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転生後の世界はヤンキー漫画の法則に支配されていた  作者: カブキマン
高校編

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M八七③

1.伝説の男


 春風の視線は噴水に腰掛け足を組みスマホを弄る少年に釘付けになっていた。

 新雪のように白い御髪。吸い込まれそうな蒼い瞳。手足も長くどこのモデルかと言いたくなるような美形だ。

 が、春風が強烈に惹き付けられたのは外見ではない。

 外見も目を引きはするがそれ以上に、得体の知れぬ存在感に圧倒されたのだ。


(ンだアイツ……)


 春風は自分を不良ではないと思っているが何かと絡まれ易くかなり場数も踏んでいる。

 これまでも強い奴、と言えるような手合いとは幾度かやり合ったが件の白い少年は別格だった。

 怪物。そうとしか言いようがない。特に何をしているわけでもない。座ってスマホを弄っているだけ。

 なのに問答無用で理解出来てしまうその強さ。普通じゃない。

 思わず隣の犬太に聞いてしまったがやはり有名人のようだ。


「……塵狼。そういや朝も何か言ってたな。あの梅津と矢島って奴らが居るチームだったか?」

「うん」

「有名なチームなのか?」

「少なくともこのあたりじゃ知らない人は居ないよ」


 小さく咳払いし、犬太は語り始めた。


「朝、話したよね? 逆十字軍を潰した超新星(ルーキー)について」

「もしかして……」

「うん、それが彼――白幽鬼姫こと花咲笑顔率いる“塵狼”さ」


 曰く、この街の中学には四天王というのが居るらしい。

 東西南北それぞれの区で一番強い中学生がそう呼ばれると言う。

 今朝方、軽く話した梅津は西区の四天王だったとか。


「その四天王を全員、倒してその強烈なカリスマで束ねたのが彼なんだ」

「……へえ」

「逆十字軍だけじゃない。塵狼が刻んだ伝説は他にもあるけど……彼個人に限って言うならもっと凄いよ」

「詳しく聞……ッ!?」


 瞬間、春風の目が大きく見開かれた。


「あ、あの野郎……ッ」


 ギリ、と歯軋りをする春風。

 何故か? 花咲笑顔の下に駆け寄って来た少女が原因だ。

 腰まで伸びた濡羽色の黒髪。花咲笑顔と並んでも見劣りしない整い過ぎた顔立ち。

 つまりはまあ――――非モテの嫉妬である。


「ドがつく美形の上に彼女まで居やがるのか!?」

「いやぁ……ドがつく美形だからじゃないかなぁ」


 実際はどうかは分からない。

 が、少女の嬉しそうな顔。腕に絡みつく姿を見ればカレカノだと思うだろう普通は。

 花咲笑顔は少女と連れ立ってどこかに行ってしまった。


「ケッ、これからデートってわけですかい? 良いご身分ざんすねえ」

「陽福くん……小物臭が半端ないよ……」

「誰が小物だ! 殺されてえのか!?」

「酷い逆ギレ……」


 春風は小さく鼻を鳴らし、さっきの話の続きを促した。

 どうしてかは分からないが……どうにも、気に入らないのだ。あの男が。

 イケメンだからとかそういう――いやそれもあるかもしれないが、多分、これはもっと根が深い。


「う、うん。そうだね。有名なところで言うと……陽福くん“菅原會”は知ってる?」

「知らねー」

「……去年まで存在した関西最大のチームだよ」

「過去形か。話の流れしてあれか? 野郎が潰したって?」

「半分正解で半分間違い。花咲笑顔は最後の會長として菅原會を解散させたんだ」

「……? 會長? ちょっと待てや。その菅原會ってのぁ関西のチームなんだろ?」


 何で関東の花咲笑顔が會長をしているのか。

 春風の疑問に犬太は最後の跡目戦争について説明してやった。


「他所からやって来た最年少にして最後の會長が歴史ある組織に幕を引いた。正しく伝説の一ページだ。

この街だけじゃない。日本中の不良がそれを知ってると言っても過言じゃないと思うよ」


 花咲笑顔を語る犬太の瞳には隠し切れない羨望が宿っていた。

 今朝、自分と会った時もそうだったなと思い出したが春風はそこには触れなかった。


「あとは、アレだね。強い不良っていうのはさ異名がついてたりするんだ」

「あー……はいはい。アイツにもあるのか?」

「あるよ。一つは白幽鬼姫。真っ白でお姫様みたいに綺麗なのに鬼のように強くておっかないからそう呼ばれてる」


 そしてもう一つ、と犬太は顔を強張らせながら告げる。


「“ヤクザを夜逃げさせた男”」

「ヤクザを夜逃げさせた……?」

「去年の夏のことなんだけどさ。関東でもそれなりに名の知れた武闘派の組がこの街にはあったんだ」

「……野郎が潰したのか?」

「うん。花咲笑顔が襲撃をかけたんだ。結果、数日で組長から下っ端に至るまでその親類縁者も含めて一人残らずこの街から逃げ出してしまった」

「そりゃあ」


 不良もそうだが極道も面子がモノを言う世界だ。

 やられたのなら相応の落とし前をつけなければやっていけない。

 そんなヤクザが報復も行わずに逃げ出す。異常としか言いようがない。


「花咲笑顔は何だってそんな……」

「分からない。けど、ヤクザ側が何かしたんだろうとは言われてる。花咲笑顔は無闇に喧嘩を吹っかけるような人間じゃないから」


 ただ、と犬太は声をひそめ言った。


「……塵狼の最高幹部達が関係あるんじゃないかって言われてる」

「……そういや朝、言ってたな。二代目だの代行だのって」

「うん。事件の少し後に突然、花咲笑顔と最高幹部の赤龍、金角、銀角が脱退したからね。何かあると考えるのが自然でしょ?」


 犬太の言う通りだ。勘繰っても無理はない。


「まあ当事者と言われてる人達が誰も何も語らないし、好奇心で首を突っ込もうとした奴らが酷い目に遭ったりもしてるからタブー扱いなんだけどさ」

「ほう」

「とりあえずこんな感じだけど……」

「おう、十分だ。サンキュな」


 と、そこで腹が鳴る。

 そう言えば飯を食いに行くところだったと思い出す。


「飯、行くか」

「うん。でもどこ行くか決まったの?」

「そうだった! クッソ、結局何も決まってねえ!!」


 何を食べるかが決まったのはそれから一時間後のことであった。




2.仕組まれたファーストコンタクト


(フフ……見てる見てる)


 今直ぐにでも話しかけにいきたいが……駄目だ。

 今会ったら約束(悪質な押し売り)が違うもんな……主人公くん。

 だって時期尚早。この段階で絡んでも意味がない。盛り上がりに欠ける。


(それはさておき、流石は俺!)


 この読みの鋭さよ! 見事にミッションを達成した俺の胸は満足感でいっぱいだった。

 ミッションって何なのかって? 俺の存在を主人公くんに認識させることだよ。

 主人公くんの登場で物語の幕が上がったけど彼と絡まなきゃ俺個人の物語は始まらないだろ?

 だからよ入学式の最中、ずっと考えてたんだわ。

 どうやって俺という存在を認識させようかなって。

 考えて考えて考えて考えて……はい、俺は思いつきました。


 ――――世界(マッチングアプリ)を利用すればええやん、と。


 世界としてもだ。俺というキャラクターを存分に活かしたかろう。

 であれば俺がちょちょっと下地を整えてやればあっちで上手いことやってくれるんじゃねえの?

 じゃあどんなシチュエーションで出会うのが良いか? 俺は考えた。そして答えを導き出した――天パくんだ。

 俺は彼を主人公くんの舎弟兼初めての友人ポジと予想した。読みが当たってるなら同じ学校だろう。そして恐らくは高確率で同じクラス。

 主人公くんは他所から来た人間だ。今日は入学式で午前中で終わりなんだし、街の案内でも頼むんじゃないかと予想した。

 街に繰り出した主人公くんは偶然、俺を発見するのよ。


(で、主人公くんは天パくんに聞くわけだ。「あいつを知ってるか?」とかそんな感じでな)


 で、俺の来歴が語られて主人公くんの脳内に“花咲笑顔”という人間の情報が刻み込まれる。

 良いじゃないの。綺麗な流れじゃないか。これなら自然にファーストコンタクトを済ませられる。

 ん? 一方的に認識しただけなのにファーストコンタクトはおかしいんじゃないかって? 違うんだなぁ。

 こないだのあれが連載開始の第一話なら後々、俺も違う車両に居て主人公くんを見てたことが描写されるんだよ。

 俺は既に彼を認識していて、彼もまた今日俺を認識する。ほら、ファーストコンタクトだ(強弁)。


 さてこのシチュエーションを成立させるために俺はどうすれば良い? 簡単だ。外を出歩いてりゃ世界が勝手に出会わせてくれるはず。

 ってなわけで俺はルイにメッセージを飛ばした。入学祝に飯でもどうだってね。

 いや、入学祝は元からやるつもりだったんだけどね? 二度目の俺はともかくルイは一生に一度の機会だもん。

 でもケーキやら買って家で済ませるつもりだったのよ。だから予定変更し外食の段取りを整えたのだ。


(したらこれよ! いやすげえ! 俺マジすげえ!)


 駅前でルイを待ってたら視線を感じてチラと見やれば主人公くんと同じ制服を着た天パくんが!

 俺の予想通り天パくんは同じ学校だったようで立ち位置も合ってると思う。

 ルイが来たのであの場を離れはしたが、これまた予想通りのやり取りしてるんだろうな。


(っと、あんまり浮かれ過ぎるのはいかんな)


 千里の道も一歩から。

 まずは一歩踏み出さなきゃ何にも始まらんが一歩踏み出しただけで道を踏破したわけじゃないんだ。

 因縁の取っ掛かりを得たぐらいで喜んでたらこの先、足元掬われかねん。これから、全てはこれからだ。


(まあでも今は一旦、考えるのは止めよう)


 隣で楽しそうに笑っているルイを見る。

 口実に使ったとは言え、この子の入学を祝いたいという気持ちに嘘はない。

 今は自分のことばっか考えてないでルイに気持ちを割くべきだろう。


「それでね? アオちゃん達と一緒のクラスになれて」


 友達と同じクラスになれた。

 大人からすれば何てことはないのだろうけれど子供にとっては違う。

 キラキラ輝くその目を見ていると汚い大人である俺は灰になりそうだ。


「そっか。それは良かった」

「うん!」


 やっぱり断固として拒否したのは正解だったなと胸を撫で下ろす。

 そう、ルイはかつて進学先を俺と同じ高校にしようとしていたのだ。

 俺をほっとけないってことなんだろうが、それはいかんと拒否した。

 折角、エスカレーター式のお嬢様校に居るんだ。

 経済的な問題や人間関係で悩んでるわけでもないのに学校を変えるのはいかんでしょ。


「ところで何食べるか決まった?」


 何食べるか歩きながら考えようということになったのだが、どうだろう?

 そろそろ良い時間だし俺も結構、腹減ってるんだが。


「えっと、ごめんなさい。ちょっと二つで迷ってて……」

「気にしないで。それよりその二つって?」

「おでん屋さんと焼き鳥屋さん」

「それ入学祝にチョイスする?」


 渋過ぎだろ。オッサンの会社帰りじゃねえんだから。

 いや好きだよ? 俺もおでん、焼き鳥、好きさ。美味しいよね。

 でも……花の女子高生になったお祝いに行く食事か?

 や、俺も女の子の趣味趣向に詳しいわけではねえよ?

 でもこういう時は何かこう、ちょっとお高いレストランとかじゃないの?


「え、ダメ?」

「あ、いやそんなことはないよ。ルイが食べたいならそれで良いけど……本当に良いの?」


 少し不安そうな顔で小首を傾げるルイに慌ててフォローを入れる。


「おでんも焼き鳥も美味しいよ?」

「……そうだね」


 祝いたい相手がそれで良いってんなら文句言うのはおかしな話だ。

 しかしおでん……やってんのか? 時季もそうだが時間的にも。

 いや待て。そういやおでん専門店が新しく出来たみたいなことを聞いた気がするな。チラシが入ってたわ。


「そういう笑顔くんは食べたいものないの?」

「特には。ただ、帰りにケーキでも買ってこうかなって」


 ファーストコンタクト成功をケーキで祝てえ気分なんだ。

 舌がもう完全に苺ショートのそれになってる。


「ケーキ、良いね。何買う?」

「鉄板の苺ショートとチーズは外せないかな。あとはルイに任せるよ」

「ん、じゃあ考えておくね」

「ああ」


 ふと思った。今、俺らって第三者から見れば凄まじく恵まれた恋人同士に思えるんだろうなって。

 だってそうだろ? ドがつく美男美女がこんな会話してるとか非リアが聞けばギリィ! 案件じゃん。

 しかもしかも、容姿だけじゃなく経済的にも恵まれている。

 俺は一目でそうとは分からんだろうがルイは高遠の制服着てるからな。

 俺が何も知らない第三者なら天、ちょっと与え過ぎじゃない? って苦情入れてるとこだよ。


(……まあ実際はどっちも糞みたいな経歴持ちなんだが)


 他の部分が幾ら恵まれてようと拭い切れないものもあるからなぁ……。


「あ」

「どうした?」

「ホルモン焼きも良いかなって」


 確かに良い匂いが漂っては来てたけど……。

 家で作るご飯は普通なのに外食の趣向がちょっとオッサン臭過ぎない?

 いや俺もホルモン好きだけどさぁ。


「……それなら焼き鳥もおでんもホルモン焼きも食べられそうな居酒屋でも探す?」


 明らかな未成年だがアルコール類を頼まなきゃ問題ないしな。

 問題は時間帯だが昼から呑む奴も居るし探せば普通にあるだろう。

 まあカップル風の高校生が入る店ではねえだろって問題はあるが、


「うん!!」


 ……ルイが嬉しそうだしいっか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 世界のルビにマッチングアプリを振るセンスが最高ですw
[良い点] 美少女と同棲しながら必死に出会いの演出やら展開考えてるのほんとすき
[一言] お姉ちゃんはどこ???お姉ちゃんとの恋…
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