ネオメロドラマティック⑦
1.実質秀吉
はい、糞重シリアス展開しゅーりょー! お疲れっしたぁ! 餃子三人前はいりゃーす!! ありゃしゃぁあああああっす!!
あるあるだよ。げんなりするようなエピソードも偶には挟まれるよねっていう。
俺もかなりポエムってた気がするが、まあまあ。もう終わったことだし切り替えていこう。
ちなみにルイには会っていない。会う必要性も見出せない。俺がやることはもう終わったからな。
縛り付けていた糞のような鎖を引き千切って過酷な自由にルイを不法投棄した時点でやるべきことはもうない。
無責任だが、そもそも私情で始めたことだ。とやかく言われる筋合いはない。
ルイ自身も俺は不幸を撒き散らすことしか出来ない言うてたしな。文句つけられても君の言った通りだねで終わる。
というわけであれから期末テストに突入した俺は一夜漬けを繰り返してどうにかテストを乗り切った。
別に一夜漬けせんでも十位以内ぐらいにゃ入れるが堂々とサボった負い目もあるからな。今回も頑張りました。
そして金曜日の今日、いよいよ約束を果たす時がやって来た。そう、バーベキューだ。
どうせならキャンプもしようぜということで近場の金銀おススメキャンプ場でやることになった。
バーベキュー以外の代金も俺持ちで良いと言ったんだが、
『逆に楽しめなくなるからやめい』
と言われ俺はバーベキュー……それも肉のみの奢りとなった。野菜や米は各自で用意するとのことだ。
ただ、肉とは言え何十人分だ。運ぶのが面倒なのでキャンプ場に届けてもらうことにした。
あんだけ買ってくれたからサービスでそれぐらいはタダでやってやると言ってくれた肉屋のおじさんには感謝しかない。
なので俺は軽い荷物を持ってキャンプ場に行くだけで良かったのだが、
(…………またカツアゲかい!!)
気分良く駅まで向かってたらこれだよ。
これから楽しもうって時にこんなんスルーすると心に良くないものを残す。こないだとは別の意味で見過ごせない。
トークも面倒なのでサクっとぶちのめして電車に乗ったんだが……ねえ?
(最近のカツアゲエンカ率おかしくない?)
調整入った? 経験値倍増キャンペーン的な? ドロップUPキャンペーンも兼ねてる?
余計なお世話だよ。どんだけ倒しても経験値は糞だしアイテムも金しか落とさないじゃん。レアドロップないじゃん。
それともあれか? ヤンキーの目玉とかヤンキーの頭髪とか部位破壊しろと? それで素材集めて何か作れと? ヤンハンせよと?
ヤンキリン装備ですか? いらねーんだよそんな粗大ゴミ。ワ●ワクさん見習えワ●ワクさん。
あん人はすげえぞ。子供番組だから子供が真似出来る範疇でやってっけど本気出せば城作れるから城。しかもワンナイトで。実質秀吉だよ。
(ってか)
ふと思った。多発するカツアゲ……これ、次のエピソードの予兆じゃね?
いや待て。章が変わるというのは早計か。
ルイ関連の面倒事は片付いたが、シメに当事者であるヒロインが出て来ないのは不完全燃焼感ある。
いや、俺がピアノ弾いてる絵で締め括るのも悪くはないよ? だがこのエピソードの主要キャラは俺とルイだ。
ならどっかでもう一回、何かある可能性が高い。そうならない内に別イベントの予兆が起きてるってことは……。
(ダブル構成??)
メインであるヤンキー要素が脇にそれてたからルイとヤンキー関連のイベでワンエピソード……ってコト!?
となればルイ関連のイベントが重い系だったのを加味するとスカッと系?
多発するカツアゲと結び付けるなら組織的にカツアゲやってる連中を――いや待て読めたぞ!
(こ、ここか! ここで梅津……いやさ、最後の四天王“黒狗”を合流させる気か!?)
今はまだつるんでるの三人だからな。豪華ではあるがバーガーで言えばピクルス足りてない感がある。
だからこそだ。陰鬱な話の後にだよ? 四天王+俺が揃い踏みして共闘するとかストレートに熱い展開じゃん。
ここで気持ちが落ち込んでた読者を盛り上げとけばエピソードの最後でルイと何かあっても……まあまあ、飲み込み易いんでねえの?
豚カツの合間にキャベツ食うようなもんだよ。カツだけじゃ胃がキツイからな。
(しかし四天王全員が出張るとなると、だ。これ結構な規模なんじゃねえの?)
よく遊んでるから距離感バグってるけどアイツら他区の他校生だからな。
この街は結構な規模の都市だからな。市内全域で組織的なカツアゲが成されているなら相当な規模だ。
しかし、それぐらいじゃないとわざわざ全員でなんてことにはならんだろう。
(俺の“読み”が正しいとするなら――――俺にとっても好都合だ)
普段なら喧嘩とかめんどいしんどいかったるいで終わるんだが今回に限っては別だ。
何故? アライメント調整に決まってるだろ常識的に考えて。
ルイの一件……ってか五人の屑への躾で俺はかなりダークサイドに傾いてしまったからな。
(ここらで喧嘩スタイルと一緒に調整を入れておかねば闇堕ちしかねん)
普段、俺はヤン映えするスタイリッシュな立ち回りを意識してやっている。
しかしそれは何も世界観バフだけを気にしているわけではない。理性を以って暴力を振るうための枷も兼ねてあるのだ。
屑どもへの躾も理性が皆無というわけではなかったが、それでも普段より格段に箍は外れていた。
じゃなきゃ去勢(物理)なんてやれんわ。普通の喧嘩でんなことやったらドン引きだよ。
骨を折る時もそう。普段はくっつき易いよう綺麗に折っている。
しかし屑どもの骨を折った際は違う。より激痛を与えられるように、より長引くようにとぐちゃぐちゃにしてやった。
(理性的な立ち回りを意識しないと酷いことになっちまう)
壊す、ないしは殺すための攻撃一点特化。
そうさなあ、それっぽく表現するなら“バーサーカー”スタイル? バーサーカースタイルは危険過ぎる。
普段の立ち回りと比べたらそりゃ強いよ? 回避も防御も意識しないから相応にダメージ喰らうがそれもデメリットとは言えないしな。
その気になれば痛みは無視出来る。強キャラ特有の耐久でそう簡単に壊れる心配もない。
だが何より酷いのは、
(――――俺と相性が良過ぎるんだよ……)
何をするか分からないヤバイ美形キャラとバーサーカースタイルはカツとカレー並みに相性が良いのだ。
想像して欲しい。ものごっそいイケメンが獣もかくやという勢いで理性をかなぐり捨てて暴れている姿を。絵になるよな?
俺がバーサーカースタイルを取れば更にバフが乗っかるだろう。
だがそれは闇堕ちへ近付くということでもある。だからこそ今、アライメント調整が必要なのだ。
ウェルカムカツアゲグループ! 俺のために犠牲になってくれ!
(……とりあえず飯時にでも軽く探りを入れてみるか)
キャンプ場に到着した俺は管理人に代金を払い皆の場所を聞いてから中に入った。
どうやら奥の方に居るとのことだ。肉も既に到着しているらしく、既に誰かが受け取って持って行ったらしい。
だらだらと歩いていると賑やかな話し声が聞こえて来る。
「おーっすニコ! もうちょっとで準備完了だぜ~♪」
バーベキューの準備をしていたタカミナがこちらに近寄って来る。
あちこちで野菜切ったり米炊いたりと慌しいが、皆楽しそうで何よりだ。
「悪いね、準備任せちゃって」
「良いって良いって。こらぁ、俺らのお疲れ様会だがお前を労う場でもあるんだからな」
「……ありがと。柚と桃は?」
「ちっと離れた場所でテント立ててるよ。しかしあれだな、アイツら指導超うめえの」
「アウトドア系の趣味にも強いからねえ」
噂をすれば影が差す。丁度、話題に出していた金銀コンビもこちらに姿を見せる。
俺の姿を視認するや嬉しそうに駆け寄って来てくれた。
「ちっすニコちゃん。調子はどうよ?」
「ちっすえっちゃん。もう何時でも始められっぜ?」
「ん、じゃそうしよっか」
俺がそう告げると三人は声を揃えて叫んだ。
「「「はいちゅーもーく!!!!」」」
その声でぴたりと喧騒が止んだ。
学校の集会とかでも平気でくっちゃべってるような連中がだ。校長先生より凄い統率力の持ち主である。
「もうお腹ぺこぺこだろうが折角なんだ。始まる前にニコから一言貰わないとな!」
「「つーわけでどうぞ!!」」
ささ! っと三人が脇に寄り全員の視線が俺に突き刺さる。
いや聞いてないんですけど。いきなり一言とか言われても思いつかんわ。
「みんなー、きょうはニコのためにありがとうねー」
「「「アイドルか。つか、せめてそこは声張れや」」」
ちょっとしたジョークじゃないか。
でもそうだなぁ……うん、もう素直な気持ちを口にすりゃ良いか。
「何も聞かずに力を貸してくれ。我ながら随分、舐めた頼みだったと思う」
ゆっくりと皆を見渡す。その中には“惜しい”男ことハシカンも居る。
「だってのに、誰一人として嫌な顔をせず全霊で俺のために動いてくれた」
すぅ、と大きく息を吸い込みめいっぱいの気持ちと共に吐き出す。
「――――本当にありがとう」
深々と頭を下げる。
「今日の肉はそのささやかなお礼だ。沢山あるから皆、遠慮なく食べてくれ」
それじゃ乾杯、といきたいが皆別に飲み物持ってねえ……。
タカミナ達もそれに気付いたのだろう、何かしまらねえなと笑っている。
でもまあ、それで良いのだろう。
「そいじゃ、今日は楽しもう」
《おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!》
こうしてバーベキューパーティが始まった。
俺もイツメンと共に網を囲み、肉をひたすら並べていく。
「グギャギャギャ、このハラミ帝国皇帝ブタバーラの領土を侵そうとは良い度胸でおじゃる」
「牛か豚かどっちだよ」
ちなみにハラミは買ってるが牛だけである。
「ククク、ハラミ帝国何するものぞ。ミノ王国の王たる余、トリガーラを止められると思うてか」
「金ちゃんも銀ちゃんもそのノリ続けるんだ……」
「しかし、俺らは前もバーベキューだったんだよなぁ。いやまあ、何度やっても飽きねえが」
「肉は男の子の食べ物だからな。男は肉を食って強くなると憲法にも書いてある」
知らん憲法だ……。
「バーベキューと言やぁよ。こういう普通の焼肉の延長線上のも悪かねえが、アッメーリカァン式にも興味あるんだよな」
「おうそれな銀角! アッメーリカァン式良いよな。クッソでけえステーキとかベーコンとかを専用グリルで長い時間かけて焼くんすげえ楽しそう」
ホント仲良いなこいつら。そして無駄に発音良いのがムカつく。
でも……ああ、良いな。クッソでけえステーキを火でじっくり炙ってくとか想像するだけで腹が減るわ。
「自家製ソーセージとかも良くね?」
「良い良い。バーガー作るんも憧れるよな」
「それな」
「おい止めろお前ら、無限に食欲が沸いて来んだろ。誰か話題! 話題カエテ!!」
ナイスアシスト。この流れなら切り出しても不自然ではないな。
タン塩をご飯の上に乗せつつ切り出す。
「じゃあ俺が」
「お、ニコちんが? これは珍しいね~」
「まあちょっと愚痴を聞いて欲しくてさ。いやね、今日さ。電車に乗ろうと駅に向かってたんだよ」
「ふむふむ」
「……したら駅前でカツアゲ。いや、この一回なら別に良いんだよ。いや良くはないけど直ぐに忘れられる」
タンとご飯を口の中に放り込みモグモグしゴックン。
深々と溜息を吐いて続ける。
「前に柚に呼び出されて親戚さんの喫茶店に行く時も途中でカツアゲに出くわしたし、皆と風呂行こうって時もじゃん?」
最近、俺の対人運がカツアゲとのエンカウント率調整に入っているとしか思えない。
そう愚痴ってみるが……さてどうだろう。
「そりゃ災難だな――……って言いてえが、よくよく考えたら俺もえっちゃんと同じかも」
「銀角もか? 俺も言われてみりゃ、皆でシメたの除いても最近三、四回はシメ上げたかも」
「うぅむ、俺らぁもそうかもしれん」
「だね。いや俺らは何もしてないけど。タカミナが見つけ次第ボコってるだけだけど」
「「お前らも?」」
はい来た、やっぱそうだ。これドリームチームフラグですねこれは間違いない。
「ふぅむ。偶然の一致というには……ひょっとして何か起きているのか? 金角、銀角、そっちは何か心当たりはないのか?」
四天王とは言うが黒狗はあんなことになったし、タカミナは頭とかに興味がない。
だが金銀コンビは違う。その区のトップ(中学生限定だが)としてしっかり皆をまとめている。
ならば報告か何か上がっているのでは? と思ったのだろう。だが、
「「ねえな」」
とのこと。
「何かそういう動きがありゃ、俺の耳に必ず届くはずだ」
「……まあ、耳に入らんようどっかで塞き止められてる可能性もあるがよぅ」
そこまで言って、
「「「「「「……」」」」」」
俺達は黙り込んだ。あるかもしれない、そう思ったのだ(俺以外の面子は)。
俺は単にシチュエーションに合わせたリアクション取っただけである。
「……切っ掛け作っといて何だけど、今は楽しむ時間だ。この件は後回しで良いんじゃないかな」
「……だな。おう、肉だ肉。今は兎に角肉を楽しもうぜ」
空気を入れ替えるようにタカミナが手を叩くと場に満ちていた重いそれが霧散する。
そして援護射撃をするように金銀も続けた。
「だべだべ。肉食って、そん後は――――雨乞いだ」
「え、雨乞い?」
何それ聞いてない。
「いやほら、普通にキャンプファイヤーやってもつまんねえじゃん?」
「女の子が居りゃフォークダンスでもやるんだが悲しいことに男しか居ねえ」
「「って時にテツが言ったのよ」」
「雨乞いしてみない? ってね」
「「これっきゃねえと思った」」
何で?
「とりあえず動画を撮る予定だ。マジで雨が降ったら“リアルに雨乞いしてみたwww”ってタイトルでアップする手筈になっている」
「こりゃ気が抜けねえぞ。ビッと気合入れていこうぜニコォ!!」
「意味が分からないよ……」
まあでもこの訳分からない感じは嫌いではない。馬鹿になる楽しさってやつだ。
いつも感想ありがとうございます。
目を通させてもらっていますが、ちょっと返信の時間がなくて返せていません。申し訳ないです。