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転生後の世界はヤンキー漫画の法則に支配されていた  作者: カブキマン
中学編

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132/151

エル・ミラドール~展望台の唄~①

名前について色々意見出して頂けるのはありがたいですが

終わったらとりあえずゆっくり休みたいのでそっとして頂けると助かります。

1.多い……多くない?


 春になり俺は進級した。

 俺の予想通り修学旅行が最後の大きなイベントだったのだろう。

 あれからは……菅原會の解散式をやるためまた京都行ったりしたけどそれ以外は特になくあっさり四月になった。

 中学最後の一年。普通なら受験もあるし遊んでばっかとはいかないが俺の場合はな。二週目だもんで気楽だわ。

 進学校狙うわけでもねーし普通にやってても問題なく受かるだろう。


「あ、おはよう花咲くん」

「おはよう八朔」


 教室に入って来た八朔がにこやかに挨拶をしてくれる。

 進級に伴うクラス替えで一緒になれたんだが……まあ学校側の意図だろうな。

 俺との関わりから万が一の備えを期待されてのことだと思う。


(……俺的やべえ女ランキング不動の一位である佐伯さんも一緒なのは偶然か?)


 奴との妙な関わりは露呈のしようがないから偶然だと思うが……。

 何にせよ中学最後の一年は別の意味で気が抜けなくなった。


「時に八朔、午後は予定あったりする?」

「? 特にないけど」

「それなら今日、皆で花見するんだけど君も来ない?」


 今日は入学式で学校は午前で終わる。

 どこも大体、そうだから昼からは花見をしようということになったのだ。


「良いの? なら、喜んで」

「おけおけ。タカミナ達も喜ぶよ」


 そうこうしている内にチャイムが鳴り教師がやって来る。

 担任は去年と同じ。多分、周りに押し付けられたんだろう。

 時折、俺をちら見しつつHRを終えると整列し体育館へと向かわされた。

 不良なんだしサボっても良いのよ? という視線が注がれたが俺は理由がなければサボるつもりはないので無視した。


「新入生の入場です」


 ……リアルタイムで学生やってた時は別にどうとも思わなかったけどさ。

 入学式や卒業式ん時、入場退場で音楽流れるのって微妙に恥ずかしくね? 何か間抜けな気がするんだよなぁ。

 などと思いながら周りに合わせて俺もちゃんと拍手してたんだが、


(…………何か、柄悪いの多い……多くない?)


 まだ中一。ちょっと前まで小学生だったから背伸びしてる感バリバリだけどさ。

 それでも結構な割合の男子生徒が如何にもな感じ……いや女子もか。

 俺は女子のヤンキーと絡むことがないからそこらの事情は詳しくないが、それっぽいのがそこそこ……。


(先生も在校生も引き攣った顔してらぁ)


 そりゃそうだよね。去年は別にそんなことなかったのに急にだもんね。

 うんうん――――どう考えても俺のせいだなこれ?

 市内で不良人気が高い中学はどこだって言われればこれまでは四天王の居るとこがそうだった。

 お零れに預かりたい者、倒して名を上げようとする者、その手の不良にとって四天王の在籍する中学しかないだろう。

 今年もタカミナ達の中学は人気だろうが、一番人気となれば……そりゃ俺んとこしかねえわなぁ。

 だって名目上は四天王を束ねる立場だもん。ついでに言うならこないだまでは菅連のトップでもあったし。

 まあ中学決定の時期を考えると菅連のトップだからってのはないだろうがな。


(あの中の何人が俺の首、狙ってるんだろう……)


 やんちゃな後輩とのタイマンもお約束だからなぁ。


(一年同士で潰し合って、代表が俺に喧嘩売るとかそういう形式にしてくれれば楽なんだが……ん?)


 ふと、新入生の居る席で一人の男子が立ち上がった。

 真ん中で綺麗に分かれた白黒のツートンヘアーとかこれまた派手な、ヤンキーってよりV系じゃんと思っているとそいつはよいしょと舞台に上がった。

 壇上の校長先生は突然のことにめっちゃキョドってる。いや校長だけじゃない他もだ。

 俺という特級の負念ゴミのせいで半ば不良がトラウマになってる彼らに止めろと期待するのは酷か。


「どけ」

「な、何を」


 ドン、と校長を突き飛ばしマイク前に陣取った白黒はあーあー、とマイクチェックを始めた。

 おや、おやおやおや? こーれーはー……正直もう嫌な予感しかしない。


「すぅ――……花咲ィ! 笑顔ォ!!」


 ほら来た。そら来た。後輩に喧嘩売られるとか考えたのがフラグだったの? 回収早過ぎない?

 もうちょっとこう、溜めようぜ? 早漏かよっつーね。

 あとさ、全員俺を見るな。こんなん無視すりゃ良いじゃん。

 恥ずかしいぞ? この状況で誰にもガンスルーされて入学式進められたらさぁ。


「巷じゃあ色々言われてッけどよォ! 俺ァ、正直テメェは大した奴じゃねえと思ってんだわ」


 そうですか。

 足を組んで頬杖を突きながら白黒の語りを聞く。

 可哀想になぁ。期待に胸膨らませて校門を潜った一般新入生達。そしてその親御さん。

 晴れの日に無粋かますなよなぁ。


「だからよー……ここで俺とタイマン張ったらんかい!!!!」


 結構ですぅ。


「ンだとゴルァ!? 花咲さんに舐めた口聞いてんじゃねえぞ禿ェ!!」


 いやハゲてはねえだろ。

 俺が無視した挑発にまんまと引っ掛かったのはこれまた一年生。

 前髪白メッシュが特徴的なそいつは……どっかで見た覚えがあるな。


(あ、あの時の子だ)


 名前は確か……そう、翔太だっけ?

 あらやだ。あの白メッシュは少しでも俺に肖ろうってそういうあれ?

 いや今は置いとこう。それよりも、だ。

 俺が無視してりゃ壇上の白黒もどうも出来なくなると思ってたがこの状況はまずい。

 放置しとけば白黒と翔太のタイマンが始まる。普通なら大人が止めるとこだが教師は物の役にも立たないし、保護者もな。

 今の段階で声上げてないってことは骨のある人は居なさそうだし、このままじゃ入学式が中断になる。


(……是非もない)


 俺はゆっくりと立ち上がり、新入生が通った通路に陣取る。


「良いよ、白黒。相手したげる。おいで」


 わざと欠伸を噛み殺しながら、くいくいと手招きをする。

 白黒は一瞬、めっちゃピキったが直ぐに元の不敵な表情になり舞台から飛び降りた。


(…………コイツ)


 さして興味もなく面倒だという感想しかなかったが、読み違えたか?

 ゆっくりと歩き出す。互いに距離を詰め、射程圏内に入ったところで奴が拳を振るう。


「ガッ……!?」


 が、俺のが速い。

 後出しで放った蹴りが側頭部をしたたかに打ちつけ、白黒は意識を失った。


「よっこらせっと」


 白黒に近付き、彼を担ぎ上げる。


「お騒がして申し訳ない。これは俺が保健室に連れてくんで入学式の続きをどうぞ」


 ぺこりと頭を下げ、体育館を後にする。

 白黒を体育倉庫にでもぶち込んでそのまま席に戻るって選択肢もなくはなかったが……周囲が気まずいだろう。


「しかし」


 完全にのびて間抜け面を晒す白黒を見て思う。


(…………コイツ、これから何度も喧嘩を売って来るだろうな)




2.どこも大変ねえ


 一旦、家に戻り着替えてから白雷で八朔を回収し俺達は市内の東区自然公園に向かった。

 市内でも有数の花見スポットだが平日の昼間だからか塵狼(おれたち)以外に人は居なかった。

 何人かが学校サボって場所取りしてたからそのせいかもしれん。

 まあ、花見スポットはここだけではないので勘弁してくれってことで一つ。


「八朔ゥ! 生きとったんかワレェ!!」

「いや死んでないよ? というか、ちょっと前の集会にも行ったじゃないか」


 来たね。塵狼大喜利大会。


「ところでニコちん、今日は何かちょっとご機嫌?」

「言われてみりゃ確かに……何か良いことでもあったん?」


 何時も通りの無表情なのによく分かるね。

 付き合いの深さを感じるわ。ってのはともかくだ。


「面白い一年生が入って来てさ」

「へえ? 珍しいじゃん、ニコちゃんがそんなこと言うの」

「何というか人は見かけによらないっていうか」

「詳しく聞きてえなぁ」

「その前にちゃちゃっと挨拶済ませるよ。皆、今か今かと待ってるみたいだし」


 どっこらせと立ち上がり皆を見渡す。

 全員、紙コップを手に今か今かと俺の言葉を待っている。

 単車で来てるから皆、酒はなしだが……問題はなさそうだな。


「えー、それじゃあ進級祝いも兼ねて今日はめいっぱい楽しもう。乾杯」

《乾杯!!》


 言って俺もオレンジジュースを飲み干す。


「で、続き聞かせろや」

「はいはい。実は」


 入学式で喧嘩吹っかけて来た白黒について語ると、


「初っ端からニコちゃんに喧嘩売るとか気合入り過ぎだろその一年」

「八朔、マジなんか? マジにえっちゃんに?」

「ホントだよ。正気を疑ったね」

「最初はガン無視するつもりだったんだけどね」


 と俺が言うと、


《うわぁ》


 ひでえことを考えやがると引かれた。


「おめー、そんなシチュエーションで何のリアクションもなかったら恥ずかしいにもほどがあんだろ」

「でも結局は喧嘩買ったんやろ? 何でなん?」

「あー、タカミナ達は覚えてるかな? 翔太って男の子のこと」

「……翔太? 前にニコが助けた姉弟の弟だったか」

「そうそう。その子もうちに入って来たんだけどさ。俺に恩を感じてるのか何なのか見事に釣られちゃってね」


 二人にやらせれば泥試合になりそうだったから引き受けたのだ。


「ほーう? 強いんけ?」

「まあ、うちの下っ端にはちょっと届かないぐらいかな」


 下っ端と言っても塵狼は激戦を潜り抜けて来た精鋭だ。

 平の連中でも並の高校生レベルの強さを持っている。

 なんで、白黒も翔太も強いっちゃ強いんじゃねえかな。


「まあ翔太の方はともかく白黒だ。詰めは甘いようだがあれは中々の曲者だよ」

「ってーと?」

「多分、あのタイマンは負けることが前提だった」


 そう俺が答えると、


「……戦力分析か?」

「多分。俺が喧嘩してる動画なんかも結構出回ってるけど百聞は一見に、だからね」


 梅津が即座に答えを導き出した。


「入学式でいきなりあんなことをするもんだから目立ちたがりのイキった馬鹿かと思ったんだけど、中々どうして」


 目が違った。

 多分、あそこであんなことをしたのは確実に俺とやるためだったんだろう。


「公衆の面前で舐めたこと言われたら確実に乗って来るだろうって感じでさ」

「……えっちゃんの性格上、ふーんで済まされる未来しか見えねえんだが?」

「実際、その翔太って子がおらんかったらスルーするつもりやったみたいやしね」

「だから詰めが甘いって言ったのさ」


 ただそれもしゃーないとは思うがね。

 奴も事前に下調べはしてるんだろう。だが俺の正確な人となりを、ってなると難しい。

 俺の交友範囲はほぼ塵狼で完結してるからな。自分の情報を与えず相手の情報だけをってなると塵狼の人間にゃ接触しづらい。

 俺を嗅ぎまわってる奴が居たら報告上がるしな。


「塵狼以外でも烏丸さんとか大我さん、龍也さんも居るけど……」

「高校生だからなぁ。パイセンらに接触すんのは余計ハードルたけーわ」

「だろ?」


 まあとにかくだ。


「あれは多分、百回負けても一回勝てりゃってタイプだ。俺とやって俺がどんなもんか確かめたかったんだろうよ」


 一回勝って後は勝ち逃げすりゃそれで万事OK。

 人によっちゃ卑怯とか卑劣とかセコいとかって思うかもだが、俺はわりとそういうタイプは好きだ。

 これで旧式梅津みたいに標的の親しい人間を狙うとかそういうこともやる奴だったら話は別だが白黒はそうじゃない。

 入学式に水を差したが俺にやられてさっさと退場することも織り込み済みだった。

 式が完全に壊れることはないからアイツ的にもセーフラインではあったんだと思う。

 憎めないセコさやズルさを持つ愉快型ヤンキーってのが俺の白黒に対する評価だ。

 まあ、これからの行動次第で良い方にも悪い方にも修正入るかもだけど。


「でもさ、戦力分析って言うけど彼……多分、何も分からずやられちゃったよね?」

「八朔は頭が固いね」


 少なくとも俺の速さが分かったじゃないか。気を張っていても認識出来ないぐらいだってね。


「するってーと、次は……ヤマカンかな?」


 柚が予想を口にする。


「ああ。ヤマ張って防ごうとするだろう」


 それで対処出来るのか出来ないのか。今の段階でも隔絶してるってのは分かるがどれほど差があるのか。

 自分を鍛えるのは当然としても、相手の実力を正確に測るため打てる手はどんな些細なものでも打つだろう。

 そうやって地道に一つずつ情報を集めていく。勝ちの目が見えて来るまで。

 一見すりゃそうとは思えないのに実は勤勉な努力家……良いじゃん、好きよそういうの。


「……大人しく挑戦を受け続けるのか?」

「うん、忙しい時以外は相手するつもり」

「気に入ってんね~。しかし、えっちゃんも後輩に喧嘩売られてたとはな」

「俺も?」

「おう。俺も今朝、学校行く時、一年坊に喧嘩売られたんだわ」

「お前もかよ。実は俺もそうなんだわ」

「ちなみに言うとタカミナもだよ。後ろからいきなり木刀で襲い掛かられてた」

「梅ちゃんもやね」


 ……どこも大変ねえ。

今回のタイトルはnobodyknows+の曲ですが

nobodyknows+と言えばTHE FIRST TAKEのココロオドル

見てると元気もらえるのでおススメです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 翔太くん!!翔太くんじゃないか!!!!!ニコにちゃんと認知されてて、勝手に嬉しくなってしまった〜〜!!
[良い点] ココロオドル 仲良い仲間達と楽しく歌ってる感じが凄く良い。 [一言] 普通の学校が不良校にw(まぁ、ニコが卒業したら戻るでしょうが) 翔太は元より白黒も半分白だしでニコリスペクトしてる可…
[良い点] 今日見つけて一気読みしました 面白い…!ヤンキー漫画のテンプレを踏み外さないけど、だからこそ正統派の面白さがある…そろそろ中学生編が終わって高校生編の開始時期も未定なのが残念でならない…!…
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