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転生後の世界はヤンキー漫画の法則に支配されていた  作者: カブキマン
中学編

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バクチ・ダンサー⑧

1.情熱やないか!!


「おーい、朝やで。はよ起きぃ」


 カンカン、と金属音が鳴り響く。

 うっせえなと思いながら目を開くと少し離れた場所でエプロン姿の酒井がおたまでフライパンを叩いていた。


(これまたベタな描写を……ってか何でコイツ……あぁ、そうだ。酒井の家に泊まったんだったか)


 ぐしぐしと目を擦りながらベッドを下りる。

 親父さんの寝室を使わせてもらったんだが、実家のそれに劣らず良いベッドだ。寝心地が半端ねえ。


「起きたな? ほなら飯食おうや」

「ん……」


 リビングに行くとテーブルの上には日本の朝御飯、ってな感じのメニューが並べられていた。

 コイツ、料理とか出来たんだ。多才やのう……パチンコの腕はカスだけど。


「そういや、一位と二位についてなんやけどな」

「んー?」

「どうもアイツら、昨日の時点ではまだ京都に入ってすらなかったみたいや」


 あぁ、どーりで見つからんわけだ。

 パチ打ってる最中もちょこちょこスマホ確認してたけど梨の礫だったもんな。

 ホームであり結構な情報網を構築してそうな酒井でさえ把握出来なかったんなら京都に居ないと考えるべきだろう。


「ちなみに一位と二位はどこの人?」

「和歌山や。あんまそっちの方面に伝手がないから詳しくは分からんかったけど両方、用事があったらしいで」


 それで京都入りが遅れたってわけか。


「とりあえず今日には来るやろうし、うちのもんを駅に張り付かせとる」

「苦労をかけるねぇ」

「それは言わん約束やでお父ちゃん」


 誰がお父ちゃんだ。


「で、今日の予定はどないするん?」

「……一位と二位が見つかるまでは観光、かな。酒井とボブが一緒なら迂闊に手を出しはしないでしょ」


 折角、修学旅行に来たってのにトラブルで何もかもがおじゃんになるのは癪だ。

 思う存分とまではいかないだろうが少しは回らせてもらう。


「せやな。昨日のアレもあるしアホなのは慎重になるやろ」

「……というわけでガイドよろしく」

「ええように使われとるなぁ。ま、ええけど」


 ぽつぽつとお喋りをしながら朝食を終え、洗物をしている酒井を尻目にぼんやりとテレビを眺めているとスマホが震えた。

 タカミナからだ。どうやら近くに着いたらしい。待ち合わせの時間にはかなりの余裕があるんだがな。

 俺は酒井に一言入れて、彼の家を出て三人を迎えに行った。

 合流し、三人を連れて戻るとテーブルの上には人数分のお茶が用意されていた。地味に世話焼きだなコイツ。


「俺達と別れた後、随分とはしゃいでいたようだな」


 茶で口を潤した後、スマホの画面を見せながらトモがそう言った。

 表示されているのは俺達が使った菅連のサイトだが、何故トモが?


「アカウントを買った」


 売られてんのかよ。


「お値段は何と1000円ポッキリ」

「安ッ!?」


 ってか良いのこれ? アカウント売買とかダメなんじゃ……。


「そうは言うてもなぁ。菅連は簡単に入れるからキリがないねん」

「あー……」

「あと、本当に重要なんは幹部しかアクセス出来ん特別サイトで共有されるしな」


 そんなのもあったのか。

 昨日言わなかったのは俺の目的に関係なかったからだろう。


「ったく、除け者にしやがって」

「ホテルの方にも人を配置しておきたかったんだよ」


 それぐらいはトモから説明されてるだろうに……。

 昨日は喧嘩を眺めてるだけだったからフラストレーションが溜まってたんだろうな。

 初日の夜にやったとは言えあれは雑魚でその上数も少なかったしな。


「ところで(てん)ちゃんは何で不機嫌そうなの?」

「え? ああいや、昨日そういう手合いが集まるパチンコ屋で釣り糸垂らしてたんだけどさ」

「うん」

「釣れるまでの暇潰しに軽く打ってたんだけど……酒井、全然ダメでさ」

「ありゃー、どれぐらい負けたの?」

「財布の中身がすっからかんになるまで。具体的な金額で言えば三万ちょいかな」

「うわぁ」


 帰りのタクシー代まで突っ込んだ時はおいおいってなったわ。


「ちなみにニコはどうだったんだよ?」

「勝ちも勝ち。十万以上稼ぎおったわこの化け物」

「「「マジか」」」

「マジだよ」


 お陰でお土産のグレードを上げられそうだわ。


「おかしい……世の中、間違っとるわ……」


 主語をでかくするな。


「恋愛もそうや! 何で女なんか興味ありませんけど? みたいなスカした奴がモテんねん!?」

「そりゃ、女の子はがっつかれたら引くでしょ」

「そこや! がっつくて何やねん!? 何が悪いねん!? 情熱やないか!!」


 ものは言いようだな。


「それよりだ。酒井、昨日の話の続きをしてくれないか?」

「昨日の続き……ああ、一位と二位についてか」


 そういやボブの情報が入って来たことで中断になってたな。

 ちょお待てと言って酒井はスマホを弄り始めた。切り替え早いなコイツ。


「まずはコイツやな」

「うぉ、見事な仏頂面」


 タカミナが言うように写真の男はかなりの仏頂面だ。

 十人中九人ぐらいは機嫌悪いの? って思うレベルの仏頂面である。


「第二位の仙道 鈴(せんどう りん)や」


 名前が可愛いなオイ。このツラでリンちゃんかよお前。


「口数は少ないし表情も大体こんな感じで笑ったとこを見た奴は一人も居らんらしい」


 何故俺を見る。俺はあくまで無表情。常時こんな機嫌悪そうなツラはしてねえよ。


「曲がったことが嫌いで自分から喧嘩を仕掛けることもまずない。

口数が少ないんも男は余計なことは喋らんって信条ゆえ。今時珍しいぐらいの硬派くんで人望はかなり厚い」


 それはまた。クラシカルな不良くんだこと。


「解せないな。何故そんな男が無関係な人間が的にかけられた跡目戦争に参加してる?」


 俺も思った。硬派なら筋の通らない跡目戦争に参加するなよ。

 ボブみたいな好奇心なら分かるけど、キャラが違うじゃんキャラが。


「周囲から強く推されとるのもあるけど……一番の理由は筆頭候補やな」


 画像が切り替わる。

 顔の半分がタトゥーに覆われた男が不敵に笑っていた。


「これが筆頭候補の鳳 蘭(おおとり らん)


 LANにーちゃんと申したか。


「生粋の喧嘩屋で強い奴とやれればそれでええって考えや」

「バトルジャンキーか。ああうん、理解したよ」


 仙道は鳳を頭にさせたくないから参加したわけだ。

 鳳が頭になれば菅連は間違いなく武闘派に傾くだろうしな。

 仙道の方針は大体、読めた。先に俺と出会ったのなら俺を。鳳と出会ったのなら鳳をってところか。

 俺を見逃して鳳に首を獲られたら事だしな。やらざるを得ないんだろう。

 鳳を最初に見つけられたのなら普通に倒して参加資格を奪えば良い。


(んでその後は他の頭にしたらまずそうな奴を排除しつつ時間切れを待つってとこかな?)


 タイムリミット……俺が地元に帰った場合、どうなるのかは酒井も知らされていない。

 改めて別のやり方で決め直すか、現会長が直接指名するか。まあそこは俺の考えるべきことじゃねえな。

 それはそうとリンにランて何か昭和のアイドルみたいだよね。


「まあそういうこっちゃ。無関係な人間や弱い相手に手ぇ出すことはないけど如何せん血の気が多いねんコイツ」

「面倒な手合いだな」




2.どうして……どうして……


 俺の名は仙道鈴。俺は狙われている。

 などという蒼いボケは置いておくとしてだ。


(どうしてこうなった……)


 京都行きの快速に揺られ、俺は内心頭を抱えていた。

 相も変わらず表情に出ないのは助かるが……いや、表情に出ないもんだからこんなことになってしまったのでは?


「鈴ちゃん。例の中学生を倒したとしても鳳の奴はそれを素直に受け入れるかね?」

「……」

「会長の椅子にゃ興味なくても、火種を起こすためならアイツはやらかしかねんぜ」

「鳳の野郎、鈴に御執心だからな」


 鳳……鳳蘭。嫌な名前だ。出来れば耳を塞ぎたい。関わりたくない。

 奴の名前が話題に出たことで嫌な記憶が脳裏に蘇る。

 あれは夏休み直前だったか。穏やかな日曜の午後、照りつける日差しの下、俺は健康のためにウォーキングをしていた。

 そしたら奴が突然、俺の前に姿を現したのだ。


『よっ』


 俺はその時、鳳について知らなかった。

 奴は和歌山市内で俺は海南市。距離的には近いが俺は地元から出ることはまずなかった。

 鳳もそう。遊びに行くなら市内か大阪で、わざわざ海南に来ることはない……はずだったのだ。


『……?』


 誰だコイツ。初対面の人間に笑顔でよっ、とか言うなんて陽の者以外にはありえない。

 陽の者とは先天的に相容れる気がしないので俺は怪訝な顔をしていたと思う。

 そんな俺に鳳はニコニコと微笑みながら近付いて来て、


『仙道鈴くんだろ? 俺は鳳蘭ってんだ。よろしく♪』


 挨拶と共にいきなり蹴りが飛んで来た。こんなことってある?

 初対面の人間に自己紹介と一緒に蹴りかますとか何食って育てばそうなるんだ。

 しかも恐ろしいことにだ。悪意は一切なかった。

 フラットな気持ち精神状態で本気蹴りをかまして来やがったのだ。あのイカレ野郎は。


『へえ、受け止めるか。期待通りじゃ~ん?』


 何が楽しいのかニヤニヤ笑っている鳳を見て、俺は思った。

 どうしてこんなことになったんですか……どうして……どうして……と。

 嘆いたね。この上なく嘆いたよ。我が身の不幸を。


『……どういうつもりだ』

『どうもこうもねーよ。男なら分かるだろ?』


 わかんねーわタコが。


『お前とやり合う理由はない』

『ふぅん? 噂通りってわけね。このまま続けても意味はなさそうだな』

『……』

『俺から、じゃなくてそっちから仕掛けさせるのがモチベ的に一番良さそうだ』


 どうしたもんかなと小首を傾げるアイツの頭に隕石が落下してくれないかとあの時の俺は本気で祈っていた。

 いや、何なら今も突然病気で死んでくれねえかなとか考えてる。


『ダメだ。良いアイデアが思い浮かばないし今日は帰るよ』

『……』

『それじゃあ、また』


 これが俺と鳳のファーストコンタクトだ。アイツ、頭おかしいんじゃねえの?

 そもそもの話だ。俺は別に不良をやっているつもりはないんだよ。


(なのに、どいつもこいつも……)


 俺は一度たりとて自分から喧嘩を売ったことはない。

 何かこう、気付けば厄介ごとに巻き込まれて手を出さざるを得ない状況になってたんだ。

 その度にアホをシバキ回していたら何時の間にか今の場所に立たされていたんだ。

 しかも周りは何か勘違いして俺を硬派とか思ってるけど違うから。

 俺は対人能力が低いだけ。相手を不快にさせないか? これ言って良いことなのか?

 そんなこと考えてたら自然と表情が硬くなって言葉も出なくなるんだよ。


(行きたくねえ……京都になんか行きたくねえ……)


 何か知らん内に取り巻きが出来て、何か知らん内に菅連に所属させられて、その挙句がこれだ。

 こんなことってある? 許されて良いのかこの無法。

 うだうだしている俺を他所に何故か着いて来た連中は神妙な顔で話を続けている。


「鳳もそうだが、その取り巻きもアホみてえに血の気が多い」

「そっちは俺らが対処するとしても……どんだけ連れて来てるかが問題だぜ」


 つーかさ何でコイツら例の中学生を倒した前提で話進めてんの?

 ちょっとは考えろよ。菅連の会長がわざわざ引っ張り出して来た相手だぞ?

 やべーに決まってるじゃん。中学生とか関係あるかよ。それに中坊つっても俺らだって去年まではそうだっただろうが。

 何でたかだか一年でナチュラルに中学生を下に見ちゃうんだよ。


(掲示板の件もあるし、絶対甘く見ちゃダメな相手だろ)


 昨夜のことだ。

 件の中学生によって跡目戦争の候補者とその取り巻きの醜態が晒されたんだが……まあ惨い惨い。

 どの写真を見ても映ってる奴らの顔は恐怖に塗り潰されていた。

 コイツらもそれを知ってるだろうにこの有様。危機感ありゅりゅ?


(こえーよぉ……おっかねーよぉ……関わりたくねえよぉ……)


 だって例の中学生からしたら、俺ら敵以外の何でもないからね。

 何か知らんけどいきなり喧嘩売って来る奴とか敵以外に何と捉えれば良いんだ。

 やり合うことになったら俺はどうなるんだ……何をされるんだ……。


(あぁ……欝だ……誰か助けてくれ……)


 俺の願いとは裏腹に時間は止まらず、遂に京都へたどり着いてしまった。

 余計な煩いごとがなければワクワクしていただろうにな。

 まあでもさっき思いついたがやりようによってはエンカウントせずに済……ん?

 ふと、視線を感じた。敵意は感じられないが、一体誰……が……。


「――――おいでやす~」


 白髪碧眼の少年が無表情でこちらに旗を振っていた。


(んあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!!)

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― 新着の感想 ―
[一言] ワンパンマンのキングみたいで好き
[良い点] 鈴まさかの陰の者か。同じ表情が一定から動かない陰の者同士仲良くなれるかな?蘭は、喧嘩の中のスリルが好きなボブと違い、喧嘩そのものが好きな生粋のバトルジャンキーか。勝てば従ってくれるかも…。…
[一言] リンちゃん、中身のギャップがwww これは読者的には癒しキャラ枠ですね(確信) というか表情変わらん陰の者同士、ニコとわかりあえそうなとこがなんとも どっちもヤンキー世界にいるの嫌そうだし…
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