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転生後の世界はヤンキー漫画の法則に支配されていた  作者: カブキマン
中学編

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バクチ・ダンサー⑨

1.吐きそう


 ちょ、待てよ! 何で? 何で!?

 フィールドに出ていきなり魔王にエンカウントするようなものじゃんコレェ!!?


(お、俺の予定ではテキトーにお茶を濁しつつ時間切れを狙うはずだったのに……!)


 俺に着いて来てる連中は腕っ節はそこそこだが、情報収集とかその手のことには向いてない。

 京都市内に居るということだけしか分かっていない状態で例の中学生を探すのは難しい。

 ならば時間切れを。多分、修学旅行生っぽいし今日明日凌げば何とかなる。

 先ほどその考えに行き着き、希望を抱いたばっかでコレェ!?


「お前は……」

「君らが探してる首さ。一応、名乗っておく。俺は花咲笑顔。よろしくね?」


 あらまあ可愛いお名前――……じゃねえよ!?

 どうすんだこれ、どうすれば良いんだこれ!? 俺の取り巻き連中は臨戦態勢に移行しかけてるし向こ……ん?


「ハーイ♪」

「よっ」


 見覚えのある黒人とモジャモジャ少年が例の中学生……花咲笑顔の後ろで笑いながらこちらに手を振っていた。


(ぼ、ぼぼぼボブ・テイラーに酒井天!?)


 どっちも“イカレ”として有名な跡目候補の二人だ。

 直接の面識はないがコイツらのイカレっぷりはよく知っている。

 菅原會現会長高杉の難病発覚から知らぬ間にエントリーされた跡目戦争。

 そこで争うことになるかもしれない二人だからな。そりゃ調べるわ。


 ボブ・テイラー。

 性格はまあ、悪くない。大雑把なカテゴリーとしては善人に分類して良いと思う。

 だが、イカレている。サイトにアップされていたボブの喧嘩を収めた動画を見た時、俺は震えが走った。

 笑っていたのだ。心の底から。弾けんばかりの笑顔で暴力の海を泳いでいた。


(喧嘩を楽しんでるって意味じゃ鳳の野郎と同じだが……)


 あれの根底にあるのは並外れた凶暴性。

 人よりも血の気が多く争いを好んでいるから奴は暴力を楽しんでいる。

 共感は出来ないが納得は出来る。だがボブは違う。

 凶暴性という意味では人並みかそれ以下だろう。なのに喧嘩を楽しんでいる。

 多分、近い形容としてはスリルジャンキー。一切の悪意が混じらず純粋に暴力の応酬を楽しむ様はある意味、鳳よりおっかない。


(そして酒井天)


 酒天童子の異名を持つ中学二年生。

 こっちはボブ以上の快楽主義者だ。

 ボブはいざ楽しみ始めると箍が外れちまうが、逆に言うと興が乗るまでは安全ってことでもある。

 楽しそうだと思っても常の良識が邪魔をしてしまい道理がなければ突っ込むことが出来なくなるからな。


(だが酒井はそんなのまるで気にしちゃいない)


 ノータイムだ。面白そうだと思ったら後先考えず躊躇なく首を突っ込む。

 それを象徴するのが“あの事件”だろう。

 一昨年の春頃のことだ。中学に入学した酒井だが最初は特に何もしていなかった。

 危険な奴ではあるが支配とかそういうものには興味がないからだ。

 だがそんな不発弾を爆発させた馬鹿が居た。名前は忘れた。覚える価値もないしな。

 そいつはヤクザの組長の息子であることを笠に着て中学の支配に乗り出したのだ。

 まあヤクザつっても四次、五次団体の木っ端ヤクザなんだがな。


(最初は酒井も静観していたらしいが……)


 順調に支配を進め、中学を掌握したところで馬鹿がやらかした。

 全校生徒にカンパを強要し始めたのだ。

 所詮は虎の威を借る狐。ちょっかいを出して来なければ興味が沸く相手でもない。

 しかし、ちょっかいを出して来たとなれば話は別だ。

 酒井は馬鹿息子とその取り巻きを躊躇なく潰した。

 そしたらどうなったか。予想は出来るだろ? 親が出て来たんだよ。


(子供の喧嘩に首を突っ込むとかダサ過ぎるが、面子がものを言う世界だからなぁ)


 最初は組の中でも下っ端の奴が幾らか出て来ただけだが真っ当な感性を持っていればヤクザと揉めたいとは思わないだろう。

 だが酒井はここでも躊躇なく行った。そして最終的に組総出で酒井潰しが始まり、それにも勝利した。

 最終的に馬鹿息子の親は酒井に指を詰めさせられた。中学生にだぞ? 屈辱なんてものではない。

 とは言え醜態が広まる前に事を収めようとするなら仕方ないと組長はそれをのんだ。


 ――――酒井は止まらなかった。


 あろうことか事の仔細を世間様に面白おかしく広めやがったのだ。

 さっきも言ったがヤクザは面子がものを言う世界だ。

 下っ端とは言え組が一つ潰されたのなら上も動かざるを得ない。やったのが中学生、それもたった一人なら尚更だ。


「ん? 何見とんねん。惚れたか?」


 それが、それこそが酒井の狙いだった。

 海老で鯛を釣るって言うだろ? 正にそれだよ。

 制裁に来る連中を徹底的に虚仮にしながら順々に潰していくことで敵のグレードを上げていったのだ。

 この期に及んでも酒井は一人を貫いた。そしてありとあらゆる手を使って組を潰しながら遂には二次団体にまで手をかけた。


「困るなぁ。幾ら俺が西国一のイケメンやからって……」


 そこで待ったをかけたのが系列組織を束ねる最上位の人間だった。

 そのトップが直々に乗り出して酒井を潰そうとした? 否、手打ちを申し出たのだ。


『そもそもの始まりは子供の喧嘩に首を突っ込んだ恥知らずの愚行。潰されたからとて自業自得。

破門にするならまだしもこれを擁護するなぞ言語道断。関わった者らは指を詰めろ』


 信じられるか?

 表向き、まだ顔が立つ理屈を並べたとは言えだ。

 系列組織のトップが事実上、全ての非を認めるような形で手を打とうなんざ普通じゃない。

 つまり、それだけ酒井の存在を重く受け止めたのだ。

 全面戦争になればそりゃ酒井は一人だ。どうしようもない。

 だがその首を獲るまでに看過出来ぬほどの被害が出ると判断したからこそ手打ちを提案したのだ。

 やばいと言っても子供。トップの男気と人生経験により酒井はゲーム終了を認め、手を引いた。


(そんな奴が何だって花咲と一緒に……しかもその立ち位置、まるで……)


 考えるだけでゲロが出そうだ。


「……ちょっと酒井。この人、全然喋らないんだけどこれ俺、滑った?」

「NO! リンちゃんは誰にでも大体、こんな感じらしいデスヨ」

「仲間内でも数日、声を聞かんとかざらにあるらしいからな」


 止めて! 仲良くこそこそバナシしないで!? 余計不安になるから!!


「……悪いな。えっと、花咲だっけ? うちの大将は男は黙して語らずを地で行く男なんだわ」

「クラシカルだね。でも、嫌いじゃないよ」


 とりあえず、と彼は俺を見て言った。


「場所を変えようか。ここじゃ何だし、ね?」


 頷く以外に選択肢ある? ねえよ!!




2.受難は続く


(やっべ、吐きそう)


 鴨川公園に連れて来られた俺は改めて、花咲御一行と対峙していた。

 日が落ち暗くなった園内に人気はなく……いや、事前に人払いしたのか?

 何にせよ関係のない人間を巻き込むことは出来ないという建前は使えそうにない。


「口下手な大将に代わって聞かせてもらうぜ。花咲、お前は鈴とやるつもりなのか?」

「まあね。そっちもそうなんでしょ?」

「……ああ。無関係のお前さんにゃ悪いが、こっちにも事情があってね」


 ねえよ! お前らが勝手に言ってるだけ! 俺は何一つ関係ない!!

 そう主張出来たら良いのになぁ! 心の中ではこんなにも多弁なのになぁ!!

 いざ口を開こうとすると緊張で頭がどうにかなりそうなのマジ勘弁!!


「鳳蘭、だっけ?」

「知ってるのか? いや、そっちにゃボブと酒天も居るんだ。西の事情ぐらいは承知の上だわな」

「まあね。先に言っておくと、俺は君らに対しては含むところはない」


 マジで? そっちからすれば自分には無関係の理由で喧嘩売られようとしてるもんなのに?


「何の理由もなしに楽しい修学旅行を邪魔されるのは俺も嫌だけどさ。

そっちには止むを得ない事情がある。やらざるを得ない事情がある。

鳳が頭になれば菅連は過激化して多方面に喧嘩を売り始めるだろう」


 それな。


「外だけじゃない内も危険だ。頭が過激派になったからって全員が従うわけじゃない。

アンタを筆頭に穏健派も生まれるはずだ。いやむしろ鳳がそうなるよう仕向けるだろうな」


 やめて? 俺を筆頭にするのやめて?


「内ゲバが起こればアンタや他に目をつけてた奴らともやり合えるし……」

「菅連がガタつけば大人しくしとった奴らも調子こき始めるやろなぁ」

「内にも外にも火種を抱えるワケデスシ、ラーン! からすれば極楽浄土ネ」


 それな。

 だから俺は跡目戦争が開かれることになった時、ボブに期待してたんだよ。

 現状維持とはならんだろうが悪いことにもならんだろうってね。

 なのにどうして花咲くーん! と仲良さげなのかな?


(目を逸らしてたけどさ。これもう、既にやり合った後なんじゃないの……?)


 酒井の方はちょっと分からないけど、少なくともボブとはやり合った。

 そしてその立ち位置からして……ボブは負けた。あ、だめ。また胃から熱いものがせりあがって来た。


「そんな未来予想図、アンタが許容出来るとは思えない。だから菅連の頭になるべく俺を狙うってのは十分理解出来るよ」


 …………これは、ひょっとしたら話し合いだけでカタがつくんじゃないか?


「部外者の俺ですら鳳よりはアンタの方が次期会長に相応しいと思うもん」


 ほら、いける。いけるってこれ。

 一方的に菅連の事情に巻き込まれたにも関わらずここまでこちらに理解を示してくれる。

 そんな子に手を出すのは道理に反する。

 周囲が思ってる俺ならそう言っても不自然ではないと思うんだけど……どう? どうよこれ!?


(み、見えて来た! 一寸先も見えない暗闇に光明が! 光明が!!)


 希望に沸き立つ俺だが、


「――――いっやぁ、散々な言われようじゃんよ」


 希望は一瞬で潰えた。

 全員が弾かれたように振り返ると、奴が、居た。

 真冬だと言うのに胸元を大きく開いたシャツ一枚の馬鹿が……鳳蘭が。


(しかも取り巻きも一緒ォオオオオオオオオオ!?)


 三十人ぐらいか? 最悪だ。

 いやそこらの不良三十人ぐらいなら別に脅威でも何でもないが鳳の取り巻きとなれば話は別だ。

 鳳は自分に媚びへつらうような人間を傍には置かない。鳳の取り巻きはかつて奴と戦ったことがある者だけ。

 つまるところ奴が喧嘩を売るほどの不良か、奴に喧嘩を売るようなイカレタ不良ってわけだ。

 で、わざわざ奴の傍に居るってことは……なあ? 今しがた花咲が語っていた暴力の渦を肯定する人間でもあるのだ。

 そんなのが三十人も居るとか悪夢以外の何ものでもない。


「よっ、夏ぶりだな仙道」

「……」

「ボブと酒井も久しぶり」

「お元気そうで何よりデース」

「ちゅーかおどれ、寒ないんか? 見とるこっちが風邪引きそうやわ」


 ボブとは決着こそつかなかったが一度、やり合ったことがあるのは知ってるが酒井とも面識が……?

 いやあって当然か。酒井のようなイカレを鳳が放置しておくとは思えない。

 で、この様子を見るにこっちとも決着はつかなかったか……そもそもやり合ってない?


「で、はじめましてだな花咲笑顔」

「どうも」

「いやー、先に行かせてたうちの奴らから連絡が来た時は驚いたぜ?」


 まさかボブと酒井も居るなんて、と鳳は楽しそうに笑った。


「ああ、先言うとくけど俺はおどれとはやれへんで。駒は見物代としてニコくんに譲ったからな」

「同じく。まあワタシの場合は普通に負けた結果デスガ」

「ほう? それは残念だが……そうか、ボブを倒したか」


 クツクツと喉を鳴らす。


「やるだろうとは思ってたぜ? でも実際に見たわけじゃねえからな。具体的にゃどれほどのもんか分かんねえじゃん?」

「お眼鏡に適ったと?」

「そりゃもう。あのボブを倒したってんなら文句なしだ」

「ついでに言うとスマイルくんはノリも良いデスヨ? こっちの土俵に上がって来ましたからネ」

「……ボクシングで負けたのか?」

「ええ、それはもう見事なカウンターを決められちまいマシタヨ」

「最ッ高じゃん」


 そして鳳はノータイムであの時のように蹴りを放った。

 狙いは当然花咲だが、彼はそれを難なく最小限の動きで回避し鳳から距離を取った。


「あー……良い、良いな。どっちからやろうか迷うぜ。寿司か、ステーキか」

「どっちがどっちとは聞かないけど、悩むようなこと?」


 小首を傾げる花咲。

 待って、ちょっと待って。この流れ。もしかして、


「――――まとめて喰っちゃえば良いじゃん」

「――――なるほど、そりゃ名案だ」


 んあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!!

リンちゃんは内面こそギャグチックですが

強さという意味では本当に文句なしのレベルです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 酒呑さん過去バフがありえないぐらい盛られてるんですが
[一言] ガチで強いキングさん……、いやラックは無さそうだなリンさん。
[一言] 鈴ちゃんの独白で、主人公と同じレベルで好きになりましたwww
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