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転生後の世界はヤンキー漫画の法則に支配されていた  作者: カブキマン
中学編

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最終話 Someday

タイトルはすばせかの曲です。

1.そんだけの話さ


 翔太と白黒の塵狼加入、獅子口さん達の引退式。

 細々としたイベントをこなしながら日々を重ね、気付けば中学最後の夏休みが始まった。

 去年は遊びに喧嘩に全力で夏を謳歌していたが……今年はそうもいかない。

 俺達も、もう三年生だからな。高校受験が控えているのだからそっちを疎かには出来ない。


 まだ若いし、全部を全部学業に打ち込めってのは酷だろう。

 だがあまりにも学業を疎かにすればどうなるか。俺達は去年の夏に見せ付けられた。

 良い歳こいてまだ不良を辞められず、小金に釣られてしゃしゃり出て来たあの連中はホントに酷かった。

 ただ良い反面教師にはなったと思う。

 連中のお陰でタカミナ達は勉強を頑張り始めて今じゃ、もうちょっと努力すればワンランク上のとこにも入れるぐらいにはなったんだから。

 今日も俺の家で泊まりの勉強会をやってるんだが皆、実に真剣な顔をしてい……あ。


「はいそこスペルが違う」

「あ痛ッ!?」


 ハリセンでタカミナの頭をシバく。

 純粋に分からないとこはともかくしっかり見直せば防げる凡ミスの時はこれでと頼まれたのだ。


「タカミナ~ちょっと注意力散漫じゃな~い?」

「そういうテツも計算間違ってるからな」

「痛い!?」


 途中の計算式を見るに解き方は間違いじゃないんだ。

 ただ簡単な暗算でミスって答えがおかしくなってる。


「とりあえずここらで休憩入れようか」


 テツの注意力散漫にってのもあながち間違いじゃない。

 今は夜中の一時前なんだが風呂上がってから今までずっとだったからな。

 そんだけ机に向かってりゃ気もそぞろになろうて。

 俺が休憩を宣言すると全員が一斉に力を抜いて倒れ込んだ。


「つ、疲れた……」

「えっちゃーん……おちゃぁ……」


 えっちゃんはお茶じゃありませんって教師ジョークはさておくとしよう。


「はいはい」


 全員のコップに茶を注いでやると、皆は心底美味そうに飲み干してくれた。

 金銀は自分の勉強プラス教師役もやってるから疲れは倍だろう。ホント、お疲れさん。


(この様子だと再開は無理そうだな)


 まあ十分やったし、今日はもうこれで終わりでも問題なかろうて。

 そう判断し皆にそれを告げると、異存はないようで頷いてくれた。


「身体バッキバキやわ……」

「……だりい」

「どうする、もう寝るか?」

「疲れ過ぎて逆に寝られねーわ」


 かと言って部屋でだらだらテレビを見たりゲームをするのもな。

 エアコンの効いた快適な室内とは言え、ずっと部屋に籠もってたから正直しんどくなって来た。


「軽く流そうか」


 と俺が提案すると、


《賛成!!》


 全員が乗ってくれた。

 時間が時間なので姉も母も寝ているので、物音を立てないよう家を脱出。

 外は蒸し暑く、げんなりとするがバイクを走らせていれば直に吹き飛ぶし我慢我慢。

 迷惑にならないよう住宅街を出るまでバイクを押して行き、発進。俺達は夜の街へと繰り出した。


「はぁー……シャキっとしてきたわ。やっぱ部屋に籠もりっぱはいかんぜよ」


 タカミナが感極まったように呟く。

 同感だがぜよって何だよぜよって。テメェは高知の人か。


「それよりさぁ、海行かね海!」

「お、ええやん」


 柚の提案に皆は乗り気のようで即快諾した。

 俺も別に嫌ってわけじゃないんだがちょっと思うことがある。何でヤンキーは夜の海が好きなんだろう。習性?


「……だったら途中で夜食買おうぜ。腹減った」

「あー、言われてみるとかなり……」


 そんなこんなで俺達は海へ行くこととなった。

 向かった先は東区の海水浴場で、この時間帯なら他のヤンキーどもともエンカウントするかと思ったのだが、どうやら貸切らしい。

 堤防の上に陣取り夜食をつまみながらぼんやりと海を眺める。会話はないが心地良い沈黙だ。


(……これからどうなるんだろうな)


 春には新しい風が吹き、一年生達と関わりを持った。

 翔太と白黒は俺に関わったせいで良くも悪くも影響力を持つようになる。

 そう判断したから俺は風除けになれば良いと二人を塵狼に誘った。

 翔太はともかく白黒の方は難色を示したが、


『塵狼の頭って称号は俺を倒したトロフィーになるんじゃない?

それに自分を鍛える環境としてもうちは悪くないと思うよ? テツトモ以外の最高幹部は元より平の構成員もかなりのもんだからね』


 などと言い包めて加入させた。

 ただ塵狼に入れたのは二人を守るためだけではない。後継者問題だ。

 今の段階でどちらかに塵狼を継がせるなどとは考えていないが、あくまで候補の一つぐらいにはと思っている。

 俺達のヤンキー卒業と共にチームが消滅するとしてもそれも一つの結末だろう。

 が、受け継いだものを次に託すということも一応は考えておかないとな。


(夏には去り行く者を見送った)


 獅子口さん、鷲尾さん、烏丸さん、琴引さんら高校三年生の引退式だ。

 最後のやり残しに付き合ってくれと言われ、俺は彼らとタイマンを張った。

 結果は俺の完勝。負けたけど彼らは皆、清々しい顔をしていたよ。

 その後、俺達の思い出の場所であるお化けボウリング場で一夜限りの叛逆七星再結成を行い引退する者達を盛大に見送った。


(春の出会い、夏の別れを経て俺のやることは本当になくなったと思う)


 一月下旬の跡目戦争時点で俺というキャラの背景は完成を見た。

 メインイベントは消化。そしてサブイベントも全て達成したとなれば後は時を待つだけ。


(……闇堕ちを回避するための手は打てるだけ打った)


 このまま順調に進めば俺は単なるクソ強い美形ライバルキャラとして本編に登場出来るだろう。

 だが順調に進まなければ?

 やれるだけのことはやったという感覚があるからこそ……不安を抱いてしまう。


(回避出来ず闇堕ちしても大丈夫なようにフラグを立てても居るけどさ。何もないならそれが一番じゃん)


 正直に告白しよう。俺は今、幸せだ。

 前世でくたばってから去年の春まで、しんどいことばかりだった。

 母や姉の愛さえ、ありがたくは思っても苦痛だった。


(でも、色んな人に出会って……色んな経験を経て……少し、ほんの少し前向きになれたんだ)


 そっと皆を見る。

 タカミナ、テツ、トモ、柚、桃、梅津、矢島。みんなみんな良い奴で俺なんかには勿体ないぐらいの親友達。

 俺が闇に堕ちるということはコイツらだけじゃない。俺と善き縁で繋がってくれた人達全てを悲しませるということだ。

 それだけでも耐え難いが、事によっては彼らが俺の闇に引き摺られてその身が危険に晒される可能性だってある。


(そんなのは、いやだ)


 俺が頑張って踏み堪えれば良いだけかもしれないが……生憎と俺は俺にそこまでの信を置けやしない。

 実際、危うい場面だってあったしな。

 ルイを取り巻く環境を滅茶苦茶にするため、ホテルに踏み込んだあの時。あれが一番、やばかった。

 正直な話、ギリギリだった。もしほんの少し、何かが欠けていたのなら俺はきっとアイツらを殺していた。

 そうなったら……。


(……想像するだけで気が狂いそうだ)


 あぁ、駄目だな。本当に駄目だ。

 目先にやるべきことがぶら下がっていないと、ネガティブなことばかり考えてしまう。

 軽く頭を振り、陰気な思考を追い出していると……。


「よぉ、どうしたよ」


 タカミナが心配そうな顔でこちらを見ていた。いや、タカミナだけじゃない他のみんなもだ。

 周りが見えなくなるぐらい沈んでいたらしい。


「いや……この先も、こんな風に皆と海が見られたら良いなって」


 気の利いた誤魔化しが出来ず、願望の籠もった言葉が漏れ出てしまった。


「はぁ?」

「ごめん、変なこと言った。忘れてくれて――――」

「んなもん、何度だって見に来りゃ良いじゃねえか」


 タカミナは呆れたように言った。


「高校卒業したら、そりゃ各々違う道に行くだろうけどよ。別に今生の別れってわけじゃねえんだ」


 忙しくても、何とか時間作ってよ。集まれば良い。

 タカミナはそう言うが、


「……ずっとこんな関係なら、そうかもね。でも」

「ああそうだな。何時までも仲良しこよしで居られるかなんてわかんねーさ。何かあってぎくしゃくしたりもするかもしれねえよ?」

「なら」

「でもそこで終わりじゃねえだろ? 何回道を違えようとも何回だって仲直りすりゃ良い。そんだけの話さ」


 何の根拠もない。楽観的な発言だ。

 それでも、不思議と胸に染みた。


「……そうだね。ああ、タカミナの言う通りだ」

「お前のそーゆーネガティブなとこ、治した方が良いぜ?」

「自覚はしてるけど、そう簡単に治せたら苦労はしないよ」


 水を流し込み、からからに渇いた喉を潤す。


「さて。お腹も膨れたしこれからどうする?」


 空気を入れ換えるようにそう問いかけると、


「「はいはーい!!」」


 金銀コンビが嬉しそうに手を挙げた。


「花火やろうぜ花火!」

「……今から買いに行くのか?」


 普通、海水浴場って言えばさ。人が集まるし近くにコンビニがあっても不思議じゃないんだがここは違うんだよな。

 土地をゲット出来なかったのか何なのか、微妙に遠いんだわ。


「安心しろ。夜食買うついでに買っておいたから」

「何時の間に……」

「良いじゃん良いじゃん! やろうよ!!」

「だな。折角買ったんだし無駄にするわけにはいかんだろう」


 皆で砂浜に降り、小さな花火大会が始まった。


「わはははは! 二刀流二刀流!!」

「……おいヤメロ馬鹿ゴールド! ロケット花火を人に撃つな!!」

「蛇花火の需要ってどこにあるんやろか」

「食らえネズミスラッシュ!!」

「だから人に花火投げんなや!!」


 ヤンキー漫画の法則に支配された世界。

 改めて言葉にしてみても、やっぱロクでもねえ。

 だがクソッタレな世界であろうとも、俺は今、ここで生きている。生きてきたから皆と出会えた。


(そして、これからも生きていく)


 大切な人達と共に。

バクチ・ダンサーのあとがきでも書きましたがこれで一先ずは完結です。

高校編は投稿時期未定です。今はとにかくゆっくり休みたいんで気長にお待ち頂けると幸いです。

一月下旬から今までお付き合いくださり本当にありがとうございました。


ブクマ、評価等よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いや~面白かったです!世界観もキャラもユニークで、シリアスも笑いもバトルも目一杯、最後まで楽しませてくれる作品でした。始めはなんてとんでも設定だと思いましたが、ここまで突き抜けてるとしっか…
[良い点] お疲れ様でした、1月に見た時から毎日楽しく読ませて頂きました! 是非続きが読みたいところですが、今はゆっくり休んでください! また作者さんの文を読めることを楽しみにまっています
[良い点] すっごくおもしろかった まじで読んでいて最高の時間だった [一言] お疲れ様です ゆっくり休んでください またいつか高校生編を読めるのを楽しみにしてます
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