をするんだろうか……不安もあるがそれ以上にワクワクするな。
「沢蟹は基本、岩の下とか身を隠せそうな場所に居るんだわ。例えば……こういうとことか」
「お、居た」
浅瀬にあったそこそこ大きな岩を持ち上げると沢蟹発見。
桃は一切の躊躇なく手を伸ばし沢蟹を鷲掴みにして水を張ったバケツに放り込んだ。
「コツはビビらず一気に捕まえること。挟まれても大したことねえからよ」
「なるほど」
「まあサバイバルナイフの刀身を平然と掴みに行くえっちゃんにゃカンケイねえけどな」
釣りをしている三人の邪魔にならないよう気をつけながらあっちこっちを探索し沢蟹を捕獲していく。
十匹ほど捕まえたところで一旦、沢蟹の入ったバケツを置きに戻る。
「で、次は何をするの?」
いよいよ後のお楽しみが始まるわけだが……何だろう? 山菜とか?
小首を傾げる俺に桃はちっちっちと舌を鳴らし、笑う。
「――――蛇だ」
「蛇かぁ。食べたことないな」
「……リアクション薄い……薄くない……?」
えぇ?
「もっとこう「えぇ、蛇ぃ!? 嘘でしょ……食べるの? マジで!?」みたいなリアクションが見たかった」
「そう言われてもなぁ」
俺のキャラじゃないしそもそもからして、
「わざわざ桃がオカズに選ぶぐらいだから別に問題はないかなって」
美味しく、ないしは普通に食べられるのは確かだろう。
わざわざ不味いものを持って来るような性格の悪い奴ならともかく桃はそういうタイプではないし。
「クッ……俺の信頼度が仇になったか……!」
「で、味は?」
「淡白で癖がない。鶏肉に近い感じだな」
折角の夏休みで、田舎なのだ。普段は出来ないことをした方がずっと良い。
そう考えて蛇をオカズにすることを思いついたのだと言う。
こういう細かな気遣いはホント、ポイント高いと思うわ。
「村長の爺さんから蛇がよく出る場所も教えてもらったし、ガンガン獲ろうぜ!」
「何時の間にそんな……でもまあ、蛇が居なくなるのは村の人にとっても悪いことではないし頑張ろうか」
沢を離れ、桃が最初に目をつけているというポイントに向かった。
すると早速、発見。桃は蛇にビビるとかそういうこともなく即座にサンダルで頭を踏み付けナイフで頭を落とした。
「蛇の毒は唾液由来のもんだから頭に残留してんだわ。燃やしちまうのが一番だがそれが出来ないなら土に埋めるのがマナーよ」
「なるほど」
レクチャーを受けつつ蛇ハントを続ける。
そうしてどれだけ歩き回ったか。スマホのアラームが鳴り響く。タイムアップらしい。
俺と桃は捕獲した蛇を持って沢へと戻った。丁度、柚らも釣りを切り上げたところらしくバケツには人数分の魚が泳いでいるのが見えた。
「…………蛇を食うのかよ」
「期待通りのリアクションありがとう!」
俺達の獲物を見た梅津はドン引きしていた。
だが怖いなら別に良いよと煽ってやると簡単に乗って来た――ブレねえなコイツも。
「そいじゃ金角、そっちは魚の準備を頼まぁ。しっかりレクチャーしてやんな」
「あいよ。そっちも蛇の処理、しっかりやれや」
というわけで役割分担だ。俺達は蛇班である。
沢蟹の方も魚班がやってくれるそうなので俺達はこっちに集中出来るな。
「しかし、頭を落としてもまだ動いてるとは……生命力半端ないね」
健康長寿のシンボルに使われる理由がよく分かったわ。
「普通は気持ち悪い……とかなるもんだがマジ、えっちゃんは動じねえな」
「俺のことは良いから捌き方教えてよ」
「あいよ。つってもそう難しくはねえがな。まずは皮を剥ぐ。思いっきりやっても問題ねえぞ」
「ふむふむ」
中々に硬いが、まあまあ力を入れれば剥げなくもないか。
「で、次は内臓。皮を剥がせば簡単だ」
「ほー」
お喋りをしながら下準備を整えていく。
何というか、俺今、めっちゃアウトドアしてる……。
「塩コショウしか味付けしてないけど大丈夫?」
「おう、これでも十分うめえよぅ。まあ一応、焼肉のタレも持って来てるから薄けりゃそれ使えば良いだろ」
「出た。万能調味料焼肉のタレ」
「カレー粉もそうだが、困った時はコイツを頼れ感が半端ねえわ」
焚き火で串に刺した蛇を焼いていく。
肉が焼ける匂いってのはどうしてこうも食欲をそそるのだろうか。
「そういや山菜取らなかったのは何で?」
「山菜は明日だ。今日は川遊び、明日は登山。山登りがてら採るんが一番よ」
「なるほど」
「にしても……あれだな、田舎の山って言うと怪しげな社とかありそうじゃね?」
「怖い話の読み過ぎじゃない?」
「わっかんねえぞ~? 実はこの村にも悲しくも忌まわしい伝説とかが残ってるかもしれねえじゃん」
「ないない」
まさかこの会話がフラグになるなど、この時の俺は思いもしなかったのだ。
今回のエピソード「レッツゴー!陰陽師」は箸休め的なあれで
次の長編エピでは暴走族に焦点を当てた話を予定しています。
で、下のが出す予定のチーム名です。
白龍
紅虎
螺旋怪談
闇璽ヱ羅
黒笑
悪童七人隊
魔性天使
読み方は次々回ぐらいのあとがきで書くので
軽いクイズぐらいの気持ちで考えてくれると嬉しいです。
ちなみに螺旋怪談は心霊スポットに凸するのが好きなチームで総長の名前は淳二です。




