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M八七⑧

ちょっと補足しておきますと闇堕ちイベントが起きて終わってしまった以上

そういうキャラとして振舞いつつある程度コントロールした方が円滑にストーリーが進むからそうしてるだけで別に笑顔くんが狙って闇堕ちとかしたわけじゃないです。

1.……小学生?


 市内全域の高校一年生を対象にした賞金戦争において主人公がどう立ち回るのか。

 塵狼を脱退し、不良界隈とは距離を置いている俺がどうやって今回の戦争に絡むのか。

 これまでの俺の足跡や現状を漫画脳で分析してみたら答えは自ずと出て来る。


 昨日のことだ――――予想通り、ルイが狙われた。


 狙われたつっても本人は認識すらしていないだろう。俺が事前に潰したからな。

 下手人は金目当ての馬鹿どもだ。まあ、そうだわな。手前の強さを証明しようって人種が女を狙うわけがないし。

 ルイを人質に取って俺をボコり賞金ゲット、などと考えていたようだがするっとまるっとお見通しだ。

 だから学校サボってルイの周辺をそれとなく警護してたんだがドンピシャよ。

 とは言えだ。ルーザーズとの一件で結成された自警団連中がカスどもの動きを掴んでたみたいだから俺がやらんでも問題はなかっただろう。

 ただ俺にはやる理由があった。なので他の屑どもへの牽制も兼ねてルイを狙ってた阿呆どもには相応の処置をしておいた。

 もう二度と馬鹿な真似をしようとは……いや、何ならヒッキーになりそうだな。


(しかしアイツら……俺をやったとしても誰かが代わりに二百万の首になるだけなの分かってんのか?)


 あくまで色々と伝説がある俺だから誰も仕掛けないだけでそういうバックボーンがなきゃ金目当ての奴は直ぐ飛び付くだろ。

 どうやって俺をやったかも直ぐに情報が広まるだろうし純粋に自身の強さを証明しようとしてる奴らからも狙われた場合どうする気だったんだ?

 金貰ってとんずらこいても……ねえ? 街から完全に逃げるってんならともかく一時避難程度じゃ意味ないし。

 完全に逃げるにしてもたかだか二百万程度でどうすんの? って話だ。


(……馬鹿について考えても無駄か)


 ともかくだ。これで俺は賞金戦争に絡む“動機”を得たってわけだ。


(今の俺が戦争に首突っ込むならこれぐらいしか理由、ないもんなぁ)


 さあ、戦争に参加するチケットは手に入れた。では次。俺というキャラはどう動く?

 エントリーされてる連中を一人一人潰していく? いやぁ、それは流石に手間だ。

 これまでの行動から考えて土台をぶち壊しに行くのが自然だろう。

 そしてそれは主人公くんもだ。言い方は悪いがヤンキー連中からすれば主人公くんはポッと出のボーナスキャラみてえなもんだ。

 サイトに載ってからまだ三日だが四六時中、その手のアホどもに絡まれてたんじゃねえかな。

 たかだか三日だがストレスがマッハになっても不思議じゃない。


(彼、俺様系っぽいもんな。十中八九、俺と同じ方法で賞金戦争を台無しにしようとするだろう)


 あの手のキャラは何つーかな……視点が違うのだ。

 一段か二段、高い場所から物を見てるから行動が常人のそれとずれてしまう。

 俺もその視点を共有出来るわけだが、俺の場合はメタ読みだからな。

 ともあれ、これで俺と主人公くんには共通の目的が出来たわけだ。

 主催者連中を潰しにかかれば必ず、鉢合わせになる。

 ん? 鉢合わせたとしてどうやって喧嘩に持ち込むのかって? まあ見てな。俺のプランニングは完璧だからよ……。


「……ふぅ。ご馳走様」


 時刻は十二時前。

 三時間目で切り上げ、駅前のファミレスでゆっくり昼食を取っていたのだが丁度良い時間になった。


「行くか」


 会計を済ませ、戦争の主催者を潰すべく駅に向かう。

 賞金戦争の裏に居るのは五区八校の顔役みたいな連中だが全員を潰すつもりはない。

 音頭を取った奴だけで十分だ。他の七名は主人公くんが潰すだろう。

 で、最後の一人……このイベントを企画した奴んとこで鉢合わせって寸法よ。

 あん? 打ち合わせもしていないのに襲撃日時が被るのかって? バッカおめー、そこは世界(マッチングアプリ)さんの出番よ。

 どっちかが動けば上手いことマッチングさせてくれんだろ。


(……東区、か。久しぶりに行くな)


 今回の戦争の音頭を取ったのは東区にある工業高校の頭だ。

 如月、だったかな? 情報元の竜虎コンビ曰く、お祭り好きの筋肉ゴリラだとか。

 騒ぐのが好きだとしても他人を巻き込むなっつー話だ。

 主人公くんと早期に絡めるのはありがたいが、それはそれ、これはこれだ。

 興味もねーのに巻き込まれる側からすりゃ堪ったもんじゃねえわ。


「うぇ!? し、白幽鬼姫……」


 目的地に到着するとグラウンドでドッジボールをしていた不良達が俺を見てざわつき始めた。

 何でドッジボールやってんだこいつら……小学生? いやでもドッジボールは楽しいからなぁ。


「な、何でうちに……」

「……おい、どうすんだよこれ」

「何か昨日、白幽鬼姫にボコられた連中居るらしいがうちとは無関係だよな?」

「って……こ、こっち来んぞ!!」


 ひでえリアクションだ。

 俺はとりあえずボールを持ってる坊主頭に声をかけた。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「な、何だよ」

「如月、って生徒はどこに居るのかな?」

「如月クンの居場所? ンでそんなことを……」

「理由はどうでも良いだろ? 知ってるなら教えてくれないかな」


 俺の態度が癪に障ったのだろう。成り行きを見守っていた不良の何人かが苛立ちも露に言う。


「おいゴルァ! あんま調子こいてんじゃねえぞ!?」

「白昼堂々乗り込んで来やがってよぉ……テメェがどれほどのもんだってんだよ! あ゛ぁ゛!?」


 ガッと肩を掴まれたので俺は即座に裏拳を叩き込んだ。

 呻き声を上げ、倒れるモブヤンキー。ぴくりとも動かないそれを視界の隅に収めながら再度、問う。


「如月はどこだ?」

《ッ――!》


 全員が息を呑んだ。

 面子がなんぼのヤンキーとは言え、どうなったってそれを貫ける奴は一握りだ。

 そしてこの場に居る面子はその一握りの人間ではなかった。


「口が聞けないのかな?」


 バキボキと指の骨を鳴らす。

 軽い脅しだが五秒以内に教えてくれないなら実力行使も已む無しと思っていたのだが、


「――――おう、そこまでにしといたってくれや」


 楽しげな声が後ろから聞こえ、振り返る。


「お前さんみたいなんに凄まれたら、コイツらじゃあ何も言えんて」


 ……老けてんなぁ。京都のダディを思い出す老け顔だよ。

 この手の老け顔で貫禄のあるキャラもお約束っちゃお約束なんだが……リアルで見ると本当に高校生か疑うわ。

 三十代半ばぐらいのツラだもの。どこかの組の人間ですって言われても納得しちゃうもの。


「あんたが如月?」

「おう。わしに何ぞ用かえ?」


 ニヤニヤと笑っている如月を見て、俺はようやく理解した。


(あぁ……賞金戦争は“このため”だったってわけ)


 ガクン、と俺のテンションゲージが急速に下落するのが分かった。

 この如月。ようは“俺と()りたくて”こんな大掛かりな舞台を用意したのだ。

 喧嘩がしたいなら帰り道で待ち伏せすりゃ済む話だが、コイツはそれを良しとはしなかった。

 多分……あれだ、それじゃ俺の“本気”が見れないとでも考えたのだ。

 能動的に仕掛けて来る方がより俺の本気に近付けるとでも思ったんだろう。

 あるある。ヤンキー漫画だけに限らんだけど本気を見たくてわざと怒らせるってよくあるよねー!


(ってふざけんな馬鹿が!!)


 巻き込まれる側からすりゃ堪ったもんじゃねーわ!

 俺だけに迷惑かかるならまだしも、ルイにまで迷惑かけくさりやがってよォ!!


(――――予定変更だ。コイツは徹底的に虚仮にしちゃる)


 闇堕ちキャラらしくこれまで以上の過剰な暴力でコイツを潰すつもりだったが止めた。

 ああ、その手のキャラのやり方は別に一つじゃない。むしろ暴力よりも“効く”やり方がある。


「さんざ迷惑をかけられたからね。“落とし前”をつけさせてもらう」

「へえ! そういう用件じゃったか」


 白々しい……。


「まあええわ。そういうことなら付き合わんわけにはいかんのう」




2.屈辱


 この街……どころか関東最強とも噂される花咲笑顔と自分達の頭がタイマンを張る。

 突然のことに呆気に取られるギャラリーだったが、当事者二人は周囲のことなど眼中にもなかった。


「……」

「来んのけ? わしぁてっきり、あの鬼強え蹴りが初っ端から飛んで来るもんだと思っとったんじゃがのう」

「……」


 無言。如月は苦笑を浮かべる。


「かかって来いっちゅーわけか。えらい上から見下ろしてくれる。

でもまあ、そうじゃの。きさんは一度は西日本の頂点に立った男。対してわしぁ、地元でちぃとばかし名が売れとる程度じゃ」


 そういうことならしょうがない。

 からからと笑ったと思ったら、次の瞬間には凶相に変わる。


「後悔しなや!!!!」


 勢い良く殴り掛かる如月。


「……」


 笑顔はひょいと躱し、すれ違いざまに足を引っ掛け如月を転ばせた。

 顔面からこけた如月は一瞬、何が起きたか分からずぽかんとしていたが直ぐに立ち上がり再度笑顔に襲い掛かる。

 が、またしても足を引っ掛けられて転ばせられてしまう。


「こ、こんの……!!」


 四度、五度、六度、一度も攻撃を当てられぬままただただ転ばせられる。

 普通ならそう何度もこかすことは難しいだろう。

 三度……いや、二度もやれば普通は足元に意識を向けるようになるからだ。

 それでも尚、如月がこかされているのは何故か? 答えは単純。花咲笑顔が普通じゃないから。

 どのタイミングでどこをどの程度の力でつつけば良いか。

 それを完璧に理解しているから笑顔は何度も何度も如月を転ばせることが出来るのだ。

 ならどうする? こちらからは仕掛けず相手から仕掛けるのを待つ?


 ――――否、如月にその選択肢は存在しない。


 そもこの揉め事の発端は如月にあるのだ。

 どちらが先に喧嘩を売ったというのなら如月だろう。笑顔はただ迷惑をかけられた落とし前をつけに来ただけ。

 自分が原因で始まった喧嘩にも関わらず、ビビって手を出さずだんまりを決め込むなどダサいにもほどがある。

 だから如月は続けるしかない。何をどうやってもダサいとしか言いようがないこの状況を。体力の続く限り。だんまりを決め込むよりはまだマシだから。


「……くぁ」


 片手をポケットに突っ込んだまま、もう片方の手を口元に当て欠伸を噛み殺す笑顔。

 「あてが外れたか? ご愁傷様」そう言わんばかりの冷ややかな瞳。

 それを振り払うように如月は雄叫びを上げ、身を低くしタックルをかます。


「残念」


 が、届かず。

 頭に手を置き倒立のような姿勢で跳躍した笑顔は支点となっている手をぐっと頭に押し付けバランスを崩させ如月を転ばせる。


「ひ、ひでぇ……」


 誰かが呟いた。言葉はなくともそれは他の面子も同じ気持ちなのだろう。

 皆、一様に苦い顔をしている。

 一対一で対峙しているのに喧嘩すら“させてもらえない”。ただただ惨めな姿を晒すことを強いられている。

 ただ負けるよりもよっぽど無様なことだ。


「おい! 幾ら何でもこりゃねえだろ!? わざわざ人を虚仮にしに来たのかよ!!」


 如月は笑顔にとっては迷惑な人間だが、慕われる類のトップなのだろう。

 これ以上は堪え切れぬと一人が叫ぶと他の面々もそれに追従する。

 素晴らしい光景だ。友情というものか?


「口を出すだけか?」


 で、それに何の意味がある?

 笑顔がすっ、と目を細め声を上げた者らを見渡すと全員が言葉に詰まりたじろぐ。


「気に入らないならかかって来れば良い。君らにはちゃんと“やってやる”からさ」


 これまでの行動からも明らかだったが、明確に言葉にされるとまた違うものがある。

 わざと嬲っているのだと明言したのだ。しかし、誰も何も言えない。笑顔があまりにも恐ろしいから。


「……お、おどれの相手はわしじゃろうが!!!」

「そうだね」


 頭を張る者としての嗅覚でマズイと察したのだろう。立ち上がり、再度喰らい付いてまたこかされる。

 淡々と如月を転がしながら笑顔は告げる。


「目を逸らすな。この場から立ち去るな。微動だにせず見続けろ。さもなきゃ君ら全員、潰す」


 脅迫だ。言葉通りに受け取ればギャラリーへのもの。

 だがそれだけではない。これは如月に対する脅迫でもあるのだ。

 見続けろ――見るものがなければその要求は意味を成さない。

 見続けろという要求を成立させるのであれば如月は無様を晒し続ける必要があるのだ。

 如月に非があることを差し引いても惨い仕打ちと言えよう。


「ぜぇ……ぜぇ……」


 息を荒げ、足元も覚束ない如月。体力的な問題だけではない。精神的な負担も合わさりこの有様だ。


「少し、休憩するかい?」


 それは心が完全に折れるまでは止めないという宣言に他ならなかった。

 誰もが顔を蒼褪めさせる中、笑顔は――――


(あぁ、良い。良いぞ~。今の俺、圧倒的な実力を示しつつもかなり嫌なキャラだ。綺麗に堕ちてる、闇に!!)


 自身の悪役ムーブにご満悦だった。


(高杉の一件がすぅーっと……効いて、ねえ? 過去の俺との違いは瞭然っていうか?)


 渾身のキャラ立て。未来への布石。今の笑顔は達成感に満ち溢れていた。

 だが、彼の歓喜はまだまだ止まらない。如月が涙を浮かべ始めた頃、


「――――随分とまあ、趣味の悪いことしてんじゃねえの」


 遂にやって来たのだ。


(き、ききききキタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!)


 二つの物語が、交錯する。

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― 新着の感想 ―
[一言] 中身とのギャップが酷いことに……
[良い点] 世界(マッチングアプリ)さん優秀過ぎん?
[一言] き、ききききキタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
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